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東京高等裁判所 昭和56年(行ケ)131号 判決

一 請求の原因一ないし三の事実(特許庁における手続の経緯、本願発明の要旨及び本件審決理由の要点)は、当事者間に争いがない。

二 そこで、本件審決を取り消すべき事由の存否について判断する。

1 取消事由1について

成立に争いのない甲第四号証(引用例・昭二六・八五五〇実用新案公報)によれば、引用例には、本件審決摘示に係る構成の構成梁の考案が記載されていることが認められる。原告が取消事由1として主張するところは、引用例記載の考案を具体的に説明することにより、同考案と本願発明との相違、作用効果の差ないしは本件審決が示した相違点に対する判断の誤りを指摘するに帰するものということができる。そこで、前記争いのない本願発明の要旨と引用例記載の考案を対比すると、両者は少なくとも本件審決が摘示した(イ)ないし(ニ)の点で相違するものと認めることができる。

なお、本件審決は、引用例記載の考案の上面水平材が三部材7、6、7からなり、下面水平材が三部材5、4、5からなる旨摘示するところ、前掲甲第四号証によれば、原告主張のような形で、上面水平材は四本の7と一本の6の部材からなり、下面水平材は各二本の5と4の部材からなつていることが認められるが、本件審決が引用例の上面及び下面水平材について、右のような具体的な部材の組合せまで摘示しなかつたからといつて、引用例の記載を誤認又は看過したものということはできない。また、前掲甲第四号証によれば、原告主張のとおり垂直部材3と上下面両水平材4、5、6、7及び上向下向両アーチ材1、2とは各所でボールト9で締付けられているが、かかる締付けの態様も本件審決摘示のとおり固着の一態様と認めて差支えないものというべきであるから、本件審決がこの点を誤認したものということはできない。更に、前掲甲第四号証によれば、引用例記載の考案も全体として梁と認めることができるから、やはり、この点の摘示について本件審決に誤りはない。

2 取消事由4の(四)及び作用効果の誤認について

以下において、本願発明における凹曲状丸鋼、凸曲状丸鋼、上面水平形鋼、下面水平形鋼、鋼製束材(以下「束材」という。)をそれぞれ引用例記載の考案における上向アーチ、下向アーチ、上面水平材、下面水平材、垂直材と対比させて検討する。

