東京高等裁判所 昭和56年(行ケ)183号 判決
一 請求の原因一ないし三の事実は当事者間に争いがない。
二 第一引用例に記載されたタイヤの構成が審決の理由の要点2摘示のとおりであること、本願発明に係るタイヤと第一引用例記載のタイヤの構成上の差異が、前者が「突起ブロツクの少くとも一部は小さい直線グループを介して最も近い境界グループに連通する中心穴を有する」との構成(審決摘示の<3>の構成)であるのに対し、後者がこれに対応する「ほぼ四角形をなすブロツクの各辺からブロツクの中心部に向つて周辺の境界グループから連通する直線の穴(グループ)を有する」との構成(審決摘示の<3>の構成)である点にあり、その他の点では両者の構成が一致していることは当事者間に争いがない。原告は、審決が第二引用例の記載を誤認し、右の相違点に対する判断を誤つた結果、本願発明の進歩性を否定したものであると主張してその取消を求めるので、以下において検討をする。
三 本願発明の特許請求の範囲には、中心穴につき、前記当事者間に争いのない本願発明の要旨のとおり、「小さい直線グループを介して最も近い境界グループに連通する中心穴」と記載されているところ、成立に争いのない甲第二号証の一(本願発明の特許公報)、によつて認められる本願明細書の発明の詳細な説明の項の記載によれば、本願発明の中心穴は、ブロツク断面の重心位置近くに配置され、直線グループによつて最も近い境界グループに接続され、その幅を直線グループより広くする構成であつて、これにより直線グループと連結してブロツクの下にたまつた水を集めて最短距離で排出するとともに、慣性中心楕円の対称性をそこなわない作用効果を奏するものと認めることができる(甲第二号証の一第四欄一二行ないし二一行、添付の第三ないし第六図)。したがつて、本願発明の中心穴は直線グループがブロツクの中心部に延長した形状を指すという被告の主張は採用できない。
四 審決は、第二引用例には、「突出ブロツクの少くとも一部に小さい直線グループを介して最も近い境界グループに連通する中心穴を有する構成」が記載されていると認定している(このことは前叙のとおり当事者間に争いがない。)。しかし、成立に争いのない甲第四号証によれば、第二引用例記載のタイヤには境界グループに連通する直線グループがブロツク断面の重心位置近くに達する構成が示されているにとどまり、本願発明のようなブロツク断面の重心位置近くでかつ直線グループより広い幅の中心穴といえるものは示されていないことが認められる。したがつて、審決の右認定は誤りである。
五 しかしながら、タイヤトレツドとしての機能に関する請求の原因四2(一)の事実及びその排水機能に関する同(二)の事実は当事者間に争いがなく、この事実と前掲甲第二号証の一及び成立に争いのない乙第一、第二、第三、第六号証(いずれも被告主張の意匠公報)によれば、タイヤが濡れた路面を走行中接地面に水膜ができるとスリツプをすることがあるため、ブロツク断面の重心位置付近に正六角形(乙第一号証)、円形(乙第二号証)、正方形(乙第三号証)等の凹部(穴)を設けることによつて右水膜を破壊し、水をブロツク表面に流さないで排除するようにすること及びタイヤトレツドに設けた境界グループからブロツク内に排水用グループを適宜形成し、その排水用グループの先端を特定の凹部(穴)に形成すること(乙第六号証)が本願出願前周知であつたものと認めることができる。
そうだとすると、第二引用例記載のタイヤにおけるブロツク断面の重心位置近くにある直線グループの端部をタイヤ接地面にできる水膜を破壊するに適した大きさと形状の凹部(穴)とすることに当業者として格別の困難性があるものということはできない。そして、ブロツク断面の重心位置近くに中心穴を設け、これより幅の狭い直線グループと結んで排水通路としての凹型部分をなるべく小さく形成すれば、全体として車の走行の安定性、タイヤ摩耗の均一性をそこなわないことになることが仮に原告主張のとおりであるとしても、そのことは設計的に変更し得る構成から当然に生じる作用効果にすぎないものというべきである。
六 以上述べたところによれば、第二引用例記載のタイヤにおいて直線グループの端部を前記のような中心穴とし、これを第一引用例記載のタイヤの<3>の構成に適用することは当業者にとつてさしたる困難なく着想し得るものというべきであるから、本願発明の進歩性を否定した審決の判断に誤りはない。
七 よつて、原告の本訴請求を棄却する。
〔編註〕 本願発明の要旨は左のとおりである。
タイヤトレツドのへりに開くグループによつて限られる突出ブロツクを含むようにしたトレツドを備えたタイヤにおいて、前記突出ブロツクは接地面に対して平行な平面断面を有し、それら平面断面はほぼ円形でかつ同一形状の慣性中心楕円をなし、これらの突起ブロツクの少くとも一部は小さい直線グループを介して最も近い境界グループに連通する中心穴を有し、前記境界グループはタイヤ走行方向に対して斜方向でかつタイヤ接地区域の縁部に開口する形状をなしていることを特徴とする道路用タイヤ外皮。