東京高等裁判所 昭和57年(ネ)1500号 判決 1983年3月30日
原告(第一二二五号控訴人、第一五〇〇号被控訴人) 株式会社コサク
右代表者代表取締役 小西陽夫
右訴訟代理人弁護士 河合弘之
同 西村國彦
同 井上智治
同 池永朝昭
同 栗宇一樹
被告(第一二二五号被控訴人、第一五〇〇号控訴人) 打本幸吉
<ほか二名>
被告(第一二二五号被控訴人) 田中哲夫
右四名訴訟代理人弁護士 金井和夫
主文
原判決中被告ら敗訴の部分を取消す。
原告の請求中右取消にかかる部分をいずれも棄却する。
原告の控訴をすべて棄却する。
訴訟費用は第一、二審とも原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 原告
原判決中原告敗訴の部分を取消す。
被告打本、同下、同中山は各自原告に対し金五三一二万五五七七円及びこれに対する昭和五三年三月二三日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。
被告田中は原告に対し金五九〇二万八四一七円及びこれに対する前項同様の金員を支払え。
被告打本、同下、同中山の各控訴を棄却する。
との判決ならびに仮執行の宣言
二 被告打本、同下、同中山(以下「被告打本ら」という。)
原告の控訴をいずれも棄却する。
原判決中被告打本ら各敗訴の部分を取消す。
原告の請求中右取消にかかる部分をいずれも棄却する。
との判決
三 被告田中
控訴棄却の判決
第二主張
原判決事実摘示記載のとおりであるが、なお当審において被告らは次のとおり述べた。
1 宇野メッキの定款上、取締役の員数は三名以上、監査役の員数は一名以上と定められている。
2 被告打本らがその取締役たる地位を辞任した昭和五〇年九月一三日当時宇野メツキには宇野登、宇野真子、長坂勝俊、福田恭数、宇野つよら五名の取締役が在任しており、取締役に欠員は生じなかった。
3 被告田中は、宇野メツキに対し、昭和五〇年八月末頃更めて監査役辞任の意思表示をしたところ、同年九月一三日長坂久江が監査役に就任した。
第三証拠《省略》
理由
一 原判決理由一及び二の説示については、当裁判所も同様に認定、判断するものであるから、これをここに引用する。当審証拠調の結果によっても、右認定を左右する要をみない。
二 宇野メツキの定款の規定、被告ら以外の宇野メツキ役員の在任の関係に関する被告らの当審での主張事実については原告が明らかに争わないので、これを自白したものと看做す。しかるときは、被告打本らが商法第二五八条一項の規定によって辞任後も取締役としての権利義務を有したということはできないし、被告田中が同条及び商法第二八〇条第一項により昭和五〇年九月一四日以降監査役としての権利義務を有したということもできない。
三 被告打本らの辞任の登記がなされたのが本訴提起後の昭和五三年三月二八日であることは当事者間に争いがないが、右登記の遅延は単なる遅延であって、これによって不実の登記がなされた訳ではないから、この場合は商法第一四条には該当せず、従って被告打本らが同条によって昭和五〇年九月一三日に辞任した旨の主張をすることができないとはいえない。被告田中の場合は、昭和五〇年七月に監査役に再任した旨の不実の登記が存する訳であるけれども、前認定のように右登記について被告田中の責に帰すべき事由はないのであるから、やはり商法第一四条に該当せず、同条に依拠して被告田中の昭和五〇年二月以降における監査役としての責任を云々することはできない。
四 被告らの辞任登記の遅延については、むしろ商法第一二条の適用の有無が問題であるが、もともと同条は登記当事者である商人(本件の場合は会社)とその取引の相手(会社と取締役、又は監査役との関係から見れば第三者)との関係を律することを目的とする規定であることは明白で、かつ商業登記の申請当事者は商人自体(本件の場合は宇野メツキ代表取締役)であって登記事項に関係する個々の人間(本件の場合被告ら)は登記申請の権利も義務もなく、右法条により登記の遅延によって不利益を帰せしめられるいわれはないから、登記事項に関係する個々人と前記取引の相手との間で同条の適用があると断定するにはいささか疑問がある。
五 しかしながら、仮りに前段の疑問を積極に解するとしても、取締役、監査役の辞任は、会社内部の関係としては登記をまたずに絶対的に効力を生ずるものであるから、辞任した取締役がその旨の登記がないからといって会社内部においてあるいは取締役会に出席し、あるいは日常他の取締役の業務執行を監視するなどの職務を遂行することは法律上も事実上も不可能であり、監査役についても同様であるといわねばならない。してみれば、被告打本らはその辞任の後は、被告田中は長坂久江が監査役に就任した後は、それぞれ取締役又は監査役として誠実に職務を遂行すべき権限ないし義務自体がなかったものであり、仮りに原告に対する関係でそうでないとしても、原告の主張する損害発生の原因たる事実が、被告らの辞任が効力を生じた後にかかわるものである以上、被告らの誠実な職務遂行は事実上期待することができないのであるから右損害が被告らの悪意又は重大なる過失によって生じたものということはできないのであって、原告の請求はその余の点を案ずるまでもなく失当というほかはない。
六 それ故、原告の請求を一部認容した原判決は、その限度において不当であり、その余は結論において正当であるから、右認容部分を取消して、原告の請求を棄却し、その余の請求につき原告の控訴を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 石川義夫 裁判官 寺澤光子 寒竹剛)