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東京高等裁判所 昭和57年(ネ)2546号 判決 1986年9月25日

控訴人

藤田徹也

控訴人

株式会社藤田アーティストハウス

(旧商号株式会社日本陶芸)

右代表者代表取締役

藤田徹也

右両名訴訟代理人弁護士

佐藤寛蔵

岡田優

赤尾時子

山下純正

右両名訴訟復代理人弁護士

吉村浩

被控訴人

株式会社富士プロパンガス商会

右代表者代表取締役

伊藤晋

右訴訟代理人弁護士

中村光彦

右訴訟復代理人弁護士

田淵智久

主文

原判決を次のとおり変更する。

被控訴人は、控訴人藤田徹也に対し金四七八八万九八五二円及びこれに対する昭和五三年一一月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

被控訴人は、控訴人株式会社藤田アーティストハウスに対し金一五二一万八二九七円及びこれに対する昭和五三年一一月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。控訴人らのその余の請求を棄却する。

訴訟費用中、控訴人藤田徹也と被控訴人との間に生じたものは第一、二審を通じてこれを二〇分し、その一を右控訴人の、その余を被控訴人の各負担とし、控訴人株式会社藤田アーティストハウスと被控訴人との間に生じたものは第一、二審を通じてこれを三分し、その一を被控訴人の、その余を右控訴人の各負担とする。

この判決は、控訴人藤田徹也において金一〇〇〇万円を、控訴人株式会社藤田アーティストハウスにおいて金三〇〇万円を担保に供したときは、それぞれの勝訴部分につき仮に執行することができる。

事実

〔申立〕

(一)  控訴人ら

「原判決を取り消す。被控訴人は、控訴人藤田徹也(以下「控訴人藤田」という。)に対し金五〇〇〇万円、控訴人株式会社藤田アーティストハウス(以下「控訴会社」という。)に対し金四九一九万四六九七円及び右各金員に対する昭和五三年一一月九日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求める。

(二)  被控訴人

控訴棄却の判決を求める。

〔主張〕

次のとおり付加、訂正するほか、原判決事実摘示中「第二 当事者の主張」の項記載のとおりである。

(一)  原判決二枚目裏二行目の「株式会社日本陶芸」を「株式会社藤田アーティストハウス(旧商号株式会社日本陶芸)」と改め、一〇行目の「借り受け、」の次に「以後契約を更新し、」を加える。

(二)  同三枚目表一行目の「ここに」を「ここを工房として」と、同裏三行目の「原告会社が設置した」を「設置された」と、五行目の「供給し、」から九行目の末尾までを「供給した。右ガスの供給のための集合装置、高圧ゴムホース、導管、ベーバーライザー等の設備一式(以下「本件ガス消費設備」という。)は被控訴人が訴外セントラル瓦斯株式会社から買い受けて所有し、控訴人らに貸与していたものであり、その保守、管理、ガスボンベとの接続、ガスボンベのバルブの操作は被控訴人が行う旨の明示又は黙示の特約があつた。」とそれぞれ改める。

(三)  同四枚目表九行目の末尾の次に「なお、液石法は一般消費者等に対する液化石油ガスの販売、液化石油ガス器具の製造及び販売等を規制するものであつて、右一般消費者等の意義は同法二条二項、同法施行令二条において定められているが、控訴人らの場合、陶器焼成といつても大規模な工業用のものではなく、販売形態においても消費形態においても一般消費者の場合と大差ないのであるから、同法二条二項にいう一般消費者等に該当するものと解される。仮にそうでないとしても、同法の規定が類推適用されるものというべきである。」を加える。

