大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和57年(ネ)1813号 判決 1985年1月31日

控訴人(原告) 株式会社小山

被控訴人(被告) 株式会社ダーバン

原審 東京地方昭和五五年(ワ)第六九〇〇号(昭和五七年六月二八日判決、一四巻二号四七六頁参照)

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

控訴人は、「原判決を取消す。被控訴人は、控訴人に対し、金一億一〇〇〇万円及び内金一〇〇〇万円に対する昭和五五年七月一七日から、内金一億円に対する昭和五六年四月二一日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、被控訴人は、主文同旨の判決を求めた。

第二当事者の主張

当事者双方の主張は、次のとおり訂正、削除、付加するほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、ここにこれを引用する。

(控訴人)

一  別紙目録(編注、一四巻二号四八三頁)を本判決添付の別紙目録のとおりに訂正する。

二  原判決三枚目表四行目「しかも」から同五行目「図形部」まで(同上、四七八頁四行目から五行目にかけて)を削除し、同所に「しかも軽く曲がつた多数のS字状の斜線のそれぞれが互いに隣接しながら連続して両端を有し、その両端に半円と、これの両端が収斂的に交つて巻回し各巻回間にそれぞれ二つの交点を形成し、これによつて全体として四つの交点と四つの目を描出してなる図形部」を加える。

三  原判決三枚目表一〇行目から四枚目裏三行目まで(同上、四七八頁七行目から四七九頁二行目まで)を削除し、これに代えて左のとおり付加する。

「3 被控訴人標章は、外観において本件商標と類似する。

本件商標は、軽く曲がつた多数のS字状の斜線がそれぞれ互いに隣接しながら連続したものの二つがおのおの両端を有し、そのおのおのの両端に半円と、これの両端がそれぞれ収斂的に交つた巻回を有し各両端間には交点の一つを形成し、これによつて全体として八つの交点と七つの目を描出してなる図形によつて構成される。

被控訴人商標は、軽く曲がつた多数のS字状の斜線のそれぞれが互いに隣接しながら連続して両端を有し、その両端に半円と、これの両端が収斂的に交つて巻回し各巻回間にそれぞれ二つの交点を形成し、これによつて全体として四つの交点と四つの目を描出してなる図形によつて構成されている。

商標の外観類似とは、二つの対比される商標にあらわされた文字、図形、記号等商標の外観形象について視覚に訴えて観察した場合、それらの商品の識別標識として相紛らわしいような場合をいう。そして、商標の外観の類否の判断に当つては、二箇別異の商標を直接に対照比較するのではなくこれを各別に時と所を異にして観察する、いわゆる離隔的観察が必要である。

これを本件についてみるに、市場等で本件商標に接した需要者に記憶されたところは「撚りのあるロープ状のものが端を有してからみ合つている図形」であり、その需要者が他の機会に他の市場等で被控訴人標章に接するときは、前記記憶を想起しながら、「撚りのあるロープ状のものが端を有して8字状にからみ合つた図形」と見るから、本件商標と被控訴人標章とは外観において類似し、商品の出所について混同誤認を生ずる虞があるというべきである。」

(被控訴人)

一  控訴人が当審において付加した主張事実は、すべて否認する。

もつとも、訂正された別紙目録記載の標章(被控訴人標章)を被控訴人の商品ワイシヤツの値札に附し、昭和五三年三月から昭和五五年一月までの間、右ワイシヤツを販売したことは認める。

二  原判決六枚目表一行目、二行目(同上、四七九頁末行)の「外観、称呼及び観念のいずれにおいても」を「外観において」に訂正する。

三  原判決六枚目裏五行目から七枚目表三行目まで(同上、四八〇頁八行目から一三行目まで)を削除する。

四  原判決六枚目裏四行目(同上、四八〇頁七行目)の次に左のとおり付加する。

「また、いわゆる離隔観察によつても、両者が混同されることはない。すなわち、「ロープのからみ合つている図形」といつても、ロープ、ひもの結び方の種類は極めて多く、類似変形したものまで含めると、一〇〇〇種類以上に達し、日常目に触れる結び目にも種々のものがあることは公知の事実である。それ故、本件商標のイメージとして需要者に記憶されるものは、被控訴人標章のそれとは明らかに異なつたものとなる。前者を離れて後者に接した需要者は、前者を想起することはなく、これは別個の標章であると認識するのである。」

第三証拠関係<省略>

理由

一  当裁判所も、控訴人の請求は、これを棄却すべきものと考えるが、その理由は、原判決の理由を次のとおり訂正、削除、付加するほかは、原判決の理由と同一であるから、ここにこれを引用する。

1  原判決八枚目表三行目(編注、一四巻二号四八〇頁一七行目)の「繊維からなる」を「繊維を撚つた」に、同七行目(同上、四八〇頁末行)の「太い繊維の」を「太い繊維を撚つた焦茶色の」に、九枚目裏二行目(同上、四八一頁一六行目)の「類似する」を「外観において類似する」にそれぞれ訂正する。

2  原判決八枚目裏三行目から九枚目裏一行目まで(同上、四八一頁五行目から一五行目まで)を削除し、これに代えて左のとおり付加する。

「控訴人は、各別に時と所を異にして観察するいわゆる離隔的観察によれば、本件商標に接した需要者に記憶されたところは、「撚りのあるロープ状のものが端を有してからみ合つている図形」であり、その需要者が他の機会に他の場所で被控訴人標章に接するときは、前記記憶を想起しながら、「撚りのあるロープ状のものが端を有して8字状にからみ合つた図形」と見るから、本件商標と被控訴人標章とは外観において類似し、商品の出所について混同誤認を生ずる虞がある旨主張する。

しかしながら、前記認定の本件商標及び被控訴人の標章の各構成にかんがみると、両者の差異は、控訴人主張の離隔的観察方法を用いるもなお「撚りのあるロープ状のものが端を有してからみ合つている図形」と集約して表現されるほど類似しているものとすべきではなく、両者は需要者をして商品の出所について誤認混同を生じさせるものであるとすることはできない。控訴人の主張は採用しない。

二  よつて、控訴人の本訴請求は、その余の点を判断するまでもなく理由がなく、これを棄却した原判決は相当であるから、本件控訴は理由がないものとして棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 高林克巳 杉山伸顕 八田秀夫)

別紙目録

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例