東京高等裁判所 昭和57年(行ケ)174号 判決
事実及び理由
(争いのない事実)
一 本件に関する特許庁における手続の経緯、本願考案の要旨及び本件審決理由の要点が原告主張のとおりであることは、本件当事者間に争いのないところである。
(本件審決を取り消すべき事由の有無について)
二 原告は、本件審決は本願考案と引用例記載のものとの相違点及び本願考案の作用効果についての認定ないし判断を誤り、その結果、誤つた結論を導いたものである旨主張するが、次に説示するとおり、本件審決の認定判断は正当であり、原告の主張は、すべて理由がないものというべきである。
1 前記本願考案の要旨並びに成立に争いのない甲第三号証(昭和五四年四月二日手続補正書―第四図)、第四号証(昭和五七年二月一六日付手続補正書―全文補正明細書並びに第一図及び第五図)及び第六号証(実用新案登録願書並びに明細書及び第二、第三図)を総合すれば、本願考案は、機枠に装架した左右の車輪をその機枠に装備せしめた原動機により走行させるタイプの苗植機を対象とするものであるところ、右のタイプの苗植機は、機枠の下面側にフロートを装架するとともに、そのフロートの左右の両側に車輪を配位して機枠に装架し、機枠の後端部に左右両側に植付機構をそれぞれ装設した伝導機筐を装架した二条植の歩行型の苗植機をベースとして発展した専用機であり、そのことから、植付条例を更に二条増やした従来の四条植の苗植機は、本願考案の図面第4図に実線で示すような構成、すなわち、切欠状の均平部dが後端部の左右両側に形成してあるフロートaを中央にして、そのフロートaの左右の両外側に、切欠状の均平部dを左右の一側にだけ設けたフロートaを、それの均平部dが、前記中央のフロートaに設けてある均平部dと隣接対向する状態にしてそれぞれ配設して、フロートaが三連に並列する状態とし、そして、それら三連に並列したフロートa……が形成する二つの間隔部D・Dの後端部の上方に、左右の両側に植付機構c・cが装設してある伝導筐Aをそれぞれ配設し、また、左右の車輪b・bは、三連に並列するフロートa・a・aの左右の外側位置に配設すると、車幅が極端に広くなつて回行性が悪くなることから、前述の三連に並列するフロートa……が形成する二つの間隔部D・D内にそれぞれ配設し、これにより、三連のフロートa・a・aに、左右に植付機構c・cが装備されている伝導機筐Aを二連に組み合わせた構成となり、したがつて、四条植から更に植付条列を二条増やして六条植にするには、前述の四条植の苗植機の二連に並列する伝導機筐A・Aの左右の一側に、もう一つの伝導機筐Aを前記第4図に鎖線で示すように追加並設して、植付機構cが六連に並列するようにし、更に、この追加して並設した伝導機筐Aの左右に装備されている植付機構c・cが植え付けていく苗床を形成するために、右の第4図で鎖線に示すようにフロートaを追加並設して構成するようになるところ、このように構成される六条植の苗植機には、四条植の苗植機に比して、フロートaを一つ追加する分だけ機幅が広くなる問題と、左右の車輪b・bを四条植の苗植機のときの位置のままにしておくと左右のバランスが悪くなり、また、フロートaを追加した側に位置する車輪bを、追加したフロートaにより新たに形成された間隔内に位置させてバランスを良くするようにすると、左右の車輪b・bの間隔が広くなつて回行性を悪くするという問題があるので、本願考案は、六条植の苗植機に生ずる前述の問題を解消せしめて、六条植の苗植機を、それの機幅及び車輪幅(左右の車輪の間隔)が従前の四条植の苗植機の機幅及び車輪幅とほとんど変わりなくしながら、左右のバランスが良好になり、かつ、左右の車輪が並列するフロートの間隔内に位置して、植付作業中に該車輪により生ずる泥流波が、植付けを終えている隣接する苗株条列にかぶることのない状態となるよう構成することを目的として、本願考案の要旨(実用新案登録請求の範囲と同じ。)のとおりの構成を採用し、これにより、その目的を達し、所期の作用効果を奏し得たものであることを認めることができる。
ところで、引用例には、本件審決認定のとおりの構成の苗植機についての記載があること、並びに本願発明の前記構成と引用例との間に、本件審決認定のとおりの構成上の一致点及び相違点があることは原告の自認するところ、原告は右相違点についての本件審決の認定ないし判断を争うから、この点について検討するに、成立に争いのない乙第一号証(実用新案出願公告昭四九―二〇一七九号実用新案公報、昭和四九年五月三〇日公告)によれば、右の実用新案公報には、「機枠1の前部にエンジン2を搭載し後部に四条の苗植付け装置3を連設し、この機枠1の両横側部に一対の推進用車輪4、4が、前記エンジン2に連動連結して設けられ、かつ、機枠1から下部に整地面付フロート5を連設してなる田植機において、該フロート5を前記車輪