東京高等裁判所 昭和57年(行ケ)211号 判決
一 請求の原因一及び二の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、審決にこれを取り消すべき違法の点が存するかどうかにつき検討する。
1 原告は、本願意匠と引用意匠とは、意匠に係る物品において類似するものではない旨主張する。
本願意匠の意匠に係る物品はハムフライであるところ、ハムフライという物品が、ハムのまわりにころもをつけて一定の形にまとめたものの外側にパン粉をまぶし、これをフライにして食する食品であることは、日常一般の公知の事実に属し、成立について争いのない甲第二号証により認められる願書添付の図面中の意匠の説明中に被告指摘の記載があることを認定に供するまでもなく、認められるところである(本願意匠の意匠に係る物品のハムフライが右と異なるものであるというためには、願書記載の「ハムフライ」なる語が通常のものとは異なる特別の態様のものを指称するものとして使用されていることを、願書の記載に即し、原告において主張、立証すべきものであるが、そのように認むべき証拠は、なんら提出されていない。)。一方、成立について争いのない甲第三号証の一、二によれば、引用項目には物品ミンチカツレツに係る意匠が記載されているものであつて、該ミンチカツレツは、ひき肉をコートレツト形にまとめたものの外側にパン粉をまぶし、これをフライにして食する食品であると認められる。
右両物品を比較すると、両者はともに肉類を食するための加工食品であつて、材料を一定の形にまとめたものの外側にパン粉をまぶし、これをフライにして食するという点においても共通し、両者は互いに類似する物品であると認めるのが相当である。原告の前記主張は採用できない。
2 原告は、次に、審決は引用項目記載の六個の意匠の全部との対比をしていないし、また、そのいずれをも対比の対象として挙げていないので、引用意匠の特定に欠けるから、審決は違法である旨を主張する。
前掲甲第三号証の一、二によれば、引用項目中には、別紙図面(二)のとおりの図版をもつて、六個のミンチカツレツの形状が示されており、右六個の物品の形状は、これを仔細に検討すれば、その小径端部(別紙図面(二)の上段の三個にあつては右上端部、下段の三個にあつては左下端部)の全体に占める割合や突出の程度、輪郭線における陥凹部の位置や大きさ等において若干の相違があるけれども、全体の形状は、いずれもコートレツト形にまとめたものとして互いに酷似するところであり、審決が引用意匠として認定したものが、右六個の全部を対象として認定しつつ論述の煩を避けるため一個についての認定形式で記載した趣旨なのか、あるいは、そのうち特定の一個を対象として選定しこれについて記載した趣旨であるのかについては、成立について争いのない甲第一号証を併せ検討しても、審決において明らかにされているとはいえないところである。
しかしながら、審決は引用項目記載の意匠を公知意匠として引用して本願意匠の登録を拒絶すべきものとしたのであるから、その結論が維持されるためには、引用項目に本願意匠に類似する意匠が少なくとも一つ特定されるべく記載されていれば足り、引用項目記載の六個の意匠が全部本願意匠に類似することまでを要しないというべきである。しかして、前認定の引用項目記載の六個の物品の形状相互の関係に照らせば、審決が引用意匠として認定するものは、右六個のいずれを選定して論述したものと解しても、その認定及び本願意匠との対比判断の当否を検討することが可能であり、また、右六個に共通する同一類型の意匠としても、たやすく把握できる態のものであるといえるから、審決がこの点を明らかにしていないのは、必ずしも当を得たものとはいえないけれども、これをもつて審決を違法ということはできず、原告の前記主張は、結局、採用できない。
3 原告は、引用項目の記載からは、引用意匠が紙面に垂直方向にいかなる形状を呈しているかを把握できず、本願意匠と対比するに由ない旨を主張する。
