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東京高等裁判所 昭和57年(ラ)199号 決定 1982年4月30日

抗告人

近藤今朝次

右代理人

石田享

相手方

大水建設株式会社

右代表者

竹村征也

右代理人

本村俊学

右復代理人

梶山公男

主文

原決定を取り消す。

相手方の本件強制管理の申立てを却下する。

理由

一本件抗告の趣旨は、主文同旨の裁判を求める、というのであり、その理由は、別紙<省略>記載のとおりである。

二よつて検討するに、本件記録によれば、相手方を債権者とし、抗告人を債務者とする静岡地方裁判所浜松支部昭和五六年(ヨ)第一三三号不動産仮差押申請事件につき、同年一〇月二一日同裁判所により原決定添付物件目録記載の不動産に対する仮差押命令が発せられ、同日中に、その決定正本が債権者である相手方に送達されるとともに、右仮差押えの登記がなされたこと、そして、相手方が同年一〇月二九日にした右不動産に対する強制管理の申立てにより、同年一一月五日同裁判所が右仮差押命令の執行として右不動産に対する強制管理開始決定(原決定)をしたことが明らかである。

ところで、仮差押えは、その命令が言い渡された日又は債権者に送達された日から二週間を経過したときは執行をすることが許されないものであるところ(民事執行法第一七四条第二項)、右のように執行期間を定めた趣旨は、仮差押えの裁判が権利保全の緊急の必要から簡易な手続により発せられるものであることに応じて、その執行も迅速に行われるべきものとし、これによつて、仮差押えの裁判がされた後に事情の変更を生じたために債務者がその執行により不測の損害を蒙ることを防止しようとするにあるものと解される。そうであるとすれば、仮差押えの執行期間が遵守されたというためには、債権者が右期間内に執行の申立てをしたことのみでは足りず、すくなくとも執行機関が右期間内に執行に着手したことを要するものと解すべきである。

これを本件についてみるに、債権者である相手方は、本件仮差押命令の送達を受けた昭和五六年一〇月二一日から二週間以内に右強制管理の申立てをしたが、執行裁判所が右申立てにつき強制管理開始決定をしたのは右送達の日から二週間を経過した後である同年一一月五日であつたのであるから、右強制管理に関しては、本件仮差押えの執行期間が遵守されたものということはできない。

なお、本件においては、前記のように仮差押命令が発せられた当日、仮差押えの登記がされているが、仮差押えの登記と強制管理とは別個の執行方法であつて、強制管理は、仮差押えの登記によつて着手された執行の続行手続ではないから(民事執行法第一七五条参照)、執行期間内に仮差押えの登記がされたからといつて、その期間が経過した後に強制管理の開始決定をすることが許されるものと解する余地はない。

三そうすると、原決定は、執行期間が経過した後になされた執行処分であつて不適法であるというほかはなく、また、本件強制管理の申立ても、既に執行期間が経過した以上不適法であつて却下を免れないものである。

よつて、原決定を取り消し、本件強制管理の申立てを却下することとし、主文のとおり決定する。

(川上泉 橘勝治 山崎健二)

(別紙)添付書類、執行抗告状<省略>

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