東京高等裁判所 昭和57年(う)1983号 判決
被告人 阿部能明
〔抄 録〕
所論は、要するに、原判示第三の一、三及び五記載のけん銃並に実包は、押収された当時、保税地域内にあったもので、未だ関税線を越えていないから、銃砲刀剣類所持等取締法もしくは火薬類取締法にいう輸入の既遂に達していなかったにもかかわらず、右各輸入罪の既遂に当るとして、被告人を処断した原判決は法令の解釈、適用を誤った違法があり、その違法が判決に影響を及ぼすことが明らかであるというのである。
そこで、検討するに、原判示第三の一、三及び五記載のけん銃及び実包は未だ保税地域内にあったものであって、関税線を通過しないうちに押収されたことは所論指摘のとおりである。ところで、関税法は、その二条一項一号において、「輸入とは、外国から本邦に到着した貨物」を「本邦に(保税地域を経由するものについては、保税地域を経て本邦に)引き取ることをいう。」と定義しているが、これは関税の確保と関税手続の適正な処理を図るために設けられた規定であるのに対し、銃砲刀剣類所持等取締法及び火薬類取締法がけん銃や実包の輸入を禁止している趣旨は、輸入されたけん銃や実包が国内において使用される危険性のあることに着目して、その危険を未然に防止する必要があるためであって、関税法とはその立法趣旨を異にしており、しかも危険防止の必要性はけん銃及び実包が保税地域内にある場合と保税地域外にある場合とで特に異なるところはないのであるから、本件のように、けん銃及び実包が保税地域内にある場合であっても、これを取り締る必要性は十分にあるものと認められる。これらのことからすれば、銃砲刀剣類所持等取締法及び火薬類取締法にいう「輸入」の意義と関税法にいう「輸入」の意義とを必ずしも同一に解釈しなければならないものではない。したがって、けん銃や実包が本邦に陸上げされたときは、それらが保税地域内にあって、未だ関税線を通過していない場合であっても、直ちにけん銃及び実包の輸入罪が既遂に達するものと解するのが相当である(東京高等裁判所昭和五二年三月二日判決、高刑集三〇巻一号一三七頁参照)。してみると、原判示第三の一、三及び五の各事実につき、原判決が銃砲刀剣類所持等取締法三一条一、二項、三条の二、火薬類取締法五八条四号、二四条一項を適用して処断したことは正当であって、原判決には所論のような誤りはないから、論旨は理由がない。
(海老原 杉山 新田)