東京高等裁判所 昭和57年(行ケ)139号 判決
二 そこで、本件審決に、本願意匠と引用意匠との対比にあたり、類否判断を誤つた違法があるか否かについて検討する。
1 成立に争いのない甲第二、第四号証及び乙第一号証によると、本願意匠と引用意匠は、ともに歯ブラシに関する意匠であつて、その形態はいずれも、一枚の縦長板状の基台をほぼ一対一対二の比でブラシ部、首部及び柄部とし、ブラシ部は正面よりみてほぼ長方形とし、その前面に先端を細く四角形状に束ねた毛束を縦に数個を一列として横三列に植毛し、首部は中間で両側を内方へくびれさせ、側面よりみてブラシ部の植毛のほぼ中間位置の高さまで斜に彎曲させ、柄は下端の幅を上部の幅の約三分の二とした先細り状で、下部中央に小孔をもうけた点で共通していることが認められる。
そして、以上認定の諸点は、歯ブラシとしての基本的構成態様にかかるものであつて、これを総合すると、歯ブラシの意匠として全体的なまとまりを形成すべきものであることが明らかであるから、これらの基本的構成態様は、当然に歯ブラシとして看者の注意を惹くものというべく、歯ブラシに関する意匠の要部をなすものというに妨げないところである。
本願意匠と引用意匠との対比にあたり、右と同趣旨の認定をし、これを前提として両意匠の類否を判断した本件審決の認定判断は正当というべきである。
原告は、本件審決は本願意匠と引用意匠との類否判断をするにあたり、物品の形状を単に物理的に把握したのみで、これが有する美感を捨象して共通点を措定したにすぎず、各主要部の認定は根拠なくされたものである旨主張するが、原告の主張は、意匠を構成する各部分を個別的に取り出して比較し、その形状の異同を個別的に論じ、意匠の類否を微視的に定めようとするものであつて、採るをえない。意匠は物品の外観であり、その類否の判断は、各個別的要素を総合した全体的観察によるべきものであるから、本件審決の認定判断の過程に何らの過誤もないものである。
2 前掲甲第二、第四号証によると、本願意匠(前者)と引用意匠(後者)とは、植毛部において、前者は、各毛束が正面よりみると正方形状に束ねられ、これを一単位として縦一一個・横三個の列に植毛され、側面よりみると、各毛束が外側から内芯に向かつて順次高くなる三段差を形成して内芯先端部が細くなり、各毛束の先端の高さが等しく、全体として平坦な表面を形成しているのに対し、後者は、各毛束が正面よりみると縦長の長方形状に束ねられ、これを一単位として縦五個・横三個の列のほかその上方に二個植毛され、側面よりみると、各毛束は先端がなだらかな弧状を描くように細くされていて、上端部の毛束がいくぶん長く形成されている点で形状が相違しており、ブラシ部において、前者はやや角張つているのに対し、後者は円みを帯びている点で形状が相違し、また、柄部において、前者は、基台の幅が中間部において広く、首部接続部と下端部においてゆるやかに細くなり、下端部の小孔が円いのに対し、後者は、基台の幅が首部接続部において広く、下端部に向かつていくぶん細くなつており、下端部の小孔が縦長の長方形状である点で形状が相違していることがそれぞれ認められる。
このように、本願意匠と引用意匠との間には、各部を仔細にみると差異点も種々認められるが、これらの差異点は、さきに認定した両意匠に共通する基本的構成態様としての意匠の要部と対照すると、歯ブラシの意匠としてはいずれも全体的印象を左右するほどのものではなく、特に原告の強調する植毛部の毛束の先端の態様も全体的にみると細部の形状にすぎず、全体的観察における基本的構成態様から受ける基調を変えるほどのものとはいえない。本件審決が両意匠に共通する要部のほか、認定した相違点はすべて部分的微差にすぎず、意匠の類否を左右するに至らない旨説示したことはもつともであり、その認定判断に過誤はないというべきである。
その他原告はるる述べるところがあるが、意匠の全体的観察における基本的態様の把握から外れた微視的所論であつて、採るに足りないものである。
3 したがつて、本願意匠と引用意匠とを全体として観察し対比すると、前記1のとおり両者は要部において共通するものであるから、客観的には看者に対して両者類似との印象を与え、前記2の相違点はいずれもこの印象を左右するに足りないものというべきであるから、両者は意匠全体として類似するものというべく、これと同旨の本件審決の認定判断は結局正当に帰する。
三 以上によると、審決を違法としてその取消を求める原告の請求は理由がないので、これを棄却する。
〔編註〕 本件に関する意匠は左のとおりである。
一(本願意匠)
<省略>
二(引用意匠)
<省略>