(四)  同四枚目表一〇行目の冒頭から五枚目裏一〇行目の末尾までを次のとおり改める。

「(二) (一次的主張)本件ガス消費設備においてボンベのバルブと導管とを接続していた高圧ゴムホースは、昭和四八年五月中旬に取り付け、同年六月一〇日ごろガス流通を開始したもので、屋外での使用の結果二年を経過した昭和五〇年六月ころには既に老化、大気オゾンの影響、ホースのねじれ(三二本のホースが入り組んで連結されていた。)等の化学的、物理的影響によつて変質し、亀裂を生じ易い危険な状態にあつたのであるから、被控訴人は、これを新品と取り替えるべき安全供給義務があつたにもかかわらず、これを怠り、漫然と老朽、劣化した右高圧ゴムホースに高圧ガスを流通せしめていた。このため、昭和五二年六月二六日午前五時五九分ごろ、本件ガス消費設備に連結して設置されたブタンガスボンベのうち一本に接続する高圧ゴムホースがブタンガスの内圧に耐えられず亀裂を生じ、ホース内を流通するブタンガスが漏洩、噴出した。あるいは、右時点において、右高圧ゴムホースの劣化によりホースがボンベとの接続部分から抜けてブタンガスが漏洩、噴出した。

(三)  (二次的主張)昭和五二年六月一三日、被控訴人の従業員である上村武及び阿部孝吉は、本件ガス消費設備内の容器置場においてブタンガス五〇キログラム入りボンベ八本を空容器と取り替え、それぞれのボンベの液相ラインと気相ラインのバルブを集合装置に接続している高圧ゴムホースに連結し、ボンベバルブを全開したが、この際右両名はバルブの不良又はバルブとゴムホースとの連結不良によりガスが漏洩しないよう注意すべき義務があるのにこれを怠り、漫然と右ガスボンベを設置したため、同年六月二六日午前五時五九分ごろ、右納入に係るガスボンベのうち一本のバルブ不良又はゴムホースとの連結不備が原因となつて、ガスボンベバルブ部分からブタンガスが漏洩、噴出した。

4 (土地工作物責任)

被控訴人は、前記2のとおり本件ガス消費設備を所有し、かつ、控訴人らに対してはガスボンベからベーバーライザーまでの諸配管設備及びガスボンベには一切手を触れることを禁止し、排他的、専門的にその保守、管理の任にあたつていたところ、右ガス消費設備は、建物の外壁に沿つて集合装置を取り付け、ここにガスボンベ八本二系列合計一六本を設置し、ボンベバルブより高圧ゴムホースで導管に接続し、この導管で約七メートル先に据え置いたベーバーライザーに接続するものであり、右導管は、建物の外壁、軒下及び上端を軒下に固定し、下端をコンクリートに埋め込んで立てた鉄柱に金具で固定され、また、右ベーバーライザー(重量約二五〇キログラム)はコンクリート製の土台にビスで固定されていたのであるから、右ガス消費設備は一体として土地、建物に接着して据え付けられた土地の工作物に該当するものというべきであり、高圧ゴムホースも、ボンベ交換の際も取り外されるものではなく、右土地の工作物の一部を構成するものである。そして、前記のとおり右ゴムホースの劣化、亀裂によりブタンガスが漏洩、噴出したのであるから、右は土地の工作物の保存の瑕疵によるものというべきである。」

(五)  同六枚目表一行目の「帯電し」を「生じ(かかる帯電は、気相のガスの噴出の場合(本件ではこの可能性が大きい。)にはガスに含まれるカーボン、鉄屑、水などの不純物(微粒子)の摩擦によつて生ずるが、液相のガスの噴出の場合には液体自体の流動、噴出によつて生ずる。)」と、四、五行目の「焼毀せしめて」を「焼毀して」と、同裏二行目の「一億五二七八万三〇〇〇円」を「一億五一九六万一二九八円」とそれぞれ改め、更に同裏七行目の冒頭から同七枚目表三行目の末尾までを次のとおり改める。

「(2) 金四五〇九万八二九八円

控訴人藤田が吉川停子から賃借した建物の敷地の面積は実測一六四坪(五四二・一四平方メートル)であるが、ひとまず公簿上の面積である五一九・〇〇平方メートルに従うと、そのうち賃借した居宅(建付面積一三八・八四平方メートル)の敷地部分は二七七・六八平方メートル、控訴人藤田の建築に係る工房(約一六坪)の敷地部分は二四一・三二平方メートルであり、右敷地の更地価格は一平方メートル当り二四万二〇〇〇円、借地権割合は六〇パーセント、借家権割合は居宅敷地、居宅につきそれぞれ四〇パーセントを相当とし、また、工房敷地部分について控訴人藤田はむしろ借地権に準ずるような利用権を有し、その権利割合は借地権割合の七〇パーセント、すなわち更地価格の四二パーセントとみるべきである。そこで、本件火災により賃貸借の目的たる建物が焼失し、控訴人藤田が借家権及び土地利用権を喪失した結果として同人の被つた損害は、次の(1)ないし(3)の合計額の四五〇九万八二九八円である。

