東京高等裁判所 昭和56年(行ケ)129号 判決
一 原告主張の請求の原因一ないし三の各事実(特許庁における手続の経緯、本件発明の要旨及び審決の理由の要点)及び刊行物一ないし三及び五が本件優先権主張日前日本国内に頒布された刊行物であることは、当事者間に争いがない。
二 そこで、審決取消事由の存否について検討する。
1 本件発明における環状中空部及び金属密封環について
前記争いのない本件発明の要旨並びに成立に争いのない甲第二号証(本件特許の出願公告公報)の記載特にその第二頁左欄第三四ないし第四六行の「……密封環80は空所78内にプレス嵌めされ得る。斯様な構造により、製造工程の中途に於て密封環80を雄部片18内に設置することができ、且つ密封環を別途供給する必要なしに需要者の元へ送ることができるのである。内部突起65と接触部68の独特な形状は密封環をプレス嵌めの状態に保持することを可能ならしめるから、輸送中に予期しない脱落又は損傷の生ずることはない。一旦密封環80が第4図の如く封入されれば、該環は継手の寿命が続く限り同位置に保持されるから、密封環の紛失の心配なしに継手の両部片を任意に結合し且つ取外すことができる。」及び同右欄第三八ないし第四二行の「この空所は密封環80を収容し保護する。第4図に明らかな如く、環80は継手の両部片が分離している時実質的に三側面内に封入されている。従つて輸送中及び操作中に密封部片が損傷する危険はない。」との各記載によれば、本件発明は、その環状中空部に関し、「円筒状の……中空主体部の端部近くに形成され一側が截頭円錐形座部を他側が環状肩を構成する環状内部突起と、該環状内部突起の内縁に形成され環状肩と主体部の一端の円筒状内表面とともに環状中空部を形成する軸方向に延びる接触部」との構成(以下「Aの構成」という。)をとり、金属密封環に関し、「中空部内にプレス嵌めされその円筒状内表面と摩擦接触する放射状方向の外縁と軸方向の両側の側縁とを有する断面が三角形状の金属密封環」との構成(以下「Bの構成」という。)をとることにより、金属密封環は、プレス嵌めの状態で環状中空部内に強力に保持されて継手の輸送中等に脱落又は損傷することがないとともに、その軸方向の両側の側縁は、継手が締めつけられたとき挟圧されて漏洩防止の作用をするという作用効果をあげることができたものであることが認められる。
2 本件発明と各刊行物記載のものとの対比
ところで、原告は、本件発明は、刊行物二記載の管継手に用いられているパツキング4を刊行物三に記載されている断面三角形状の金属密封環に置き換えたものにすぎず、金属密封環を環状中空部にプレス嵌めしたこと及びこれによる効果も刊行物五に記載されたところにより容易に行うことができる旨主張する。
しかしながら、成立に争いのない甲第八号証によれば、刊行物五には、密封座体6が窪み部5内に密嵌め(close fit)されている旨の記載があるが、一方、右密封座体が対称形であることは各々の位置に置き換えることを可能にする旨の記載もあることが認められるところ、右各記載を念頭において同号証をみれば、刊行物五における右の密嵌めとは、取りはずすことができる程度に嵌合されたものを意味し、窪み部5から取りはずした密封座体6を再びそのまま或いは裏返して窪み部5内に嵌合した場合に縁部7が移動しないで元の位置に置かれるように密接に嵌合されるという程度の嵌合を示すものと推認するに難くない。
これに対し、本件発明における前認定のA及びBの各構成並びにこれによる作用効果をみれば、本件発明における「プレス嵌め」は、取りはずすことを予期せず、はずれることのないようにした嵌合であることが明らかであるから、刊行物五における右認定の程度の嵌合とは相違するものといわなければならない。
次に、成立に争いのない甲第六号証によれば、刊行物三には、容器の密封に断面三角形状の金属密封環を用いる旨の記載はあるが、本件発明の前記A及びBの構成にみられる断面三角形状の金属密封環の外縁を摩擦接触するように環状中空部内にプレス嵌めした構成の記載はないことが認められる。そして、成立に争いのない甲第三号証(刊行物一)、甲第五号証(刊行物二)、甲第七号証(刊行物四)及び前記甲第八号証によれば、このような構成は、刊行物一、二、四、五のいずれにも示されていないことが明らかである。
3 本件発明の進歩性
以上によれば、断面三角形状の金属密封環の放射状方向の縁部を利用し、これをプレス嵌めして金属密封環を環状中空部内に固定し、漏洩防止と同時にその脱落及び損傷を防止しうるようにした本件発明は、前記各刊行物記載のものを組み合わせることにより当業者が容易に発明することができたものとすることはできないから、これと同旨の審決の判断に原告主張のような誤りはなく、審決には、これを取り消すべき違法はないものといわなければならない。
三 よつて、審決の取消を求める原告の本訴請求を失当として棄却することとする。