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東京高等裁判所 昭和56年(行ケ)284号 判決

(争いのない事実)

一 本件に関する特許庁における手続の経緯、本願発明の要旨及び本件審決理由の要点が原告らの主張のとおりであることは、本件当事者間に争いのないところである。

(本件審決を取り消すべき事由の有無について)

二 原告らは、本件審決は本願発明と引用例記載の発明との構成上及び作用効果上の差異を看過した結果、両者の相違点に関する判断を誤り、ひいて、誤つた結論を導いたものである旨主張するが、次に説示するとおり、本件審決の認定判断は正当であり、原告らの主張は、理由がないものというべきである。

前記本願発明の要旨及び成立に争いのない甲第二号証(昭和五六年五月一八日付手続補正書の訂正明細書及び図面)によれば、本願発明は、正面フライス加工において、ステンレス鋼、ニツケル基耐熱合金、コバルト基耐熱合金及びチタン合金等の難削材の切削を容易に行える正面フライス切削装置に関するものであるところ、従来、右のような難削材は、切削の際に生じる加工歪のために、加工面に薄い硬化層ができる現象が現れ、いわゆる加工硬化性が強いため、汎用のフライス切削装置を用いてこれら難削材を切削した場合、切粉がチツプ刃先に圧着し切削表面がむしり取られるような状態になり、良い仕上面が得られないという欠点を有するほか、チツプ切刃に切屑が圧着した状態で切削が進行するため、チツプの異常な摩耗や破損を生じる結果となり易い欠点があり、現状の汎用カツターでは、難削材を切削する場合、普通鋼を切削するときの切削条件に比して、切削速度及び切込深さ等の切削条件を大幅に下げる以外に方法がなかつたので、右の課題の解決を目的として、種々の実験をした結果、正面フライスカツターの切刃形状がコーナーアングル66度ないし83度、ラジアルレーキ角-11ないし-24度、アキシヤルレーキ角5度ないし15度で、これら三つの角度の組合せにより生ずる真のすくい角が5度前後となるカツターが、非常に優れた切削性能を発揮することを発見し、また、バイト又はスローアウエイチツプはボデイ周面に広いピツチで取り付けられる場合が有効であるところから、そのピツチは50mmないし250mmの範囲とすることとして、本願発明の要旨(特許請求の範囲の記載に同じ。)のとおりの構成を採用し、これにより所期の作用効果を奏するものであることが認められる。

他方、成立に争いのない甲第三号証(引用例)によれば、引用例記載の発明は、本願発明の特許出願の日の前である昭和四八年二月六日に出願公開された公開特許公報記載の発明であつて、ステンレス鋼、耐熱鋼など難削材のフライス切削装置に関するものであるところ、前記本願発明におけるのと同様の課題の解決を目的として、ボデイ周面に等間隔を置いて装着する複数本のバイトにおけるチツプを、被切削面とのチヤンフア角が10度ないし22度(その余角であるコーナーアングルは、68度ないし80度となる。)、ラジアルレーキ角が-7度ないし-22度となるように配設し、各バイト間には下端が被切削面上に接近した切削排除用のブレーカーを設けたことを特徴とするフライス切削装置の構成を採用し、これにより前記難削材の切削を効果的に行わしめ、かつ、ブレーカーにより切屑の排除を有効に行わしめ、バイトの保護と切削能率の向上等の作用効果を奏するものであり、なお、右の構成によると、アキシヤルレーキ角は9度前後に形成されるものであることが認められ、これと本願発明とを対比考察すると、本願発明は、バイトのピツチを50mmないし250mmとするものであるところ、引用例には、バイトのピツチについての開示はないが、従来の一般的なピツチが30mmないし100mmであるとの本件審決認定の事実は、原告らの認めるところであり、これによると、本願発明におけるピツチは右の一般的なピツチと一部一致するものであるうえ、前掲甲第二号証の記載からも、本願発明においてピツチを前記数値のものに限定したことに格別の意義を認めることができず、また、本願発明において真のすくい角を5度前後(前掲甲第二号証によれば、右の5度前後というのは、本願発明の特許請求の範囲に記載のコーナーアングル、アキシヤルレーキ角及びラジアルレーキ角の範囲からみて、本願発明の切削実験の結果を示す第1図の場合では-5度ないし5度、第2図の場合では0度ないし5度、第3図の場合では5度であつて、少なくとも-5度ないし5度という広い範囲を指すものと認められる。)にしたことについても、前認定の事実によると、引用例記載の発明におけるコーナーアングル、アキシヤルレーキ角及びラジアルレーキ角の各角度は、いずれも本願発明におけるそれらの角度の範囲内に含まれるから、引用例記載の発明においても、真のすくい角は本願発明のそれの範囲内に当然に含まれるものであり、したがつて、引用例記載の発明は本願発明の真のすくい角を5度前後にしたことによるのと同様の作用効果を当然に奏するものと認めるを相当とするから、引用例には、本願発明の構成を示唆し、かつ、本願発明の作用効果を予測せしめるに足りる技術的思想の開示があるものと認めるべきである。原告は、本願発明の特徴は、バイトのピツチを50mmないし250mmの範囲に限定したこと、及び真のすくい角を5度前後にしたことの結合にあり、これにより、ブレーカーの取付けをすることなく切屑を完全に排出し、刃の摩耗を最少限にとどめる等の顕著な作用効果を奏するものであるのに対し、引用例には、右の本願発明の特徴たる技術的思想を開示するところがなく、また、本願発明の作用効果を予測せしめるような記載もない旨主張するが、本願発明においてバイトのピツチを右の数値に限定したことには格別の意義を認めることができず、また、引用例記載の発明の真のすくい角が本願発明の真のすくい角である5度前後に含まれ、本願発明におけると同様の作用効果を奏することは前説示のとおりであり、更に、引用例記載の発明における本願発明と同様の右作用効果は、引用例記載の発明のブレーカー以外の構成に基づくバイトの切削作用に関するものであることは、前認定説示に照らし、明らかであり、ブレーカーによる切屑排除の作用効果とは直接的な関係にはないというべきである。のみならず、ブレーカーの右作用効果に徴すれば、切削装置にブレーカーを設けるか否かは、当業者が必要に応じて選択し得る事項とみるを相当とし、前掲甲第二号証の記載からも、本願発明がブレーカーを設けなかつた点について格別の意義を見出すことはできない。したがつて、原告らの右主張は、採用するに由ない(なお、原告株式会社原鉄工所代表者原松二郎が昭和五九年一一月頃撮影した各種切屑の写真であることについて争いのない甲第四号証は、叙上認定を覆し、原告主張事実を認めしめるに足りない。)。

(結語)

三 以上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法のあることを理由に本件審決の取消しを求める原告らの本訴請求は、理由がないものというほかはない。よつて、これを棄却することとする。

〔編註その一〕 本願発明の要旨は左のとおりである。

ボデイ周面に50mm~250mmの範囲内のピツチで装着する複数のブレード式バイト又はスローアウエイチツプをコーナーアングルが66~83度、アキシヤルレーキ角5~15度の範囲内でラジアルレーキ角を-11~-24度としてなる正面フライス切削装置。(別紙図面(一)参照)

〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。

別紙図面(一)

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