東京高等裁判所 昭和56年(行ケ)174号 判決
一 請求の原因一ないし三の事実は当事者間に争いがない。
二 取消事由(1)について
1 本願発明も第一引用例の発明も、連続的な継目のない支持水密壁を建造する方法に関するものであること、その建造方法は、本願発明においては平らな壁面を両側に有する細長い又は任意の他の形状(以下、便宜この形状を「矩形状」という。)の溝を掘削し、第一引用例の発明においては円筒状の溝を掘削し、いずれもこれにベントナイト含有セメント(後者の場合はモルタルでもよい。)を注入すると共に補強材(前者はプレキヤスト部品、後者はパイル)を挿入し、第二区画以下の溝も順次これに隣接して掘削するものであるところ、両発明の相違点の一つが、前者にあつては溝の壁面が平らなものであるのに対し、後者にあつては平らでない点にあること(審決の指摘する相違点(1))は、当事者間に争いがない。
2 本願発明においては、当事者間に争いのない発明の要旨によれば、プレキヤスト部品を前記矩形状の「溝の両側の平らな面に沿つて溝の中に包囲されるように挿入」するのであるから、右の「沿つて」という表現に照らせば、溝の壁面とプレキヤスト部品との間には一定の間隔が保たれることが予定されていると解されるところ、右間隔内には、注入されたベントナイト含有セメントが存在し、したがつて、同部品の結合面の両端において、溝の壁面となる外部の土壌との間にも同部品の中間部分と土壌との間におけると同様ベントナイト含有セメントが存在することになるわけである(成立に争いのない甲第二号証(本願発明の明細書)添付図面の第三、第四、第七図参照、なお、同図面の第五図中被告の指摘する極めて微細な二個所をとらえて、本願発明においてプレキヤスト部品が溝の壁面に内接する場合をも包含すると解するのは妥当ではないというべきである。)。
一方、第一引用例の発明においては、成立に争いのない甲第五号証の一、二(第一引用例)によれば、前記円筒状をなした壁面をもつ溝の中に<省略>形状のパイル部材を、その溝の側面(他の溝との隣接面)に右部材の彎曲部を添わせて挿入するものであることが認められる(第二図)。しかし、同引用例中には、パイル挿入に当り、パイルの端部が溝の壁に接するようにしなければならないとする旨の記載は見当らないだけでなく、同発明では、溝の中に太い棒状のパイル(第一図)が挿入されるため、その程度に差はあるとしても、溝の大きさはパイルを挿入しやすいようゆとりをもつて作られるのが常識上当然のことであるから、溝とパイルとの結合面において土壌との間に全く隙間がないということは考えられないところであり、充填材であるセメントミルクが注入された溝内にパイルを挿入すると、充填材はパイルの周囲にかなりの圧力で浮上し、その結果、パイルの周囲には圧密された状態で充填材が詰まるようになることは容易に理解し得るところであるから、第一引用例には直接の記載はないけれども、パイルの結合面両端においても、土壌との間には充填材が入り込むものと認めて差支えないものというべきである。このことは、前掲甲第五号証の二の第一一及び第一二図に示された工法及び成立に争いのない甲第一一号証によれば、第一引用例の発明においても、パイルの結合面における溝壁が材質上連続となる場合を排除していないものと認められることによつても知り得るところである。もつとも、前掲甲第一一号証には「掘削孔に入れるプレキヤストコンクリート杭は掘削孔一杯の寸法を有しており」との記載があるが、同号証の他の記載をも総合して読めば、右記載部分は、第一引用例の発明においてパイル結合面において材質の連続性のある場合を否定することにはならないものというべきである。
そうであれば、原告主張のように、両発明の溝の形状の差によつて、右補強部材の結合面の両端において、本願発明ではベントナイト含有セメントが外部の土壌との間に存在するが、第一引用例の発明ではベントナイト含有セメント(セメントミルク)が外部の土壌との間に常に存在しないという差異が当然に生ずるものとは認め難いものといわなければならない。
3 もつとも、第一引用例の発明において、前掲甲第五号証の二の第二及び第八図によれば、パイルの結合面の両端であつて外部の土壌に接触している部分もあることが認められるが、他方、同号証の第一一及び第一二図によれば、パイルの結合面の両端であつて外部の土壌に接触している部分の全くない溝の事例が示されており、後者の形状の溝を隣接して複数築造すると、全体として、細長い波形の溝となり、しかも、溝の壁面とパイルの結合面の両端との間には間隔が保たれて外部の土壌に接触することなくベントナイト含有セメントの存在する部分が連続して築造されることになる。そしてそれは、結局、プレキヤスト部品が挿入された壁面の土壌と同部品との間にベントナイト含有セメントが存在する本願発明の溝が複数隣接して築造されたのと大差がないことになるわけである。