4、4間の中央部フロート5aと各車輪4、4の横外側部に位置する側部フロート5b、5bとの三つのフロートから構成し、各フロート5a、5b、5bには苗植付凹部5cを夫々形成し、この苗植付凹部5cと機枠1に連設した苗箱6との間で循環軌跡を描いて苗を植付けるよう前記苗植付け装置3の各植付け爪7を設け、前記側部フロート5b、5bの前半部を前記車輪4、4の両外側部を挟むように設け、かつ、中央部フロート5aの前端部を両側部フロート5b、5bの前端部位置よりも後方側にあらしめて構成した」(乙第一号証の第一頁第一欄第三五行ないし第二欄第一三行)整地作用面付田植機が記載されていること(別紙図面(五)参照)が認められ、右事実によれば、右の乙第一号証記載の整地作用面付田植機は、三連のフロートの間に車輪を配位し、二つの植付け爪(7)・(7)を有する苗植付け装置(3)を二つ並列に設けた構成を採用するものであり、また、成立に争いのない乙第二号証(実用新案出願公告昭四九―二〇一八〇号実用新案公報、昭和四九年五月三〇日公告)によれば、右実用新案公報にも、右と同様の構成を採用した整地面付田植機が記載されていることが認められるほか、前掲甲第三号証によれば、本願考案の図面第4図に従来の四条植苗植機として図示されたものも同様の構成のものということができ(なお、本願考案の図面第4図に図示されたものが、右乙第一、第二号証のものと同様の構成のものであることは、原告の認めるところである。原告は、本願考案の図面第4図のものは、原告会社内で研究の過程で作られた実験機で公知のものではない旨主張するが、甲第三号証には、右第4図のものは、従来の四条植苗植機であると明記されており、弁論の全趣旨に徴しても、右原告の主張は、認めるに足りないから、採用の限りでない。)、したがつて、本件審決認定のとおり、同じ型の苗植装置を有するものを二つ並列に設けたものは、本願考案の実用新案登録出願前周知であるということができるところ、苗植機において、二条植から四条植、四条植から六条植と植付けの条数を増加させれば、それだけ苗植の効率が良くなることは、当然のことというべきであるから、右認定の周知技術を転用して、引用例に記載された苗植機の両側に、車輪(4)、(4)を介在させた状態で、同様のフロート及び植付け爪を有する植付機構をそれぞれ配設してフロートを三連並列した六条植の苗植機とすることは、当業者が極めて容易に想到することができたものと認めるのが相当である。なお、原告は、引用例記載の苗植機の両側に、フロートと伝導機筐とを組み合わせたものを配位して、フロートを三連に併設させたときに、車輪がフロート間に位置するように構成することの困難性を主張するが、前認定のとおり、車輪をフロート間に位置せしめる技術的思想は前記周知例に開示されているから、フロートを三連に併設させたときに、車輪をフロート間に介在させることは、前段説示のとおり格別の工夫を要するものではなく、原告の右主張は、採用の限りでない。次に、原告は、本願考案の実用新案登録出願前の四条植の苗植機は、本願考案の図面第4図にみられるような三連のフロートと二連の伝導機筐との組合せか、甲第五号証の第2図(別紙図面(四))にみられるような二連のフロートと一連の伝導機筐との組合せのいずれかであり、同じ型の苗植装置を有するものを並列させる数と並列させるフロートとの連数とは無関係であり、また、フロートを並列させる連数と植付機構の連数も無関係である旨主張するところ、本願発明が本願考案の図面第4図のものを前提としたものであることは、前認定の本願発明の目的等に照らし、明らかであるけれども、引用例記載の苗植機において、フロート(1)とミツシヨン部(5)とを二つ並列させ、原動部(2)を二つのフロートの間に配置すれば、二連のフロートと二つの伝導機筐との組合せが得られるのであるから、四条植の苗植機にあつては前記二つの組合せのいずれかであるとし、そのことを前提として同じ数の苗植装置を有するものを並列させる数と並列させるフロートとの連数とは無関係であるなどという原告の主張は理由がないものといわざるを得ない。また、原告は、二連に並列するフロートに対し左右に植付機構を具備する伝導機筐を二つ並列させて四条植の苗植機に構成したものは従前存在しないから、同じ型の苗植装置を有するものを二つ並列に設けたものが、本願考案の実用新案登録出願前に周知であつたとしても、そのことは、引用例に記載のものの両側に、同じ型の苗植装置を有するものとフロートとを配設してフロートを三連に並列した六条植の苗植機とすることが極めて容易に想到し得るとする理由となるものではない旨主張するが、たとえ、二連に並列するフロートに対し左右に植付機構を具備する伝導機筐を二つ並列させて四条植の苗植機に構成したものが従前存在しなかつたとしても、引用例に、本願考案と同様の、フロートの後端部の直上方位置に伝導機筐を配置させ、この伝導機筐の両側に植付機構を設けたものの開示がある以上、これに前認定の周知技術を転用して、引用例記載の装置を三つ並列に設けることは、当業者が極めて容易に想到し得るものというべきであり、したがつて、原告の右主張も採用するに由ない。