東京高等裁判所 昭和56年(行ケ)248号 判決
一 請求の原因一ないし三の事実は、当事者間に争いがない。
そこで、審決にこれを取り消すべき違法の点が存するかどうかについて検討する。
二 原告は、審決は本願発明と第二引用例記載のものとの間の相違点を看過した結果、本願発明は容易に推考できるものであるとの誤つた結論に至つたものである旨主張するので判断する。
1 第二引用例に記載された組立方法が、原告が請求の原因四の1において主張するとおりのものであることは当事者間に争いがない。すなわち、第二引用例(成立について争いのない甲第四号証)には、未加硫状態のゴム挿入物を、このゴム挿入物の外径より内径が小さい管状スリーブ中に、半径方向の圧縮を及ぼしながら圧入して挿入し、その後内側スリーブを右ゴム挿入物の中央開口部に挿入し、次いで、得られた組立物のゴム挿入物を加硫して硬化させる方法が記載されているものである。
2 本願発明の要旨は前示のとおり当事者間に争いがなく(事実摘示第二の二参照)、成立について争いのない甲第二号証の一ないし四によれば、本願明細書の特許請求の範囲にも右本願発明の要旨のとおりのことが記載されているところ、原告は、本願発明における「ゴムブシユを非加硫状態でボススリーブ上に螺着し、次いでゴムブシユとボススリーブとを一緒に管状スリーブ内の適正個所に設置した後、ゴムブシユを右両スリーブに対し加硫する」構成は、第二引用例の前示の方法とは異なり、ゴムブシユは、管状スリーブ内の適正個所に設置される際、半径方向の圧縮を受けることなく、したがつて圧入されることなく単に設置されるもの、換言すれば、ゴムブシユの肉厚はボススリーブと管状スリーブの間隙と実質的に同幅のものとして設定されているものであると解釈さるべきである旨を主張する。
原告が請求の原因四の2において主張する点は当事者間に争いがなく、前掲甲第二号証の一ないし四によれば、本願明細書の発明の詳細な説明の項の記載も、本願発明をもつて右当事者間に争いのないとおりのものとして説明しているものであると認められる。すなわち、本願明細書の発明の詳細な説明においては、従来のプロペラボス組立法は、ゴムブシユを加硫によりボススリーブに固着した後、該ゴムブシユを半径方向に圧縮を及ぼしつつプロペラスリーブ内に圧入するものであつたとし、この圧入にはかなりの力を必要とし、特殊の工具を必要とするばかりか、組立の際の応力に耐え得るようプロペラスリーブを相当肉厚に形成する必要があり、また圧入の際の強大な摩擦のため正確な位置決めが困難である等の欠点を有していたとし、このように説明された従来の組立法との対比において、本願発明の特徴は、ゴムブシユを非加硫状態でボススリーブ上に螺着し、次いでブシユとボススリーブとを一緒に管状スリーブ内の適確な位置に設置した後、ブシユを加硫する点にあることを明らかにしている。
右認定の本願明細書の記載によれば、本願発明の前記特徴は、従来技術における加硫されたゴムブシユをプロペラスリーブ内に圧入することとの対比において述べられているところであつて、しかも、成立について争いのない乙第三号証の一ないし三及び弁論の全趣旨によれば、右従前技術においてゴムブシユを圧入することが大きい力を要する困難な作業であつたのは、圧入さるべき該ゴムブシユが未加硫ゴムではなく、所望の強度と弾性を付与するため加硫されたものであるからにほかならない。
原告は、本願発明の明細書の特許請求の範囲における「ゴムブシユとボススリーブとを一緒に管状スリーブ内の適正個所に設置」するとの構成は、ゴムブシユが管状スリーブ内の適正個所に設置される際圧入されることなく単に設置される趣旨であると主張するが、ゴムブシユを管状スリーブ内に圧入して設置することも「設置」であり、本願明細書中にはゴムブシユが管状スリーブ内に圧入されることを要しないほどの肉厚に形成されていることや、ゴムブシユを設置するに際し管状スリーブが応力を受けるものではないこと、管状スリーブ内に設置するに要する力は小さくてすむこと、ひいては、そのように圧入することなく設置されたゴムブシユにおいてもボススリーブ及び管状スリーブに対して十分の固定力が加硫によつて得られることなどの点については一切触れるところがないのである。
右のとおりであるから、本願発明の要旨を原告主張のように解釈することはできず、本願発明は、ボススリーブ上に螺着した非加硫状態のゴムブシユを、半径方向に圧縮を及ぼしつつ管状スリーブ中に圧入して挿入、設置して後、これを右両スリーブに対し加硫するとの態様のものをも含んでいるものと解すべきである。
3 してみれば、本願発明と第二引用例記載のものとの間には、非加硫状態のゴムブシユの設置の態様において原告主張のような差異はないものであつて、右差異の存することを前提として審決がその相違点を看過したことをいう原告の取消事由に関する主張は失当である。
三 その他審決にこれを取り消すべき違法の点が存するものとは認められないから、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は理由がなく、これを失当として棄却することとする。
〔編註その一〕 本願発明の要旨は左のとおりである。
プロペラスリーブと、前記プロペラスリーブ中にこれと同軸に配置した管状スリーブと、前記管状スリーブ中にこれと同軸に配置したボススリーブと、前記管状スリーブと前記ボススリーブとの間に配置されて前記二つのスリーブ間に生ずるねじれ応力を吸収するゴムブシユとからなる船用エンジンに使用するプロペラボスの製造方法において、前記ゴムブシユを非加硫状態で前記ボススリーブ上に螺着し、前記ゴムブシユと前記ボススリーブとを一緒に前記管状スリーブ中の適正個所に設置し、前記ゴムブシユを前記ボススリーブと前記管状スリーブとに対して加硫し、次いで、このようにして得られた組立て物を前記プロペラスリーブ中に固着することを特徴とする船用エンジン用プロペラボスの製造方法(別紙図面(一)参照)。
〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。
別紙図面(一) 本願発明
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別紙図面(二) 第一引用例
<省略>
別紙図面(三) 第二引用例
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