東京高等裁判所 昭和56年(行ケ)54号 判決
一 請求の原因一ないし三の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、審決取消事由の存否について判断する。
成立について争いのない甲第二号証、第一一号証によれば、本願発明の明細書の特許請求の範囲の記載は、事実摘示第二、二のとおりであること及び右のような構成をとることにより、本願発明にかかる油冷式回転圧縮機においては「特にアンロード運転時には、吸気閉塞型アンローダー(2)が閉じるために吐出室(6)内に圧縮気体は流入しない。この状態で油抜き専用口(20)から冷却潤滑油が強制的に抜き取られるために、吐出室(6)内の圧力が圧力槽兼油槽の圧力よりも低くなり、連通口(7)の逆止弁(8)は吸気閉塞型アンローダー(2)が閉じると急速に閉じる。以後、吸気閉塞型アンローダーが閉じており、逆止弁も閉じており、かつ専用口から冷却潤滑油を強制的に排除するために、吐出室の圧力は急速に低下する。通常この低下した時の吐出室の圧力が0kg/cm2ゲージ圧力程度になるように油抜き専用ポンプの容量を定める。このように、アンロード運転中の吐出室に作用する背圧を除くことができるために、アンロード運転中の消費動力を著しく低下」(甲第一号証第一頁第一〇行ないし第二頁第七行)させるような効果を奏するものであることを認めることができる。
一方、成立について争いのない甲第一四号証によれば、第二引用例における油冷式摺動翼形回転圧縮機は、第一段圧縮機のガス吐出口と第二段圧縮機のガス吸入口とを連絡する連絡通路の下部に余剰油タンクを設け、第二段圧縮機のガス吸入口とは別に、このタンクに油抜き専用口を第二段圧縮機のガス吸入口より低水準位置に開口させ、油抜き専用口を弁等を介せず油抜き専用ポンプに直接連通させ、通常圧縮運転中、前記連絡通路に流入する油を前記タンクに流入滞留させ、その下層から油抜き専用ポンプにて排除するようにしたものではあるが、第一段圧縮機の吸入口11を閉塞してアンロード運転に入るときは、第一段圧縮機のシリンダに噴射された油はポンプ22によつて排出せしめられ、連絡通路15内の圧力は低下するが、第二段圧縮機の吐出口14には依然としてアンロード運転に入つた時点の吐出気圧が閉じ込められており、かつアンロード運転中第一段圧縮機から圧縮気体の供給はないが噴射口20を介して油の供給は継続されるため、吐出口14と蓄圧器16とを連通する連絡通路内の圧力及び第二段圧縮機の吸入口12と吐出口14との間の圧力は増大し、ロータ回転駆動にかかる背圧は大となり、駆動力をより必要とするに至るものと認められる。
右のように、本願発明と第二引用例との間には、一方がその構成によりアンロード運転中は吐出室に作用する背圧が除かれるために消費動力が節約されるのに対し、他方は、そのような背圧の低下はないために、アンロード運転中における消費動力の節約は期待できないという差異があるものと認められる。
審決は、本願発明の連通口7と第二引用例の吸気口(吸入口12)とを圧縮気体吐出室内の主として圧縮気体が通過する開口である点で一致するとするが、右認定は、本願発明の圧縮機と多段圧縮機である第二引用例の圧縮機との構成の相違及び構成の相違から生ずる作用効果の相違を正しく理解しない誤つたものであるというべきである。けだし、本願発明の圧縮気体吐出室は、圧力槽への連通口が開設されていることから、所定の最終圧縮比まで圧縮された気体が吐出される室であるのに対し、第二引用例の連絡通路15は、圧力槽へ直接連通するものではなく、第一段圧縮機において予圧縮された気体をさらに第二段圧縮機において所定の最終圧縮比にまで圧縮すべく、第二段圧縮機の吸入口に送る連絡通路にすぎないものであり、単に圧縮気体が通過する開口である点で本願発明の連通口7と第二引用例の吸入口12とは同一であるとするのは、本願発明及び第二引用例の各構成を誤つて認定したものといえるからである。
被告は、本願発明にかかる回転圧縮機において、アンロード運転時にローターに作用する背圧をなくするためには、ローター室4に噴射される油の量よりも吐出室6から油抜き専用ポンプによつて排除する油の量を大きくする必要があるところ、本願発明の特許請求の範囲にはそのような限定は記載してないから、本願発明においてアンロード運転時に背圧がなくなるという原告の主張は、本願発明の要旨と無関係のものであつて理由がない旨を主張する。
本願発明において、アンロード運転時にローターに作用する背圧をなくするためには、ローター室4に噴射される油の量よりも吐出室6から油抜き専用ポンプによつて排除する油の量を大きくする必要があるものと認められるが、その旨の限定が特許請求の範囲に記載されていないことは、特許法第三六条第五項に違反するものとして出願が拒絶されることがあり得ても、右の限定が記載されていないことをもつて、本願発明と第二引用例との前認定のような構成上及び作用効果上の差異を主張し得ない理由とすることはできない。被告の主張は理由がない。
第一引用例(成立について争いのない甲第一三号証)には、審決が認定するとおり、容量調整装置付の油冷式回転圧縮機において、その圧縮気体吐出室に圧力槽兼油槽あるいは油分離槽への連通口を開設し、連通口には逆止弁を設けたことを特徴とする油冷式回転圧縮機が記載されているだけであつて、本願発明におけるように、アンロード運転中に吐出室にかかる背圧をなくして消費動力を節約する点については何の示唆もしていないものと認められるから、第一引用例に第二引用例に記載されたものを組合せても、本願発明に容易に想到し得るものということはできない。
以上のとおりであるから、本願発明は第一引用例及び第二引用例に記載されたものから容易になしうるものと認められるとした審決の判断は誤りであり、審決は取消を免れない。
三 よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を正当として認容することとする。
〔編註その一〕 本願発明の要旨は左のとおりである。
無負荷又は容量調整装置付の油冷式回転圧縮機において、その圧縮気体吐出室に圧力槽兼油槽あるいは油分離槽への連通口と油抜き専用口とを別々に開設し、前記連通口には逆止弁を設け、油抜き専用口を連通口の開口位置より低水準位置に開口させ、油抜き専用口を弁等を介せず油抜き専用ポンプに直接連通させ、通常圧縮運転中も、アンロード運転中も、半アンロード運転中も、あるいは容量調整運転中も圧縮気体吐出室に流入滞留する油をその下層から前記油抜き専用ポンプにて常に排除していることを特徴とする油冷式回転圧縮機。(別紙図面(一)参照)
〔編註その二〕 本件に関する図画は左のとおりである。
別紙図面(一)
<省略>
別紙図面(二)
<省略>
別紙図面(三)
<省略>