(一) 前示本願発明の要旨に、成立に争いのない甲第二号証の二及び三(特許願書添付の明細書及び添付図面)、同第三号証の一(昭和五四年四月九日付手続補正書)及び二(昭和五四年一〇月八日付手続補正書)を総合すると、本願発明は、建築用の鉄梁に係る発明であり、比較的に荷重は軽いが、張間が長いような梁について、曲げ加工が容易な丸鋼の性質を取り入れて安価に構成しようとするとともに、力学的には、水平反力を消去して応力の省力を図り、梁の鋼量を減じ、梁の受材には水平力を及ぼさないで、構成梁全体としては、単純梁として支持体に架設し得るようにして、梁の経済性を得ることを目的とし(この点は、被告も認めているところである。)、これらの目的を達成するために明細書の特許請求の範囲に記載されたとおりの構成を採用したものであることが認められる。そして、本願発明に係る鉄梁が、前記のように単純梁とし機能する力学的関係を前掲甲第二号証の二、三、第三号証の一、二により認められる凹凸曲状丸鋼、上下面両水平形鋼及び束材の結合に関する構成に照らして検討するに、上面及び下面水平形鋼を両端接続鋼板と束材で連結した本願発明の鉄梁においても、鉄梁の張間における床荷重、屋根荷重等の等分布荷重Wは、束材の位置にそれぞれ設置された荷重伝達材を介して、部分集中荷重として、各束材の両端接続鋼板の位置にかかるものである(前掲甲第三号証の一第二頁11)ところ、凹曲状丸鋼と凸曲状丸鋼とが交点A(凹曲状丸鋼と凸曲状丸鋼の対応する屈折点)で溶着されていないとすると、凸曲状丸鋼の中央部にW/2の等分布荷重が束材を介して部分集中荷重として作用して、その荷重(梁にかかる矢印)及び反力(水平反力H1、H1  垂直反力V1、V1)は、第8図(甲第二号証の三、以下この項において同じ。)に示されたようになる。ところで、第8図に示されたような部分集中荷重が、水平単純梁に作用したとすると、その曲げモーメントが第10図にみられるようになるが、本願発明においては、凸曲状丸鋼の形を、右の第10図に示された曲げモーメント図に相似した形として各屈折点の高さを定めたので、凸曲状丸鋼には曲げモーメントは生ぜず、凸曲状丸鋼は圧縮材として抵抗することになり、また、凹曲状丸鋼における荷重及び反力(H2、H2、V2、V2)も第9図に示されたとおりであつて、凹曲状丸鋼には同様に曲げモーメントは起こらず、引張材として抵抗することが理解される。そして、本願発明においては、前記交点Aにおいて、凹凸曲状両丸鋼が溶着されているので、それぞれの水平反力H1、H2(凸曲状丸鋼における内向きの水平反力H1と凹曲状丸鋼における外向きの水平反力H2とは互いに反対方向である。)は、交点Aで相殺され(第12図参照)、交点Aにおいては垂直反力V1、V2のみとなる。更に、本願発明の鉄梁の両端部(凹凸曲状両丸鋼の交点より外側の三角形部分を指す。以下同じ。)においては、等分布荷重がかかると、これによる垂直反力V3、V4、水平反力H3、H4及び応力状態は、第11図のようになり、凹曲状丸鋼と凸曲状丸鋼とが交叉し上面及び下面水平形鋼を結合する束材が配置された交点Aにおける垂直反力V1、V2が梁の端部の中央側端に逆作用をしたときの鉄梁の端部反力及び応力状態(部材内の矢印)は第13図にみられるとおりであると認められる。(明細書の特許請求の範囲に記載された凹凸曲状丸鋼と両端接続鋼板との結合関係に照らせば、原告主張のように、各両端部に三角形部分が形成され、これが以上のような力学的作用に寄与することは明らかであり、これに反する被告の主張は採用できない。)その際に、上面及び下面水平形鋼はこの両端部からの水平反力を受けることになるが、第11図と第13図とを合成したものである第14図によつて明らかなように、梁の両端部における水平反力は上下面水平形鋼が負担し、梁の両端末には垂直反力V6のみがのこることになる。つまり、上面水平形鋼は、水平反力H3、H5の和に抵抗する圧縮材となり、下面水平形鋼は水平反力H4、H6の和に抵抗する引張材として機能することになる(前掲甲第二号証の二第二頁の第14図についての説明参照)。このように、本願発明は、特許請求の範囲に規定された構成に基づく力学的作用によつて、梁の中央部にかかる荷重によつて生じる水平反力は交点Aにおいて消去され、また、梁の両端部においては、束材が配置されている交点Aにおける垂直反力V1、V2が梁の両端部の中央側に逆作用して加圧するが、これと、そこにかかる等分布荷重によつて生じる水平反力は、上面水平形鋼(圧縮材)及び下面水平形鋼(引張材)によつて消去され、その結果、梁全体として、支持体に単純支持の状態で架設し得るという作用を奏することとなり、ここに、本願発明の主要な特徴点があるものと認められる。

(二) 一方、前掲甲第四号証によれば、引用例は名称を「構成梁」とする考案に係る実用新案公報であるが、そこには、「本考案の力学的関係を下向アーチ材1に就いて述ぶれば荷重ωに依る両端の反力及曲げモーメントは第6図の如くなり又上向アーチ材2の荷重による縮まんとする引張力Pを下向アーチ材1との交点に作用せしめれば両端の反力及曲げモーメントは第7図の如くなり反力及曲げモーメント共反対となり応力は相殺せられて減少し経済なる構成梁を得るものなり同様に上向アーチ2に付いても同結果となる。」(甲第四号証左欄末行ないし右欄第八行)との記載が認められ、引用例における右の記載内容と甲第四号証の第6図及び第7図に基づいて、引用例に記載された構成梁における力学的関係を検討し、その目的とするところをみるに、引用例記載の構成梁は、下向アーチ材1に等分布荷重ωがかかることによつて、そこに第6図にみられるような「両端の反力」と「曲げモーメント」が生じ、該下向アーチ材1は、上向アーチ材2との交点において、上向アーチ材2から引張力Pの作用を受けることによつて、第7図に示されたような「両端の反力」と「曲げモーメント」が生じ、両者の「両端の反力」と「曲げモーメント」は反対向きであるために応力は相殺されて減少することとなり、上向アーチ材2についてもこれと同様の力学的作用が生じるので、その結果、経済的な構成梁が得られるということが理解される。そして、右の力学的作用は、専ら、上向アーチ材2及び下向アーチ材1自体の相互作用によつて発生する効果であると認められ、上向下向両アーチ材2、1と垂直材3、下面水平材4、5、上面水平材6、7との関連に基づく作用効果についての記載はなく、右の力学的関係に上面水平材及び下面水平材が関与していることを窺わせる記載は、引用例には見いだせない。

