東京高等裁判所 昭和57年(ネ)1185号 判決 1984年8月30日
控訴人 東海地産株式会社
右代表者代表取締役 河添計見
右訴訟代理人弁護士 鈴木繁次
被控訴人 株式会社 信栄
右代表者代表取締役 山田実こと 雀鶴沫
右訴訟代理人弁護士 石川勲蔵
主文
原判決を取り消す。
控訴人の主位的請求を棄却する。
控訴人の予備的請求に基づき、別紙物件目録一の1記載の土地を同目録三の1記載の土地と同目録三の2記載の土地に、別紙物件目録一の2記載の土地を同目録三の3記載の土地と同目録三の4記載の土地にそれぞれ分割して、同目録三の1記載の土地及び同目録三の3記載の土地を控訴人の所有とする。被控訴人は、別紙物件目録一の1記載の土地及び同目録一の2記載の土地について前項の分割による分筆登記手続をしたうえ、控訴人に対し、同目録三の1記載の土地及び同目録三の3記載の土地について前項の共有物分割を原因とする被控訴人の共有持分三分の二の移転登記手続をせよ。
訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 控訴人
1 原判決を取り消す。
2 (主位的請求、共有持分の移転登記手続を求める請求は当審追加請求)
別紙物件目録一の1記載の土地(以下「本件第一土地」という。)を同目録二の1記載の土地(以下「本件第一の1土地」という。)と同目録二の2記載の土地(以下「本件第一の2土地」という。)に、別紙物件目録一の2記載の土地(以下「本件第二土地」という。)を同目録二の3記載の土地(以下「本件第二の1土地」という。)と同目録二の4記載の土地(以下「本件第二の2土地」という。)にそれぞれ分割して、本件第一の1土地及び本件第二の1土地を控訴人の所有とし、被控訴人は、控訴人に対し、右それぞれの分割による分筆登記手続をしたうえ、本件第一の1土地及び本件第二の1土地について右共有物分割を原因とする被控訴人の共有持分三分の二の移転登記手続をせよ。
3 (予備的請求、当審追加請求)
本件第一土地を同目録三の1記載(以下「本件第一の3土地」という。)と同目録三の2記載の土地(以下「本件第一の4土地」という。)に、本件第二土地を同目録三の3記載(以下「本件第二の3土地」という。)と同目録三の4記載の土地(以下「本件第二の4土地」という。)にそれぞれ分割して、本件第一の3土地及び本件第二の3土地を控訴人の所有とし、被控訴人は、控訴人に対し、右それぞれの分割による分筆登記手続をしたうえ、本件第一の3土地及び本件第二の3土地について右共有物分割を原因とする被控訴人の共有持分三分の二の移転登記手続をせよ。
4 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
との判決を求める。
二 被控訴人
1 本件控訴を棄却する。
2 当審における控訴人の追加請求を棄却する。
3 控訴費用は、控訴人の負担とする。
との判決を求める。
第二当事者の主張
一 控訴人の請求の原因
1 本件第一土地及び本件第二土地は、それぞれ控訴人が三分の一、被控訴人が三分の二宛の持分により共有しているものであって、その旨の登記がされている。
2 ところで、控訴人は、昭和四八年二月被控訴人に対して本件第一土地及び本件第二土地の共有物分割の請求をしたが、分割の協議が調わない。
3 そして、本件第一土地及び本件第二土地の共有物分割をするについては、被控訴人が本件第二土地の東側に隣接する横浜市神奈川区鶴屋町二丁目一六番四 宅地三三三・六一平方メートル及び同地上の鉄筋コンクリート造陸屋根三階建店舗兼居宅を所有していることに鑑み、本件第一土地を本件第一の1土地と本件第一の2土地に、本件第二土地を本件第二の1土地及び本件第二の2土地にそれぞれ分割して、本件第一の1土地及び本件第二の1土地を控訴人の所有とする共有物分割(以下「第一分割」という。)が相当であり、仮に右分割方法が相当でないとすれば、本件第一土地を本件第一の3土地と本件第一の4土地に、本件第二土地を本件第二の3土地及び本件第二の4土地にそれぞれ分割して、本件第一の3土地及び本件第二の3土地を控訴人の所有とする共有物分割(以下「第二分割」という。)が相当である。
4 よって、控訴人は、主位的には、本件第一土地及び本件第二土地の第一分割をし、被控訴人に対して、これによる分筆登記をしたうえ、本件第一の1土地及び本件第二の1土地について右共有物分割を原因とする被控訴人の共有持分三分の二の移転登記手続を求め、仮に右請求が理由がないときは、本件第一土地及び本件第二土地の第二分割をし、被控訴人に対して、これによる分筆登記をしたうえ、本件第一の3土地及び本件第二の3土地について右共有物分割を原因とする被控訴人の共有持分三分の二の移転登記手続を求める。
二 請求原因事実に対する被控訴人の認否
1 請求原因1及び2の事実は、認める。
2 同3の事実中、被控訴人が控訴人主張の東側隣接土地及び同地上の建物を所有していることは認めるが、その余の事実は否認する。
本件第一土地及び本件第二土地の現物分割をすることは、その利用価値を半減させ、その価値を著しく低下させる結果となるので、相当ではない。
第三証拠関係《省略》
理由
一 請求原因1及び2の事実並びに同3の事実中被控訴人が本件第二土地の東側に隣接する横浜市神奈川区鶴屋町二丁目一六番四 宅地三三三・六一平方メートル及び同地上の鉄筋コンクリート造陸屋根三階建店舗兼居宅を所有していることは、当事者間に争いがなく、右事実と《証拠省略》を総合すると、次のような事実を認めることができ、これを覆すに足りる証拠はない。
