大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和57年(行ケ)115号 判決 1983年11月08日

原告 関西ヨーグルトン株式会社 外一名

被告 日本ブルガエリー株式会社

主文

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告ら

1  特許庁が、昭和五七年四月一四日、同庁昭和五四年審判第八五五二号事件についてした審決を取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決

二  被告

主文同旨の判決

第二請求の原因

一  特許庁における手続の経緯

原告らは、意匠に係る物品を「包装用容器」とする第五〇二一一九号登録意匠(出願日・昭和四六年一二月二八日、登録日・昭和五四年二月二二日。以下「本件登録意匠」といい、その意匠登録を「本件意匠登録」という。)の意匠権者であるが、被告は昭和五四年七月一〇日原告らを被請求人として本件意匠登録を無効とする旨の審判を請求し、昭和五四年審判第八五五二号事件として審理されたところ、昭和五七年四月一四日本件意匠登録を無効とする旨の審決があり、その騰本は同年五月一七日原告らに送達された。

二  本件登録意匠

本件登録意匠は、その意匠公報(別紙(一)参照)記載のとおりである。

三  審決の理由の要旨

1(本件登録意匠)

本件登録意匠は、別紙(一)のとおり、意匠に係る物品を「包装用容器」としたもののうち、容器入りの乳酸菌飲料複数本を一つにまとめて販売するときに使用する容器と認められるものであり、まず、全体が透明に現われる材料を使用して「五本のヨーグルトを一列状態に密接に内装することができる容器」に形成したものとし、次に販売時には、その容器内に上記のヨーグルト五本を入れて販売するものであると認められる。そして、その意匠に係る形態は、小びん五本を一列状に並べた態様に基き、その外周面の形態がほとんどそのまま現われるように形成したものと認められる。

2(本件刊行物)

(一)  被告提出の株式会社食糧タイムス社発行の新聞「食糧タイムス」昭和四六年一〇月六日号第三頁(記事及び写真。別紙(二)参照。以下「本件刊行物」という。)には、「シユリンク包装に切り換えて、スーパー販売向けにだすヨークのフアミリーパツクのうちの外装体」が掲載されているところ、その構成態様は、小びん五本を並列にきちんとシュリンク包装したもののうち、透明フイルムによって形成した外装体であり、その外装体は、販売しようとする商品を包装したときに、特定した全体の形態を視認することができる有体物と認められる。

(二)  そして、その外装体に係る形態は、本件刊行物に掲載されたものであること及び本件刊行物に関連記事が掲載されていること等の全体から、本件登録意匠の意匠登録出願前、国内において広く知られていたものと認められる。

(三)  しかし、その外装体に係る形態は、シユリンク包装をしたときはじめて特定した全体の形態を視認できるものであり、包装前においては、そのもの自体の具体的で特定した形態を視認することができないものであるから、本件刊行物掲載のものは意匠法により保護を受けることができる物品とは認められず、同法第三条第一項に規定する工業上利用することができる意匠を構成しない。

3(本件登録意匠についての考察)

(一)  本件登録意匠と本件刊行物掲載のものとは、全体として考察すると、その意匠に係る形態とそのものに係る形態とにおいて、同一性の範囲のものと認められる。

(二)  してみると、本件登録意匠は、その意匠に係る形態について創作するに当たり、本件登録意匠の意匠登録出願前、乳酸菌飲料入りの小びん五本を一列状に並べてシユリンク包装をした外装体の形態として国内において広く知られていた形態に基き、その形態がほとんどそのまま意匠に係る物品を「包装用容器」とする意匠に係る形態として現われるように結合したと認められるものである。

(三)  ところで、本件登録意匠の意匠登録出願前、意匠に係る物品を「包装用容器」とする意匠の属する分野においては、その意匠に係る形態について、既存の人形や自動車等の各種造形物の形態、更に、茶箱、ドラム缶、楽器ケース等の各種容体の形態として国内において広く知られていた形態をほとんどそのまま意匠に係る形態にした意匠が多様に存在していた。それらの意匠が存在することから、この種の意匠に係る形態を創作するとき、上記の範囲内の形態であつて、広く知られていた形態に基き、ほとんどそのままを現わしたものにすることは、この種の意匠の属する分野における通常の知識を有する者においては、常識化していたことである。

(四)  以上により、本件登録意匠は、意匠に係る物品を「包装用容器」とする意匠の属する分野における通常の知識を有する者が容易に創作をすることができたものと認められる。