4 以上述べたところによれば、両発明は掘削される溝の形状にかかわらず、その接合形態、連続性、遮水効果において格別の差異を認めることができないものというべきであるが、原告は、第一引用例の発明では、パイルの結合面の両端で外部の土壌に接する部分をなくして溝の連続面を形成しようという技術思想はなく、遮水効果保持機能は、パイルの接合部の間隙に充填材を詰めることによつて得られるのであり、第一引用例記載の第一二図も工作方法を示した模式図にすぎず、同記載の第八図、第一二図がなんらの説明もなく併記されていることは、右の発明が溝の材質による連続性を意識していないことを示す旨主張する。
なるほど、前掲甲第五号証の二の(1)概説三八頁一行から一一行目までの部分には、圧密された状態の充填材がパイルの接合部の間隙に詰り、湧水のあるところでも漏水を防止し得る旨の記載がある。しかし、そもそも、第一引用例の発明が連続した継目のない支持水密壁を建造する方法に関するものである以上、発明者として溝壁全体の遮水性に考慮を払わないはずはなく、前記第一引用例の漏水防止に関する記載部分も、間隙が生ずることが避け難いパイル相互の接合面の処理に重点をおいた説明であると理解するのが相当である。そして、前記のように、第一引用例の発明においても、パイルの結合面における溝壁が材質上連続となる場合を排除していないと認めるべきであるから、第一引用例記載の第一二図も漫然と記載されたものではなく、同記載の第一一図と共に、右のような材質上連続の場合を想定した工法図であると認めるのが相当である。
5 かように本願発明と第一引用例の発明における溝の形状の差は、その効果において格別の差異をもたらさないだけでなく、本願発明同様連続的な継目のない支持水密壁を建造する方法に関する発明である後記第二引用例において、溝の壁を平らな面とすることが記載されているのであるから、本願発明において溝の壁を平らな面とすることは、第二引用例の記載から容易に考えられる程度のことであるということができる。
三 取消事由(2)について
1 ベントナイト含有セメントに関し、本願発明の要旨によれば、「少なくともベントナイト及びセメントが満たされた状態」で前記矩形状の溝を掘るというのであり、成立に争いのない甲第三号証によれば、本願発明の明細書には「スラリー(ベントナイト含有セメント)は溝を切つている間漸進的に注がれる」と記載されていることが認められる。そして、右明細書には、ベントナイト含有セメントを用いる掘削に関し、右記載以外に特に具体的に記載した個所は見当らないから、本願発明の前記要旨部分の技術的意義は、溝を掘つている間ベントナイト含有セメントが次第次第に注がれるという意味に解すべきである。他方、第一引用例の発明では、ドーナツオーガーの先端よりモルタル又はセメントミルク、即ちベントナイト含有セメントを注入しながらケーシングを用いて溝を掘削するのであり(この事実は当事者間に争いがない。)、そのことは(モルタルを用いた場合は別としても)、溝を掘削している間ベントナイト含有セメントを漸進的に注入しているということにほかならない。そうであれば、「少なくともベントナイト及びセメントが満たされた状態で壁面を両側に有する任意の形状の溝の第一区画を掘り」という点において、両発明の構成に格別の差異はないと認めるのが相当である。
2 原告は、本願発明において、注入されたベントナイト含有セメントが掘削された土と置換された状態が「ベントナイト含有セメントが満たされた状態」を意味する旨主張するが、前掲甲第二、第三号証を通観しても、本願発明の明細書から右のような解釈を導く根拠は見出せない。かえつて、右発明の要旨が「少なくとも」ベントナイト含有セメントが満たされた状態という表現をしているところからみて、本願発明における掘削には、原告主張のような置換は必要ではなく、右記載は、むしろベントナイト含有セメントに水や土砂が混入した状態で溝が満たされてもよいということを示しているものと認めるのが相当である。