大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和56年(行ケ)270号 判決

(争いのない事実)

一 請求の原因一ないし三の事実(本件に関する特許庁における手続の経緯等、本件発明の要旨及び本件審決理由の要点)は、当事者間に争いがないところである。

(本件審決を取り消すべき事由の有無について)

二 原告が本件審決の取消事由として主張するところは、要するに、第一引用例記載の化合物(3´)は、本件発明の目的とする化合物(3)と同一であるにかかわらず、本件審決は、この点を看過し、その結果、誤つた結論を導いたものであるから、取消しを免れない、というにあるが、右主張は、以下説示するとおり理由がないものといわざるをえない。

1 本件発明の目的とする化合物である化合物(3)(ビス―β―エチルカルボン酸ゲルマニウムセスキオキサイド)の重合度が二に限定されるものでないこと、及び右化合物(3)が式(O1.5Ge CH2CH2COOH)xで表わしうるものであることは、当事者間に争いがないところ、成立に争いのない甲第四号証の一、二(第一引用例)によれば、第一引用例には、<省略>という反応式、すなわち、トリクロロゲルマン(HGe Cl3とアクリルニトリル(CH2=CHCN)とを反応させ、β―トリクロロゲルミルプロピオニトリル(Cl3Ge CH2CH2CN化合物(1´))とし、これを塩酸により加水分解することによつて、式(O1.5Ge CH2CH2COOH)xで表わされる化合物(化合物(3´))とし、これとチオニルクロライド(SOCl2)とを反応させて、β―トリクロロゲルミルプロピオニルクロライド(Cl3Ge CH2CH2COCl。化合物(2´))に至る反応式が記載されていることが認められ、右認定したところによると、第一引用例の化合物(3)は、式(O1.5Ge CH2CH2COOH)xで特定されているという点では本件発明の目的化合物(3)と一致している。しかしながら、前掲甲第四号証の一、二(第一引用例)には、「四mlの濃塩酸(HCl)とともに六gのCl3Ge CH2CH2CNを二時間沸騰させた後に水を追い出し、残留物をエーテルによつて抽出する」旨の記載があり、ここにいう「残留物」が化合物(3)´を含むことは、右記載及び前示反応式に徴し明らかであるから、化合物(3´)がエーテルに可溶であることは認められるものの、右残留物の中から化合物(3´)を純粋な物質として分離して取り出した旨、すなわち化合物(3´)を単離した旨の記載及び化合物(3´)が真に式(O1.5Ge CH2CH2COOH)xで表わされる化合物であることを確認することができるだけの元素分析のデータ、分子量の計算値等を示す資料、更には、同定するために通常必要とされる融点、赤外線吸収スペクトル、その他物理的及び化学的性質を示す資料は何ら示されておらず、結局、第一引用例の記載からβ―トリクロロゲルミルプロピオニトリル(Cl3Ge CH2CH2CN)を塩酸加水分解することによつて、真に式(O1.5Ge CH2CH2COOH)xで表わされる化合物が生成するものとは、直ちに認めることができない。のみならず、成立に争いのない乙第二号証(特許出願公告昭四六―二四九八号公報)によると、同公報には、カルボキシエチルゲルマニウムセスキオキサイド((COOH・CH2・CH2Ge O)2 O)の製造方法が開示されており、その第三欄第一一行ないし第一九行には、「ここに生成したカルボキシエチルゲルマニウムセスキオキサイドは白色の粉末で、アルコール、エーテルなどの有機溶媒には不溶であるが、水には可溶であり、その融点は測定しても明確な融点を知ることができず、また分析値はC二一・三%、H三・〇九%、O三五・五四%、Ge四〇・〇七%……であつた。」旨の記載があり、一方、成立に争いのない甲第二号証(本件特許の明細書)には、本件発明の目的とする化合物(3)(ビス―β―エチルカルボン酸ゲルマニウムセスキオキサイド、(O1.5Ge CH2CH2COOH)2)について、「水に可溶性の白色結晶性の粉末で加熱すれば重合する。