東京高等裁判所 昭和57年(行ケ)131号 判決
一 請求の原因一及び二の事実は当事者間に争いがない。
二 そこで、審決にこれを取り消すべき違法の点があるかどうかについて検討する。
1 本願商標からは「ロツト」の称呼が、引用商標(成立について争いのない甲第二号証によれば、その構成は、別紙第二図のとおりである。)からは「ロツド」の称呼がそれぞれ生じることは明らかであつて、この点は原告も自認するところである。
そこで右の両称呼を対比すると、両者は語尾において「ト」と「ド」の差異を有するものではあるが、その他の音の配列を共通にし、それぞれこれを一連に称呼するときは、語頭部の「ロ」が促音「ツ」を伴うために、「ロ」の母音(O)の発音が強まるとともに語尾音がこれに吸収されて弱まり、更に、語尾音自体も「ト」と「ド」の清音と濁音の差にすぎず、いずれも舌尖を上前歯のもとに密着して破裂させて調音する音であり、しかも母音(O)を共通にしているのであるから、両者は語調、語感が近似し、ことに電話等による繁忙な取引場裡においては、彼此聴き誤まるおそれがあるものといわざるを得ない。原告は、「ロツト」にあつては語頭の「ロ」が、「ロツド」にあつては語尾の「ド」がそれぞれ強く発音されるとして、両者は語韻、語調を全く異にする旨主張するけれども、両者を原告主張のように区別して発音するのが一般の例であるとは到底認めることができず、原告の右主張は採用できない。
2 原告は、更に、本願商標と引用商標とは観念において顕著な差異があること、及び本願商標に接する取引者、需要者は、本願商標をアスレチツクシユーズ専門メーカーとして世界中に著名な原告の商号を示す商号商標であると認識するのと一体不可分に本願商標は「ロツト」と称呼されるものであるとすることを根拠に、本願商標から生じる「ロツト」と、引用商標から生じる「ロツド」の称呼は明確に区別して聴取されるから、本願商標と引用商標とは称呼においても類似するものではない旨主張する。
しかしながら、商標を付された商品がその商標から生じる称呼により口頭で取引きされることがあるのは明らかであるところ、取引者、需要者が本願商標の指定商品を取引きするに当たり、「ロツト」と称呼すれば、その相手方はこれを「ロツド」と聴き誤まるおそれはないとするほど、アスレチツクシユーズ専門メーカーとしての原告の商号が著名であることを認めるに足る証拠はないから、本願商標と引用商標とがその称呼において前判示のとおり互いに類似しているものと認められる以上、そこに混同を生じるおそれがあることも当然である。したがつて、原告の挙げるような事由をもつては、本願商標と引用商標とが称呼において類似しないとする根拠とはなし得ないところであり、原告の右主張も採用できない。
3 以上のとおりであるから、本願商標と引用商標とは称呼において類似する類似の商標と認むべく、その指定商品において抵触するものがあることも明らかであるから、本願商標は商標法第四条第一項第一一号に該当し、これを登録することができないとした審決の判断になんら誤りとすべき点はない。
4 その他審決にこれを取り消すべき違法の点は見出すことができない。
三 よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求を失当として棄却する。
〔編註その一〕 本件の商標関係は左のとおりである。
原告は、昭和四九年二月一九日、一九七三年(昭和四八年)九月一九日にイタリア国においてした商標登録出願に基づく優先権を主張して、別紙第一図記載のとおりの図形及び文字からなる商標(以下「本願商標」という。)について、第二四類「おもちや、人形、娯楽用具、運動具、つり具、楽器、演奏補助品、蓄音機、レコード、これらの部品及び附属品」を指定商品として商標登録出願(昭和四九年商標登録願第二二四〇〇号)をし、昭和五三年一〇月二四日付け出願変更届をもつて右出願を登録第一〇〇四七一九号商標と連合する商標登録出願に変更したところ、昭和五四年九月二〇日拒絶査定があつたので、昭和五五年一月一〇日、これに対して審判を請求し、更に、同年一一月二一日付け手続補正書をもつて指定商品を第二四類「登山くつ、スキーぐつ、スケートぐつ、ホツケーぐつ、陸上競技用ぐつ、マラソンぐつ、サイクリング用くつ、その他の運動用特殊ぐつ」とする旨の補正をしたが、右審判請求については、特許庁昭和五五年審判第七一四号事件として審理された結果、昭和五七年一月八日、本件審判の請求は成り立たないとの審決があり、その謄本は、出訴のための附加期間を三か月と定めたうえ、同年二月一七日、原告に送達された。
〔編註その二〕本件に関する商標は左のとおりである。
(別紙)
第一図 本願商標
<省略>
第二図 引用商標
<省略>