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東京高等裁判所 昭和56年(行ケ)140号 判決

一 請求の原因一ないし三の事実は、被告においてこれを自白したものとみなす。

二 そこで、審決にこれを取り消すべき違法の点が存するかどうかについて判断する。

1 本件特許がされた発明について

弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第二号証(本件特許に係る特公昭五二―四一九五二号特許出願公告公報)、同第三号証(第二補正の掲載公報)によれば、本件発明に係る明細書の特許請求の範囲の欄には、出願公告当時のものにあつては前示公告発明の要旨(事実摘示中請求の原因二の1参照)のとおりのことが、第二補正後のものにあつては前示第二補正発明の要旨(同二の3参照)のとおりのことがそれぞれ記載されているところ、審決は、その間の記載上の差異として(c)及び(d)の二点を挙げたうえ、第二補正は、空所を形成する位置及び昇降リフトを設置する位置を広げ、かつ、変えるものであるから、特許請求の範囲を実質上変更するものであるとした。

先ず、第二補正発明についてみると、その特許請求の範囲の記載に照らせば、空所を形成する位置は「前記各パレツトのいずれかの位置」と、昇降リフトを設置する位置は「前記各パレツトの上方」とされているものであり、右にいう「前記各パレツト」とは、その前に「通路に沿つて平行に移動可能な車両上載用のパレツトをその移動方向に四個以上並べて通路より乗入れ可能にした駐車装置において」と記載されているパレツトを指すことは明らかである。しかして、右に指示されたパレツトとは、そのままパレツトに通路から車両が乗入れ可能な状態に置かれたパレツト、すなわち、上段への車両の入出庫を行うため空所を形成すべく横行移動する前の定位置状態に置かれたパレツトを意味するものであるから、空所を形成する位置及び昇降リフトを設置する位置は、右定位置状態に置かれた各パレツト、すなわち、別紙図面(一)(本件明細書添付の図面の第一図ないし第六図であつて、第一図は従来型のものを、第二図ないし第六図は本件発明の実施例を示すものである。)の第二図の下段A・B・C・Dの位置に置かれた各パレツトを基準に、そのいずれかの位置ないしその上方として特定されているものであつて、同第三図の下段の右側三両や同第五図の下段の左側三両の車両を上載した位置にあるパレツト、あるいは、右位置にまで定位置状態から移動途上の状態にあるパレツトをも基準としているものではないと解すべきものである。

これに対し、公告発明においては、特許請求の範囲に「隣接する二つの車両上載パレツト間及びパレツト配列端のいずれかに車両入出庫に必要な幅だけの空所を空けて配列する際、それぞれのパレツト間及びパレツト配列端に設けることができる前記空所のおのおのの上段に昇降リフトを備えた車両上載用の台車を設置し」と記載されているところ、右記載をもつて、空所を形成する位置は定位置状態に置かれたパレツトの位置と必ずしも一致するものではなく、各パレツト間及び配列端の全て、すなわち、パレツトの台数より一個多い空所が設けられ、そのおのおのの上段に昇降リフトが設置されるものと解する余地がないわけではない。しかしながら、公告発明においては、「上段台車上の車両を前記空所に下降させて入出庫する」とされているとおり、上段の車両は下段に形成される空所から入出庫するものであり、下段の車両はもとより定位置状態に置かれたパレツトに乗入れすることが前提となつているものであるところ、前掲甲第二号証によれば、出願公告当時の本件明細書の発明の詳細な説明及び添付図面の全てを通じ、上段車両の入出庫位置が下段車両のそれと異なることはなんら想定されていないのみならず、むしろ、上段車両は下段車両と同じ位置から入出庫するものとの前提で全ての説明がなされていることを考慮すれば、特許請求の範囲における前示記載は、空所は定位置状態に置かれたパレツトの各位置に形成されることを当然の前提としているものであつて、右空所は、適宜のパレツトを配列ピツチをもつて配列することの結果として、隣接するパレツトの間又はパレツトの配列端のいずれかに形成されることとなり、このように定位置状態の各パレツトの位置に形成される空所のおのおのの上段に昇降リフトを備えた台車を設置することを意味しているものと解するのが相当である。

したがつて、公告発明と第二補正発明との間には、特許請求の範囲の記載における表現上の差異はあるものの、空所を形成する位置及び昇降リフトを設置する位置の点においてなんら異なるところはなく、右の点において第二補正は特許請求の範囲を実質上変更するものであるとした審決の判断は誤つているものというべきである。なお、審決は、括弧書きをもつて、第二補正発明において昇降リフトを設置する位置を各パレツトの上方とした「上方」はその範囲が特定されていないとしているけれども、第二補正発明において、昇降リフトは二段式駐車装置の上段と下段との間で上段車両の上載用車台を昇降するためのものであることは明らかであり、「上方」の範囲が特定されていないとすることはできないものというべきである。

公告発明と第二補正発明との間の特許請求の範囲におけるその他の記載上の差異を検討しても、パレツトの並置台数を第二補正発明においては公告発明が複数としていたものを四台以上と単に減縮している以外、特許請求の範囲に示された発明の要旨が変更されていると目すべき点を見出すことはできず、結局、本件特許は第二補正発明に対してされたものというべきである。