そうであれば、オーガーの先端からベントナイト含有セメントを注入し土砂に混入させながら掘削する第一引用例の方法は、本願発明の右のような掘削に関する構成と差異はないというべきである。この点に関し、原告は、右の「少なくとも」の記載は、ベントナイト含有セメントに公知の促進剤又は遅延剤を加えるため挿入された旨主張する。この主張によれば、前記要旨部分を認定すべき特許請求の範囲の記載を「ベントナイト含有セメントのほか公知の促進剤又は遅延剤が満たされた状態」で矩形状の溝を掘削すると限定的に解すべきことになる。しかし、ベントナイト含有セメントを注入しつつ溝を掘削する際、促進剤又は遅延剤を混入させることが技術上自明であると認むべき証拠はないし、本願発明の明細書である前掲甲第三号証によれば、その発明の詳細な説明の項に「土地の状態や用いられるグラウテイングセメントによつてスラリーに普通の促進剤や遅延剤を加えることは得策である。」との記載があることが認められるが(一五頁四行ないし六行目)、右記載から前記特許請求の範囲の記載を原告主張のように限定的に解することは困難である。原告の主張する補正の経緯も、原告主張の解釈を裏付ける事情とはなし得ないものというべきである。
このほか、原告は、両発明の掘削方法の差に由来するベントナイト含有セメントの営む作用の相違を主張するが、第一引用例の発明においても、本願発明と同様ベントナイト含有セメントが溝の崩壊防止作用をも営むことは否定し得ないし、仮に、第一引用例の発明において、オーガーとケーシングを用いて掘削するということから、ベントナイト含有セメントの作用に何らかの相違が認められるとしても、それによつて、前記のような意味でのベントナイト含有セメントが満たされた状態で掘削するという技術的構成自体が影響を受けることにはならないものというべきである。
四 取消事由(3)について
1 本願発明と第一引用例の発明との他の相違点が、本願発明が、「完全に連続な壁を作るために溝の第一区画」のいずれかの端が硬化する前に溝の他の第二区画を溝の第一区画のいずれかの端に隣接して掘る」構成をとるのに対し、第一引用例の発明がそのような構成をとらないことにあること、(審決の指摘する相違点(2))、第二引用例の発明も本願発明同様連続的な継目のない支持水密壁を建造する方法に関するもので、同引用例に請求の原因四、(2)、(一)のとおりの記載があることは、当事者間に争いがない。
2 成立に争いのない甲第六号証(第二引用例)によれば、第二引用例の発明では、まず、掘削する過程でベントナイトを溝に循環させながら壁面が平らで細長い第一区画の溝を掘削した後、構築すべき壁の型に応じてベントナイトを砂及び砂利の混合物などによつてなるセメント質材料でコンクリートとして壁を形成するものであること(原告が同引用例に記載されているとするベントナイトとコンクリートの置換とはこのことを指し、一旦注入したベントナイトを全部排出して改めてセメント質材料を充填するという意味ではないと解せられる。)、但し、ベントナイトは物理的、化学的処理によつて直接硬化するので、セメント質材料によるコンクリート化を行うことは必ずしも必要がないことが認められる。
3 そこで、第二引用例の発明における第一区画の溝と第二区画の溝の接合方法の構成について検討することとするが、先ず、同発明において原告主張の土よけを第一区画の溝に挿入することが必須の要件であるか否かについて考える。
(一) 前掲甲第六号証によれば、第二引用例には、「壁の最初の部分を形成するに適した材料で穴Iを充填した後に、充填材にセメント材料を使用した場合には好ましくはセメント材料が未だ柔らかい中で完全に硬化する前に隣接する穴Ⅱが穴Iの掘削に関連して既に述べたのと同一の方法で掘削され、この穴Ⅱの各区域中の最初の帯域は穴Iの壁の端部と交差することになる。」との記載があることが認められ(三欄三八行~四五行目)(以下「Aの記載」という。)、右記載によれば、土よけを用いることは不要であり、隣接する二つの溝の接合の構成は、本願発明の要旨であり、かつ前記第一引用例の発明との相違点(2)とされた「溝の第一区画のいずれかの端が硬化する前に溝の他の第二区画を溝の第一区画のいずれかの端に隣接して掘る」という構成と同じことになる。