(三) 本願発明においては、上面及び下面水平形鋼が、それぞれ圧縮材及び引張材として水平反方に対する抵抗材と機能し、水平反力を梁内で消去する点に特徴があることは、前叙のとおりであるが、本件審決は、本願発明と引用例記載の考案との間に相違点(ニ)のような構成上の相違を認めながら、後者の上面及び下面水平材がそれぞれ前者の上面及び下面水平形鋼同様前記のような圧縮材及び引張材として機能している旨判断するので、この点について検討を進める。

前掲甲第四号証によれば、引用例記載の構成梁の中央部における上向アーチ材2と下向アーチ材1との構成及びそこでの荷重の状態は、本願発明における鉄梁の中央部の凹曲状丸鋼と凸曲状丸鋼との構成及び荷重の状態と実質的に異なるものとは認められないものの、梁の両端部(上向下向両アーチ材の交点より外側の三角形部分を指す。以下同じ。)においては、上向アーチ材2、下向アーチ材1、上面水平材及び下面水平材、垂直材3並びに柱材8との連結関係が次のようなものであり、垂直荷重のかかり方も異なることに徴すれば、梁の両端部においては、上向アーチ材と下向アーチ材との交点に垂直方向下向きの力と等分布荷重がかかつても、それによつて、上面水平材及び下面水平材に対して本願発明と同じような水平反力が作用することはないとみるべきである。すなわち、(a)二本の下向アーチ材1、1の先端部は添柱8、柱8を抱いて両柱8、8に締着し、一本の上向アーチ材2の先端部は添柱8に載せ掛けただけであること(本願発明では凹曲状丸鋼と凸曲状丸鋼の先端相互間は両端接続鋼板で結合されている。)、(b)二本の下向アーチ材1、1と一本の上向アーチ材2との交叉点は三本のボールト9で締着けられており、この交点には垂直材3は置かれていないから(本願発明の凹曲状丸鋼と凸曲状丸鋼の交点は鋼製束材と共に溶着されている。)、この交点に垂直荷重が作用するとはいえないし、梁の両端部の中間位置に置かれた垂直材3と両アーチ材2、1との間には締結関係がないこと、(c)上向アーチ材2は、その両端部において、垂直材3と連結した上面水平材7、7とボールト締結されており、上面水平材7、7はその先端部が外側の柱材8にボールトで締結されているが、下向アーチ材2の両端部は先端が柱材8にボールトで締結され、下面水平材5、5とは添柱8より若干内側においてボールトで締結されているうえ、下面水平材5、5は柱8に直接連結されていないことから(本願発明では、凹曲状丸鋼と上面水平形鋼、凸曲状丸鋼と下面水平形鋼の各両端は結合しており、その間は前記のように両端接続鋼板で結合している。)、上向アーチ材2及び下向アーチ材1は、その両端部の中間部におかれた垂直材3の位置において水平材を介して垂直力の作用を受けるに過ぎないものと考えられることからみて、引用例に記載された構成梁の両端部は、本願発明に係る鉄梁の両端部と対比し、その構成(特に各部材の結合関係)が異なり、それに伴い各部材に対する力の作用関係が異なることも明らかである。しかして、引用例記載の考案では、本願発明に比し構成が複雑であるため、その力学的関係を本願発明のように一義的に説明することは困難というほかないが、少なくとも上面及び下面水平材に対し本願発明の上面及び下面水平形鋼に対すると同様の水平反力が作用するとみるべき力学的根拠は見いだしがたい。