(1)  居宅敷地に及ぶ借家権価格

二四万二〇〇〇円(平方メートル当り更地価格)×〇・六(借地権割合)×〇・四(借家権割合)×二七七・六八(居宅敷地面積)=一六一二万七六五四円

(2)  居宅建物に及ぶ借家権価格

八万円(平方メートル当り建物価格)×〇・四(借家権割合)×一三八・八四(居宅面積)=四四四万二八八〇円

(3)  工房敷地に対する利用権の価格

二四万二〇〇〇円(平方メートル当り更地価格)×〇・四二(通常の借地権割合〇・六の七〇パーセント)×二四一・三二(敷地面積)=二四五二万七七六四円」

(六)  同七枚目裏末行の「玉提」を「玉堤」と、九枚目裏一〇、一一行目の「一億五二七八万三〇〇〇円」を「一億五一九六万一二九八円」とそれぞれ改める。

(七)  同一〇枚目裏末行の「なされたものである。」を「なされたものであり、右設備一式も控訴人藤田が右会社から買い受けて所有していたものである。」と改める。

(八)  同一一枚目表八、九行目の「液石法の一般消費者またはその類似者」を「液石法にいう一般消費者等」と改める。

(九)  同一一枚目裏一行目の冒頭から一二枚目裏六行目の末尾までを次のとおり改める。

「4 請求原因3の(二)の事実のうち、被控訴人が高圧ゴムホースを新品と交換しなかつたことは認め、その余の事実は否認ないし争う。なお、高圧ゴムホースは少なくとも五年間は使用に耐えうるものであるから、仮にこれに亀裂が生じガスが漏出したとすれば、それは高圧ゴムホースを製造した訴外株式会社桂精機製作所の製造上の過失によるものか、被控訴人以外の者の人為によるものであると考えられ、いずれにしろ被控訴人に責任はない。

5 請求原因3の(三)のうち被控訴人の従業員の上村、阿部が控訴人ら主張の日時にガスボンベの取替えをしたことは認めるが、その余の事実は否認又は争う。仮にガスボンベのバルブに不良があつたとしても、被控訴人はガスボンベ搬入の際に点検して異常を認めなかつたのであるから、右不良は、ブタンガスをボンベに充填して被控訴人に販売していた訴外昭和石油瓦斯株式会社のガス充填時の過失によるものか、控訴人藤田又は他の者がバルブを操作したことによるもので、被控訴人に過失はない。

6 請求原因4の事実のうち導管が建物外壁及び下端を土中に埋めた鉄製ポールに固定されていたこと及びベーバーライザー(その重量は二二〇キログラムである。)がコンクリートの上に固定されていたことは認め、その余は否認ないし争う。なお、ガスボンベ及び高圧ゴムホースはともに容易に取り外せるもので土地の工作物には該当せず、また、本件ガス消費設備は門扉、塀、垣根に囲まれた控訴人藤田の居宅の敷地内にあつて同控訴人が占有していたものである。のみならず、ガスボンベは訴外昭和石油瓦斯株式会社の所有であり、高圧ゴムホースも前記のとおり控訴人藤田の所有するものであつたから、控訴人らから被控訴人に対し民法七一七条により損害賠償を求める余地はない。

7 請求原因5の事実は否認ないし争う。高圧ガス取締法四一条二項は「容器製造業者は、通商産業省令で定める技術上の基準に従つて容器を製造しなければならない。」と規定し、これに基づいて容器保安規則七条四号は洗じよう、スケール、石油類その他の異物の除去を行うべきことを、同条七号は液化石油ガスを充填する容器に適切な防錆塗装をすべきことを定めており、また、JIS規格において液化石油ガスは遊離水分又は沈澱物を含んではならないものとされているのであるから、被控訴人供給に係る本件ブタンガスに控訴人ら主張のような帯電の原因となる不純物が含まれていたとは考えられない。

