東京高等裁判所 昭和57年(行ケ)107号 判決
二 そこで、審決にこれを取り消すべき違法の点が存するかどうかについて判断する。
1 原告は、先ず、本件意匠と引用意匠とは、正面に表された円軌道を構成する模様の態様及び砕石状模様の有無の二点の差異に基づき、全体的に観察すると、全然別異の感じを与えるものであつて、これを類似するものとはいえない旨主張する。
(一) 本件意匠の態様が別紙図面(一)記載のとおりであることは前示のとおり当事者間に争いがなく、これによれば、本件意匠の態様は、全体の基本的形状をやや厚みを有する正方形の板体状(正方形の一辺の長さは厚さの約八・三倍)とし、正方形をなす正面には、その対角位置にある二個の頂角部をそれぞれ中心として、一辺の二分の一の長さを半径とし、両端が右頂角部をはさむ二辺の縁に達する四分の一の円軌道を二個、対角線上に相対向させて、細く浅い溝(その幅は正方形の一辺の約三三分の一、深さは幅の約三分の二)をもつて描き、右円軌道を刻した以外は、正方形の板体の各面を全て平坦無模様としたものである。これに対し、成立について争いのない甲第三号証(引用公報)によれば、引用意匠の態様は、別紙図面(二)記載のとおりであつて、全体の基本形状をやや厚みを有する正方形の板体状(正方形の一辺の長さは厚さの約七倍)とし、正方形をなす正面には、その対角位置にある二個の頂角部をそれぞれ中心として、一辺の二分の一の長さを半径とし、両端が右頂角部をはさむ二辺の縁に達する四分の一の円軌道を二個、対角線上に相対向させて、内外二条の円弧線条によつて画された内部に細かい砕石状の模様を表した細い帯状模様(その幅は正方形の一辺の約一四分の一。なお、前記円軌道の半径とは、右帯状模様の中心までをいう。)をもつて描き、右帯状の円軌道部以外の正面は全体を平坦無模様とし、正方形の板体のその他の面は全て、その表面全体に細かい砕石状の模様を表してなるものである。
(二) そこで本件意匠と引用意匠とを対比すると、両者はともに、基本的形状を正方形の板体状とし(厚さの差異はほとんど無視できる微差にすぎず、原告もこの点は争わないところである。)、その円軌道模様部以外は平坦無模様とした正方形状の正面には、その対角位置にある二個の頂角部をそれぞれ中心として、一辺の二分の一の長さを半径とし、両端が右頂角部をはさむ二辺の縁に達する四分の一の円軌道を二個、対角線上に相対向させて表してなる点において共通することは明らかである。
しかして、右円軌道を構成する模様の具体的態様についてみると、本件意匠は右円軌道を細く浅い溝を刻してなるのに対し、引用意匠にあつては、これより幅広の帯状模様を表してなる点に差異があるけれども、それぞれ全体的に観察すれば、いずれも正方形状の正面に細い線状に表された円軌道模様として看取されるものの範疇を出るものではない。そして、タイルやブロツク等この種物品にあつては、これを本来の用法に従つて同一規格のものを数多く並べて広い平面を埋めるべく敷設していくとき、各個のブロツクの正面模様をいかに関連させるかがとりわけ重要であり、その点にこの種物品の意匠に接する取引者、需要者の注意が強く惹かれることは当然のことというべく、右のとおりいずれも細い線状模様として看取される円軌道模様の配置において本件意匠と引用意匠とは全く同一なのであるから、その模様の具体的態様の差異は単なる細部における微差として、両意匠の類否判断を左右する支配的要素とはなり得ないものというべきである。なお、この点につき、原告は、引用意匠の円軌道模様は、二条の稜線の間を三層にした特殊の模様になつているのに審決はその点を看過しているとも主張するが、引用公報(前掲甲第三号証)の図面によつても、引用意匠の円軌道模様が原告主張のとおりの三層模様になつているかどうかは判然としないのみならず、微細に観察すれば原告主張のとおりになつているものと認められるにしても、結局において、細い線状模様として看取される枠内における微差であるにすぎないから、原告の主張は失当である。
更に、引用意匠では正面以外の各面は全体にわたつて細かい砕石状模様が表されているのに対し、本件意匠ではそのような模様が表されていないとの差異があるけれども、引用意匠における右模様は、引用公報の記載によれば、素材自体の有する自然模様、すなわち、積極的に平滑面を得るために研磨処理、表面処理等をしない限り素材の表面に残らざるを得ない素材自体の表面模様にすぎないものと認められるところであり、タイルやブロツク等この種物品にあつては普通にみられるものである(特に正面以外の各面の如く、本来の用法に従つて敷設したとき表面に現れない面においては、平滑面にしない方がむしろ普通のことと認められる。)から、かかる砕石状模様の有無の差異があるからといつて、両意匠を類似しないとする根拠とはなし得ないところである。