4(結び)

したがつて、本件登録意匠は、意匠法第三条第二項に規定した意匠に該当するものであり、本件意匠登録は、同法第三条の規定に違反してされたものであるから、同法第四八条第一項第一号の規定により、無効にすべきものとする。

四  審決を取消すべき事由

1  意匠法第五二条の規定により準用される特許法第一五三条第二項の規定に違反した点

審決は以下のとおり、審判において被告(請求人)が主張しなかった理由について審理し、これにより本件意匠登録の無効の判断をしたものであるところ、右審理の結果は原告らに通知されず、意見を申し立てる機会が与えられなかったから、審決は、意匠法第五二条の規定により準用される特許法第一五三条第二項の規定に反し、違法である。

(一) 特許無効の抗告審判で審理判断されなかつた公知事実との対比における特許無効原因を審決取消訴訟において主張することの許否について判示した最高裁判所昭和五一年三月一〇日判決(民集三〇巻二号七九頁)の趣旨は意匠法第三条第二項の規定に関しても適用されるべきところ、これによれば、右規定の適用を主張する者は、

<1> 意匠登録出願前に日本国内において広く知られた形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合(物品との関係を離れた抽象的なモチーフとして広く知られた形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合)を個別化し特定して主張立証すること、

<2> 次に、右の広く知られた形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合に基いて、意匠登録出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が容易に意匠の創作をすることができたことを個別化し、特定して主張立証すること(単に「容易に意匠の創作をすることができた」と主張するだけではなく、具体的な証拠とともに特定して立証すること)、

が必要である。

(二) 審判において被告が主張した本件意匠登録の無効原因中意匠法第三条第二項に関するものは、審決によると、

「本件登録意匠の形態は、その意匠登録出願前に日本国内で広く知られていた乳酸菌飲料入り小びん、いわゆるワンウエイ容器を単に五本配列して、これに、これもまた周知の慣用技術である熱収縮性フイルムを使用して成形するシユリンク包装を施して得られた形態を、そのまま意匠の形態としているものであつて、この意匠の属する分野における通常の知識を有する者が極めて容易に意匠の創作をなすことができたものである。そればかりか、本件刊行物(別紙(二))に示すとおり本件登録意匠の意匠登録出願前に同一の形態を有する包装が実施されており、その外装体の形態は、国内において広く知られていたものであるから、本件登録意匠は、容易に創作することができたものである。」

というものである。

すなわち、

(1) その前段の主張において、

(イ) 右<1>に該当するのは、「乳酸菌飲料入り小びん」であり、

(ロ) 右<2>に該当するのは、「右の小びんを単に五本配列してこれに周知の慣用技術である熱収縮性フイルムを使用して成形するシユリンク包装を施して得られた形態を、そのまま意匠の形態としたから容易に創作することができた」ということである。

(2) その後段(「そればかりか」以下)の主張において、

(イ) 右の<1>に該当するのは、「同一の形態を有する包装が実施されており、その外装体の形態」であり、

(ロ) 右<2>に該当するのは、単に「容易に創作することができたものである。」ということである。

(三) これに対し、審決は、

(1) 前記<1>に該当するものとして、前示三3(二)のとおり、「乳酸菌飲料入りの小びん五本を一列状に並べてシユリンク包装をした外装体の形態として、国内において広く知られていた形態」と限定し((二)(2)(イ)を認定)、

(2) 前記<2>に該当するものとして、前示三3(三)のとおり、「本件登録意匠の意匠登録出願前、意匠に係る物品を『包装用容器』とする意匠の属する分野においては、その意匠に係る形態について、既存の人形や自動車等の各種造形物の形態、更に、茶箱、ドラム缶、楽器ケース等の各種容体の形態として国内において広く知られていた形態をほとんどそのまま意匠に係る形態にした意匠が多様に存在していた。それらの意匠が存在することから、この種の意匠に係る形態を創作するとき、上記の範囲内の形態であつて、広く知られていた形態に基き、ほとんどそのままを現わしたものにすることは、この種の意匠の属する分野における通常の知識を有する者においては常識化していたことである。」と認定したのである。

(四) 右(三)(2)すなわち前示三3(三)の説示は、被告が単に「容易に創作することができたものである。」と主張したのに対して、より具体的な資料に基いて認定したものであるが、審決が右のような認定をした資料は原告らに全く開示されていないし、右のような資料に基いて容易に創作することができたものと認定するとの通知も原告らになされていない。

