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東京高等裁判所 昭和57年(行ケ)160号 判決

一 請求の原因一ないし三の事実は当事者間に争いがない。

二 請求の原因四、1、(一)の事実は当事者間に争いがない。成立に争いのない甲第二号証(本件特許公報)により、本件発明の実施例と認められる別紙図面(一)に即して本件発明の設備をみると、設備全体は耐火煉瓦製中空竪形の円筒形状の構造体であること、加熱コークスの冷却関連装置として、円筒形上部にその装入装置(装入口)7、下部に排出装置(排出口)8があり、その間に後記分配溝の上部に加熱コークスを貯蔵する円筒形の上方部分4(以下「予備チヤンバー」という。)とこれと隔壁なく連通し加熱コークスを冷却ガスにより冷却するための空間である同下方部分1(以下「冷却室」という。)が設けられていること、ガス流通関連装置として、冷却室1下部に冷却ガス吹込装置2、3及び予備チヤンバーの下端部(冷却室1の上方)に内壁に沿い等間隔に配置された傾斜状の分配溝(ガス分配溝)5が予備チヤンバーを囲む環状溝(環状捕集溝)6(冷却室の加熱コークスにより加熱された冷却ガスを捕集しボイラーへ送る装置)と連通して設けられていること、加熱コークスは先ず予備チヤンバーに装入され、冷却室1のコークスが取出されるのに応じて同室に連続的に供給されるため、同室1には常時加熱コークスが定量確保されることとなり、その結果、コークスを冷却し環状溝6を通してボイラーヘ送られる排出冷却ガスの温度は一定に保たれること、分配溝5が冷却室1の上方の環状溝6と連通しているため、吹込装置2、3からの冷却ガスを均一に環状溝6に送り、冷却室1内のコークスを均一に冷却することができることが認められる。

このように、本件発明の設備では、ボイラーへ送られる排出ガスの温度を一定にする機能は予備チヤンバーにより、加熱コークスを均一に冷却すべく冷却室1内に冷却ガスを均一に分布させる機能は分配溝5及び環状溝6によりそれぞれ営まれているものということができる。

三 そこで、第三引用例記載の発明の設備における分配溝について検討する。

1 請求の原因四、1、(二)の事実は当事者間に争いがない。成立に争いのない甲第五号証によれば、本件特許出願前外国において頒布された刊行物である第三引用例記載の発明の設備全体は、別紙図面(四)のとおり、上部が円筒形状、下部が逆円錐形状の構造体であること、粒状物加熱関連装置として、円筒形上部にその装入装置1、粒状物が加熱されるための空間である円筒形の上方部分2及び同下方部分3が設けられていること、粒状物冷却関連装置として、円筒形下方部分3の下に冷却するための空間である逆円錐状部分6、その下部に冷却粒状物の取出装置7が設けられていること、加熱用ガス流通関連装置として、下だき用燃焼室11から導管14を通して送られてくる掃気ガス(五〇〇度ないし七五〇度)を円筒形上下部分2、3に噴出させるためのノズルをもち同部分に垂直状におかれた分配管8、右掃気ガスを冷却装置へ送るべく集合させるための環状の空間である吸出溝4が設けられていること、冷却ガス流通関連装置として、逆円錐状部分6に冷却ガスを吹込む装置12、右冷却ガスを下だき用燃料室11へ送るべく集合させるための環状の空間である吸出溝5が設けられていることが認められる。

2 原告は吸出溝4の下にある切れ目状の空隙(別紙図面(四)の○印の箇所)が本件発明の設備における分配溝に相当する装置である旨主張する。なるほど、同図面が設備全体の垂直断面図であるところからみて、右切れ目状部分が吸出溝4から円筒形内部に向け設けられた溝の断面図であると推認することができなくもない。しかして、本件発明の設備における環状溝6が捕集するのはコークス冷却に用いられたガスであり、第三引用例記載の発明の設備における吸出溝4が捕集するのは粒状物の加熱に用いられたガスであるが、右の捕集ガスの性状の差はしばらく措くとして、ガスの円筒形内部における均一分布という観点から眺めると、右切れ目状部分が環状の吸出溝4の下面に一連に環状に形成されているか、これに等間隔に近接して配置された多数の溝でなければ、右切れ目状の部分と吸出溝4とが相俟つてガスの均一分布という機能を果たし得ないことは明らかである。ところが、第三引用例(甲第五号証)に添付されている別紙図面(四)からは、右切れ目状部分が吸出溝との関連でいかなる状態で形成されているのかはこれをうかがい知ることができないし、右切れ目状部分には符号が付されておらず、同引用例の本文中にはこれに関する記載は全くない。そうだとすると、捕集ガスの均一分布のため、容器上方の環状溝と容器内部の空間とを前記のような複数の溝を介して連通させる構成が本件特許出願前当業者の慣用技術であつたことが認められない限り、別紙図面(四)から第三引用例の右切れ目状部分が本件発明の分配溝に相当すると認めることは無理である。