8 請求原因6の事実は不知ないし争う。」

〔証拠〕<省略>

理由

一<証拠>によれば、請求原因1の事実(控訴人藤田の職業、同人と控訴会社との関係、控訴会社の目的、本件建物の賃貸借、控訴会社による作業場建物の建築、あじさい窯の設置)を認めることができる。ただし、右賃貸借契約は、控訴人藤田に建物付属の敷地内に工房(約二六・四四平方メートル)を建築し陶芸用窯を設置することを許容するものではあつたが、直接には本件建物の賃貸借を目的とするものであつて右請求原因にあるように建物及び敷地の賃貸借を目的とするものではなく(このことは甲第一号証によつて明らかである。)、また、控訴会社が建築した作業場の床面積は右請求原因にあるように一九八平方メートルではなく、五二・八八平方メートルであつた(このことは<証拠>によつて明らかである。)。

二被控訴人がプロパンガスの販売、ガス用器具の製作及び販売、石油製品の販売等を目的とする会社であることは当事者間に争いがない。

<証拠>を総合すると、控訴会社は、昭和四八年六月ごろあじさい窯での陶器製作のために被控訴人との間で継続的液化石油ガス供給契約を締結し、爾来継続的にブタンガスの供給を受けたこと、被控訴人は、本件建物の北東側の外壁に沿つて集合装置を取り付け、ここにブタンガス五〇キログラム入りボンベ八本二系列合計一六本を置けるようにし、ボンベのバルブから高圧ゴムホースにより導管に接続し、右導管を建物に沿つて数メートル隔たつた内玄関前軒下のベーバーライザー(気化装置)に接続し、以上の本件ガス消費設備をもつてブタンガスがあじさい窯に燃料として供給されるようにしたこと、本件ガス消費設備は被控訴人が所有し、無償で控訴会社の利用に供したものであり、その保守管理、ガスボンベとの接続及びガスボンベのバルブの操作には専ら被控訴人が当ることが、前記ガス供給契約の締結に際して控訴会社と被控訴人との間で合意されたこと、以上の事実が認められる。

控訴人らは前記ガス供給契約は控訴人両名と被控訴人との間で締結されたものである旨主張するところ、<証拠>によれば、右契約締結に当つた控訴人藤田は特に控訴会社のために右契約を締結する旨を明示せず、このため被控訴人としても控訴会社の存在を知らずに単にあじさい窯に使用するブタンガスを供給する契約という認識の下に右契約を締結したことが認められるが、前記のとおりあじさい窯は控訴会社が設置したものであり、かつ、控訴人藤田は控訴会社の代表者であるから、右契約締結は控訴人藤田が控訴会社のためにすることを示すことなく控訴会社代表者としてした行為と推認すべきである。そして、本件において控訴人両名がともに右契約の当事者となつたとみるのを相当とするような特段の事情も認められないから、商法五〇四条本文により右契約は控訴会社のためにその効力を生ずるものと解するのを相当とする。

また、<証拠>中には、本件ガス消費設備は被控訴人が控訴人側に贈与したものである旨の供述があるが、<証拠>に照らし措信し難く、他に前記認定を覆すに足りる証拠はない。

三<証拠>によれば、昭和五二年六月二六日午前五時五九分ごろ、あじさい窯のある作業場で作業をしていた控訴人藤田は、戸外でタイヤから空気が抜けるときのような「プスッ」という大きな音に続き、何かが吹き上がるようなシュシュシュッという連続音がするのを聞いたので窓の外を見たところ、前記集合装置の付近にオレンジ色の閃光を認めたこと、そこで同人が外へ出て見ると、壁際の奥(西側)から三番目位のガスボンベのバルブのあたりから上方に炎が噴出していたので直ちに粉末消火器で消火に当たつたこと、その結果いつたん火は消えたが間もなく爆発的に再発火して近くにあつた葭蘆や他のガスボンベ周辺にも燃え拡がり、火災となつたことが認められる。