更に、温度を上昇させれば分離して融点の測定ができない」(第七欄第四行ないし第六行)旨、また、実施例1により生成された化合物(3)の実験値として「C:二一・〇〇、O:三二・九一、H:三・〇〇、Ge:四二・四一」(第七欄第三四、第三五行)との記載が認められるところ、これらの記載によれば、乙第二号証に係る発明の目的化合物カルボキシエチルゲルマニウムセスキオキサイドと本件発明の目的とする化合物(3)(ビス―β―エチルカルボン酸ゲルマニウムセスキオキサイド)とは、その分子式が同一であり、白色の粉末であること、融点の性状及び水に対する可溶性の点においても同一であつて、分析値も近似していることから判断して、同一の化合物であるものと認められる。そして、右乙第二号証のカルボキシエチルゲルマニウムセスキオキサイドは、アルコール、エーテルなどの有機溶媒には不溶である旨の記載に徴し、これと同一化合物であると認められる本件発明の目的とする化合物(3)もアルコール、エーテルなどの有機溶媒には不溶であると認められるところ、第一引用例の化合物(3´)がエーテルに可溶な化合物であることは、前認定のとおりであるから、本件発明の目的とする化合物(3)と化合物(3´)とは、むしろ異なる物質であると認めるのが相当である。そればかりか、前掲乙第二号証によれば、その第二欄第二二行ないし第二五行及び第三〇行ないし第三五行には、「β―シアンエチルトリクロルゲルマン二三・三g(〇・一モル)を八〇―九〇℃に加熱攪拌しつつ濃塩酸四〇mlを滴下し、滴下操作が終つた後も三―四時間八〇―九〇℃に保つて加水分解し」、「析出した結晶を濾別して白色吸湿性結晶のβ―トリクロルゲルミルプロピオン酸一七・一g(〇・〇六八モル)を得た。この収率は六八%で、このβ―トリクロルゲルミルプロピオン酸はアルコール、エーテル等の有機溶媒には易溶で」ある旨の記載があり、右記載によると、β―シアンエチルトリクロロゲルマン(Cl3Ge CH2CH2CN)と濃塩酸を加熱処理するとβ―トリクロロゲルミルプロピオン酸(Cl3Ge CH2CH2COOH)が主成物として得られること、及び右生成物はエーテルに可溶であることが認められ、右認定の事実と第一引用例の化合物(3´)が前認定のようにβ―トリクロロゲルミルプロピオニル(Cl3Ge CH2CH2CN)と濃塩酸を加熱処理して得られるものであり、かつ、エーテルに可溶であることを対比すると、第一引用例において式(O1.5Ge CH2CH2COOH)xで表わされる化合物(3´)は、前掲乙第二号証の中間生成物であるβ―トリクロロゲルミルプロピオン酸(Cl3Ge CH2CH2COOH)と同一のものと推定することができ、このことは、成立に争いのない乙第一号証に示された第一引用例の追試結果(同号証中の表1及び2において、化合物(i)(化合物(3´)に当たる。)がハロゲンを検出すること、エーテルに可溶であること、赤外線吸収スペクトルにおいてGe―Cl結合の存在を示す波長の吸収は示すが、Ge―O結合の存在を示す波長の吸収はみられないこと。)からも、首肯しうるところであり、叙上認定を覆すに足りる証拠はない。

2 右認定説示したところによると、本件審決が、第一引用例には、本件発明の目的とする化合物(3)について開示するところがないと判断したのは正当であり、この点について本件審決に事実誤認がある旨の原告の主張は、いずれも前認定説示に照らし、採用することができない。

(むすび)

三 以上のとおりであるから、その主張のような違法のあることを理由に本件審決の取消しを求める原告の本訴請求は理由がないものというほかはない。よつて、これを棄却することとする。

〔編註〕 本願発明の要旨は左のとおりである。

トリクロロゲルマニウムとアクリルニトリルとを反応させてトリクロロゲルマニウムエチルニトリルとなしこれを酸を用いて加水分解を行いトリクロロゲルマニウムエチルカルボン酸となした後チオニールクロライドによりクロル化してトリクロロゲルマニウムエチル酸クロライドとなし水を加えて加水分解を行い生体内の異常細胞電位を変化させてその機能を停止させるビス―β―エチルカルボン酸ゲルマニウムセスキオキサイドの製造方法

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!