大判例

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東京高等裁判所 昭和57年(行ケ)168号 判決

(争いのない事実)

一 本件に関する特許庁における手続の経緯、本願考案の要旨及び本件審決理由の要点が原告主張のとおりであることは、当事者間に争いがない。

(本件審決を取り消すべき事由の有無について)

二 原告は、本件審決は、第一引用例の貯水槽が、水の注入により水圧で順次膨脹して満水状態で所定の形状に膨らむように構成されている、との誤つた認定をし、かつ、本願考案の有する特有の作用効果を看過した結果、本願考案をもつて第一引用例及び第二引用例から極めて容易に考案をすることができたものとの誤つた結論を導いたものであり、違法として取り消されるべきである旨主張するが、原告の右主張は、以下に説示するとおり、すべて理由がないものといわざるを得ない。

1 前示本願考案の要旨に成立に争いのない甲第二号証(本願考案の実用新案登録願書並びに添付の明細書及び図面)及び第三号証(手続補正書)によれば、従来の飲料水、防火水等の貯溜用の組立式水槽は、帆布等で円筒形に水槽本体を形成し、周囲にパイプ材等のフレームを囲撓組着し、本体の胴周をバンドで囲撓して外形を保形する、というようなものであつたため、組立が面倒で、時間を要し、主に災害時の飲料水の供給や防火水槽等に用いる組立式水槽としては不利であり、また、構造も複雑でコストが高く、一般的でなかつたことから、本願考案は、右問題を解決し、折り畳み自在で携行、格納に頗る便利であると共に、使用時には、単に展開してホースで水を填入するだけで自動的に半球状に膨脹し、所定量の水を貯溜して、飲料水や防火水の水槽あるいは消火剤等の液槽、更には組立式プールとして用いることができる水槽を提供することを目的として、前示本願考案の要旨(本願考案の明細書の実用新案登録請求の範囲の項記載と同じ。)記載のとおりの構成を採用し、右の構成により、<1>折畳自在で、不使用時には、折り畳んで外形を可及的に小として、携行、格納に頗る便利であると共に、使用時には単に展開してホースで水を填入するだけで自動的に半球状に膨脹して所定量の水を貯溜し、飲料水や防火水あるいは消火剤等の液槽として用いることができる、<2>水槽として組み立てるに際しても、従前のような特別の水槽保持手段は一切不要で、単に水取入口から水を注入するだけの作業で水槽を形成でき、水槽組立作業を画期的に簡易化することができる、という作用効果を挙げ得たものであることが認められる。

これに対し、成立に争いのない甲第四号証の一(第一引用例)によれば、第一引用例は、名称を「貯水槽」とする考案であつて、その実用新案登録請求の範囲の項には、被覆布からなる貯水槽の側壁の一部又は全部が二次曲面で構成され、かつ、水圧により生じる側壁の張力を側壁被覆布の織目に対してバイヤス方向に作用させることにより、自立安定化し得るように構成されたことを特徴とする貯水槽が記載され、また、その第二図には、一実施例の中間段階を示す扇状の側壁裁断図が、第三図a及び第四図aには、引用例に係る考案の一実施例として、円形の底壁を有し、かつ、縦断面図が半円形となつている貯水槽が、第八図及び第九図には、側壁を二次曲面で構成した場合には、織目に加わる張力では織目がずれないが、一次曲面及び平面で構成した場合には、織目に加わる張力によつて織目が横方向へずれることが、それぞれ示されていること、並びに第一引用例の貯水槽は、これを形成する被覆布が可撓性を有する素材で柔軟性を有し、右の構成からみて、折り畳むことができるものであることを認めることができる。

2 そこで、右認定したところにより、本願考案の水槽と第一引用例の貯水槽(第三図a及び第四図a参照)を対比すると、両者とも、折り畳むことができるものであり、底壁を構成する円形底片の周縁上に、扇状周片を放射状に配設して重合すると共に、該周片の側縁を隣接するそれぞれと重合連結して水密に一体化して作られていることは、明らかである。

ところで、前掲甲第二号証によれば、本願考案の明細書の考案の詳細な説明の項には、「水の袋体12内への填入で、水の表面張力と水圧によつて順次周壁14を押し拡げて膨張させ」(明細書第四頁第一八行ないし第二〇行)との記載があるところ、本願考案に係る水槽を形成する袋体が、水の注入により水圧で順次膨脹して満水状態で所定の形状に膨らむのは、<1>水槽を形成する袋体の素材として可撓性の材料を用い、<2>当該袋体を、円形底片の周縁上に扇状周片を放射状に配設して重合すると共に、周片の側縁を隣接するそれぞれと重合連結して水密に一体化して作る、という二つの要件を備えていることによることは、前認定の本願考案の構成に照らし、明らかであつて、第一引用例の貯水槽は、前認定のとおり、本願考案の右構成と同様な構成をも有するから、側壁の一部又は全部を二次曲面で構成し、かつ、水圧により生じる側壁の張力を側壁被覆布の織目に対してバイヤス方向に作用させることにより、貯水槽の自立安定化を計るという構成と共に、水の注入により水圧で順次膨張して満水状態で所定の形状に膨らむように構成されているものと認めることができる。

そうすると、本件審決が、第一引用例の貯水槽は、水の注入により水圧で順次膨脹して満水状態で所定の形状に膨らむように構成されている貯水槽である、と解した点に何ら誤りはなく、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。また、前認定のとおり、素材及び形状についての本願考案の構成と第一引用例の構成が異ならない以上、第一引用例においても本願考案が奏する前示作用効果と同一の作用効果を奏するものと認めるべきであるから、本願考案と第一引用例との間に、原告の主張するような顕著な作用効果上の相違があるということはできず、したがつて、原告の主張は理由がないものというほかない。

なお、原告は、第一引用例の考案の進歩性についての疑念と本願考案と第一引用例の考案との構成上及び作用効果上の相違を前提として、第一引用例について進歩性が認められたのであるから、本願考案についても進歩性を認めるべきである旨縷々主張するが、本願考案が進歩性を有するかどうかは、第一引用例記載の考案自体の進歩性の有無とは関係がないことは論をまたないところであり、また、前認定説示のとおり、第一引用例は、本願考案と同様、底壁を構成する可撓性の円形底片の周縁上に、該底片と同素材の扇状周片を放射状に配設して重合すると共に、該周片の側縁を隣接するそれぞれと重合連結して水密に一体化して作られ、かつ、その貯水槽は水の注入により水圧で順次膨脹して満水状態で所定の形状に膨らむように構成されており、作用効果においても本願考案と差異がないから、いずれにしても、原告の右主張は、失当といわざるを得ない。

(結語)

三 以上のとおりであるから、その主張のような違法のあることを理由に本件審決の取消しを求める原告の本訴請求は、理由がないものというほかはない。よつて、これを棄却することとする。

〔編註〕 本願考案の要旨は左のとおりである。

底壁を構成する可撓性の円形底片aの周縁上に、該底片aと同素材の扇状周片b……を放射状に配設して重合し、且つ該周片b……の側縁を隣接する夫々と連結して水密に一体化して頂部に水の取入口13を有する撓曲する袋体12を形成し、この袋体12の周壁の一部には水を導出する取出口を設けてホース15を連結し、前記取入口13から水を注入することにより前記袋体12が水圧で順次膨脹して満水状態で所定の形状に膨むように構成したことを特徴とする水槽。

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