<証拠>を総合すると、右発火当時前記ガスボンベと導管とをつないでいた高圧ゴムホースは本件ガス消費設備の使用が開始された昭和四八年六月当時装着され、その後交換されていなかつたものであるところ(この点は当事者間に争いがない。)、前記発火は、時日の経過とともにブタンガスの成分、大気中のオゾン、ホースの装着に伴う曲がりなどのために劣化していた右ゴムホースのバルブに近い部分に前記の時点で亀裂が生じて気相又は液相のガスが噴出し、これによつて、気相のガスの噴出の場合にはガス内に存在する不純物の微粒子又は液滴とパイプ、ノズル内壁との摩擦の結果として、液相のガスの噴出の場合には液体とパイプ、ノズル内壁との接触、剥離の結果として、帯電した微粒子(不純物の微粒子又は液滴)が電荷をもつて空間に浮遊し、空間内に静電界を形成して気中放電を起こし、爆発性混合気体の状態にある噴出したブタンガスの着火を誘発したことによるものと認められる。<証拠>には、液化石油ガスの噴出が大気に向かつて行われた場合、空間電荷の密度は低くなるから、空間電荷雲からの直接放電のエネルギーはガスに着火するほどのものではない旨の記述があるが、<証拠>に照らし採用し難く、<証拠>も前記認定を覆すに足りない。<証拠>中には何者かがゴムホースを切つて放火したことによるものではないかと思うとの供述が存するが、そのような推測を具体的に根拠づける客観的事実は証拠上見当らず、しかも<証拠>によれば、噴出したブタンガスの一部は爆発性混合気体として大気中に存在するので右のような放火はかなりの危険を冒さなければなしえないものであることが認められるから、右供述も前記認定を左右するものではなく、他に前記認定を動かすに足りる証拠はない。

そこで、右火災の発生について被控訴人が契約上の責任を負うかどうかについて検討する。前記のとおり、控訴会社と被控訴人との間の合意に基づき、高圧ゴムホースを含む本件ガス消費設備は専ら被控訴人においてその保守、管理に当つていたのであるから、右ゴムホースを点検し、劣化したゴムホースを適切な時期に新しいものと取り替えることも被控訴人の契約上の義務に属していたものというべきである。もつとも、<証拠>によれば液化石油ガス用ゴムホースの耐用年数は一般に直射日光下で約二年、日蔭で約三年程度と認められるが、他方<証拠>によれば、本件火災当時液化石油ガス用ゴムホースの耐用年数が右の程度であることは必ずしもひろく認識されておらず、一般的には四年間程度の使用に耐えるものと考えられていたことが認められる。しかし、<証拠>によれば、液化石油ガス用ゴムホースの耐用年数は使用している場所の環境等によつて著しく異なり、一年前後で取り替えなければならない場合もあることが認識されていたこと、ゴムホースの異常の有無は目視によつて判別可能であることが認められるのであるから、本件火災の直前のガスボンベの取替え(それが昭和五二年六月一三日に行われたことは当事者間に争いがない。)等の際に被控訴人従業員がゴムホースの状況を十分に点検したにもかかわらず異常が見当らなかつたのでない限り被控訴人には保守、管理上の義務の不履行があつたものといわなければならない。そして、前記のような亀裂の発生自体右点検が十分に行われなかつたことを推定させるものであり、<証拠>も右推定を覆すに足りず、他に右点検が十分に行われたことを認めるに足りる証拠はないから、被控訴人は右ゴムホースの保守、管理につき契約上の義務を怠つたものというべきであり、したがつて、その結果生じた本件火災により控訴会社の被つた損害を賠償すべき義務を負うものというべきである。付言するに、<証拠>によれば、本件事故当時ブタンガスの噴出から気中放電が起こり、ブタンガスに着火するという火災発生のメカニズムは必ずしもひろく認識されていなかつたことが窺われるが、仮に被控訴人が当時右の点についての認識を有しなかつたとしても、そのことは被控訴人が本件ガス消費設備の保守・管理を十分に行つてゴムホースの亀裂によるガスの噴出を防止する義務を負つていたことを左右するものではなく、また、ゴムホースの亀裂によるブタンガスの噴出が火災を生ぜしめる危険があることは、その具体的なメカニズムの点は別として通常予見可能というべきであるから、前記の点の認識の有無は、本件火災によつて控訴会社に生じた損害に対する被控訴人の賠償義務を左右するものではない。以上に対し、控訴人藤田は前記のとおり本件ガス供給契約の当事者ではないから、同人に対して被控訴人が債務不履行責任を負うべきいわれはない。

