東京高等裁判所 昭和57年(ネ)1808号 判決
当裁判所も控訴人らの本訴請求を棄却すべきものと判断する。その理由は原判決一六枚目裏四行目「両者………」から七行目までを「被控訴人装置では常時確実にして迅速なボール回収を行うことが保証できない欠点があることはおのずから明らかであるといわなければならない。」と訂正し、次に附加するほかは原判決の理由と同一であるから、これを引用する。
一 本件考案の玉戻しシユートの新規性
成立に争いのない甲第一号証の二、乙第一号証の四、五によれば、玉戻し口から打撃練習機にボールを供給する玉受けシユート(導入樋、配球シユート)を有するガイド板(供給樋、ボール通路板)と搬送コンベアを備えた打撃練習用装置において、玉受シユートにボールの入る余裕がなくなつた場合玉落し口を通過してガイド板と搬送コンベアにより送られてくる余つたボールを回収する技術として、原判決の理由三2(一)(2)に示された「余つたボールをボール供給樋の終端から落下させるための放出端を設ける」構成により、落下した余つたボールを、打撃後回収済みのボールを供給樋に搬送する回収溝のベルトコンベアー上のホツパーに一旦収納したうえ、右回収済みボールとともに供給樋へ搬送する技術及び原判決の理由三2(一)(3)に示された「配給シユートを穿設したボール通路板の末端からボール吸込みシユートにボールを供給するための集給コンベアにオーバーフロー管を斜設した」構成により、余つたボールを、オーバーフロー管を経て、打撃後回収済みボールをボール通路板に搬送する集給コンベア上に送り、右回収済みボールとともにボール通路板へ搬送する技術がいずれも本件考案出願当時公知であつたこと、これに対し本件考案は「搬送コンベア11の延長端とボール溜Bとの間に玉戻しシユートを接続した」構成を採り、余つたボールを、玉戻しシユートを経て掩堤上のボール溜に送り、同所に掩堤の傾斜を利用して集められた打撃後のボールとともに同所に垂直に設置された打上コンベアによりガイド板に搬送する技術であることが認められる。この事実によれば、本件考案の玉戻しシユートの構成が右の公知技術のいずれの構成とも相違するものと認めることができる。
控訴人らは、本件考案の玉戻しシユートは前記公知のオーバーフロー管をボール溜まで延長させた構成にすぎない旨主張するが、前記認定によれば、本件考案と前記公知技術との構成上の差は単なる設計上の微差でないことは明らかである。
また、控訴人らは、本件考案の玉戻しシユートは重要度の低い補助的構成要件にすぎない旨主張する。しかし、玉戻しシユートによる余つたボールの回収は、原判決が理由三2(二)において本件考案の特徴として認定した(2)及び(3)の構成による打撃練習機ごとの玉受けシユートへの新たなボールの搬送と対比し、この種の打撃練習用装置において重要度が低いものと認めることはできない。
二 本件考案の「玉戻しシユート」と被控訴人装置の「玉戻し口」について
控訴人は原判決別紙物件目録の訂正を主張するが、この点は本件考案及び被控訴人装置において「19」と表示されている装置の構成を正確に把握すれば足りることであり、右訂正の主張は単なる呼称上の問題にすぎない。
被控訴人装置の実施品の写真であることにつき当事者間に争いがない乙第三号証の三、四、弁論の全趣旨により被控訴人装置の実施品の写真であると認められる乙第六号証の一ないし六によれば、被控訴人装置には搬送コンベア11の延長端に設けられた落下口から斜めに屋外に向けられたガイド板があり、余つたボールは右落下口からガイド板の中を経て屋外に放出されて掩堤上に落下し、その後掩堤の傾斜によつてボール溜まで転動して回収される仕組みになつていること、右実施品にあつては被控訴人装置のうち19とは右落下口及びガイド板を指すものであることが認められる。したがつて、被控訴人装置の19は、搬送コンベアの延長端とボール溜を直接接続する本件考案の「玉戻しシユート19」と構成を異にすることは明らかである。もつとも、原判決別紙物件目録一、二及び各添付の第1図、第2図、第3図によれば、被控訴人装置は、実施態様によつては右落下口に可撓性ホースを接続して余つたボールを屋外へ放出したり、落下口から直接落下させたりする仕組みも考えられるが、いずれにせよ、被控訴人装置は右落下口とボール溜を直接部材により接続するという構成を採用していない。したがつて、被控訴人装置のうち19を「玉戻しシユート」と称すると、本件考案の「玉戻しシユート」と同じ構成のものとの誤解を招きやすいから、原判決摘示のとおりこれを「玉戻し口」と称するのが相当である。