(三) してみれば、本件意匠と引用意匠とは、やや厚みを有する正方形の板体状の正面に細い線状の円軌道模様を同じ態様で配置した点において、看者に強い類似感を与えるものであつて、原告主張の二点の差異にもかかわらず、両者は類似する意匠であるということができるから、これと同旨の審決の判断に誤りはないというべきである。なお、原告は、本件意匠と引用意匠とを類似するというのは従来の審査基準を拡張解釈したものであると主張して、甲第五ないし第八号証の各意匠公報を援用するが、右各意匠公報に示された意匠が登録されているからといつて、本件意匠と引用意匠とが類似するとの前示判断を左右するものでないことは明らかであつて、原告の右主張は到底採用できない。
2 原告は、次に、引用意匠に係る物品の「タイル」は陶磁器製の小片状の板体であることを前提に、本件意匠が土木構造物ないし土木用品に属する「道路用ブロツク」に係るのに対し、引用意匠に係る物品の「タイル」は建築物内外装材であつて、両者は物品の属する分野を全く異にし、これを類似するとはいえない旨主張する。
(一) 引用公報(前掲甲第三号証)によれば、引用意匠は、意匠を現すべき物品を第一二類「タイル」として、昭和一一年五月一九日の出願に基づき昭和一二年一月二八日に登録されたものであり、当時の意匠法施行規則第一〇条においては、意匠を現すべき物品を第一ないし第二四類に区分し、第一二類は「建築物ノ附属品」として、これに属する物品としては、「障子、襖、扉、欄間、欄干、引手、釘隠、柵等」を挙げていたものである。
しかしながら、右の事実から、引用意匠に係る物品の「タイル」が、陶磁器製の小片状の板体で建築物の内外装材に用途が限定されたものということはできない。むしろ、「タイル」なる語は、建築物の壁面や床面に張り付けられて用いられる陶磁器製の板体のみならず、コンクリート、プラスチツク、ゴム、木その他素材のいかんを問わず、道路面や床面等に敷設される板体状の物品についても広く使用されてきたものであつて(成立について争いのない乙第四号証、乙第一一号証、第一四号証、第一五号証参照。なお、成立について争いのない甲第一三号証=意匠分類一覧表=においても、分類L六―三〇の「モザイクタイル及びタイル」は、陶磁器製に限る旨注記されているのであつて、他の素材による「タイル」が存することを当然の前提としているところである。)、引用意匠に係る物品の「タイル」も、右のように素材のいかんを問わないものとみるべきものであつて、その用途としても、単に建築物の壁面や床面に貼りつけて使用されるものに限らず、建物屋外のポーチ 階段、周辺道路や、駅のホーム、階段等の道路面に敷設して使用するものをも含んでいるとみるのが相当である。なお、成立について争いのない甲第一〇号証(杉江製陶株式会社発行の「杉江タイル」と題するタイル製品のパンフレツト)の記載は、なんら右認定、判断の妨げとなるものではない。
(二) してみれば、本件意匠に係る物品「道路用ブロツク」と引用意匠に係る物品「タイル」とは、その物品の用途を共通にするところがあるものというべきであつて、両者を類似するものとした審決の判断に誤りはない。
3 以上のとおりであつて、本件意匠をもつて、意匠法第三条第一項第三号の規定に該当するにかかわらず登録されたものとして、これを無効とすべきものとした審決の判断に原告主張のような違法の点はなく、その他審決にこれを取り消すべき違法の点を見出すことはできない。
三 よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求を失当として棄却する。
〔編註その一〕 本件登録意匠に関する事項は左のとおりである。
原告らは、意匠に係る物品を「道路用ブロツク」として、別紙図面(一)のとおりの態様(ただし、左側面図は右側面図と、平面図は底面図とそれぞれ対称にあらわれる。)によつてなる登録第二九四一〇九号意匠(昭和四一年二月二四日に登録出願され、昭和四四年一月二二日に設定登録されたもの。以下「本件意匠」という。)の共有意匠権者であるところ、被告は、昭和五二年六月二〇日、本件意匠の登録を無効とすることについて審判を請求し、昭和五二年審判第七八七七号事件として審理された結果、昭和五七年三月三一日、本件意匠の登録を無効とするとの審決があり、その謄本は、同年四月二四日、原告らに送達された。
〔編註その二〕 本件に関する意匠は左のとおりである。
別紙図面(一)本件意匠
<省略>
別紙図面(二)引用意匠
<省略>