3 そこで、右構成が慣用技術であつたかどうかについて判断するに、成立に争いのない甲第六号証によれば、原告が指摘する米国特許第一五二四七八四号明細書は石炭、亜炭、泥炭、木材等の燃料を乾溜してこれらから種々の品質のガスを得る方法に関する発明であるが、同発明にかかる設備として添付されている図面において、一見環状溝と分配溝のごとくみられる環状通路9とこれに接続する通路8、環状通路11とこれに接続する通路10、通路(環状のものと認められる)13とこれに接続する通路12はいずれもガス供給又は導入装置であつて使用され又は発生したガスを捕集する装置ではないこと、使用され又は発生したガスは通路3を経て排出されるが、右通路3は一方向の直線状をなしているから乾溜室1内のガスを均一化するための直接的な機能を有することはないことが認められる。

また、成立に争いのない甲第七号証によれば、原告が指摘する英国特許第四六九一七五号明細書は燃料を通して高温ガスを循環させることによつて燃料の炭化を改良する方法に関する発明であるが、同発明にかかる設備として添付されている図面において、一見環状溝と分配溝のごとくみられる全体として環状をなす腰当て管4とシヤフト1に連通しているその複数の口はガス導入装置であつて、使用され又は発生したガスを捕集する装置ではないこと、使用され又は発生したガスは冷却器12へ向うが、冷却器12への入口は一方向の直線状をなしているから、シヤフト1の上部炭化空間内のガスを均一化するため直接的な機能を有することはないことが認められる。

したがつて、原告の指摘する右各明細書には前記構成は示されておらず、ほかに前記構成が本件特許出願前慣用技術であつたことを認めるに足りる証拠はない。

4 以上のとおりであるから、第三引用例には吸出溝4と相俟つてガスを均一に分布する機能を有する分配溝の開示があるものと認めることはできない。

四 成立に争いのない甲第三、第四号証によれば、本件特許出願前外国において頒布された刊行物である第一及び第二引用例には、審決認定のとおり、前記二に認定した本件発明の設備における冷却ガスによる冷却手段及び予備チヤンバーに相当する部分を備えたコークス冷却設備及び予備チヤンバーを備えたことによる本件発明と同様の効果について開示されていることが認められる。しかし、以上述べたように、本件発明の設備における分配溝が第三引用例記載の発明に開示されていると認めることはできず、他方、前掲甲第二号証によれば、前記二に認定した冷却手段、予備チヤンバーと相俟つて、コークス冷却に用いられたガスを捕集する環状溝とともに分配溝を備えることにより、本件発明においては安定で均質な冷却されたコークスを得ることができるという効果を奏しているものと認めることができるのであるから、本件発明は第一ないし第三引用例記載の発明に基づいて当業者が容易になし得たものということはできない。

五 以上と同趣旨の審決の判断は正当であるから、その取消を求める本訴請求を失当として棄却する。

〔編註その一〕 本件における発明の要旨は左のとおりである。

上部に装入装置を、下部に吹込み装置と排出装置を、また加熱された瓦斯を環状溝を通してボイラーへ供給するための分配溝を有する垂直なシヤフトを備えたコークス及び他の原料の乾式急冷設備であつて、瓦斯排出溝の上部にある予備チヤンバーが前記設備へ加熱コークスを供給することが短時間断絶した際、ボイラーへ送る瓦斯の温度を一定に保持するだけの量の加熱コークスを保持するために設備されていることを特徴とするコークス及び他の原料の乾式冷却設備。

〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。

別紙図面(一)

<省略>

別紙図面(二)

<省略>

別紙図面(三)

<省略>

別紙図面(四)

<省略>

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