東京高等裁判所 昭和57年(ネ)1276号 判決
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実《省略》
理由
一<中略>
<証拠>によれば、本件建物の敷地はもと訴外醍醐安之助の所有であつたところ、被控訴人鈴木は昭和四二年一二月二八日ころ右敷地上に本件建物を建築し、同四三年三月一八日その保存登記を経由したこと、右敷地は昭和四五年一〇月一二日公売により訴外醍醐寛子の所有するところとなり、次いで同人から昭和四七年一二月一九日訴外醍醐伸之が売買によりこれを取得し、同年同月二三日その旨の所有権移転登記を経由したこと、控訴人は本件建物の競落にあたり、被控訴人鈴木が右醍醐安之助及び醍醐寛子との間でそれぞれ本件建物の敷地につき地上権又は賃借権などの敷地所有者に対抗しうる敷地の使用権(以下「敷地使用権」という。)を有するものと信じていたが、実際には被控訴人鈴木はかかる権利を取得していなかつたこと、控訴人は本件建物を競落した後、その敷地所有者たる醍醐伸之から本件建物を収去してその敷地の明渡しを求める訴訟を提起され、昭和五四年一一月二九日控訴人敗訴の判決が確定したことが認められ、これに反する証拠はない。
二控訴人は、本件建物の競買申出には前記のように要素の錯誤があつて無効であり、したがつてその競落許可決定もまた無効である旨主張するところ、当裁判所は右主張は理由がないものと判断するが、その理由は、この点に関する原判決の説示(原判決一四丁裏二行目の「原告は」から一五丁表一〇行目末尾まで。)と同一であるからこれを引用する(但し、同一五丁表八行目、「一〇八号」とあるを、「一〇八頁」と改める。)。
三控訴人は、本件建物の競売においては、その敷地使用権が存するものとしてなされたにもかかわらず、右敷地使用権が存在しなかつたから、他人の権利を売買の目的とした場合の担保責任に関する民法五六一条、五六三条の規定を準用することにより、本件建物の競売による契約を解除すると主張する。しかしながら、本件建物の競売による契約が同建物のみを目的とするものであつて、その敷地使用権を目的とするものでないことは後に説示するとおりであるから、控訴人の主張はその余の点につき判断するまでもなく理由がない。
四次に、控訴人が被控訴人鈴木に対し、控訴人作成の昭和五五年九月二六日付、同年一〇月一日到達の本件準備書面をもつて、本件建物の競売による契約を解除する旨の意思表示をしたことは当事者間に争いがない。控訴人は、建物の競売の場合に、その建物のための敷地使用権が存しないときは、民法五六八条一項、五六六条二項の規定が類推適用され、競落人は債務者に対して競売による契約の解除をすることができる旨主張するので、この点につき審案する。
(1) 旧競売法による競売手続において、競売の対象たる建物に従たる権利としての敷地使用権が存在しなかつた場合、右競売記録上右使用権の存在が認められており、競売手続が右権利が存在するものとして施行されたことが明白であるとき、善意の競落人がそのため競買の目的を達しえないときは、民法五六八条一項、五六六条二項の規定を類推適用して、競売による契約を解除することができるものと解するのが相当である。その理由は、右の点に関する原判決の説示(原判決一五丁裏二行目の「民法五六八条」から一八丁表五行目末尾まで。)と同一であるから、これを引用する。
(2) これを本件についてみるに、控訴人の本件建物の競落価額は、四四七万七、〇〇〇円であつたことは前示のとおりであるところ、<証拠>によれば、本件建物の競売手続において、裁判所から本件建物の評価を命ぜられた評価人玉木京一は昭和四七年一一月四日付評価書を提出し右競売記録に編綴されたが、同評価書には本件建物の評価額として、四四七万七、〇〇〇円と記載されていることが認められる。そして、<証拠>によれば、右評価書には、本件建物の敷地関係につき、「本件建物の敷地は借地にて約一六m2、地代不詳」と記載されているだけであつて、その敷地使用権の評価の基礎となるべき権利の種類、内容についての具体的説明はなんらなされていないこと(なお、右評価書に記載の「借地」なる表現が、直ちに借地法上に規定する借地権、その他の敷地利用権を意味するものとは解されないし、これを肯認しうる証拠はない。)、控訴人は不動産を競落しこれを転売することを業としているものであるが、本件建物の競落の直前ころ自ら調査した結果、被控訴人鈴木は醍醐安之助のいわゆる二号の関係にある者であつて、同人の援助で本件建物を建築所有するに至つたらしいことを知るとともに、本件建物の最低競売価額は四七七万七、〇〇〇円であるが、本件建物の敷地借地権を含めた価額は一、一〇〇万円(敷地の借地権の価額は坪当り一二〇万円)相当と見込んだことが認められる。<反証排斥略>、<証拠>中には、調査の結果、本件建物の敷地につき借地権又は地主に対抗できる権限があるものと信じた旨の部分があるが、その内容は具体性を欠き信用できず、成立に争いのない甲第一〇号証の一は右認定の妨げとなるものではなく、他にこれを左右するに足りる証拠はない。
右事実によると、前記評価書の記載からも、また評価額及び競落価額自体からも、本件競売の対象である本件建物についての敷地利用権の存在することが競売記録上確実であつたとは認められず、またその競売手続が右権利が存在するものとして施行されたことが明白であるということはできない。
してみると、本件については民法五六六条二項の規定を類推適用する余地はなく、本件競売による契約解除の意思表示はその効力を生ずる由がないかは、これが有効であることを前提とする控訴人の主張は、その余の点について判断するまでもなく失当たるを免れない。<以下、省略>
(岡垣學 磯部喬 大塚一郎)