四進んで、被控訴人の控訴人藤田に対する土地工作物責任の有無について検討する。

本件ガス消費設備の構造は前記のようなものであるところ、<証拠>によれば、本件高圧ゴムホースはガスボンベ据付場所付近(本件建物北東側)で金属製導管に接続されていたが、右導管は、その付近で本件建物外壁及び下端を地中に埋め、上端を右建物軒下に固定した鉄製パイプにそれぞれ金具で固定されていたこと、右導管はそこから更に本件建物東隣りの作業場建物の西側外壁に沿つて這い、更に本件建物の内玄関付近で本件建物軒下に戻り、内玄関前に打つたコンクリートの上に置かれたベーバーライザーに接続されていたが、その間本件建物の東側の外壁及び作業場建物の外壁にも金具で固定されていたこと、ベーバーライザーは右コンクリート面にビスを埋め込んで固定されていたことが認められ(以上のうち、導管が本件建物北側で金具により建物外壁及び鉄パイプに固定されていたこと、そのほか本件建物東側及び作業場西側の外壁にも固定されていたこと、ベーバーライザーがコンクリートの上に置かれ、固定されていたことは当事者間に争いがない。)、この認定を覆すに足りる証拠はない。

右認定事実及び本件ガス消費設備が一体としてその機能を果たすものであることに照らせば、右設備は一体として民法七一七条にいう土地の工作物たる性質を有するものというべきである。もつとも、右設備のうち高圧ゴムホースは、<証拠>によれば、ネジと充填剤とで接続されているものと認められ、比較的容易に着脱することができるものと考えられるが、ガスボンベの取替えの都度着脱されるわけではなく、前記のとおり一年から数年程度の期間にわたり、導管との接合を同一の状態に保持したまま(前記証言参照)使用されるものであるから、単に着脱が比較的容易であることから、右ゴムホースの土地の工作物の構成部分たることを否定するのは相当でなく、右ゴムホースが本件ガス消費設備の他の部分と右のように一体的に結合して使用され、右設備がその機能を果たすために不可欠のものであるところからみて、右ゴムホースも土地の工作物の一部分をなすものとみるべきである。

そうすると、前記のように右ゴムホースが使用時間の経過につれて劣化し、亀裂を生ずる危険があつたにもかかわらず、取り替えられずに放置されていたことは、土地の工作物の保存の瑕疵に当るものといわなければならない。

そこで、被控訴人が本件ガス消費設備の占有者に当るかどうかの点をみるに、前記のとおり右設備は控訴人藤田の住居兼アトリエである本件建物に接着して設けられており、また、<証拠>によれば、集合装置やベーバーライザーのある場所は万年塀、垣根及び門扉によつて北側の道路から隔てられていることが認められる。しかしながら、前記のとおり本件ガス消費設備については専ら被控訴人がその保守、管理、操作を行うことが合意されており、かつ、被控訴人従業員はガスボンベの取替えのため定期的に集合装置の設置してある場所に出入りしていたのであるから、控訴人らは被控訴人らが右目的のために本件ガス消費設備のある場所に出入することを予め包括的に許諾していたものというべきである。このことからすると、右設備について控訴人らの占有を全く否定することはできないにせよ、被控訴人もまた控訴人らとともに自己の所有する右設備に対し直接の支配を及ぼし、これを占有していたものというべきであり、むしろ、右設備の保守、管理、操作に関連する限りでは、控訴人らよりも被控訴人の方がより直接的、具体的な支配を及ぼしていたものと認められる。そうすると、右設備の保存の瑕疵に基づく本件火災の結果控訴人藤田に生じた損害に関しては、被控訴人は右設備の占有者として民法七一七条の規定によりこれを賠償すべき義務を負うものというべきである。

五<証拠>によれば、前記のとおりゴムホースからの噴出ガスに着火して周辺に燃え拡がつた火は、更に本件建物の軒、天井裏、外壁、下見板から右建物全体に及び、右建物の大部分と作業場建物の一部を焼いて鎮火したこと、この間前記のとおり発火当初の消火に当つた控訴人藤田は顔面及び両前腕に治療約三週間を要する火傷を負つたことが認められる。そこで、本件火災によつて控訴人らの被つた損害について判断を加える。