(二) 他方、同じく前掲甲第六号証によれば、第二引用例には、「第八図に示すように掘削穴の区域1aが完成したとき、土よけSを第九図に示すように掘削穴の右側端に挿入する。前記土よけは円筒形又はその他適当な形状をしている。その後、コンクリート6a又は他の充填材料が土よけSを除いた、掘削穴1aの空所に充填され、充填された材料は掘削穴1aの壁と土よけSの左側外表面とに係合する。コンクリート6aの硬化後に土よけSは第一〇図に破線で示すように引抜かれるので、穿孔作業中に掘削穴に注入されていた濃厚液体によつて充填された穿孔穴LSが後に残される。……次に、第一一図に示すように掘削穴Ⅱaが完成し、その後コンクリート又は他の適当な充填材料がこの掘削穴に第一二図に示すように注入されたとき、充填材料はその左側端においては掘削穴Ⅰa中に以前に設けられた壁の半円筒表面と係合し、その右側端においては掘削穴Ⅱaの中に今挿入された土よけSと係合する。」との記載(五欄三二行ないし四六行)及び「掘削穴を前記チクソトロピー性液体で概ね満たしたままに維持することによつて前記平面によつて画成された壁を固化する段階、垂直な筒状土よけを前記掘削穴の一端に配置する段階、こうして形成された水平に細長い掘削穴を前記土よけにより取囲まれた容積を除いてコンクリートで充填し、次の隣接するコンクリート壁要素に取りかかる前に、コンクリートが硬化してから前記土よけを取除く段階」との記載(七欄二六行から三四行目)があることが認められる(以下この二つの部分を「Bの記載」という。)。右記載及び前記2の事実によれば、第二引用例では、ベントナイトを注入循環させながら第一区画の溝を掘削、溝の右端に円筒状又は適当な形状をした土よけを挿入、土よけ挿入部分を除いた溝にセメント質材料を注入してコンクリートを形成、コンクリート硬化後に土よけの引抜き、第二区画の溝の左側端を土よけが引抜かれた直後の第一区画の溝の右側端の凹形の半円筒形状の表面と係合するようにベントナイトを注入循環させながら第二区画の溝を掘削、セメント質材料を注入第二区画の溝のコンクリートが硬化している前記第一区画の溝の右端の凹形の半円筒状型の表面と係合という過程を経て二つの溝が接合することが認められる。
(三) 右のA、Bの各記載が二つの溝の接合につき、土よけを使用しない方法と使用する方法の二つの技術を開示したと解するならば、Aの記載により第二引用例には本願発明と同じ構成が開示されていることになることは、前記(一)に述べたところから明らかである。
(四) 次に、A、Bの両記載を総合し、第二引用例では土よけを溝の接合につき必須のものとして構成していると解した場合に、これを本願発明と対比してみると、先ず、土よけ引抜きの時期については、直接的表現としては前記のように第一区画の溝のコンクリート硬化後とされているが、Aの記載によれば、セメント材料が「まだ柔らかい中で同材料が完全に硬化する前に」第二区画の溝を掘ることが記載されていること、コンクリートが硬化してしまえば、土よけの引抜きは不可能か著しく困難となることが予想されることなどに徴すれば、第二引用例の発明では第一区画の溝が完全に硬化する以前に隣接する第二区域の溝を掘るという技術手段を示しているものと認めるべきであり、したがつて、土よけは第一及び第二区画の溝との間における充填材料の連続性に役立つものと理解される。一方、本願発明における「溝の第一区画のいずれかの端が硬化する前に溝の他の第二区画を溝の第一区画のいずれかの側に隣接して掘る」構成の技術的意義は、前掲甲第二、第三号証の一三頁八行ないし一七行目に、第一区画の溝の「グラウテイング(ベントナイト含有セメント)はすでに溝10(第二区画の溝)に流れ込まない程度に硬化しているが、しかしながらグラウテイングはそれを柱5及び9(プレキヤスト部品)の縁部表面から容易にとり除くことが出来る程度にやわらかい状態にある。スラリー(ベントナイト含有セメント)を溝10に満たす前に、まだやわらかいグラウト(ベントナイト含有セメント)を取り除く事によつてこれら表面は清浄にされる。それから第五図に示されているように、柱11(プレキヤスト部品)が溝10のスラリーの中におろされ、つづいてパネル12および13(プレキヤスト部品)がおろされる。」と記載され、また、八頁四行ないし八行目に溝の接合に関し「拡張溝の切断は最初の溝内で部分的に固まつたスラリーの端部を切り取るように行なわれ、その後最初の溝内の外側のプレキヤスト部品の露出した縁部は部分的に硬化したスラリーの超過部分を取り出すことによつて清浄にされ、その後さらにプレキヤスト部品は拡張溝にある新しいスラリーにおろされ、これらのプレキヤスト部品は、拡張溝中にある外側のプレキヤスト部品の縁部が最初の溝内の外側のプレキヤスト部品の縁部と重なり合うように両表面の間にすき間を残す様に設置される。」