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東京高等裁判所 昭和57年(ネ)2444号 判決 1983年11月10日

控訴人 鯰江真之助

被控訴人 武蔵野信用金庫

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

控訴代理人は、「一原判決中控訴人敗訴の部分を取り消す。

二(主位的請求)1被控訴人は控訴人に対し、金五七一七万一二五二円および原判決添付定期預金目録記載(一)ないし(一二)、(一八)ないし(二九)の各金員(但し、(一八)については金一〇〇万円)に対する各預入日から支払ずみまで、同目録利息欄記載の各利率(年利)による金員を支払え。2訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。三(予備的請求)1被控訴人と株式会社アイセンターが昭和五一年一月三一日原判決添付物件目録記載の建物についてした極度額一億五〇〇〇万円の根抵当権設定契約を控訴人と被控訴人との間で取り消す。2被控訴人と株式会社アイセンターが昭和五一年二月一〇日同目録記載の建物についてした極度額三二〇〇万円の根抵当権設定契約を控訴人と被控訴人との間で取り消す。3被控訴人は控訴人に対し、金五七一七万一二五二円および内金五四〇〇万円に対する昭和五一年八月一日から支払ずみまで、日歩六銭八厘の割合による金員を支払え。」との判決並びに仮執行の宣言を求め(なお、原審において、右二、1の請求は、「金六九四九万円および別紙定期預金目録記載(一)ないし(二九)の各金員に対する各預入日から支払ずみまで、両目録記載の各利率(年利)による金員を支払え。」と請求していたもの、右三、3の請求は、「金五七二四万円および内金五四〇〇万円に対する昭和五一年八月一日から支払ずみまで、日歩六銭八厘の割合による金員を支払え。」と請求していたものを、それぞれ当審において前記のように請求を減縮したものである。)、被控訴代理人は、主文同旨の判決を求めた。

第二当事者双方の事実上の主張並びに証拠関係については、次に付加、訂正するほか、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

一  原判決の付加、訂正

原判決五枚目表五行目の「第五三号証」の次に「(第五四号証は欠番)」を、同六行目の「第五八号証の一ないし」の次に「三、第五九号証の一ないし」を加え、同枚目裏五行目の「ないし」を「、第九五号証、第九六号証の一、二」と改める。同三九枚目表一〇行目「を合意した」を「の明示又は暗黙の合意があつた」と改める。

二1  控訴人の当審における主張

(一) 請求の減縮

控訴人は、原審請求のうち原判決添付定期預金目録(一三)ないし(一八)の各預金債権合計一三〇〇万円のうち一二〇〇万円については、訴外佐藤嘉三郎から受預した仮受金一二〇〇万円をもつてこれに弁済充当した。よつて、控訴人は被控訴人に対し、従前請求した金六九四九万円から原判決認容額三一万八七四八円及び右弁済充当額一二〇〇万円合計金一二三一万八七四八円を控訴した残元金五七一七万一二五二円について、当審における前記第二、当事者の主張記載の主位的請求1並びに予備的請求3の各金員の支払を求める。

(二) 新たな主張

被控訴人が本件建物について設定した根抵当権は、共同根抵当権であるから、民法三九八条の一六の規定により、その旨の登記を経由したとき成立し効力を生ずるものである。したがつて、本件建物及びその敷地についての右共同根抵当権設定契約は、右設定登記を経由した昭和五一年二月二日に成立したものというべきであるから、右は控訴人が、同年一月三〇日前記「当事者の主張」の予備的請求の原因1記載の準消費貸借契約上の債権取得後のことである。

2  被控訴人の認否

(一) 控訴人の主張(一)のうち、訴外佐藤嘉三郎が控訴人に金一二〇〇万円を支払つたことは認めるが、その余は争う。

(二) 同(二)の主張は争う。

理由

一  当裁判所も、控訴人の本訴請求は、これを棄却すべきものと判断するが、その理由については、左に付加、訂正するほか、原判決がその理由において説示するところと同一であるから、これを引用する。

1  原判決九枚目裏三行目の「被告」から「受けた」までの部分を「被控訴人の自己宛振出の小切手一通を被控訴人から受領したうえ、同月二日、右小切手をアイセンターを介して現金化して右同額の金員を借り受け、これをアイセンターに対し貸し渡した。」と改める。

