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東京高等裁判所 昭和56年(行ス)1号 決定 1981年10月30日

抗告人 手塚一郎

相手方 埼玉県知事

代理人 坂本由喜子 遠藤洋一 ほか六名

主文

本件抗告を棄却する。

理由

一  抗告人は「原決定を取消す。本件執行停止申立を認容する。手続費用は全部相手方の負担とする。」との決定を求め、その理由は別紙「抗告の理由」と題する書面記載のとおりである。

二  本件執行停止申立につき、当事者双方が主張するところは、次のとおり訂正、付加又は削除するほかは、原決定の理由説示一ないし四(原決定二丁表四行目から同六丁表四行目まで)と同一であるから、これを引用する。

1  原決定二丁表五行目及び一〇行目の各「昭和五五年一二月三日付」をいずれも「昭和五五年一一月二九日付」と訂正し、六行目の「登録を」及び同丁裏二行目の「これを」の次にそれぞれ「同年一二月三日をもつて」を付加する。

2  同四丁表五行目の「暫々」を「屡」と、同丁裏四行目の「適格」を「適確」とそれぞれ訂正する。

3  同五丁表四行目から五行目にかけての「また、他の病院の同種の方法による診断等の苦情が相次ぎ」を「埼玉県の苦情処理窓口となつた所沢保健所には患者からの苦情が相次ぎ」と訂正し、五行目の「所沢保健所で」を削除する。

三  本件疎明資料及び申立の全趣旨によると、抗告人は昭和二八年医師免許を取得して以来医業に従事しているものであり、昭和四七年七月から昭和五二年三月まで宮内庁病院に、同年四月から昭和五三年一二月まで東京厚生年金病院にいずれも産婦人科医長として勤務したのち、昭和五四年一月から昭和五五年一〇月まで医療法人芙蓉会富士見産婦人科病院に勤務して超音波診断を担当していたこと、抗告人は昭和三六年一月一日付で保険医の登録をしていたが、右富士見病院における超音波診断につき健康保険法四三条ノ一三第一号に該当する事実があつたことを理由に、相手方が昭和五五年一一月二九日付で右登録を同年一二月三日をもつて取消す本件処分をしたこと、抗告人は本件の資料に現れただけでも昭和五二年度は給与及び賞与として七二五万六三八四円の収入があり、昭和五三年度は給与及び賞与として八六四万三〇四四円、退職金として五六万七四〇〇円の収入があり、昭和五四年以降は昭和五五年一〇月まで給与として月額五〇万円以上の収入があり、かつ賞与等の右以外の収入もあつたこと、抗告人は東京都港区六本木一丁目所在の宅地一三〇・四一平方メートル及び軽量鉄骨造一部鉄筋コンクリート造亜鉛メツキ鋼板葺三階建居宅車庫一棟(延床面積二一一・一二平方メートル)を所有していること、並びに、抗告人は妻子三人とともに右建物に居住しており、妻子はいずれも無職であり、また、神戸市に居住する抗告人の母に対し毎月一五万を送金していることが一応認められる。

以上の事実、特に抗告人の経歴、資産に関する事実に加えて抗告人が保険医の登録を取消されても医業に従事すること自体は可能であることを考えると、抗告人の前認定の家庭状況を考慮にいれても、本件処分のため抗告人が直ちに経済的に窮迫した状態に陥いると認めることは到底できない(なお、抗告人は原審における審尋において本件処分のため就職できない旨供述しているが、右はたやすく措信し難い。)。従つて、本件においては、本件処分により生ずる回復の困難な損害を避けるための緊急の必要があることの疎明がないというべきである。なお、抗告人が本件処分によりその主張のように社会的地位、名声、名誉等を失うことがあるとしても、それだけで直ちに回復困難な損害が生じ、これを避けるため本件処分の執行を停止しなければならないだけの緊急の必要があるものとはいえないうえに、右執行停止の必要性を肯認すべき特段の事情についての疎明もない。

四  してみれば、本件執行停止申立は、その余について判断するまでもなく、棄却を免れないものである。従つて、以上と趣旨を同じくする原決定は結局相当であつて、本件抗告は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 川上泉 奥村長生 大島崇志)

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