東京高等裁判所 昭和57年(ネ)2467号 判決
一 控訴人が本件実用新案権を有していること、本件登録請求の範囲の記載が控訴人主張のとおりであること、被控訴人が業として現に第五製品を製造、販売し、販売のため展示しており、またこれまでに控訴人主張のとおり第一ないし第四製品を製造販売してきたことは、いずれも当事者間に争いがない。
二 前記当事者間に争いのない本件登録請求の範囲の記載に基づいて本件考案の構成要件を分説すると、以下のとおりとなる。
A 物置棚の側壁に軸装した手動把輪と共軸一体の伝動輪と、右物置棚の底部に軸装され軌条上を転動する車輪と共軸一体の伝動輪との間に伝動紐をかけて減速駆動するようにした手動式移動物置棚であること。
B 右物置棚において、次の装置を有すること。
(1) 手動把輪と共軸一体に鎖輪状の回転輪を設けること。
(2) 物置棚外から手動的に操作しうる杆材を設けること。
(3) 右杆材を必要に応じ前記回転輪の歯間に係合させうるようにしたこと。
三 前記認定の本件考案の構成要件に、成立に争いのない甲第二号証(本件実用新案公報)によつて認められる本件明細書中の考案の詳細な説明の項の記載及び添付図面を対照し、さらに成立に争いのない乙第一号証を加えて総合検討すると、以下の事実を認めることができる。
本件考案にかかる手動式移動物置棚は、室内の空間をできるだけ能率よく利用するため、物置棚が床に布設した軌条上を自在に移動しうるようにするとともに、軌条が傾斜している場合に物置棚の暴走を未然に防止することを目的としたものである。そのため、物置棚の底部には車輪が軸装され、伝動輪を介してこれを減速駆動しうる手動把輪が物置棚の一方の側壁の外面に軸装されているところ、物置棚は多数個を用いることを前提とするものであるから、右手動把輪を軸装した物置棚の側壁に沿つて利用者のための通路(以下「主通路」という。)が全面にわたつて確保されるように設けられるとともに、利用者が特定の物置棚を物品の出納等のために使用するときには、必要に応じて右手動把輪を操作することによつて物置棚を軌条に沿つて適宜移動させ、右所要の物置棚の前面にも通路(以下「枝通路」という。)を形成することができるようにしてあり、したがつて、各物置棚の主通路側は常に開放状態にあるが、各物置棚間は通常殆ど閉じられていて、枝通路は形成されていない状態にあるものである。ところで、右物置棚は、床に布設された軌条に傾斜があるような場合には、その構造上、これに何らかの制動手段を働かせない限り、下方に暴走し、枝通路内にある利用者を押し潰したり、下方側に置かれた他の物置棚に衝突して、棚内にある物品が崩れるなどのおそれのあるものである。そこで、本件考案においては、右物置棚に前記構成要件Bの(1)ないし(3)の構成による制動装置を設けることにより右の危険を防止しようとしたものである。ところで、右制動装置において回転輪と係合させるべき杆材8a(9a)は、物置棚外から手動で操作しうるというものであるから、その操作部は物置棚外にあることを要するものというべきであるが、さらに、右物置棚外の如何なる位置に右操作部が設けられるべきかについては、これが物置棚の前面(枝通路に面する部分)に設けられたのでは、物置棚が前記のように密接して置かれている通常の状態において操作部を操作することができないか、または極めて困難であることが明らかである。したがつて、右操作部は、その操作を常に可能もしくは容易にするために、物置棚の側壁の外側(主通路側)に設置されなければならないものというべきである。そして、前記のとおり、本件考案にかかる物置棚においては、手動把輪は側壁に軸装されており、回転輪は右把輪と共軸一体に構成されているのであるから、このような回転輪の歯間に係合しうるようにすべき棒状の部材である杆材は、側壁に直角方向に構成するのが技術常識上合理的であるというべく、その操作部は手動把輪の設けられた側壁と同じ側壁の外側に設置するのが常識的であり、このようにして手動把輪を操作する者が同操作と連続的に右杆材の操作部を操作することが容易となる点からみても、合理的なものというべきである。したがつて、本件考案における前記B(2)(3)の構成にかかる杆材の操作部を設置すべき「物置棚外」とは、当然に物置棚の側壁の外側、すなわち手動把輪の設けられている主通路側を指すものというべきである。現に、本件明細書に記載の実施例は、(別紙本件実施例図参照)いずれも杆材の操作部を手動把輪と同じ側壁の外側、すなわち主通路側に面して設置されたものが示されており、明細書を仔細に検討してみても、他に、本件考案における杆材の操作部を物置棚の前面や手動把輪の設置された側壁と異なる側壁に設置する構成のものを含むと解すべき余地はない。
以上のとおり認めるのが相当であり、他にこれを左右するに足る証拠はなく、また、右認定に抵触する控訴人の主張も採用することができない。
四 一方、被控訴人製品の構成を示すものとして当事者間に争いのない原判決添付別紙第一ないし第五目録の記載によると、被控訴人製品における制動装置は、車輪と連動する回転輪の歯間に物置棚外から操作しうる制動部材を係合させることにより物置棚の移動を制止しようとするものである点においては本件考案と共通するものであるが、その具体的構成をみると、右制動部材は、いずれも板状のものであり、これを回転輪と係合分離させる操作部の表示兼ロツクレバーは、物置棚の側壁の枝通路側に設置された構造のものであることが認められる。
五 前記三、四の認定事実によつて本件考案と被控訴人製品における各制動装置の構成を対比すると、本件考案のものにおいて前記構成要件B(2)の「物置棚外から手動的に操作しうる杆材を設けること」は、物置棚の側壁の外側すなわち主通路側に杆材の操作部を設置した構成のものだけを意味するのに対し、被控訴人製品においては、本件考案の杆材の操作部に対応すべき表示兼ロツクレバーが物置棚の側壁の枝通路側に設置された構造のものであるから、被控訴人製品は、いずれも本件考案の前記B(2)の構成要件を充足するものではなく、したがつて、その余の構成について判断するまでもなく、本件考案の技術的範囲に属するとは認められないものである。
六 以上によると、被控訴人製品が本件考案の技術的範囲に属することを前提とする控訴人の本訴請求は、その余を論ずるまでもなく、理由がなく、失当として棄却すべきものであり、これと同旨の原判決は正当というべきである。
よつて、本件控訴は理由がないので、これを棄却することとする。