更に、原告は、引用例記載の二条植の苗植機と乙第一号証及び第二号証記載の四条植の苗植機とは、伝導機筐及びフロートの配置構成を異にするものであるから、引用例並びに乙第一号証及び第二号証記載の技術をもつて、引用例記載の構成に対し本願考案のその余の構成を付加することを極めて容易になし得るとする理由とすることはできない旨主張するが、乙第一号証及び第二号証は、苗植機において同じ型の苗植装置を二つに並列に設けるという点が周知技術であることを証するものであるところ、本願考案が引用例記載の技術及び右の周知技術に基づいて当業者が極めて容易に想到し得るものであることは、前説示のとおりであつて、右の配置構成の相違は、右の判断を妨げるものではない。
2 次に、原告は、本願考案の作用効果は、引用例に記載されたもの及び周知技術から予測し得る以上の格別顕著なものがある旨主張するが、引用例記載の苗植機において、その両側にこれと同様なフロート、植付機構を配置して(したがつて、車輪はフロート間に配置される。)、本願考案のような構成を採用することは、前説示のとおり格別の工夫を要するものではなく、そのような構成とした場合、左右のバランスをよく保持し得るものであることは、当業者であれば当然に予測し得るところと認められるから、左右のバランスを保持できるという本願考案の効果は格別のものではなく、また、右のように配置すれば、従来の四条植の苗植機のフロートを三連設けたものと機幅は変わらず、車輪の位置も変わらず、その数も増えるわけではないから、車輪幅も増えないことも、格別のこととは認められず、更に、引用例記載の苗植機において、その両側にフロートを設けてその上方に植付機構を設ければ(引用例の場合、植付機構はフロートの上方に設けられている。)、車輪は、フロート間に存在することになるから、走行中に生ずる車輪による泥流波は、フロート間にとじ込められ、側方に向かわないことは、前認定の周知例の構成から、当然に予測し得ることであり、更にまた、フロートの間に苗植付装置を設けたものはフロートの幅だけ、また、フロートの外側に車輪を設けたものは車輪の幅だけそれぞれ枕地が生じることは、前認定の周知例(前掲乙第一号証)の苗植機の構成及び引用例記載の苗植機の構成から、予め知られていたことと認められるから、本願考案のように車輪をフロートの間に設けるとともに、フロートの上方に苗植付装置を設けたものにおいては、枕地が最小限となり、畦畔の近くまで苗を植え付けることができることは、当然に予測し得ることと認められる。原告は、本願考案の六条植の苗植機は、従前の四条植の苗植機をそのままベースとしてこれに二条植の植付機構を付加したものとの対比において作用効果が顕著である旨主張するが、本願考案の作用効果は、前示のとおり、引用例記載のもの及び周知技術から当然に予測し得るものであるから、右主張は、理由がないものといわざるを得ない。したがつて、原告の叙上主張は、いずれも採用することができない。
3 してみれば、本願考案は引用例記載のもの及び周知技術に基づいて当業者が極めて容易に考案することができたものであるとした本件審決の認定判断は正当であり、原告主張のような違法はないものというべきである。
(結語)
三 以上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法のあることを理由に本件審決の取消しを求める原告の本訴請求は、理由がないものというほかはない。よつて、これを棄却することとする。
〔編註その一〕本願考案の要旨は左のとおりである。
後端部の左右両側部位に平面において切欠状に均平部(2)を具備するフロート(1)を、三連に並列し、それら三連のフロート(1)・(1)・(1)の各後端部位の直上方位置に、左右両側に植付機構(40)・(40)を夫々支持せしめた伝導筐(14)を夫々配位し、前記三連のフロート(1)・(1)・(1)が形成する二つの間隔部D・D内に左右の車輪(30)・(30)を夫々配位して、それらを機枠(10)に装架せしめるとともにその機枠(10)には前記植付機構(40)……に苗株を供給する苗タンク(22)を装架し、前記左右の車輪(30)・(30)及び植付機構(40)……を機枠(10)に装架せる原動機(20)と伝導機構を介し伝導せしめて構成したことを特長とする六条植の苗植機。(別紙図面(一)参照)
〔編註その二〕本件に関する図面は左のとおりである。
別紙図面(一)
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