2 本件発明と引用例との対比について

弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第四号証(引用例)によれば、引用例には、「昇降・横行式の二段ベツド方式は、上の車を取り出そうとすれば押ボタン一つで下の車が横に移動し、それと連続して上の車が下に降りて来る」との概括的説明とともに、その取出し順序を示す図二七―二(別紙図面(二)のとおり)が付されているところ、右の図に示された駐車装置は、原告主張のとおり(請求の原因四の2の(一))のものであつて、下段に車両を収容しない退避室を備えることを上段に車両を入出庫させるための不可欠の要素としているものと認められる。これに対し、本件発明(第二補正発明)は、下段各パレツトの移動方向の幅を車両を並置するに必要な配列幅以下の大きさとし、任意のパレツトを入出庫必要幅より小さい右配列幅で配列することにより、車両入出庫必要幅と配列幅との差を利用して、所要の位置に上段車両の入出庫に必要な幅の空所を形成するように構成されているため、下段に車両を収容しない空室を備える必要をなくした点に特有の効果を奏するものであることは、本件明細書の記載に照らし明らかである。そして、本件発明の右構成及び効果については、引用例にはなんらこれを開示し、あるいは、示唆するところはないものというほかなく、本件発明をもつて引用例の記載に基づき容易に発明をすることができたものということはできない。

3 以上のとおりであるから、審決は、本件特許がされた発明の要旨を誤認し、更に、引用例との対比判断においても結論を誤つたものというべく、違法として取消しを免れない。

三 よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は理由があるのでこれを認容することとする。

〔編註その一〕 本件特許発明に関する事項は左のとおりである。

一 特許庁における手続の経緯

1 原告は、名称を「空室のない二段式駐車装置」とする発明についての特許第九八五六〇三号の特許(以下「本件特許」といい、これに係る発明を「本件発明」という。)の特許権者であるところ、本件特許は、昭和四六年一一月一〇日の特許出願(昭和四六年特許願第八九五九五号)に係り、昭和五二年一〇月二一日に特公昭五二―四一九五二号公報をもつて出願公告され(以下、この出願公告時における明細書による本件発明を「公告発明」という。)、その出願公告決定の謄本の送達後にされた特許異議申立ての理由に示す事項について、昭和五三年八月二一日付け手続補正書により明細書の補正(以下「第一補正」といい、これにより補正された明細書による本件発明を「第一補正発明」という。)があり、更に、特許法第五〇条の規定による拒絶の理由に示す事項について、昭和五四年八月一日付け手続補正書により明細書の補正(以下「第二補正」といい、これにより補正された明細書による本件発明を「第二補正発明」という。)があつた後、昭和五五年二月七日にその特許権設定の登録がされたものである。

2 被告は、昭和五五年二月一九日、本件特許を無効にすることについて審判を請求し、昭和五五年審判第二六五〇号事件として審理された結果、昭和五六年三月三〇日、本件特許を無効とする旨の審決があり、その謄本は、同年四月二三日、原告に送達された。

二 本件発明の要旨

1 公告発明の要旨

通路に沿つて平行に移動できる車両上載用のパレツトを複数設け、これらのパレツトをその移動方向に並べて配置して通路より乗入れ可能とし、パレツトの移動方向の幅を車両を並べておくに必要な配列ピツチ以下の大きさとし、それぞれのパレツトを前記配列ピツチで配列するとともに、隣接する二つの車両上載パレツト間及びパレツト配列端のいずれかに車両入出庫に必要な幅だけの空所を空けて配列する際、それぞれのパレツト間及びパレツト配列端に設けることができる前記空所のおのおのの上段に昇降リフトを備えた車両上載用の台車を設置して、シーケンス回路により上段台車上の車両を前記空所に下降させて入出庫するように構成したことを特徴とする空室のない二段式駐車装置。

2 第一補正発明の要旨

通路に沿つて平行に移動可能な車両上載用のパレツトをその移動方向に複数個並べて通路より乗入れ可能にした駐車装置において、前記各パレツトの移動方向の幅を車両並置に必要な配列ピツチ以下の大きさとし、それらパレツトを移動して隣接する二つの車両上載用パレツト間のいずれか又は該パレツト配列端のいずれかに車両入出庫に必要な幅だけの空所を車両入出庫必要幅と配列ピツチ幅との差を利用して設けるように構成するとともに、これにより形成される前記空所の上段に昇降リフトを具備した車両上載用の車台を配置するほか、シーケンス回路制御機構によりその車台上の車両を前記空所に下降させて入出庫するように構成したことを特徴とする空室のない二段式駐車装置。

3 第二補正発明の要旨

通路に沿つて平行に移動可能な車両上載用のパレツトをその移動方向に四個以上並べて通路より乗入れ可能にした駐車装置において、前記各パレツト上方にそれぞれ昇降リフトを設置し、前記各パレツトの移動方向の幅を車両を並置するに必要な配列幅以下の大きさとし、前記各パレツトのいずれかの位置に車両入出庫に必要な幅の空所を、車両入出庫必要幅と配列幅との差を利用して任意のパレツトを移動させ配列幅で配列して形成するとともに、この空所に前記昇降リフトを下降させるように構成するほか、シーケンス回路制御機構によりその車台上の車両を前記空所に下降させて入出庫するように構成したことを特徴とする空室のない二段式駐車装置。

〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。

別紙図面(一)

<省略>

別紙図面(二)

<省略>

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