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東京高等裁判所 昭和56年(行ウ)159号 判決

一 請求の原因一ないし三の事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで、まず原告主張の審決取消事由(3)(4)について検討する。

1 取消事由(3)について

本件補正前の本願発明において第二基準波を得る構成(以下、「本願発明の倍周回路」という。)が審決認定のとおりであることは当事者間に争いがない。この事実と成立に争いのない甲第三号証により認められる本件補正前の本願明細書の発明の詳細な説明及び明細書添付図面(別紙第一図面)第1図によれば、本願発明の倍周回路における第一同期検波器(右第1図の「平衡同期AFPC検波器36」)は信号結合手段(同じく「複合ステレオ信号増幅器24」)に直結されていて、信号結合手段の出力であるパイロツト信号を含む複合多重信号がそのまま第一同期検波器に入力として供給される回路構成となつていることが認められる。

一方、第一引用例に審決認定の構成を有する復調装置が記載されていることは当事者間に争いがない。審決は、この復調装置における第二基準波を得る構成を「該信号結合手段に結合された第二基準波を生ずる倍周回路」と表現しているが、これを成立に争いのない甲第五号証により認められる第一引用例に示されている具体的な回路についてみると、信号結合手段であるトランジスタQ4の出力として生じる複合多重信号は、トランジスタQ6のベース及びコレクタにそれぞれ接続された二つの19KHz並列同調回路(L4、0.01μF、19KHz及びL2、0.01μF、19KHz)に加えられ、これにより19KHzのパイロツト信号が選択抽出され増幅されたうえ、この選択抽出され他の成分は除去された19KHzのパイロツト信号のみが、トランジスタQ30、Q7の高利得等価エミツタホロワ回路を通して、トランジスタQ8とそのコレクタに接続された38KHz並列同調回路(L3、22μF、38KHz)に加えられ、これにより二逓倍されて38KHzの第二基準波を出力する回路構成となつていることが認められる(別紙第二図面参照)。すなわち、第一引用例における第二基準波を得る構成は、信号結合手段の出力として生じる19KHzのパイロツト信号を含む複合多重信号から19KHzのパイロツト信号のみを抽出するパイロツト信号抽出手段とこのパイロツト信号のみを入力としてこれを二逓倍して38KHzの第二基準波を得る倍周手段との二段階からなることが明らかである。

次に、第三引用例に審決認定のとおりの位相制御発振器による倍周回路が記載されていることは、当事者間に争いがない。成立に争いのない甲第七号証によれば、第三引用例の右倍周回路に供給される入力パルス(f)は、周波数を異にする複数の信号からなる複合多重信号ではなく、単一の周波数fを有する信号であり、この信号が矩形波発振器に加えられ、右周波数fと同一周波数の矩形波として出力され、この周波数fの矩形波が位相検波器に入力として供給されるものであることが明らかである。

右事実によると、第一引用例における第二基準波を得る構成と第三引用例の倍周回路を対比すれば、第三引用例の倍周回路に相当するのは、第一引用例において単一の周波数信号すなわち19KHzパイロツト信号を入力としてこれを二逓倍する前記認定の倍周手段であつて、パイロツト抽出手段と倍周手段とからなるところの審決のいう倍周回路でないことは明らかといわなければならない。

審決は、「第二引用例の示唆に従つて、第一引用例の発明における倍周回路を第三引用例に具体的に示されている位相制御発振器による倍周回路に変更することは当業者が容易に想到しうることであり」と述べ、第二引用例に審決認定の「……倍周器として動作する自動位相制御ループにより第二基準波を発生する手段」が示唆されていることは当事者間に争いがない。しかし、成立に争いのない甲第六号証によれば、第二引用例の示唆するところは右審決の指摘する点に止まり、それ以上のものがあるとは認められないから、第二引用例の示唆に従つて、第一引用例の第二基準波を得る構成に第三引用例の倍周回路を適用する場合、第三引用例の倍周回路によつて置換されるべきは、これに対応する第一引用例の前記倍周手段であるといわなければならない。すなわち、第一引用例のパイロツト信号抽出手段をそのまま残置し、その出力側に第三引用例の倍周回路の入力側を結合することであり、このことは、第一ないし第三引用例の記載に基づいて当業者が容易に推考しうる単なる設計変更ということができる。しかし、それ以上に、第一引用例のパイロツト抽出手段と倍周手段とを第三引用例の倍周回路によつて置換すること、すなわち、単一の周波数信号を入力とすることが示されている第三引用例の倍周回路に周波数を異にする複数の信号を含む複合多重信号を入力させる回路構成をとることは、審決認定の第一ないし第三引用例の記載事項に何ら明示されていないし、また、前示甲第五ないし第七号証により右各引用例の記載内容を検討しても、これを示唆するに足りるところは認められない。