と記載されているところからみて、第一及び第二区画の溝のベントナイト含有セメントの一体的硬化によつてその接合部分における連続性、遮水性を保持する工程を可能にすることにあるといえる。そのために、本願発明では、第一区画の溝のベントナイト含有セメントが硬化する以前に、その端部を切断し、第二区画の溝を掘るなど溝接合に必要な作業をするのであるが、そのこと自体第二引用例の発明に示された前記技術的意義と変るところはない。そして、土よけが溝と溝との間の連続性に役立つとしても、それなくしても、要は第一区画の溝が硬化する以前に、溝接合に必要な作業をすれば、連続性、遮水性ある溝の接合の効果は得られるものであつて、本願発明において、第一区画の溝と第二区画の溝との接合部分についての具体的構成は前記本願発明の要旨に格別の限定はないのであるから、本願発明と第二引用例の発明を対比するに当り、後者において土よけを用いている点を特に考慮する必要はないものといわなければならない。
(五) このように、第二引用例の発明における土よけを必須要件と解すると否とにかかわらず、右発明と本願発明との対比についての結論に差はないから、審決が特に第二引用例の発明の土よけに言及することなく、同発明が本願発明と同じく「溝の第一区画のいずれかの端が硬化する前に溝の他の第二区画を溝の第一区画のいずれかの端に隣接して掘る」構成を示していると認定したことに誤りはない。なお、本願発明では、充填材としてベントナイト含有セメントを用いるのに対し、第二引用例の発明においては、先ずベントナイトを注入し、その後にセメント質材料を加えてコンクリートを形成するのであるが、いずれにせよ第一区画の充填材が硬化する前に、第二区画の溝を掘削して充填材を満たし、溝相互の接合面における充填材の混合を容易ならしめて連続性の保持をはかるという点では両者の技術思想に差はないものというべきである。まして、前記2に認定したように、第二引用例の発明においても、ベントナイトを物理的、化学的に処理することにより直接硬化をはかる方法が示唆されているから、この場合における両発明の溝の接合の構成の同一性は一層明らかである。したがつて、この点に関する審決の認定に誤りはない。
(六) しかして、第一引用例の発明が「少なくともベントナイト及びセメントが満たされた状態で壁面を両側に有する任意の形状の溝の第一区画を掘り」という点で本願発明と一致していることは前記三において述べたとおりであり、前掲甲第五号証の二によれば、それぞれ同一形状のプレキヤスト部品(パネル)を溝の両側の面から間隔をおいて溝の中に包囲されるように挿入し、完全な連続壁を作るために溝の第一区画の端に第二区画の溝の端を隣接して掘る方法の点において、両発明は一致しているものと認めることができる。
そうであれば、右のように一致点を有する第一引用例の発明に、審決の指摘した相違点(2)につき、前記のように右相違点と同一構成の技術的開示があるものと認められる第二引用例記載の方法を転用することは、当業者が容易になし得るところということができる。
五 以上のとおりであつて、原告主張の取消事由はいずれもその理由がなく、審決にはこれを取消すべき違法の点はないものといわなければならない。
よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を失当として棄却することとする。
〔編註その一〕 本願発明の要旨は左のとおりである。
連続的な継目のない支持水密壁を建造する方法において、少なくともベントナイト及びセメントが満たされた状態で平らな壁面を両側に有する細長い又は任意の他の形状の溝の第一区画を掘り、同一形状の又は異なつた形状のプレキヤスト部品を、前記溝の両側の平らな面に沿つて溝の壁の中に包囲されるように挿入し、完全に連続な壁を作るために前記溝の第一区画のいずれかの端が硬化する前に溝の他の第二区画を溝の第一区画のいずれかの端に隣接して掘る、ことを特徴とする方法。
〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。
別紙図面(一)(本願発明明細書添付図面中本文に引用したもの)
<省略>
別紙図面(二)(第一引用例に記載された図面で本文に引用したもの、但し第三図を除く)
<省略>
<省略>
別紙図面(三)(第二引用例に記載された図面で本文に引用したもの)
<省略>
<省略>