(一)  控訴人藤田の損害

(1)  家財、内外の陶磁器等美術品の焼失による損害

控訴人藤田は、本件建物に存した家財及び内外陶磁器等美術品合計九六七六万三〇〇〇円相当が本件火災により焼失したと主張し、<証拠>には右主張に副う記述ないし供述が存する。しかしながら、右甲第一四号証の三の動産り災申告書にり災物件として記載されたもののうち、美術品については、その価額が右申告書記載のとおりであることを裏づけるような客観的資料がないので、その焼失による損害額を認定することができず、貴金属その他の高価品についても同様である。その他の家財等についても、右申告書及び<証拠>によりその焼失の事実は認めうるものの、その価額が右申告書に記載されたとおりであるとはにわかに断じ難く、これを認定すべき的確な証拠は存しないが、右申告書に記載されたり災物件のうち美術品、高価品を除いたものの申告価額の合計は三〇〇〇万円を超えるところ、<証拠>によつて認められる控訴会社の事業の状況等に照らせば、右焼失家財は少なくとも右の三分の一程度の価額は有していたものと認めるべきである。よつて、一〇〇〇万円をこの点に関する控訴人藤田の損害と認める。

(2)  借家権等の喪失による損害

控訴人藤田は、本件火災の結果、本件建物の借家権及び控訴会社の建築した作業場の敷地に対する利用権を喪失し、これによりこれら権利の価額に相当する四五〇九万八二九八円の損害を被つた旨主張するところ、<証拠>及びこれによつて成立の認められる甲第六二号証(河合巧作成の不動産鑑定評価書)には数額に若干の相違はある(前提とした敷地の面積の相違と右甲第六二号証中における違算の結果である。)が右主張に副うような記述ないし供述が存する。しかしながら、右甲第六二号証は、本件建物のある地域におけるいわゆる建蔽率が五〇パーセントであるところから、右建物の建つている土地(全体で五四二・一四平方メートルとする。)のうち右建物の床面積(現況一三八・八四平方メートル)の二倍に当る二七七・六八平方メートルが右建物の敷地であり、その余の部分については控訴人藤田が作業場を建築するなどして土地を利用する借地権に準ずるような権利を有するとの前提に立つて本件建物の借家権と右土地利用権の価額を算定するものであるところ、前記建蔽率から本件建物の敷地の範囲を右のようにその床面積の二倍とみるべきであるとすることには合理性が認められないばかりでなく、前記のとおり本件建物の賃貸借契約において控訴人藤田は建物付属の敷地内に面積約二六・四四平方メートルの工房を建築することを許容されただけで、火災当時の作業場の床面積も五二・八八平方メートルにすぎず、右作業場の規模の建物を建築することについては土地所有者の暗黙の許諾があつたと見られなくはないが、いずれにせよ土地全体の面積に比べて建築を許容された建物の規模は決して大きくないのであるから、右のような建築の許容があつたからといつて控訴人藤田の権利の評価にあたりこれを通常の借家権と著しく異なつた価値を有するものとみるべきではなく、作業場の建つている範囲の土地のみについての利用権の付属した借家権として評価すれば足りるものと考えられる。

そこで、土地全体の面積を<証拠>により五一九平方メートルとし、前掲甲第六二号証により土地の更地価額を一平方メートル当り二四万二〇〇〇円、本件建物の価額を一平方メートル当り八万円、作業場の床面積を五二・八八平方メートル、借地権割合を六〇パーセント、借家権割合を本件建物敷地(作業場の建つている部分を除く。)の借地権、本件建物の双方に対しそれぞれ四〇パーセントとし、作業場敷地について控訴人藤田が有する利用権の権利割合を借地権のそれの七〇パーセント、すなわち更地価格の四二パーセントとして右甲第六二号証に掲げられた算式によつて計算すると、本件火災の結果控訴人藤田が借家権及びそれに付随する土地利用権を喪失したことによる損害の額は、次の(イ)ないし(ハ)の合計額三六八八万九八五二円である。