したがつて、審決は、意匠法第五二条の規定により準用される特許法第一五三条第二項の規定に違反するものである。

(五) 後記第三、三1(三)において被告が前示三3(三)の説示は、本件刊行物掲載の外装体の形態に基く容易創作性の認定を補強し、裏付けるための間接事実として付言されたものに外ならないとして主張するところは、以下のとおり、失当である。

(1) 特許(意匠)法における審判では、職権審理主義が採用されているが、審判請求書を被請求人に送達して答弁書提出の機会を与えるなど、告知と聴聞の権利が保障されているものであり、この趣旨及び意匠法第五二条の規定により準用される特許法第一五三条第三項の規定の趣旨からして、同条第二項の規定は、間接事実については審理結果を被請求人に通知することなくすべて職権で判断してもよいとするものではない。審理結果の通知の要否は、あくまで当事者に対して意見を述べる機会を与えるべき事項であるかどうかの観点から判断されるべきものである。

(2) 審判において、被告としては、意匠法第三条第二項所定の「容易に創作することができた」ことについて、具体的事実を主張し、その事実から容易に創作することができた理由を主張すべきであつた(そうすれば、原告らも、右の具体的事実を否認し、容易に創作することができたものではない旨の主張をすることができた。)のに、被告は、全く具体的事実を主張しなかつた。しかるに、審決は、突然、証拠を提示することもなく、前示三3(三)前段のような具体的事実を認定したが、かかる具体的事実は被告から全く主張されなかつたのであるから、原告らとしては答弁もしていない。そして、審決は、右前段のような具体的事実を認定した上、同後段のような認定をしたものである。

してみれば、右前段の具体的事実は、原告らにとつて全く不利益な事実であり、防御の機会を与えられるべき事項であるから、当然その審理結果を原告らに通知して意見を述べる機会を与えるべきものであることは言うまでもない。

2  意匠法第三条第二項所定の要件に関する事実認定の誤り

審決は、乳酸菌飲料入りの小びん五本を一列状に並べてシユリンク包装をした外装体の形態は、本件登録意匠の意匠登録出願前、国内において広く知られていた形態であると認定したが、この認定は誤つており、したがつて、この誤つた事実認定を前提とした審決は違法である。

以下のとおり、右外装体の形態が本件登録意匠の出願前、国内において広く知られていた形態であるということはできない。

(一) 本件刊行物は、単なる業界新聞であつて、その記事は、一記者が聞き込み、記事としたもの、すなわち伝聞証拠そのものであるから、本件刊行物のみによつて周知性を認定することは許されない。

(二) また、本件刊行物掲載の写真は、各別の五本のびんを単に並べてシユリンク包装以外の通常の方法で包装したものを撮影したものであつて、シユリンク包装のものではない。

(三) 本件刊行物に被告が後記第三、二2において指摘援用する(1)ないし(3)の各記事が掲載されていることは認めるが、右各記事の内容は真実ではない。

しかも、右(1)の記事は、「シユリンク包装に切り換える」というだけであつて、「切り換えた」というのではない。右(2)の記事は、醗酵乳「ヨーク」に関するものであつて、「シユリンク包装」に関するものではない。右(3)の記事については、大森機械(工業株式会社)が製作したシユリンク包装機の第一号機は実施不能であつたから、この機械によつて包装されたものが市販されたことは全くない。

第三被告の答弁

一  請求原因一ないし三の各事実は認める。

二  請求原因四の審決取消事由についての主張は争う。

1  意匠法第五二条、特許法第一五三条第二項違反の点について

審決には、以下のとおり、意匠法第五二条の規定により準用される特許法第一五三条第二項の規定に関する違法はない。

(一) 審判において被告が主張した本件意匠登録の無効原因中意匠法第三条第二項に関するものは、請求原因四1(二)の前提部分において引用するとおりであるが、その趣旨は、「本件登録意匠の形態は、その意匠登録出願前に日本国内で広く知られていた乳酸菌飲料入り小びん、いわゆるワンウエイ容器を単に五本配列して、これに、これもまた、周知の慣用技術である熱収縮性フイルムを使用して成形するシユリンク包装を施して得られた形態を、そのまま意匠の形態としているものにすぎないところ、本件刊行物(別紙(二))に示すとおり、本件登録意匠の意匠登録出願前に本件登録意匠と同一の形態を有するシユリンク包装が実施されており、その外装体の形態は国内において広く知られていたものであるから、本件登録意匠は、この意匠の属する分野における通常の知識を有する者が極めて容易に創作することができたものである。」というものである。すなわち、被告は、意匠法第三条第二項の規定の適用を主張するに当たり、同条項にいう「日本国内において広く知られた形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合」として本件刊行物掲載の形態を具体的に特定し、これに基き本件登録意匠は容易に創作できたものであることを無効原因として主張したものである。