前掲甲第三号証の一、二によれば、引用項目には、ひき肉をコートレツト形、すなわち小牛等のロースの部分の断面の形にまとめてミンチカツレツにしたものであるとの説明を付して、別紙図面(二)のとおりの図版が記載されているものである。右のとおりひき肉をコートレツト形にまとめたものという以上、これが日常一般に板状であることは明らかであり、右図版は、かかる板状を呈したミンチカツレツの意匠を、コートレツト形をした平面部分の形状が最もよく視認できるように、平面方向から撮影して図示したものと認められ、該図示されたところから、板状をなしたミンチカツレツの意匠を認識するのになんらの困難もない。
してみれば、引用項目に記載されたミンチカツレツの意匠が板状を呈しているものと認定し、これを本願意匠と対比することになんら不都合な点はなく、原告の前記主張は採用できない。
4 原告は、更に、本願意匠と引用意匠とはその態様を異にし、類似するものではない旨主張する。
前掲甲第二号証、第三号証の一、二によれば、審決が本願意匠と引用意匠とを基本形状、詳細な形状に分説して認定のうえこれを対比し、両者は類似するものであるとしたところは、審決が引用意匠としているものを、引用項目記載の別紙図面(二)の下段中央のミンチカツレツに係る意匠として理解すれば(ちなみに、他の五個のミンチカツレツの形状も同一類型の意匠に属するものとして把握することも難くない。)、そのまま全て正当であると是認することができる。この点につき、原告の主張に鑑み、若干付言すれば、本願意匠は願書添付の図面によつて明らかなとおり、やや厚い板状を呈するものと認められるにすぎず、板状というよりむしろ立体として視覚されるということはできないところであり、結局、やや厚いとはいつても板状として視覚されるものの域を出るものではないから、この点の差異をもつて引用意匠と類似しないとすることはできない。また、引用意匠(別紙図面(二)の下段中央のもの)も、審決認定のとおり、平面が全体として変形勾玉状の板状をなすものとして視覚されるものと認められ、あくまで異質な形状を組み合わせたものとしてしか視覚されず、一体として変形勾玉状をなすものと視覚されるのを妨げられるような点があるものとは、到底認められない。更に、前記1において説示したところから既に明らかなとおり、本願意匠の意匠に係る物品はハムフライであり、そうである以上、これは一番外側にパン粉をまぶした物品と認めるのほかはなく、本願意匠の形状もそのような物品に表わされるものであることを考慮して判断されなければならないものである。してみれば、本願意匠は、願書添付の図面に記載されたところからのみ理解されるような、積木玩具や模型様の表面平滑で面と面のつけ合わせ部分がシヤープに角ばつた固い外観を呈するものではなく、表面にパン粉をまぶした状態にあつて、輪郭線には細かい凹凸があらわれ、面と面とのつけ合わせ部分も角ばらないものであるものと認めることができる。これと同旨の審決の判断は正当であつて、これをもつて願書添付の図面によつて現わされた出願意匠の内容を変更して解釈するものであるとの非難は当を得ない。けだし、このような場合には、意匠に係る物品の記載との対応関係において、図面の記載が不正確であることが明らかな場合というべく、右不正確な部分を補正して出願意匠の態様を判断することになんら不都合な点はないからである。
したがつて、本願意匠と引用意匠とは互いに類似するとした審決の認定、判断は、少なくとも引用項目記載の六個の意匠のうち一個についてはそのまま正当として是認できるのであるから、引用項目に本願意匠と類似する意匠が記載されているとして、これを引用のうえ本願意匠の登録を拒絶すべきものとした審決の結論は、引用項目記載の他の五個の意匠については逐一検討するまでもなく、正当であり、原告の前記主張は採用できない。
5 以上のとおりであるから、審決の取消事由として原告の主張するところはいずれも理由がなく、その他審決にこれを違法として取り消すべき点を認めることはできない。
三 よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求を失当として棄却する。
〔編註〕 本件に関する意匠は左のとおりである。
別紙図面(一) 本願意匠(ただし、色彩の表示は省略)
<省略>
<省略>
別紙図面(二) 引用意匠
<省略>