(イ) 敷地について認められる借家権価額

二四万二〇〇〇円(平方メートル当り更地価格)×〇・六(借地権割合)×〇・四(借家権割合)×(五一九・〇〇−五二・八八)(敷地面積)=二七〇七万二二四九円

(ロ) 本件建物そのものについて認められる借家権価額

八万円(平方メートル当り建物価格)×〇・四(借家権割合)×一三八・八四(建物床面積)=四四四万二八八〇円

(ハ) 作業場底地に対する利用権の価額

二四万二〇〇〇円(平方メートル当り更地価格)×〇・四二(借地権割合〇・六の七〇パーセント)×五二・八八(作業場床面積)=五三七万四七二三円

(3)  熱傷治療費

控訴人藤田は、右負傷の治療費として一〇万円を要したと主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。

(4)  慰藉料

<証拠>によれば、控訴人藤田は、本件火災によつて、その主宰する焼きもの教室の生徒から委託された作品の焼成が不可能となつてその個人としての信用を傷つけられ、また、著作活動等のために多年にわたつて蒐集した陶芸等に関する資料を喪失して多大の精神的苦痛を味わつたことが認められる。もつとも、同控訴人は、本件火災によりその普及に努めていたガス窯のシステムの安全性について世間の疑惑を招き、名誉、信用を著しく失墜したと主張するが、この点については右本人尋問の結果その他本件全証拠によつてもこれを認めるに足りない。右精神的苦痛に対する慰藉料の額は、一〇〇万円をもつて相当する。

(二)  控訴会社の損害

(1)  焼け跡整理、解体移築及び窯場再建の費用

<証拠>によれば、控訴会社は、本件火災現場の焼け跡の解体、整備、世田谷区玉堤の移転先へのあじさい窯及び関連設備、機材の移転、右移転先での窯場の再建、鉄骨造二階建建物の建築、右建物を工房として使用するための諸設備に請求原因6(二)(1)(2)掲記の諸費用(ただし(1)(イ)の一六万六〇〇〇円、(2)(コ)の一五〇万円を除く、これら費用についてはその支出を認めるに足りる証拠はない。)を支出したことが認められる。しかし、そのうち(1)(ア)の火災現場解体工事手配の費用二〇万六〇〇〇円については、その内容は<証拠>によれば工事の中止損料であつて本件火災と相当因果関係に立つ損害かどうか疑問があるうえ、それが専ら作業場建物の解体のみのための費用か、本件建物の焼け跡の解体に要した費用をも含むのか明らかでなく、またそのうち作業場建物の解体に要した費用の部分を確定することもできないから、これを直ちに控訴会社において賠償を請求することのできる損害とは認め難い。また、(2)(ア)の鉄骨造二階建建物建築工事、プレハブ改築工事、ブタン置場工事等に要した費用については、前掲甲第六二号証によれば作業場建物の本件火災時における価額は二六四万四〇〇〇円であるから、右建物を解体せざるを得なくなつたことによる損害は右金額の限度にとどまるものというべきであり、右費目については控訴会社はこれに<証拠>によつて認められるブタンガスボンベの置場の工事費用一一三万一六〇〇円を加えた三七七万五六〇〇円の賠償を求めうるにとどまるものと認められる。以上によれば、控訴会社の損害合計額は一五二一万八二九七円である。

(2)  営業上の利益の喪失

控訴会社は、本件火災の結果昭和五二年七月に催された展示即売会に出品することができなくなり、また、昭和五二年一〇月三〇日まで陶器の焼成が不能となつたことにより合計一七二四万円の営業上の利益を喪失した旨主張し、<証拠>中には右主張に副う供述が存するが、これによつては右主張事実を認めるのに十分ではなく、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

六以上認定判断したところによれば、控訴人藤田の本訴請求は被控訴人に対し金四七八八万九八五二円及びこれに対する不法行為ののちである昭和五三年一一月九日から支払済みまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で正当として認容し、その余を失当として棄却すべきものであり、控訴会社の本訴請求は被控訴人に対し金一五二一万八二九七円及びこれに対する本件訴状送達の翌日であることが記録上明らかな前同日から支払済みまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で正当として認容し、その余を失当として棄却すべきものである。よつて、右と趣旨を異にする原判決を右のとおり変更し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条、九二条を、仮執行宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官中島一郎 裁判官加茂紀久男 裁判官片桐春一)

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