(二) これに対し、審決は、請求原因三(審決の理由の要旨)記載のとおり、同1(本件登録意匠)、同2(本件刊行物)(一)、(二)、同3(本件登録意匠についての考察)(一)、(二)等の各事実を認定し、結論として、「本件登録意匠は、意匠に係る物品を『包装用容器』とする意匠の属する分野における通常の知識を有する者が容易に創作をすることができたものと認められる。」と述べ(同3(四))、本件登録意匠は、意匠法第三条第二項に規定した意匠に該当するとした(同4)ものである。すなわち、審決は、本件登録意匠は、意匠登録出願前わが国内において広く知られた形態である本件刊行物掲載の外装体の形態に基き容易に創作できたものであつて意匠法第三条第二項に規定する意匠に該当するものであることを理由に本件意匠登録を無効としたものであり、結局、被告が申し立てた無効原因を採用したものに外ならない。

(三) してみると、審決は、何ら当事者が申し立てない理由について審理したものということはできない。審決と審判請求人たる被告の主張の間において、本件意匠登録の無効原因を構成する主要事実には何らの齟齬も認められないのである。なるほど、審決の記載中、原告らの指摘する請求原因三3(三)説示の事実は、請求人たる被告において格別主張しなかつたところではあるが、右事実は、本件刊行物掲載の外装体の形態に基く容易創作性の認定を補強し、裏付けるためのいわば間接事実として付言されたものに外ならない。したがつて、本来、審判官の判断過程における事実として必らずしも審決に記載することを要しないものであり、また、仮に記載することを要するとしても、間接事実である以上、当事者の主張がなくても審判官は当然にこれを斟酌することができるものである。

なお、原告らは、審決が右のような認定をした資料は原告らに全く開示されていないともいうが、右にいう「資料」が「証拠資料」の意であるならば、証拠資料の不開示は、いずれにしても当事者が申し立てない理由について審判したことには該当しない。

2  事実認定の誤りについて

乳酸菌飲料入りの小びん五本を一列状に並べてシユリンク包装をした外装体の形態は、本件登録意匠の意匠登録出願前、国内において広く知られていた形態であるとした審決の認定に誤りはない。

審決は、請求原因三2(二)のとおり、右外装体に係る形態は、本件刊行物に掲載されたものであること及び本件刊行物に関連記事が掲載されていること等の全体から、本件登録意匠の意匠登録出願前、国内において広く知られていたものと認定したものであるが、本件刊行物は、ヨーグルト業界を含め飲食物関係者に対し全国的に領布されたものであること、本件刊行物には、関連記事として、

(1) ヨーク本社は醗酵乳「ヨーク」を宅配と並行してポリ袋に五本入れて「フアミリーパツク」をつくりスーパーで販売してきたが、販売量の拡大に伴つて合理化を図るため、昭和四六年一〇月中旬からこのフアミリーパツクを写真掲載のシユリンク包装に切り換えること、

(2) 「ヨーク」はスーパー販売において好成績をあげており、毎月取扱店も増え、これに伴つて販売量も増加すると共に販売地域も拡大され、本件刊行物発行の時点では販売地域は東京他関東五県、東北の一部、北陸岡山に及び、日産四五万本強が製造されていること、

(3) このほどヨーク本社関東工場にシユリンク包装機(大森機械製)一台が導入されたが、その機械の能力は毎分八〇パツク(一パツク五本)であつて、取扱い易く陳列効果もよいところから、スーパー側でも大いに歓迎しており、これからも積極的に取扱つていく意向をもつていること、

等が掲載されていることを併せ斟酌すると、前記外装体に係る形態が本件登録意匠の意匠登録出願日(昭和四六年一二月二八日)前に、国内において広く知られるに至つたと認定することは、経験則上むしろ当然というべきである。