被告は、第三引用例の位相制御発信器による倍周回路が選択特性を有することが周知の事項であることを理由に、右の置換が容易である旨主張する。しかし、第三引用例の倍周回路は、前叙のとおり単一の周波数fを有する信号を入力とする例であつて、前示甲第七号証によれば、このような単一周波数の信号が入力される場合にその回路が選択特性を有することが記載されていることは認められるが、複合多重信号が入力される場合については何ら言及されていないことが明らかであり、また、成立に争いのない乙第一二号証の一・二により審決の挙げる周知例を検討しても、同様に複合多重信号が入力される場合について選択特性のあることは記載されていない。その他、本件全証拠によつても、本願の優先権主張日前、第三引用例に示されるような位相制御発振器による倍周回路に複合多重信号を入力として供給しても右倍周回路が正常に動作することを予測させる知見がすでに周知の技術事項であつたことを認めることはできない。したがつて、審決の「第三引用例における入力パルスに関連する矩形波としてパイロツト信号を含む複合多重信号を用いること……は……第二基準波を得るという復調装置の目的からみて、当業者が容易に想到しうる程度の技術上の必然であり」との判断は、根拠に基づかない独断というのほかはない。

以上のとおり、本件補正前の本願発明と第一引用例のものとの相違点についての審決の判断は誤りであり、この点の判断は、審決も「先に示した本願発明についての判断が同様に成立する」と述べているように、補正された本願発明についても同じようにいえるから、結局、審決の右判断の誤りは補正された本願発明と第一引用例のものとの相違点についての判断の誤りということができる。

2 取消事由(4)について

本件補正による第一の限定点が審決認定のとおり「第一同期検波器に与えられる複合多重信号が平衡された態様で供給される点」にあることは、当事者間に争いがない。

成立に争いのない甲第三、第四号証によれば、右の限定点につき、本件補正後の本願明細書には、「このAFPC方式はさらに基準波形とパイロツト波形との位相差を表わす直流電圧を生ずるようその基準波形と受信されたパイロツト信号を含む検波された複合信号とを印加する第一同期検波回路を有する。上記複合信号はその源から広帯域結合手段を経てほぼその全帯域を保つて平衡された態様で上記第一検波器に供給される。この検波回路には制御手段が結合されており、位相誤差を表示する直流電圧に応答して、受信されたパイロツト信号波形の所定高調波でかつそれと所定の時間関係を有する発振出力波形を得かつ維持するようその発振器の位相および(または)周波数を変える。」(甲第三号証五欄二ないし一一行、甲第四号証補正の内容(3))と記載され、また、明細書添付図面に基づき、「19KHzスイツチング波形E、<省略>の現われる位相または時刻はAFPC検波器36において増幅器24によつて供給された19KHzパイロツト信号の位相と比較される。増幅器24の出力に発生するパイロツト信号成分が19KHzスイツチング波形E、<省略>に対して九〇度の位相関係に無いときにはいつも端子T4とT5との間に差動直流電圧が発生する。端子T4とT5との間の直流電圧の極性はパイロツト信号がスイツチング波形より遅れているか進んでいるかを表わす。差動直流電圧は、上記19KHz波形の間の所要の直角位相関係を元に戻すように発振器26の位相および(または)周波数を変えるほど充分大きい振幅の、同調回路82、80と並列な無効電流を生ずるように電流分割トランジスタ641および643に供給される。」(甲第三号証二九欄二一ないし三六行)、「印加された複合ステレオ信号の非同期成分(すなわち、19KHzパイロツト信号以外のすべての成分)は、トランジスタ651、653、657、659のベース電極に供給される19KHzスイツチング矩形波E、<省略>と同様、検波器36の同期特性の故に出力端子T4とT5との間に直流電圧成分は発生しない。検波器36によつて発生した他の高周波成分はコンデンサ38およびそれと結合した抵抗との低域ろ波回路によつて検波器36の出力で除去される。」(同二九欄四三行ないし三〇欄八行)と記載して、その作用効果を説明していることが認められる(別紙第一図面参照)。

これらの記載によれば、補正された本願発明において、一方の入力に平衡された態様で複合多重信号が与えられる第一同期検波器の作用効果は、複合多重信号に含まれるパイロツト信号と第一基準波との協働によりこれらの間の位相及び周波数のそれぞれの間の所定の時間関係からの変移を表わす電気制御信号を発生させると共に、複合多重信号中のパイロツト信号成分を除いた残余の信号成分をその出力信号から除くことにあると認められる。そして、この作用効果があることにより、信号結合手段の出力として生ずる複合多重信号からパイロツト信号成分を抽出するために必要な手段を不要とし、もつて、「比較的誘導成分を必要としない多重放送無線受信機用の解読器を提供する」(甲第三号証三欄三二ないし三四行)本願発明の目的を達成したものと認めることができる。

審決は、「一方の入力が平衡した態様で供給される構成の同期検波器は周知であり、そしてこのような限定により格別な効果を奏するというものでもない」と述べる。しかし、成立に争いのない乙第一三号証によれば、一方の入力として単一の周波数成分である38KHzの発振周波数信号が平衡した態様で供給される構成の同期検波器が本願優先権主張日前に周知であることは認められるが、複合多重信号が平衡された態様で供給される同期検波器が周知であることを認めるに足る証拠はない。

