東京高等裁判所 昭和56年(行ケ)121号 判決
一 請求の原因一ないし三の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、審決にこれを取消すべき違法の点があるかどうかについて判断する。
成立について争いのない甲第四号証(昭和五三年八月一一日付手続補正書)によれば、本願発明の願書に添付された明細書の特許請求の範囲の記載は、当事者間に争いのない本願発明の要旨(事実摘示第二、二記載)のとおりであり、本願発明は「一端で肩となつて終る内壁により限定されている孔を有する弾力性重合体の弾力性座」を具備することを要件の一つとするものであると認められる。
右摘示の文言によれば、本願発明における弾力性座は孔を有し、その孔の端で終る内壁部分が「肩」となつているものであると認められる。しかして、本件願書添付の図面(成立について争いのない甲第五号証)に即してこれをいえば、右の「肩」とは、倒立コツプ状をしている弾力性座の底から孔を除いた部分であり、弾力性座のうち、右の部分とそれ以外の部分は直角状をなしていると認められる。そして、前掲甲第四号証、第五号証、成立について争いのない甲第二号証(昭和五三年二月二日付手続補正書)を綜合すると、本願発明は挿入体に力を及ぼしてこれを拡大させ、弾力性座の肩と内壁に押しつけて弾力性座の肩と内壁及び挿入体を液密に圧着させることを目的とする密封構造に係るものであると認められる。
一方、成立について争いのない甲第三号証によれば、引用例における保持金具(別紙図面(二)番号(12))は、蓋体(同(2))とは別体であつて、接続杆(同(7))を極柱(同(4))中央部の挿入孔に強挿する際に極柱頭部の溝に嵌め込んで極柱を保持させるためのものにすぎず、蓄電池の組立が完了すれば取りはずされるものであつて、この保持金具と極柱とは、これを互いに押しつけて液密に圧着させるという関係にはないものと認められる。
審決は、引用例における保持金具は蓋体貫通部すなわち本願発明の弾力性座に相当する部分の間隙を完全に密封する働きを有するというが、引用例の保持金具は本願発明における弾力性座の肩のごとく蓋体(本願発明の弾力性座に相当する)と一体となつてはおらず、取り外されるものであつて、これを蓋体の肩ということはできず、引用例においては、審決のいうように挿入体が座の隅部に挿し込まれるということはないものというべきである。
審決は、本願発明における肩と引用例における保持金具とを同一視してその働きを実質的に同じものとしているが、引用例における保持金具はそもそも蓋体の「肩」というべきものでないことは前説明のとおりであり、本願発明の肩と引用例の保持金具は実質的に同じ働きをするものとはいえず、審決の右認定は誤つている。
被告は、引用例の保持金具は密閉構造を形成せしめた後取り去られる点で本願発明の肩と一応相違するが、引用例における蓋体と極柱との間に形成される密閉構造は完全なものであると主張するが、肩のあるものとないものとではその密閉の度合いに差異があり得ることは容易に想像し得るところであるから、被告の主張は理由がない。
被告は更に、引用例の保持金具は成形後の使用時においても取り外すことなく、そのままつけておくことも差支えなく、その場合においては保持金具は本願発明の肩と同様の構造のものとなるとの趣旨を主張するが、保持金具が成形後の使用時においても取り外されない場合があり得るとしても、極柱と保持金具との密着度は保持金具が成形後は蓄電池本体から容易に脱落する程度のものにすぎないものと認められるから、保持金具を本願発明の肩と同一視することはできないものといわなければならない。
右のとおりであり、審決の前認定の誤りはその結論に影響を及ぼすものと認められるから、審決は取消しを免れない。
三 よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を正当として認容することとする。
〔編註その一〕 本願発明の要旨は左のとおりである。
一端で肩となつて終る内壁により限定されている孔を有する弾力性重合体の弾力性座、この弾力性座の孔内に座している変形可能な導電性材料の挿入体及びこの挿入体の空所内に位置し、前記の孔の外側からの引張り又はねじり作用により力を発生して前記の挿入体を拡大させそれによつて前記の挿入体を前記の弾力性座の孔の肩と内壁に押しつけて両者を液密に圧着させるための力発生拡大要素を具備していることを特徴とする電気化学装置の電極と端子との間の接続のための電気化学密封構造。(別紙図面(一)参照)
〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。
別紙図面(一)
<省略>
<省略>
別紙図面(二)
<省略>