三 本件考案の「玉戻しシユート」と被控訴人装置の「玉戻し口」の作用効果の対比
両装置が単なる設計変更又は設計上の微差にとどまるものでないことは前記訂正に係る原判決の理由三2(三)及び(四)において判示するとおりである。
もつとも成立に争いのない甲第一三号証によれば、(イ)搬送コンベアの延長端とボール溜との間に長さ八・二メートル、傾斜角度一六度のシユート(鉄筋による棒材を一定間隔を設けて形成した断面樋状のもの)を取付けた場合(本件考案の玉戻しシユート)、(ロ)搬送コンベアの玉戻し口に長さ一・五メートル、傾斜角度二五度の右同様のシユートを取付けた場合(被控訴人装置の玉戻し口)、(ハ)搬送コンベアの玉戻し口にシユートを取付けなかつた場合(前同)について傾斜角度三度の掩堤上で余つたボールの回収効果を実験したところ、打撃練習機の稼動を中止し、搬送コンベアにより供給されたボールが専ら玉戻し口に達するようにした場合の毎分当りの平均回収数は(イ)が八四個、(ロ)が八〇・二個、(ハ)が零であり、打撃練習機を稼動し毎分打者に向けて一〇球が投球された場合の毎分当りの平均回収数は(イ)が一〇・三個、(ロ)が九・四個、(ハ)が零であつたことが認められる。この事実による限り、被控訴人装置の一実施例と認められる(ハ)の場合は全く回収効果がなかつたが、同じく被控訴人装置の一実施例であると認められる(ロ)と本件考案である(イ)を対比すると、本件考案の回収効果が上廻わるもののその差はさほど顕著なものということができない。
しかし、被控訴人装置では、玉戻し口から落下したボールは掩堤上を転動してボール溜に向うのであるから、掩堤の傾斜度、掩堤面の凹凸等の形状、掩堤に用いられる材料(土、コンクリート、天然芝、人工芝等)、気象条件による掩堤面の乾湿状況の変化等により回収効果が左右されることは明らかであり、常に単位時間内に一定の回収率を確保することは困難である。その結果、被控訴人装置では常時確実にして迅速な回収を行うことを保証できない欠点があり、この点において右のような掩堤の各種条件いかんにかかわらず回収効果を奏し得る本件考案に劣ることは明らかであるといわなければならない。
したがつて、本件考案の玉戻しシユートと被控訴人装置の玉戻し口の各構成上の差異はその各作用効果に照らし単なる設計変更又は設計上の微差ということはできないから、この点に関する控訴人らの主張は理由がない。
また、控訴人は本件考案の玉戻しシユートと玉止用掩堤が同じ作用効果をもたらすことを前提として、均等の主張をするが、玉止用掩堤によるボール回収効果については右に述べたことがそのままあてはまるから、右両者の作用効果が異なる以上右主張はその前提において誤つているから採用できない。
更に、控訴人は、被控訴人が本件考案のうち比較的重要性の少ない事項を省略した技術を用いて類似した装置を製造した旨のいわゆる改悪実施の主張をするが、本件考案の玉戻しシユートが重要性の少ない構成要件事項ではないことは既に述べたとおりであり、被控訴人装置は本件考案の基本的構成要件の一つを欠くものであるから、右主張もその前提を欠くものといわなければならない。被控訴人の代理人である弁理士が書面により、控訴人らに対し一旦権利侵害の事実を認め陳謝していたが、その後玉戻しシユート不存在を理由に侵害の事実を否定したことは当事者間に争いがないが、そのことが直ちに控訴人らの右主張を裏付けることにはならないし、また、被控訴人らが当初その装置に玉戻しシユートを設置していた旨の控訴人らの主張を認めるに足りる証拠もない。
四 以上のとおり、控訴人らの主張はすべて理由がなく、被控訴人装置が本件考案の技術的範囲に属するものと認めることはできない。成立に争いのない甲第四号証、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲第二号証は以上の認定に照らし採用しがたく、他に控訴人らの主張を裏付けるべき証拠もない。
五 よつて、控訴人らの本訴請求はその余の点について判断するまでもなく理由がなく、これを棄却した原判決は正当であるから、本件控訴をいずれも棄却する。