東京高等裁判所 昭和57年(ネ)1232号 判決 1982年9月29日
控訴人(原告) インターナシヨナル通商株式会社
右代表者代表取締役 坂本好誠
右訴訟代理人弁護士 増田弘磨
被控訴人(被告) 鈴木自動車株式会社
右代表者代表取締役 鈴木栄二
右訴訟代理人弁護士 竹田真一郎
同 平林英昭
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
一、控訴人は、「原判決を取り消す。被控訴人は控訴人に対し一五〇万円とこれに対する昭和五六年五月一四日から支払済に至るまで年六分(予備的に年五分)の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決及び仮執行の宣言を求め、被控訴人は、主文と同旨の判決を求めた。
二、当事者双方の主張及び証拠の関係は、控訴人において、確定日払の約束手形における振出日の記載について、左記1、2のとおり主張を付加したほかは、原判決事実摘示と同一であるから、これをここに引用する。
1.法が手形要件を要求する実質的理由は、約束手形が多数人の間を輾転流通する信用証券として、その証券自体で権利の内容を特定させる必要があるからであり、従って要件というためには、権利内容の特定に何らか役立つものでなければならない。ところが、確定日払の約束手形において、振出日は何らの実質的意味も政策的意味も持たず、そればかりか、満期日後の日付を誤って記載したときなどは、むしろ有害でさえある。
2.法は、満期の種類によって振出日の記載の要否を区別していないが、これは端的にいって立法の過誤である。確定日払の約束手形が取引界において振出日白地のまゝ流通し決済されていることは、公知の事実であり、手形取引をする者の多くは、振出日の記載は不要であると認識してこれを利用している訳で、振出日白地の約束手形による呈示を無効であるとする解釈は、手形取引の実態を熟慮せず、結果的に法律を悪用する者に力を貸すものであって相当ではない。
理由
一、当裁判所も、控訴人の本件主位的請求及び予備的請求は、いずれも理由がないものと認める。そして、その理由は、確定日払の約束手形の振出日に関し、次のとおり付加するほかは、原判決の理由説示と同一であるから、これをここに引用する。
1.確定日払の約束手形においても、他の場合と同様、振出日が手形要件であり、これを欠く証券が約束手形たる効力を有しないものであることは、手形法上一義的に明白であり、手形が厳格な法定の要式証券であることを考えると、単に、手形上の権利の内容を確定する上で不可欠ではないとの理由から、右振出日を手形要件ではないと解することはできない。
2.確定日払の約束手形に振出日が記入されないのは、当事者がその必要性を感じないとか失念したことによるほかに、満期までの期間が長い手形を振出す場合に、振出人としては、それが手形面に明らかになることを隠すために意識的に振出日を記入しないで振出し、またこのような約束手形の裏書人も、満期までの期間が長いことによる利益を得るため、這般の事情を承知のうえで振出日を白地のままとする傾向があることは当裁判所に顕著なところであるが、かかる場合に、振出日白地ないし未補充の約束手形による呈示を無効とすることは、いたずらに振出人や裏書人を益し、所持人の権利を害するものといえなくもない。しかし、手形取引に関与しようとする者は、手形が厳格な要式証券であることを当然認識しているか、これを認識して然るべきものであるから、自己の所持する手形について、手形要件の具備の有無について調査し、もし、欠缺があれば権利行使までにこれを補充すべきものであり、かつ、このことは一挙手一投足の労を惜しまなければ容易になしうるところであることを考えると、右述のような事情があるからといって、振出日の記載のない確定日払の約束手形について、原判決理由を引用して示した解釈をとることが、直ちに、いたずらに振出人や裏書人に利益を与え、所持人の権利を害することになるものとはいえない。
二、してみると、右と同旨の原判決は相当であって、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 川上泉 裁判官 小川昭二郎 山崎健二)