東京高等裁判所 昭和57年(ネ)1025号 判決
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
〔申立〕
(一) 控訴人
「原判決を取り消す。本件を東京地方裁判所に差し戻す。」
との判決を求める。
(二) 被控訴人
主文第一項同旨の判決を求める。
〔主張及び証拠関係〕
当事者双方の主張は原判決事実摘示中「第二 当事者の主張」の項に記載されたとおりであり、証拠関係<省略>。
理由
一被控訴人代表者の死亡による訴訟手続の受継について
被控訴人の清算人に選任されていた大友信雄は本訴訟が当審に係属したのちに死亡し、当裁判所は、控訴人の訴訟手続受継の申立に基づき溝口安一を被控訴人を代表する権限を有する者と認めて同人に訴訟手続を受継せしめたが、右のように認めた理由について一言する。
本訴訟においてその効力の有無が争われている被控訴人の第四四回理事会(昭和五五年五月一日開催)において大友信雄を被控訴人の理事に選任する旨の決議がされ、更に、同じく本訴訟においてその効力の有無が争われている被控訴人の第四五回理事会(同月三〇日開催)において被控訴人を解散し大友信雄を被控訴人の清算人に選任する旨の決議がされたことは、当事者間に争いがない。
しかしながら、民法七四条の規定によれば、財団法人が解散したときには寄附行為に別段の定めがあるときでない限り理事が清算人となるものとされているところ、<証拠>によれば被控訴人の寄附行為には右別段の定めは存しないことが明らかである。したがつて、大友信雄を清算人に選任する旨の前記決議は、各理事が解散の結果有することとなつた清算人としての権限を内部的に制限する効果を持つにすぎないものと解するのを相当とし、前記のように大友信雄が死亡したことにより、右制限は解除されて、各理事が清算人としての権限を行使しうるようになつたものというべきである。そして、前記第四四回理事会において溝口安一を被控訴人の理事に選任する旨の決議がされたことは当事者間に争いがないから、右決議が有効であることを前提とする限り、同人は大友信雄の死亡後は被控訴人の清算人としての権限を行使しうるものというべきである(なお、<証拠>によれば、被控訴人の解散当時寄附行為の定めるところに基づき溝口安一が被控訴人を代表すべき権限を有する理事長に選任されていたことが認められるところ、一般にこのような場合には理事長だつた者が引続き解散後の法人を代表することになるとする見解もあるが、本訴訟において訴訟手続上被控訴人を代表すべき権限を有する者が誰であるかを決するにあたつては、大友信雄を清算人に選任した理事会決議が有効であることを前提とすべきであり、右決議が有効である以上、溝口安一はこれによつて被控訴人を代表する権限を失つたものというべきであるから、右見解に従つた場合にも、大友信雄の死亡後に被控訴人を代表すべき者を溝口安一を含めた各理事と解すべきことに変りはない。)。
二本件訴えの適否について
1 控訴人の本訴請求は、被控訴人の第四四回理事会における理事選任決議並びに第四五回理事会における被控訴人を解散する旨及び清算人として大友信雄を選任する旨の決議が無効であるとして、右各決議の無効の確認と右各決議に基づく理事の重任・就任の登記、被控訴人の解散の登記及び清算人選任の登記の各抹消登記手続を求めるものであるところ、原判決は、被控訴人は前記各理事会決議ののち多額の債務を負担していたのに対して資産は全くなかつたので、昭和五五年八月三〇日までに第三者から右債務と同額の寄附を受け、これをもつて右債務を全額弁済して清算し、主務官庁に対し清算結了届を提出したとの事実を認定したうえ、「財団法人において、その清算事務の遂行によつて資産及び負債がいずれも清算され、消滅したときは、既に財団法人としての存在理由を喪失したものというべきであり、しかも前提たる解散決議の無効によつてその間の清算事務の遂行により弁済を受けた債権者の利益に多大の影響を与えることは避けるべきであるから、本件のように清算事務の遂行により被告(被控訴人)の債権者に対する弁済が完了し、被告に資産及び負債のいずれもが存在しない場合には、仮に右清算事務の前提たる第四五回理事会の本件解散等決議に瑕疵があつたとしても、その瑕疵は、右清算事務の結了に何らの影響を与えないと解するのが相当である。」とし、被控訴人の清算事務は既に結了しているものというべきであるから、被控訴人の権利能力は消滅しており、被控訴人は本訴の当事者能力を有しないことになるとの理由により、本件訴えを不適法として却下した。
2 そこで検討するに、財団法人につき主務官庁に民法八三条の規定による清算結了の届出がされても、清算が現実に結了していないときは、財団法人はなお権利能力を有するものと解すべく、したがつてまた、清算が現実に結了したか否かの判断の前提をなす法律関係の存否等を訴訟物とする訴訟が係属する場合には、その訴訟における財団法人の当事者能力を肯定すべきである。そうすると、単に清算事務が遂行されてその結果財団法人の資産及び負債が外形上存在しなくなり、かつ、清算結了の届出を了したということによつて直ちに財団法人が当事者能力を有しなくなつたものと断ずることはできない。
3 しかしながら、本件においては、仮に控訴人の主張するように本件各理事会決議が無効であるとしても、次に述べる理由により、やはり被控訴人に解散事由があり、その清算は現実に結了したものとみるべきであると当裁判所は判断する。
すなわち、<証拠>によれば、被控訴人は、健康保険における医療機関から保険者団体への診療報酬の請求事務に関する講習を行うことを主たる業務とする法人であるが、受講者の激減により著しい経営不振に陥り、第四五回理事会が開催された昭和五五年五月三〇日当時は全く資産を有せず、負債総額(債権者から一部免除を受けたあとの残額)は一三七三万〇一六〇円で破産に瀕し、右業務を継続することは不可能な状態となつていたところ、被控訴人の清算人に選任された大友信雄は、労働省の行政指導に従い、訴外日本医療教育財団から右債務額と同額の寄附を受けて右債務の弁済に充て、同年八月三〇日主務官庁たる労働大臣に清算結了の届出をしたことが認められる。右認定事実によれば、財団法人たる被控訴人は、右第四五回理事会開催当時民法六八条一項二号に定める法人の目的たる事業の成功の不能という解散事由に該当して当然に解散した(したがつて、前記第四五回理事会における解散決議は右解散事由の存在を確認したものにすぎない。)ものと認めることができ、この認定を覆すに足りる証拠はない。そして、被控訴人の清算人に選任された大友信雄が第四四回理事会以前から被控訴人の理事であつたことは<証拠>によつて明らかであるから、仮に第四四回、第四五回理事会の決議が無効であつたとしても、同人は被控訴人の解散によりその清算人となつているものというべきであり、したがつて、同人による清算事務の遂行は正当な権限に基づくものといわなければならない(なお、仮に、法人を代表する権限が特定の理事のみに与えられている場合には解散後の法人を代表する権限も右理事であつた者のみに帰属するとの見解を採るとしても、<証拠>によれば被控訴人の解散時の理事長であつた溝口安一は大友信雄に対し被控訴人の清算事務の遂行を委任したものと認められるから、大友信雄のした清算事務の遂行は正当な権限に基づくものということができる。)。
右のとおり、本件の各理事会決議の有効無効にかかわりなく、被控訴人は解散し、かつ、その清算は結了したものというべきであるから、被控訴人は本訴訟につき当事者能力を有しないものというべきであり、本件訴えは不適法として却下を免れない。
三よつて、原判決は結論において相当であるから、本件控訴を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条に従い、主文のとおり判決する。
(下郡山信夫 加茂紀久男 大島崇志)