東京高等裁判所 昭和56年(行ケ)233号 判決
原告主張の審決取消事由の有無について検討する。
1 成立に争いのない甲第二号証の一ないし三によると、本願意匠は、煮炊具用蓋に係るものであつて、蓋体の全体が透明であり、かつ円板をほぼ一定の曲率をもつて、上方に膨出した凸球面状の板体であつて、その中心部に、逆円錐台状の周側面を僅かに脹出した座板を有しない、不透明の摘みが設けられ、前記蓋体の周縁には、不透明の環状帯が、捲回されており、右環状帯は、外側面がやや大きく、上、下側面がいずれもこれよりやや小さめの幅で僅かに上、下方向にそれぞれ脹出した突縁を有する形態のものであることが認められる。
2 次に、成立に争いのない甲第三号証によると、引用意匠は、中華なべ蓋に関するものであつて、蓋体が不透明であり、かつ円板をゆるやかに上方に膨出した凸孤面状の板体であつて、その中心部に逆円錐台状の周側面を僅かに脹出した、比較的大きい座板を有する摘みが設けられ、前記蓋体の周縁部は、ほぼ真下に向けて折曲げた小さな段部に続いて外方にほぼ水平に広がる帯状縁を設け、その終端部を僅かに下方に折曲げてなる態様のものであることが認められる。
3 そこで、本願意匠と引用意匠とを対比すると、<1>両意匠における主要部と解される蓋体が、本願意匠では透明であるのに対し、引用意匠では不透明である点、<2>蓋体の周縁部において、本願意匠では不透明の環状帯が前記のような形状で捲回されているのに対し、引用意匠では蓋体自体の周縁部が前記のような段部を設けて区分された帯状縁の形状を呈しているものである点、<3>蓋体の中央部に設けられた摘みは、本願意匠では座板がないのに対し、引用意匠では前記のような座板がある点で、それぞれ相違しているものと認められる。そして両意匠のこのような相違点に基づいて、本願意匠では、透明な蓋体の中央部と周縁とにそれぞれ前記形状の不透明な摘みと環状帯が配されたことによりこれら三者のコントラストがかなり顕著に強調され、煮炊具用蓋としては、引用意匠に比し優美な印象を与えるものであるといわざるをえない。
元来煮炊具用蓋にあつては、多くの場合円板状のものの中央部に摘みを設ける基本的形態を共通にする制約があるものというべきところ、本願意匠と引用意匠との間に、前記のような各相違点があつて、それらから受ける美感が前記のとおり異るものである以上、たとえ蓋体を透明にすることが従来普通に行われていることなどの点を考慮に入れても、本願意匠が引用意匠とは全体として類似しないものと解するのが相当である。
そうすると、これを類似するとして、意匠法第三条第一項第三号の規定により本願意匠の登録を拒絶すべきものとした審決の認定判断は誤りであるから、審決は違法として取消されるべきである。
よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を正当として認容する。
〔編註〕 本件における審決理由の要点は左のとおりである。
本願意匠の形態の要旨は、「蓋体は円板をゆるやかな凸孤面状とし、その周縁に細幅の縁巻きを設けたものとし、摘みは逆円錐台状の周側面を僅かに脹出した形態として蓋体上面中心に取付け、縁巻きおよび摘みを除いた蓋体の部分を透明としたもの」である。
これに対し、特許庁資料館受入昭和四七年一月五日の雑誌ミセス昭和四六年一二月号第二六七頁の12の符号が付された「中華なべ蓋」の意匠(以下「引用意匠」という。)の形態の要旨は、「蓋体が円板をゆるやかな凸孤面状として、その周縁に縁巻きを設けた形態とし、摘みは逆円錐台状の周側面を僅かに脹出して摘み部とし、その下端に小円形の座板を設けた形態として蓋体上面中心に取付け、全体が不透明なもの」である。
そこで、両意匠を比較して検討すると、両者は意匠に係る物品を同一とし、その形態においても共通しており、この点が両意匠の特徴を最もよく表わしているところであるから、両意匠の類否判断を左右する主要部と認める。
本願意匠は、縁巻き及び摘みを除いた蓋体の部分が透明である点で引用意匠とは相違する。しかし、この種物品において、蓋体を透明とすることは従来から普通に行なわれているところであつて何ら特徴がなく、この相違点のみを取上げて類否判断を左右することはできない。また、縁巻きの幅が、本願意匠は、引用意匠よりもやや細い点及び摘み部の座板の有無の点において両者が相違する。しかし、縁巻きの幅の相違は極めて僅かなものであり、座板の有無についても摘み部の形態が酷似しており、これらの相違によつて類否判断に影響を与えるものではないから、いずれも部分的な微差にすぎない。
以上のとおりであつて、両意匠は主要部において共通しており、部分的な相違があつても意匠全体として観察した場合には互いに類似しているというほかない。したがつて、本願意匠は意匠法第三条第一項第三号に規定する意匠に該当し、登録を受けることができない。