東京高等裁判所 昭和56年(行ケ)39号 判決
審決にこれを取り消すべき違法の点があるかどうかについて検討する。
(一) 本願意匠の図面であることについて争いのない別紙(一)の図面によれば、本願意匠の態様は、上下方にそれぞれ水平の厚い板状体のブロツクを形成し、中央に柱体を設けて上下板体と一体に結合した基本構成からなり、その上下板体部は厚いほぼ正方形状とし、柱体部は、その中央部を正面よりみてうすく、側方よりみて厚みを有する角柱状とし、その上下方は、正面は外方に短く弧状に湾曲させ、側面は板体の端部までほぼ平坦な長い傾斜状としたものであつて、各部の長さの構成比は、全体の横巾は全高とほぼ同じ、柱体部の高さは全高のほぼ四分の三、上下板体部の厚みはそれぞれ全高のほぼ七分の一、柱体部の中央の横巾は全体の横巾のほぼ七分の一、柱体部の中央の奥行は全体の奥行のほぼ三分の一であること、及び本願意匠によるコンクリートブロツクが占める空間の全体の形状はほぼ立方体であることが認められる。
(二) 次に、成立に争いのない甲第三号証(引用意匠の公報)によれば、引用意匠(本願意匠の表示状態に対応させるため、引用意匠のものを九〇度回転することとし、以下正面図を平面図とし、平面図を正面図とし、右側面図を左へ九〇度回転したものを左側面図としたものによつて表示された状態で記載する。)の態様は、上下方にそれぞれ水平の厚い板状体のブロツクを形成し、中央に柱体を設けて上下板体と一体に結合した基本構成からなり、その上下板体部は厚いほぼ横長方形状となし、柱体部は、その中央を正面よりみてうすく、側方よりみて厚みを有する角柱状とし、その上下方は、正面は外方に短く弧状に湾曲させ、側面は板体の端部までほぼ平坦な長い傾斜状としたものであつて、そのほか、上方板体部の下方及び下方板体部の上方の各左右両端附近には、それぞれ極めて短い突出傾斜面を奥行一杯に設けており、各部の長さの構成比は、全体の横巾は全高のほぼ三倍、奥行は全体の横巾の二分の一弱、柱体部の高さは全高のほぼ三分の二、上下板体部の厚みはそれぞれ全高のほぼ五分の一、柱体部の中央の横巾は全体の横巾のほぼ七分の一、柱体部の中央の奥行は全体の奥行の二分の一弱であること、及び引用意匠によるブロツクが占める空間の全体形状は、全体の横巾、全高及び奥行の構成比がほぼ三対一対一・五の直方体であることが認められる。
(三) そこで、本願意匠及び引用意匠がそれぞれ「建築用コンクリートブロツク」及び「構築用ブロツク」にかかるものであることに留意して、前認定にかかる両意匠の態様をみれば、両意匠は、上下方にそれぞれ水平の厚い板状体のブロツクを形成し、中央に柱体を設けて上下板体と一体に結合した点を基本構成とするものであり、その上下板体部を厚い四角形状とし、柱体部は、その中央部を正面よりみてうすく、側方よりみて厚みを有する角柱状とし、その上下方は、正面は外方に短く弧状に湾曲させ、側面は板体の端部までほぼ平坦な長い傾斜状としたものである点で共通するもので、両意匠の相異点は、(1) 本願意匠の上下板体がほぼ正方形状であるのに対し引用意匠の上下板体が縦横比約一対二の横長長方形状であること、(2) 引用意匠の上方板体部の下方及び下方板体部の上方の各左右両端附近にはそれぞれ極めて短い突出傾斜面を奥行一杯に設けているのに対し、本願意匠には右のような傾斜面がないこと、(3) 両意匠の各部の構成比は前認定のとおりであり、本願意匠によるコンクリートブロツクが占める空間の全体の形状がほぼ立方体であるのに対し、引用意匠におけるそれが横巾、高さ及び奥行の長さがほぼ三対一対一・五の直方体であること、の三点にあるものとみることができる。
そして、右のとおり、両意匠は、その基本構成及びその具体的態様を共通にするものであるところ、これらの共通する構成が、両意匠の意匠にかかる物品については、特段の事情のない限り、それぞれの意匠の支配的態様をなすものとみられるのに対し、前記相異点(1)及び(3)については、両意匠共通の物品ブロツクにおいては平面形状が正方形及び長方形(したがつて、立体的には立方体及び直方体)のものが一般的に周知であることは当事者間に争いがないことを考えれば、両意匠における上下板体が正方形か長方形かの相異及び全体形状が立方体か直方体かの相異は、右長方形及び直方体の各辺ないし各稜の長さの比が極端に大きい場合は格別本件程度の場合には、両意匠の類否に格別の影響を及ぼすものではないとみるのが相当であり、また、前記相異点(2)も、引用意匠全体の構成のごく一部であつて、前記基本構成等に比べて看者に特別に強い印象を与えるものでなく、両意匠を類似とするのに妨げとなるほどのものとは考えられないから、両意匠は類似するものといわざるをえない。
(四) ところで、原告は、右基本構成はフランス特許第一〇二四七一七号公報により引用意匠の出願前から公知であるから、これを類否判断の支配的要素とすることは誤りである旨主張するので、この点について検討するに、成立に争いのない甲第四号証によれば、右フランス特許公報には、本願意匠に対応するように配置した場合に、上下方にそれぞれ水平のやや厚い板状体のブロツクを形成し、中央に上下の板状体よりやや厚めの板状体を上下の板状体と正面よりみてI字形になるように一体に結合したもので、その上下板体部は縦横比約一対二の長方形であり、中央の板状体は側方よりみると、上下板体の奥行の約五分の四の奥行を有し、その上下端は上下板体の前後端部までやや急な斜面としたもの、と表現することができるブロツクが記載されていることが認められるが、右ブロツクは、本願意匠及び引用意匠に共通する基本構造のように上下板体を柱状体で結合した構造というよりも、右認定のように、むしろ上下板体を同様の板体でI字形に結合した構造とみるのが自然であり、したがつて、右公報の記載によつて右基本構造が引用意匠の出願前に公知であつたとすることは相当でないから、同公報の記載をもつて、右基本構造を本願意匠及び引用意匠の支配的要素とみることを妨げるべき特別の事情とすることはできず、原告の右主張は採用できない。なお、仮に、右フランス特許公報記載のブロツクが上下板体を柱状体で一体的に結合した構成を備えるものとみうるとしても、右ブロツクにおける前認定の具体的態様をもつてしては、本願意匠及び引用意匠における前記基本構成その他の共通する構成を一般に周知のものとして両意匠の類否判断の根拠より排除することはできないから、この点からも原告の右主張は理由がない。
(五) 以上のとおりであるから、本願意匠が引用意匠に類似するものとして、本願意匠の登録拒絶査定を支持した審決の認定判断は、前記認定との対比により明らかなように、本願意匠における構成比並びに引用意匠における構成及び構成比の認定記載に若干の誤りはあつても、両意匠の対比は、被告主張のとおりそれぞれの図面を中心に行なつているものとみられ、結局、相当であり、審決には、これを取り消すべき違法の点はないといわなければならない。 よつて、審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を失当として棄却する。