被告は、一方の入力が平衡した態様で供給される構成の同期検波器が位相差検出に用いられること、この同期検波器に不要成分が混入しないという効果は周知であると主張するが、成立に争いのない乙第一四ないし第一七号証の各一ないし三によつても、右の主張が肯認できるのは、いずれも供給される信号が当該回路に必要な信号のみが供給される場合にすぎず、同期検波器の動作に不要な信号成分を含む信号たとえば複合多重信号が供給される場合についてこれが周知であることを認めるに足る証拠はない。

被告は、また、入力が平衡された態様で供給される同期検波器が平衡入力成分を出力しないという性質は、その回路構造から生じる効果であつて、平衡入力信号が何を目的とする信号かによつて異なるものではないから、複合多重信号が平衡入力として加えられた場合、その成分が出力に現われないということは、予期される効果にすぎないと主張する。そして、成立に争いのない乙第一五ないし第一七号証の各一ないし三によれば、平衡された態様で供給される一方の入力が変調波信号である場合すなわち搬送波成分(同期成分)が出力に必要とする信号成分(非同期成分)により変調された信号である場合に、搬送波成分(同期成分)が相殺されて出力に現れず、必要な信号成分(非同期成分)のみが出力に生じることが同期検波器の回路構造から生じる効果であり、このことが周知の技術事項であつたことは認められる。しかし、本願発明におけるように平衡された態様で供給される一方の入力が右のような変調波信号ではなく、複合多重信号である場合にも、出力には必要な信号のみが生じるということが同期検波器の回路構造から当然生じる効果であることを明示もしくは示唆する資料は、本件証拠上これを認めることができない。本願発明が前示本願明細書に記載された「印加された複合ステレオ信号の非同期成分(すなわち、19KHzパイロツト信号以外のすべての成分)は、……検波器36の同期特性の故に出力端子T4とT5との間に直流電圧成分は発生しない。」(甲第三号証二九欄四三行ないし三〇欄五行)との効果を生ずるものであることを前提とする以上、この効果が右周知の同期検波器の回路構造から予期される効果と認めることはできない。

したがつて、補正された本願発明の前示認定の効果は、周知の同期検波器の有する効果から予測できない効果といわなければならず、補正された本願発明の右第一の限定点につき、一方の入力として平衡された態様で供給される信号が複合多重信号である点につき考察することなく、これを安易に前示周知の同期検波器と同一視した審決の判断が誤りであることは明らかである。

3 以上1、2のとおり、審決は補正された本願発明と第一引用例のものとの相違点についての判断及び第一の限定点についての判断をいずれも誤つたものであり、この誤りが審決の結論に影響を及ぼすものであることは前示審決の理由の要点に示された審決の内容に照らし明らかである。したがつて、原告主張の審決取消事由(1)(2)について検討するまでもなく、審決は違法として取消を免れない。

三 よつて、原告の本訴請求は理由があるからこれを認容する。

〔編註その一〕 本願発明の特許請求の範囲は左のとおりである。

1 本件補正前の特許請求の範囲

少くともパイロツト周波数成分と該パイロツト周波数の二倍の周波数の抑圧変調された副搬送波成分とを有する複合多重信号から信号を発生するよう作られた形式であつて、調時信号を与える制御可能な発振器と、該調時信号に応答してそれと所定時間関係を有する第一基準波と該第一基準波の二倍の基本周波数を有する第二基準波とを生ずる周波数スケーリング(Scaling)手段と、上記複合信号の実質的に全周波数範囲に亘る帯域幅を有し、上記複合多重信号源からの信号を結合するよう作られた信号結合手段と、該信号結合手段に結合されかつ上記第一基準波と上記複合多重信号とに応答して、上記第一基準波と上記パイロツト信号成分との位相および周波数のそれぞれの間の所定の時間関係からの変移を表わす電気制御信号を発生しかつ上記制御可能な発振器の入力に結合されて上記第一基準波と上記パイロツト成分との位相および周波数のそれぞれの間の所定の時間関係からの変移を最少とするように制御する第一同期検波器と、上記第二基準波に応答しかつ上記信号結合手段に結合されて、上記第二基準波の周波数で同期した上記複合信号の検波成分を生ずる第二周期検波器とを有することを特徴とする復調装置。

2 本件補正により補正された特許請求の範囲

右1の特許請求の範囲の第一同期検波器についての「該信号結合手段に結合され……変移を最少とするように制御する第一同期検波器と、」との記載を「該結合手段を経て平衡された態様で供給される複合多重信号および上記第一基準波に応答して上記第一基準波と上記パイロツト周波数成分との位相および周波数のそれぞれの間の所定の時間関係からの変移を表わす電気信号を発生しかつ上記制御可能な発振器の入力に結合されて上記第一基準波および第二基準波のそれぞれと上記パイロツト周波数成分との位相および周波数のそれぞれの間の所定の時間関係からの変移を最少とするように制御する第一同期検波器と、」と訂正するほかは、右1の特許請求の範囲と同一である。

〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。

別紙第一図面 本願明細書図面

<省略>

<省略>

(以下省略)

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