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東京高等裁判所 昭和56年(行ケ)138号 判決

審決に原告主張のような違法の点が存するか否かについて検討する。

1 原告は、審決は本件商標の登録を部分的に無効としながら、その部分が具体的に特定されず不明確である点で違法である旨主張する。

審決は、本件限定商品、すなわち、本件商標の指定商品中「滑り止め付き建築又は構築専用材料」について本件商標の登録を無効としたものである。ところで、右にいわゆる「滑り止め付き」の「滑り止め」は、日常用語である動詞の「滑る」と「止める」の各連用形が一体化した名詞であり、「滑りを止めること」又は「滑りを止めるもの」の意を表わすこと及び右「滑り止め付き」の「付(き)」は、上の語の表わすものが付属している意味を表わす接尾語として日常使われていることは、いずれも国語の構成上当然の事理に属するところであるから、本件限定商品は、本件商標の指定商品に属する「建築又は構築専用材料」であつて、しかもそれが、「滑りを止める性能を具備した」ものを指称すると容易に理解しうるところである。この点について、原告は、「建築又は構築専用材料」自体が即「滑り止め材」であるものはすべり止め材そのものであつて、「滑り止め付き建築又は構築専用材料」には該当しない旨主張するが、「建築又は構築専用材料」であつて滑り止めの機能を具備するものはすべて右に指摘した本件限定商品の範疇に属するものと解するのが相当であつて、原告の右主張は理由がない。なお、この点に関し、現実の取引社会における商品中には本件限定商品に属するか否か一見明確を欠くものがありうることは否定しうべくもないが、そうしたことは本件限定商品に限らず、一般に個々の具体的商品が商標法施行令の定める商品区分のいずれに属するか現実にはその判断が困難な事例が存するところであり、そのような事例は、対象商品について如何なる表現をとつたとしても生じうるものとして容認せざるをえない周辺的事象にすぎないから、本件限定商品についての表示が具体的に不明確であつて特定しえないことの根拠となりうるものではないというべきである。結局、審決が本件商標の登録を無効とした部分は不明確であつて特定しえないとの原告の主張は理由がない。

2 原告は、本件商標はただちに「滑らぬ」の意味を直感させるものではない旨主張する。しかしながら、以下に述べるとおり、右主張も理由がなくこれを採用しえない。

(一) 本件商標は、片仮名で「スベラーヌ」と横書してなるものであり、この構成文字の中間に配された長音符を除くと、「スベラヌ」となるものである。ところで形容詞の本来の語意を強調するために、例えば「暖かい」を「アタタカーイ」とするなど、語尾近くに長音符を挿入して記述し、あるいはこれに従つた発音をする表現が社会的に少なからず行われていることは当裁判所に顕著な事実である。

(二) 他方、「滑らぬ」という語句が「滑らない」と同じ意味を表現する現代語として社会一般に理解認識されていることも当裁判所に顕著な事実である。すなわち、右の「滑る」という動詞は、日常生活でしばしば使われている用語の一つであり、右の「ぬ」は、現代語において、「ない」と共に否定の意味を表わすいわゆる打消の助動詞として動詞、助動詞の未然形に接続させて用いられているところであつて(現に、成立に争いのない乙第一八ないし第三八号証、第三九、第四〇号証の各一ないし三、第四六ないし第七二号証によつてもその日常的な使用例を多数認めることができる)、したがつて、また、「滑らぬ」が前示のような語句であることも当裁判所に顕著な事実というべきである。

(三) そして、前記(一)、(二)の事実によると、本件商標からは直ちに「滑らぬ」の観念が生じるものと認めるのが相当であり、これと同旨の審決の認定は正当というべきである。

原告は、本件商標はこれより「滑らぬ」の意味を直感するものではない旨主張し、その理由として、<1>「滑らぬ」という語句は本件商標の登録当時すでに日常用いられていなかつた旨主張する(請求の原因3の(二)の(1))と共に、<2>本件商標の構成文字がすべて片仮名であり、しかも中間に長音符が配されていること(同(2))及び<3>本件商標のように「ヌ」又は「ーヌ」の語尾を有する名称が他に多数存すること(同(3))を指摘した主張をするが、右<1>の主張は、「滑らぬ」が文語体の語句ではあつても、前記の当裁判所に顕著な事実に照らしてこれを採用しえず、また、右<2>、<3>の主張については、商標から想起されるべき観念は、当該商標の構成全体の外観、あるいはこれに加えてそれより生ずる称呼に基づいて客観的に判断されるべきものであるところ、原告は本件商標の構成ないし構成要素を単に部分的にとらえたうえでの主観的感情に基づく認識を述べるにすぎないものであるから、前記認定を左右するに足りないものといわなければならない。したがつて、原告の前記主張は理由がない。

3 前記2の認定事実によると、本件商標を本件限定商品すなわち「滑り止め付き建築又は構築専用材料」について使用した場合には、これに接する取引者、需要者は、一般に「滑らぬ」の観念を想起させられると同時に、右商品が「滑らない」品質、効能を有することを連想させられるものと認めるのが相当であるから、本件商標は、これを本件限定商品について使用する限り、単にその商品の特性を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなるものといわなければならない。したがつて、右と同旨の審決の認定判断は正当というべきである。

4 してみると、本件商標の登録は、本件限定商品については、商標法三条一項三号の規定に違反してなされた違法なものというべきであり、同法四六条一項一号の規定により無効とされるべきものといわなければならず、これと同旨の審決の結論は正当である。

原告は、他の商標登録例を挙げて、本件商標の登録が本件限定商品についても許されるべきものである旨主張するが(請求の原因3の(三))、他の登録例をもつて本件を推断することは相当でないから、原告の右主張も採用することができない。

三 以上の次第で、原告の主張はいずれも理由がなく本件商標登録を本件限定商品について無効とした審決の認定判断は正当であり、審決にはこれを取消すべき違法はない。

よつて、審決を違法としてその取消を求める原告の請求は理由なしとしてこれを棄却する。

〔編註その一〕 本件に関する商標および別紙は左のとおりである。

別紙

<省略>

構成   上記のとおり

指定商品 第七類 建築又は構築専用材料、セメント、木材、石材、ガラス

出願   昭和四八年九月一七日

(商願昭四八―一四九一五三)

出願公告 昭和五〇年一一月一四日

(商公昭五〇―六八八四六)

登録   昭和五一年一〇月一二日

(登録第一二二五二一九号)

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