更に、引用例の第1図ないし第5図からは、上面水平材及び下面水平材は、次のような構成と接続関係をもつていることが認められる。すなわち、(a)上向下向両アーチ材と梁両端部の上下面両水平材7、5とは、垂直材3の厚みだけの間隔をもつてボールトで締結されており(二本の上面水平材7、7は上向アーチ材2を両側から挟む形で、また、下面水平材5は二本の下向アーチ材1、1に挟まれた形でそれぞれ締結されている。)、中央部の上下面両水平材6、4と両端部の水平材7、6とは垂直材3を介して締結されている(上面水平材6は、両端を二本の上面水平材7、7で挟まれる形で、また、二本の下面水平材4、4は、下面水平材5を挟む形でそれぞれ締結されていること、(b)上面の水平材全長は、中央部の一本の上面水平材6と両端部の各二本の上面水平材7、7で構成され、また、下面の水平材全長は中央部の二本の下面水平材4、4と左右の各一本の下面水平材5とで構成されていて、それらはボールト9で重ね継ぎされていること、(c)各水平材は、両アーチ材に比べてその断面積がかなり小さいものであるとみられることが認められる。

そして、右認定に係る水平材全長の構成のほか、ボールトによる締結部分には、ボールト挿入のための遊び(間隙)の存することが一般的な技術常識であること(成立に争いのない甲第六号証・昭和三三年一二月二〇日株式会社彰国社発行「建築学大系15」第一二七頁ないし第一二八頁)を勘案すると、引用例記載の構成梁における各水平材を本願発明におけるような圧縮材及び水平材として機能する構造体とみることはできない。

この点、被告は、重ね継ぎによる上面水平材(7、6、7)及び下面水平材(5、4、5)でもボールト孔の遊びが生じないように継ぐことにより圧縮材又は引張材として機能する旨主張するが、構造体として設置するものであれば、各水平材はアーチ材からの力を受け入れることができ、しかもその力に耐え得るだけの強度をもつものでなければならないが、既に認定した各水平材の構成、部材の断面形状、規格等に照らし、また、ボールト接合においてはボールトの遊びが通常避けられないものと考えられることからして、引用例の各水平材は、到底、構造体としての適性をもつたものとは認められず、アーチ材からの水平反力に適正に対抗するために設けられた抵抗材とは解されない。したがつて、被告の右主張は理由がなく、相違点(ニ)に対する本件審決の前記判断は誤りである。

このように、引用例記載の考案において、上下面両水平材が前叙のとおりいずれも抵抗材として十分機能するとは認められないから上向下向両アーチ材の両端に生じる内向き及び外向きの水平反力は梁内で消去されず、柱材は、上面の水平材から内向きの力を、また下面の水平材からは外向きの力を受けることになると推測され、かつ柱材自体の構造からみても、同考案は全体として、本願発明が奏する単純支持梁としての効果を有するものとは認められないことになるのである。したがつて、「構成全体としてみても、両者間に効果上格別の差異が認められない。」とした本件審決の判断も誤りである。

三 以上の本件審決の誤りは、その結論に影響を及ぼすことも明らかであるから、本件審決は、違法として取消しを免れない。

よつて、その主張の点に認定判断を誤つた違法があることを理由に本件審決の取消しを求める原告の本訴請求は、理由があるものとして、これを認容することとする。

〔編註その一〕 本願発明の要旨は左のとおりである。

折線により構成された彎曲状に丸鋼を屈折して凹曲した凹曲状丸鋼の両端に上面水平形鋼の両端を結合して上弦弓形部材を形成し、凹曲状丸鋼と同形等長に丸鋼を屈折して凸曲した凸曲状丸鋼の両端に下面水平形鋼の両端を結合して下弦弓形部材を形成し、上面水平形鋼を上面に、下面水平形鋼を下面に位置させて対向重合する両上下弦弓形部材間に両端接続鋼板及び鋼製束材を列設介在し、両上下弦弓形部材の端部相互間を両端接続鋼板で結合し、凹曲状丸鋼と凸曲状丸鋼とをそれぞれ最端部の屈折点で交叉させて鋼製束材と共に溶着し、凹曲状丸鋼と凸曲状丸鋼の対応する屈折点に配置した鋼製束材を上面水平形鋼、下面水平形鋼、凹曲状丸鋼及び凸曲状丸鋼に溶着して成る鉄梁。

(別紙図面(一)参照)

〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。

図面(一)

<省略>

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図面(二)

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