1 本件第一土地及び本件第二土地は、日本国有鉄道横浜駅の北東約二〇〇メートルの地点、新田間川に架かる鶴屋橋の南東側直近に所在し、二筆が一体となって全体としてほぼ正方形状をなす平坦な宅地である。そして、このように一体となったこれら土地は、その南側(間口一五・二二メートル)において巾員六メートルの舗装された市道に面し、また、その西側(間口一五・二〇メートル)において巾員一一メートルの舗装された市道に面している。また、本件第一土地及び本件第二土地を含む付近の一帯の地域は、中層堅固又は低層木造の飲食店、旅館、事務所等が混在しているが、商業地域(建ぺい率八〇パーセント、容積率五〇〇パーセント)かつ防火地域に指定されていて、五、六階建の堅固建物による店舗、事務所の敷地として使用することが最も有効な使用方法である。
2 本件第一土地及び本件第二土地の地上には、控訴人が三分の一、被控訴人が三分の二宛の持分により共有している木造亜鉛メッキ鋼板葺二階建事務所床面積一階二二四・七九平方メートル、二階二一八・一八平方メートルが建っており、控訴人及び被控訴人がそれぞれその一部を店舗、事務所として使用しているほか、数名の第三者が賃借して、事務所、店舗等として使用している。
しかしながら、右建物は建築後相当の年数を経過しているほか、先に認定したような立地条件からすれば、いずれにしても早晩これを取り壊して、事務所、店舗用の中高層建物に建て替えられることが予想され、現に控訴人、被控訴人ともそのような計画を持っている。
二 そこで、本件第一土地及び本件第二土地の共有地の分割方法について検討するに、先ず、右各土地を一筆毎に現物分割することとした場合には、控訴人、被控訴人の取得すべき土地は極めて細分化されることになり、現物分割の方法によること自体が相当ではないことにならざるを得ないが、本件におけるように隣接する二筆の土地がその形状、利用状態等から一体をなしている場合において、狭小な土地に細分される結果になるなど一筆毎に現物分割することが社会経済上相当ではないと認められるときには、これを一個のものと同視して一団として現物分割することが許されるものと解するのが相当である(最高裁判所昭和四五年一一月六日第二小法廷判決・民集第二四巻第一二号一八〇三頁)。
そして、本件第一土地及び第二土地は、これを併せると合計二七六・三六平方メートルに達し、前記のような立地条件等に照らすと、これを一団として現物分割する方法によれば、分割後のそれぞれの土地が宅地としての効用を失ってしまうというわけのものではなく(本件第一土地と本件第二土地とを一団として処分した場合の価格とこれを現物分割してそれぞれを処分した場合の価格の合計とを比較すると、前者の方が高価であろうことは容易に予想されるが、それは土地の分割処分には通常伴なうところであって、その故に現物分割が価格を損なうとか現物分割の方法によるのが相当ではないとすることはできない。)、また、本件第一土地及び本件第二土地の地上には控訴人及び被控訴人の共有の前記建物があって、右土地を現物分割しても直ちにそれぞれがこれを更地として利用することができる状況にはないけれども、やがては右建物を取り壊して中高層建物に建て替えるなどのことが予想されるものであるうえ、その敷地である本件第一土地及び本件第二土地を現物分割しても、それによって当分の間のその利用関係や権利関係が現状以上に複雑になる訳のものでもないのであるから、右のような事情も右土地の現物分割を妨げるものではなく、本件において他に右両土地の現物分割を不相当とするような事情は見当たらない。
三 そして、本件第一土地と本件第二土地とを一団として現物分割して、その結果が価格上控訴人に三分の一、被控訴人に三分の二に相当するようにするための方法としては、原審における鑑定人澤野順彦の鑑定の結果によれば、さしあたって第一分割と第二分割とが考えられるところ、被控訴人が本件第二土地の東側に隣接する横浜市神奈川区鶴屋町二丁目一六番四 宅地三三三・六一平方メートル及び同地上の鉄筋コンクリート造陸屋根三階建店舗兼居宅を所有していること、第一分割によった場合には控訴人の取得土地が角地となって単価がより高価でありそれだけ面積を減少させざるを得ず、その面積は八一・一九平方メートルとなって宅地としては狭小となり社会経済上も不利であること、弁論の全趣旨によれば被控訴人も原審以来現物分割によらざるを得ないとすればむしろ第二分割を希望していることが認められ、右の方法によることは控訴人、被控訴人双方にとって必ずしも意に適わないところではないことに鑑みると、本件第一土地及び本件第二土地の共有物分割は第二分割によることとするのがもっとも当事者の公平に合致するものということができる。
四 よって、本件第一土地及び本件第二土地について競売による代金分割によるべきものとした原判決はこれを取り消し、控訴人の主位的請求はこれを棄却し、控訴人の予備的請求に基づいて、本件第一土地を本件第一の3土地と第一の4土地とに、本件第二土地を本件第二の3土地と本件第二の4土地とにそれぞれ分割して、本件第一の3土地及び本件第二の3土地を控訴人の所有とし、被控訴人に対して右各分割による分筆登記手続をしたうえ本件第一の3土地及び本件第二の3土地について右共有物分割を原因とする被控訴人の共有持分三分の二の移転登記手続を命ずることとし、訴訟費用の負担については民事訴訟法第九六条及び第八九条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 香川保一 裁判官 越山安久 村上敬一)
<以下省略>