大判例

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東京高等裁判所 昭和56年(行ケ)91号 判決

一 請求の原因一ないし三の事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで、審決にこれを取り消すべき違法の点が存するかどうかについて判断する。

1 成立について争いのない甲第三号証の一、二によれば、本願明細書の実用新案登録請求の範囲には、前示当事者間に争いがない本願考案の要旨のとおりのことが記載されており、添付図面として、別紙図面(一)のとおりのものが、第一、二図は本願考案のヤスリを、第三、四図は従来品のヤスリを示すものとして添付されたうえ、考案の詳細な説明の中において、従来のヤスリにおいては、「ヤスリの周面の左右両側端を低く傾斜状に形成してあるのでその周面に施すヤスリ目はこれを刻設する作業においてその左右両側端に位置する部分が必然的に第四図に示すように外方向に伏倒して突出するのでライターの点火時にヤスリを指頭で押圧して回転させる際、往々にして指頭を刺傷することが多い欠点を有していた」のに対し、本願考案の目的は、「ヤスリの周面の左右両側辺を弧状部に形成しヤスリ目の左右側辺を該弧状部頂頭の内側に接するようにして弧状部の外方に突出しないように為し、これによつて指頭の損傷を皆無にするようにしたこと」にあり、考案の構成を実用新案登録請求の範囲記載のとおりにした結果、本願考案にかかるヤスリは、「在来のヤスリのようにヤスリ目の左右両側端が横外方向に突出していないので、使用に当たり指頭を刺傷することがなく、使用時における指頭の疲労感が少なくて済む効果がある」ことが記載されている。

右事実によれば、本願考案は、円形本体の周面の形状については特にこれを限定していないものであつて、原告の主張するように、本願考案は円形本体の周面が取付軸に平行な平担面であることを要旨とするものと認めることはできず、該周面が中高状に形成されたものも包含しているというべきである。しかしながら、周面が中高状に形成された場合であつても、円形本体の左右両側の周辺に形成される弧状部は、その頂頭を有するものでなければならないことが実用新案登録請求の範囲の記載に照らし明らかであるから、右の頂頭の具体的な意義は必ずしも明確とはいえないけれども、少なくとも、ヤスリ周面を形成する面とは区分された独自の弧状部として認識し得る程度の弧状の拡がりを有し且つ周面よりも小さい曲率半径を有するものとして形成されるものであることは明らかというべく、本願考案において右のような弧状部を形成するとの構成を採つたのは、ヤスリ目を刻設するに際しその左右両端が横外方向に突出することがないようにする、すなわちバリの発生を防止するためであることは明らかである。

2 これに対し、成立について争いのない甲第二号証によれば、引用例には、別紙図面(二)に示されるとおりの、円形本体の周面を中高半円径状に形成した丸型ヤスリが記載されてはいるけれども、右丸型ヤスリにあつては、円形本体の左右両側周辺は、本願考案におけるように、周面より小さい曲率半径をもつた独自の弧状部として形成されているものではないし、そのように形成してもよい旨を示唆する記載も存しない。しかも、引用例のものにおいて周面を中高半円径状に形成する目的は、引用例に記載されているところによれば、熱処理による硬化層9、10、11、12をほとんど均一にとれるようにすることによつてヤスリの耐久性を改良するとともに、着火性能を改善することができるという点にあるのであつて、周面を中高半径状に形成した場合には、ヤスリの目立てに際してバリの発生を防止する効果がある等のことを示唆する記載はなんら存しない。

してみれば、引用例記載の丸型ヤスリにおいても局部的にみれば円形本体の左右両側の周辺が弧状になつており、これを実施すればヤスリの目立てに際してバリの発生することがない丸型ヤスリが得られることがあり得るとしても、ヤスリの目立てをするに際してバリが左右両端に発生しないように周辺を弧状に形成するとの技術思想が引用例の記載から把握することができるとすることはできないものといわねばならない。

3 以上の次第であるから、本願考案が円形本体の左右両側周辺に弧状部を形成するとの構成を採つた点については、これをもつて引用例記載の考案に基づいてきわめて容易に想到できるものとすることはできず(なお、右の点において引用例のものと実質的に同一であるとすることもできないことは既述のところから明らかである。)、本願考案をもつて引用例記載の考案に基づいてきわめて容易に想到できるものとした審決の判断は誤つているといわねばならない。

三 よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は理由があるので、これを正当として認容することとする。

〔編註その一〕 本願考案の要旨は左のとおりである。

中央部位に軸孔(2)を有する円形本体(1)の周面にヤスリ目(3)を刻設したライター用発火ヤスリにおいて、右円形本体(1)の左右両側(1′)(1′)の周辺を弧状部(4)(4)に形成して、その頂頭(4′)(4′)内側に周面のヤスリ目(3)の左右両端を接せしめた構造(別紙図面(一)―本願明細書添付図面―の第一、二図参照)。

〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。

別紙図面(一) 本願明細書添付図面

<省略>

以下省略

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