2  同一一枚目表五行目の「及び第八〇号証」を「、第八〇号証、第九八号証の二、証人堀端伸佳の証言により真正に成立したものと認められる乙第七六号証の一、二、第八八号証右佐藤、堀端の各証言により真正に成立したものと認められる乙七七号証」と改め、同一二枚目表四行目の「メインバツク」を「メインバンク」と訂正し、同二〇枚目表二行目の「、殊に」から同八行目の「ことなど」までの部分、同二〇枚目裏一〇行目の「右設定契約の締結された日は、」をそれぞれ削除し、同末行の「前掲乙」の次に「第七七号証、」を加え、同二一枚目表二行目の「第九二号証の二」を「第九二号証の一、二」と改める。

3  同一七枚目裏三行目「を合意したという」を「の明示又は暗黙の合意があつた」と改め、同二一枚目裏一行目の「六月六日」を「七月ころ」とそれぞれ改める。

4  同二二枚目表三、四行目の間に改行して次の部分を加える。

「ところで、控訴人は、当審において、被控訴人が本件建物について設定した根抵当権は、共同根抵当権であるから、民法三九八条の一六によりその旨の登記を経由することが成立要件であり、控訴人の債権取得後に右登記を経由した被控訴人の右根抵当権設定行為は詐害行為に該当する旨主張するが、本件建物及びその敷地についての各根抵当権が、民法三九八条の一六所定のいわゆる共同根抵当であるとしても、これがアイセンターの一般債権者にとつて、いわゆる累積根抵当(同法三九八条の一八)を設定する場合に比して格別不利益を及ぼすものではないから、控訴人の右主張はその余の点について判断するまでもなく理由がない。

また、被控訴人の本件建物についての根抵当権設定登記自体についても、もともと詐害行為取消権は、破産手続のような債務者の負担する債務の総清算を目的とするものではなく、当該債権者の有する特定の債権の保全を目的とするものであるから、詐害行為と主張される不動産の物権の設定、移転行為が当該債権者の債権成立前にされた場合には、たとえその登記手続が右債権成立後に経由されたときであつても、詐害行為取消権は成立しないものであり、また、一般に不動産の登記は、その不動産の物権変動の対抗要件にすぎず、その登記が表象する実体的な法律行為が詐害行為とされ取り消された場合に、その効果として抹消されるにすぎないものである。したがつて、債務者が第三者に不動産の物権変動に伴い登記をする行為自体は詐害行為に含まれないものというべきところ、被控訴人とアイセンター間で昭和四八年一二月二〇日締結された本件建物の敷地について極度額一億五〇〇〇万円とする前記根抵当権設定契約の際、すでに本件建物が将来完成(同五〇年七月二五日竣工予定)した場合には、これを右と同一の債権の共同担保として追加し、右完成と同時に遅滞なくその旨の根抵当権設定登記手続を経由する旨の合意が成立し、その後同五〇年七月ころには本件建物が完成したものであるから、アイセンターとしては、右合意に基づいて本件建物完成後速やかに右根抵当権設定登記手続を履行すべき義務を負つていたものというべきである。しかるに、アイセンターがこれを履行しなかつたために、同五一年二月二日に至りようやく前記根抵当権設定登記が経由されたものである。このように被控訴人の本件建物についての根抵当権設定契約は、控訴人の前記債権の成立前に成立したものであり、また、被控訴人の右根抵当権設定契約に基づく根抵当権設定登記及び共同根抵当の登記自体は詐害行為に該当しないものであるばかりでなく、前認定のような本件建物についての根抵当権設定及びその登記の経緯に徴すると、被控訴人は、本件建物について右根抵当権を設定するに際し、当時債務者アイセンターの一般債権者である控訴人らを害することを知らなかつたことが推認される。」

5  同二二枚目表四行目の「右極度額」から同六行目の「ことになり、」までの部分を左のとおり改める。

「控訴人が詐害行為と主張するアイセンターの被控訴人に対する本件建物についての根抵当権設定行為は、控訴人主張の前記1の準消費貸借契約上の債権の成立前になされたものであり、かつ、当時被控訴人は控訴人ら一般債権者を害することを知らなかつたものであるから、控訴人は右債権に基づいて詐害行為取消権を取得するに由ないものというべきである。」

二  よつて、控訴人の本訴請求は、これを失当として棄却すべきであり、これと同旨の原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 中島恒 塩谷雄 涌井紀夫)

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