大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和57年(ネ)398号 判決 1982年4月27日

昭和五六年(ネ)第一九四八号事件控訴人 昭和五七年(ネ)第三九八号事件附帯被控訴人 (第一審参加人。以下「控訴人」という。) 株式会社 山甚

右代表者代表取締役 植田滋

右訴訟代理人弁護士 吉永順作

昭和五六年(ネ)第一九四八号事件被控訴人 昭和五七年(ネ)第三九八号事件附帯被控訴人 (第一審債権者。以下「被控訴人」という。) 前山志郎

右訴訟代理人弁護士 新里秀範

昭和五六年(ネ)第一九四八号事件被控訴人 昭和五七年(ネ)第三九八号事件附帯控訴人 (第一審債務者。以下「被控訴人」という。) 焼津市

右代表者市長 服部毅一

右訴訟代理人弁護士 天野保雄

主文

控訴人の本件控訴を棄却する。

被控訴人焼津市の附帯控訴に基づいて原判決中同被控訴人の仮処分異議申立を却下した部分を取消し、この部分を静岡地方裁判所に差戻す。

控訴審における訴訟費用は附帯控訴にかかる部分を除き控訴人の負担とする。

事実

一、控訴人訴訟代理人は、控訴の趣旨として「原判決を取消す。債権者を被控訴人前山志郎、債務者を被控訴人焼津市とする静岡地方裁判所昭和五五年(ヨ)第二九七号不動産仮処分事件について、同裁判所が昭和五五年一〇月二一日にした仮処分決定を取消す。被控訴人前山志郎の仮処分申請を却下する。訴訟費用は、第一、二審とも同被控訴人の負担とする。」旨の判決を求めた。

被控訴人前山志郎訴訟代理人は、控訴の趣旨に対する答弁として「控訴人の本件控訴を棄却する。債権者を被控訴人前山志郎、債務者を被控訴人焼津市とする静岡地方裁判所昭和五五年(ヨ)第二九七号不動産仮処分事件について、同裁判所が昭和五五年一〇月二一日発した仮処分決定を認可する。控訴費用は控訴人の負担とする。」旨の判決を求めた。

被控訴人焼津市訴訟代理人は、附帯控訴の趣旨として「原判決を取消す。債権者を被控訴人前山志郎、債務者を被控訴人焼津市とする静岡地方裁判所昭和五五年(ヨ)第二九七号不動産仮処分事件について、同裁判所が昭和五五年一〇月二一日にした仮処分決定を取消す。被控訴人前山志郎の仮処分申請を却下する。附帯控訴費用は同被控訴人の負担とする。」旨の判決を求めた。

二、各当事者の主張並びに疎明関係は、次に附加するほか、原判決事実摘示中「第二 主張」(但し、別紙(一)第二異議の事由、別紙(二)被告前山の主張、別紙(三)第二異議の事由)、「第三 証拠」欄の記載を引用する。

(一)  主張

1、控訴人

「一、控訴人は、民訴法七一条、七三条に基づいて仮処分異議の申立をなすものである。

(一) 仮処分命令手続は仮処分の申請によって裁判所に係属し、命令発付後も、異議申立や取消申立により、保全訴訟手続に移行するので、右異議手続や取消手続が確定するまでは、仮処分命令手続は裁判所に係属しているものというべきである。

(二)  そして保全手続中保全命令手続に関しては民訴法中判決手続に関する規定を適用ないし準用すべきは当然であるから、保全命令手続の承継に関しても、当然民訴法総則編の訴訟承継に関する手続規定の適用がある。

(三)  なお民訴法七一条等の規定に基づく異議申立の場合、参加人は異議申立の趣旨として、仮処分債権者に対し、仮処分命令の取消と仮処分申請の却下とを求めれば足り、敢えて仮処分債務者に対し、別個の申立をなす必要はない。それは仮処分の特質、殊に仮処分異議手続の法的性質から導かれる当然の帰結である。

二、仮に民訴法七一条等に基づく独立当事者参加の方法による異議申立が認められないとしても、控訴人は仮処分債務者である被控訴人焼津市の仮処分義務承継人として、自己固有の権利に基づき仮処分異議の申立をする。

仮処分債務者である被控訴人焼津市は、原判決別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)を、被控訴人前山志郎に対し、土地区画整理法による換地処分の成立を条件として売渡す契約を締結し、被控訴人前山は訴外株式会社銀帝ビル(以下「銀帝ビル」という。)に対し、右売買契約上の買主たる地位を譲渡し、更に右銀帝ビルは同様控訴人に対し、右買主の地位を譲渡したところ、昭和五五年八月一八日、換地処分によって、本件土地は保留地として一旦被控訴人焼津市の所有に帰し、これにより直ちに同被控訴人から控訴人に所有権が移転したから、控訴人は同被控訴人から仮処分債務者の地位を承継したことになる。」

2、被控訴人焼津市

「一、本件土地について昭和四九年九月二〇日、被控訴人前山志郎が銀帝ビルに対し、同被控訴人の買主たる地位を譲渡し、被控訴人焼津市は右譲渡を承諾した。

二、従って、被控訴人焼津市は右銀帝ビルに対し、本件土地の所有権移転登記手続をなす義務を負い、被控訴人前山は買主たる地位失うに至った。被控訴人前山は、その一方的な取消通知により、既になした『権利譲渡に関する中間省略の登記についての承諾に関する届出』を撤回し得るいわれはない。」