第四証拠関係<省略>

理由

一  請求原因一ないし三の各事実は、当事者間に争いがない。

二  そこで、審決を取消すべき事由の存否について判断する。

1  審決取消事由1について

原告らは、まず、審決は、審判において被告(請求人)が主張しなかつた理由について審理し、これにより本件意匠登録の無効の判断をしたものであるのに、右審理の結果は原告らに通知されなかつたから、審決は、意匠法第五二条の規定により準用される特許法第一五三条第二項の規定に反し、違法であると主張する。

(一)  審判において被告が主張した本件意匠登録の無効原因中意匠法第三条第二項に関するものが、請求原因四1(二)の前提部分において引用するとおりであることは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第一号証及び弁論の全趣旨をも斟酌すれば、被告の主張の趣旨は、「本件登録意匠の形態は、その意匠登録出願前に日本国内で広く知られていた乳酸菌飲料入り小びん、いわゆるワンウエイ容器を単に五本配列して、これに、これもまた、周知の慣用技術である熱収縮性フイルムを使用して成形するシユリンク包装を施して得られた形態を、そのまま意匠の形態としているものはすぎないところ、本件刊行物(別紙(二))に示すとおり、本件登録意匠の意匠登録出願前に本件登録意匠と同一の形態を有するシユリンク包装が実施されており、その外装体の形態は国内において広く知られていたものであるから、本件登録意匠は、この意匠の属する分野における通常の知識を有する者が極めて容易に創作することができたものである。」というにあると認められ、請求原因四1(二)における原告ら主張のように右審判における被告の主張を前段と後段(「そればかりか」以下)に分断し、二つの主張が含まれるものとして理解するのは相当ではない。

したがつて、被告は、審判において意匠法第三条第二項の適用を主張するに当たり、同条項にいう「日本国内において広く知られた形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合」として本件刊行物掲載の外装体の形態を具体的に特定し、これに基き本件登録意匠は容易に創作できたものであることを無効原因として主張したものであることが認められる。

(二)  これに対し、前示のとおり当事者間に争いのない請求原因三の事実(審決の理由の要旨)によれば、審決は、

(1) 本件登録意匠に係る形態は、小びん五本を一列状に並べた態様に基き、その外周面の形態がほとんどそのまま現われるように形成したものであること(請求原因三1)、

(2) 本件刊行物には、シユリンク包装に切り換えて、スーパー販売向けにだすヨークのフアミリーパツクのうちの多装体が掲載されており、その構成態様は、小びん五本を並列にきちんとシユリンク包装したもののうち、透明フイルムによつて形成した外装体であること(同三2(一))、

(3) 本件刊行物掲載の外装体に係る形態は、本件刊行物に掲載されたものであること及び本件刊行物に関連記事が掲載されていること等の全体から、本件登録意匠の意匠登録出願前、国内において広く知られていたものであると認められる(同三2(二))が、ただ、包装前においては、そのものの自体の具体的で特定した形態を認識することができないから、「物品性」の要件を満たさず、意匠法第三条第一項に規定する工業上利用することができる意匠を構成しないこと(同三2(三))、

(4) 本件登録意匠に係る形態と本件刊行物掲載の外装体に係る形態とは、同一性の範囲のものであること(同三3(一))、

(5) してみると、本件登録意匠は、意匠登録出願前、乳酸菌飲料入りの小びん五本を一列状に並べてシユリンク包装をした外装体の形態として国内において広く知られていた形態すなわち本件刊行物掲載の外装体に係る形態に基き、その形態がほとんどそのまま、意匠に係る物品を「包装用容器」とする意匠に係る形態として現われるように結合したものであること(同三3(二))、

(6) 本件登録意匠の意匠登録出願前、意匠に係る物品を「包装用容器」とする意匠の属する分野においては、既存の人形等の各種造形物の形態、茶箱等の各種容体の形態として国内において広く知られていた形態を、ほとんどそのままに現わした意匠が多様に存在していたことから、広く知られている造形物・容体の形態に基き、ほとんどそのままを現わしたものにすることは、この種意匠の属する分野における通常の知識を有する者においては常識化していたこと(同三3(三))、

を認定し、結論として、本件登録意匠は、意匠に係る物品を「包装用容器」とする意匠の属する分野における通常の知識を有する者が容易に創作をすることができたものと認められる(同三3(四))とし、本件登録意匠は、意匠法第三条第二項に規定した意匠に該当するとした(同三4)ものである。