(二) 疎明《省略》

理由

一、控訴人の本件控訴にかかる仮処分異議申立について

仮処分決定に対する異議申立は、その仮処分手続内における債務者の不服申立であるから、異議申立権者は、仮処分債務者、その一般承継人、破産管財人に限られ、右以外の第三者は特定承継人であっても 当然には異議申立権を有するものではないと解すべきところ、控訴人は本件仮処分決定の債務者である被控訴人焼津市から、本件土地の所有権を特定承継により取得し、民訴法七三条、七一条の規定に基づき、仮処分決定に対する異議申立をなすものである旨主張する。

《証拠省略》によると、被控訴人焼津市は、昭和五五年八月一六日土地区画整理法に基づく換地処分完了(公告)により、保留地として本件土地の所有権を取得する以前の昭和四八年六月一一日、被控訴人前山との間で、本件土地の売買契約を締結し、その後昭和四九年被控訴人前山と銀帝ビルとの間で、昭和五一年八月一一日銀帝ビルと控訴人との間で、順次本件土地の売買契約を締結したこと、昭和四九年九月二〇日付で被控訴人焼津市から右銀帝ビルの代表者に宛て、同社と被控訴人前山の「権利譲渡に関する中間省略の登記についての承諾に関する届出」に対し、換地処分後本件土地の所有権移転登記手続を直接右銀帝ビルに対してする旨の通知をしたことが認められるが、右事実から直ちに控訴人が仮処分債務者である被控訴人焼津市から直接本件土地の所有権を承継取得したものということはできず、寧ろ仮処分債権者である被控訴人前山、銀帝ビルを経由した、いわば債権者からの権利承継人と見るのが相当である。控訴人は、右一連の売買契約をいわゆる買主たる地位の譲渡契約であるとするが、その主張するところによって見ても、被控訴人前山と銀帝ビル間の契約については兎も角、同社と控訴人間の契約について、被控訴人焼津市がこれを承諾した事実について何らの主張も疎明もない許りでなく、右買主たる地位の承継も、所詮は被控訴人前山らを経由してのものにほかならないので、これを根拠とする本件土地の所有取得も亦ひっきょう債権者側からの承継取得であることは変りはない。

次に、民訴法七三条、七一条の独立当事者参加の規定が、仮処分手続についても適用されるか否かについては問題の存するところであるが、その点は暫く措くとしても、本来右の参加による訴訟は、同一の権利関係について、従前の当事者及び参加人の三者が互に相争う論争を一の訴訟手続によって、一挙に矛盾なく解決する訴訟形態(いわゆる三面訴訟)で、その申出は常に従前の当事者双方を相手方としなければならず、換言すれば、参加の趣旨として、双方に対する請求を掲げなければならないものと解すべきところ(最高裁判所大法廷・昭和四二年九月二七日判決・民集二一巻七号一九二五頁参照)、本件において控訴人は、参加に基く異議申立の趣旨として、債権者である被控訴人前山に対して、仮処分決定の取消と同被控訴人の仮処分申請の却下を求めるのみで、債務者である被控訴人焼津市に対しては、何らの申立もしないことを自ら明言している。それ故、民訴法七三条、七一条の規定を根拠とする控訴人の本件仮処分異議の申立は、同条の適法要件を欠き不適法である。控訴人は、仮処分手続の特殊性から、右規定に基づく参加にあっても、仮処分債務者に対する申立は不要と解すべきである旨主張するが、それ自体、控訴人の主張する法律構成に無理があることを露呈する独自の見解であって到底左袒し得ない。

以上のとおり、控訴人の本件仮処分異議の申立は、不適法として却下を免れず、原判決中これと同一の結論に出た部分は結局相当であり、控訴人の本件控訴は失当であるから、これを棄却すべきである。

二  被控訴人焼津市の本件附帯控訴にかかる仮処分異議申立について

同被控訴人が本件仮処分決定に対する控訴人の参加に基づく異議申立後、昭和五六年五月二〇日、仮処分裁判所である原審に、申立の趣旨として本件仮処分決定の取消並びに被控訴人前山の仮処分申請の却下を求める旨を掲げた準備書面を提出したこと、ところが右書面には偶々被控訴人焼津市自ら控訴人の右異議申立事件の受理番号と同一の「昭和五六年(モ)第一一七号」を附したため、原審はこれを独立の異議申立事件として立件することなく審理を進め、民訴法六〇条の規定を根拠とする控訴人の異議申立を不適法として却下するとともに、併せて同被控訴人の異議申立をも右の主参加の手続中では許されないとして却下したものであることは、記録上明白である。

しかし、右準備書面は、その申立の趣旨及び理由の記載に照らし、仮処分債務者からの適法な異議申立書と見得るのであって、右の事件番号の付記によって、右書面の異議申立としての法的性格や効力が左右される理由はない。原審は右書面につき須らく仮処分債務者である被控訴人焼津市の真意を確め、これを仮処分決定に対する適法な異議申立として取扱い、被控訴人前山の仮処分申請の当否につき実体的審理を尽すべきであったのに、控訴人の主参加申立にかかる手続中では許されない申立であるとしてこれを却下したのは、ひっきょう違法な判断といわざるを得ない。

右の次第で、本件附帯控訴は理由があるので、原判決中被控訴人焼津市の異議申立を却下した部分を取消し、右申立に基く仮処分異議手続につき更に実体的審理を尽させるため、民訴法三八八条により右取消部分を原審に差戻すこととする。

三  よって、控訴審における訴訟費用中附帯控訴にかかる部分を除くその余の部分の負担につき民訴法九五条、八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 井口牧郎 裁判官 内田恒久 藤浦照生)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例