(三)  すなわち、審決は、本件登録意匠は、審判において被告が意匠法第三条第二項の適用を主張するに当たり、その意匠登録出願前「日本国内において広く知られた形状模様若しくは色彩又はこれらの結合」として具体的に特定した本件刊行物掲載の外装体に係る形態に基き、容易に創作をすることができたものであり、したがつて同条項に規定する意匠に該当するものであることを理由に本件意匠登録を無効としたものであるから、結局、被告が申し立てた無効原因を採用したものに外ならず、何ら当事者が申し立てない理由について審理したものということはできない。

(四)  もつとも、右(二)(6)(請求原因三3(三))の説示が触れる事実自体は、審判において被告の主張しなかつたところではあるが、審決の論旨とするところは、前示のとおり、本件登録意匠は、本件刊行物掲載の外装体に係る形態、すなわち、その意匠登録出願前、乳酸菌飲料入りの小びん五本を一列に並べて(シユリンク)包装をした外装体の形態として国内において広く知られていた形態を、意匠法第三条第二項にいう「広く知られた形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合」として、その形態がほとんどそのまま意匠に係る物品「包装用容器」とする意匠に係る形態として現われるように結合したものであると認定したものであり、右(二)(6)(請求原因三3(三))説示の事実は、単にその容易創作の判断に至る推論の過程をより具体的に説示すべく、意匠の分野における当業者の常識の一端に触れ、参考として例示的にあげたに過ぎないものであり、この挙示事例を意匠法第三条第二項にいう容易創作の根拠たる「広く知られた形状……」等そのものとしたものではないから、意匠法第五二条の規定により準用される特許法第一五三条第二項にいう「理由」(本件事案においては無効事由ないしその根拠となる事実)に当たるものではない。

したがつて、右(二)(6)(請求原因三3(三))説示の事実について通知することを要する旨の原告らの主張は根拠を欠き、失当である。

(五)  以上によれば、審決に意匠法第五二条の規定により準用される特許法第一五三条第二項の規定に関する違法は存しないものといわなければならない。

2  審決取消事由2について

原告らは、次に、乳酸菌飲料入りの小びん五本を一列状に並べてシユリンク包装をした外装体の形態は、本件登録意匠の意匠登録出願前、国内において広く知られていた形態であるとした審決の認定は誤りであると主張する。

(一)  成立に争いのない甲第一号証及び証人松井恒吉の証言並びに弁論の全趣旨によれば、本件刊行物(すなわち、株式会社食糧タイムス社発行の新聞「食糧タイムス」昭和四六年一〇月六日号第三頁の記事及び写真。別紙(二)参照)掲載のものは、現実にシユリンク包装の方法によつて包装したものであるかどうか明らかではないものの、シユリンク包装をした場合のあるべき形態の見本として作られたものであり、乳酸菌飲料入りの小びん五本を一列状に並べてシユリンク包装をした外装体の形態として掲載され、本件刊行物を見る者にもそのようなものとして理解されるものであることが認められるし、業界新聞であつて、ヨーグルト業界を含め飲食物関係者に対し全国的に領布されたものであることが認められる本件刊行物への右掲載によつて、少なくとも、乳酸菌飲料入りの小びん五本を一列状に並べてほとんどそのままの結合の態様で包装(包装方法として、シユリンク包装であるか否かが、本件登録意匠の要件にかかわりのないことは、別紙(一)によつても明らかである。)をした外装体の形態は、本件登録意匠の意匠登録出願前、国内において広く知られていたものと認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。

(二)  したがつて、審決に原告らの主張の事実認定の誤りは存しないものといわなければならない。

三  よつて、審決の違法を理由にその取消を求める原告らの本訴請求は、理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条、第九三条第一項本文の各規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 舟本信光 竹田稔 水野武)

別紙(一)

意匠公報

出願 昭 四六・一二・二八 意願 昭 四七―八七六 登録 昭 五四・二・二二

審判 昭 五一―五〇五五

創作者 池田盛人 大阪市此花区春日出町下一丁目一二番地

意匠権者 関西ヨーグルトン株式会社 吹田市南吹田一丁目五―二四

代理人弁理士 大島武夫 外一名

意匠に係る物品 包装用容器

説明 本物品は、参考図に示す通り、五本のヨーグルトを一列状態に密接に内装し、一商品とするようにしたものである。背面図は正面図と、左側面図は右側面図と同一にあらわれる

別紙(二)<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例