東京高等裁判所 昭和57年(行ケ)215号 判決
一 請求の原因一ないし三の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、原告が主張する審決取消事由の存否について検討する。
1 被覆材の表面摩擦抵抗について
成立に争いのない甲第二号証の一ないし五によれば、本願考案の被覆材について、実用新案登録請求の範囲では、「ゴム、合成樹脂、ゴムと合成樹脂の混合材、またはこれらに異物を混入したものであつて弾性を有すると共に表面摩擦抵抗を有する被覆材」と記載するにとどまり、その表面摩擦抵抗の大きさについて何も限定していないし、被覆材の材料の一つとして合成樹脂を示していながら、その種類・摩擦抵抗の大きさについても何ら限定はしていない。そして、また、考案の詳細な説明においても、「面板2……の表面がゴム等の表面摩擦抵抗のある材質なので、」(甲第二号証の五、四頁五行、六行)、「その被覆材3により大なる摩擦抵抗を受けて滑落が防止される。」(同四頁八行、九行)、「被覆材3の摩擦抵抗が顕著なる効果を発揮して、その滑落を有効に防止する。」(同四頁一一行ないし一三行)、「表面抵抗を有する被覆材3により大なる摩擦抵抗を発揮し、」(同五頁一一行、一二行)とあるだけで、被覆材自体としての摩擦抵抗の大きさについてはいうまでもなく、その材料の一つである合成樹脂の種類及びその摩擦抵抗の大きさについても具体的に何も記載していない。したがつて、被覆材の材料の一つである合成樹脂を限定して解釈すべき根拠はないので、本願考案における被覆材は、合成樹脂でゴムのような弾性を有すると共に表面摩擦抵抗を有するものすべてを含むものといわなければならない。
これに対し、成立に争いのない甲第四号証及び乙第二号証の一ないし六によれば、第二引用例に示された芯板2を内在するパレツト主体1として形成される高圧発泡ポリエチレンは、「耐衝撃性、……に秀れており、」(一欄二六行、二七行)と記載されているように、弾性があり、適度の軟かさを持ち、その表面が、圧接された物品の形状になじんで若干変形するものであることが認められ、表面摩擦抵抗を具備するものであるということができる。
なお原告は、第二引用例に示される高圧発泡ポリエチレンは倍率一・五ないし二のものであり、市販の商品である合成木材CK―Eと同等のものであるとして、これを根拠に、本願考案との間における表面摩擦抵抗の差異を主張するが、成立に争いのない甲第五号証(クラボウ・クランウツドのカタログ)によると、そこに記載されている合成木材CK―Eがポリエチレン系の発泡体であり、その発泡倍率は、比重から推定して第二引用例に示されている高圧発泡ポリエチレンの発泡倍率と同程度のものであることが認められるとしても、同種の高圧法ポリエチレン発泡体であることを示す記載はなく、かえつて、その表皮は特殊加工によつて高密度の固いスキン層を持つと記載され、前掲甲第四号証によればこの点で第二引用例のものとは異なることが認められるから、そのスキン層の特性を根拠に第二引用例のものの表面摩擦抵抗と本願考案のものとの対比を論ずることは当を得ないものであり、この点に関する原告の主張は採用できないものといわねばならない。
そうしてみると、前記認定の本願考案における被覆材には、第二引用例のパレツト主体1を形成する高圧発泡ポリエチレンが包含されるものであり、その被覆材としての表面摩擦抵抗についても、本願考案と第二引用例との間に本質的な差異はないといわねばならない。
したがつて、この点に関する審決の判断に誤りはない。
2 芯材の剛性について
前掲甲第二号証の一ないし五によれば、本願考案の芯材について、実用新案登録請求の範囲では、「剛性を有する芯材」と記載するにとどまり、その剛性の程度について、具体的に曲げ強度等の数値限定は全くないし、考案の詳細な説明においても、「剛性を有する芯材」(甲第二号証の五、三頁六行)、「芯材4として木製合板又は単なる板を用いたものでもよく、……芯材4を金属板とし、この金属板の両側縁を内側方に彎曲して断面Cの字状のフレームとした構成でもよく、……芯材4として、鋼管などの金属製中空パイプを複数本用いた構成でもよく、要するに芯材4としては所定の剛性を有するものであればよい。」(同三頁八行ないし一五行)、「芯材4には金属製、木製などの剛性材料を用いているためにたわみがなく、構造的に頑強であり、」(同五頁、一行ないし三行)、「剛性を有する芯材4により頑強となるという構造的な利点」(同五頁九行、一〇行)とあるだけで剛性についての数値限定はなく、たゞ実施態様として、芯材として金属、木材等が挙げられているものの、「要するに芯材4としては所定の剛性を有するものであればよい。」(前掲三頁一四行、一五行)との記載に徴すれば、右材料に限定されるものでないことも明らかであり、要するに被覆材の剛性不足を補い、荷役用パレツトとしての使用に耐える必要な機械的強度を具備する芯材をすべて包含するものといわねばならない。
これに対し、前掲甲第四号証によれば、第二引用例に記載された積載用パレツトは、「高圧発泡ポリエチレンからなる主体層内に、中低圧発泡ポリエチレンの芯板を内在するものであるからその機械的強度を一層大ならしめ、大なる重量の貨物を積載してもパレツトが撓むことがない。」(二欄二行ないし六行)とされるものであるから、その芯板は、前記認定の本願考案における剛性を有する芯材の要件を備えるものといわなければならない。
なお原告は、第二引用例の芯板2として示される中低圧発泡ポリエチレンが、市販の商品である合成木材CK―Eと同等のものであるとし、このことを根拠として、本願考案における芯材との剛性の差異を主張するので、念のため付言するに、前掲甲第五号証によつても、第二引用例の芯板2として用いられる中低圧発泡ポリエチレンが合成木材CK―Eを構成するものと同質のものであることを示す記載のないことは、前1項判示と同様であり、仮に同質のものがあつて原告主張のような曲げ強度のものを含むものであつたとしても、前掲甲第五号証には、右合成木材CK―Eの用途としてパレツトが記載されているので、第二引用例の芯板もパレツトとして用いることのできる剛性を有することは明らかであるから第二引用例の芯板の剛性に関する前記認定を何等左右するものではない。
したがつて、本願考案の芯材と第二引用例記載のものの芯材とが均等物であるとした審決の認定に誤りはない。
3 作用効果について
以上のとおり、原告が本願考案の特徴とする表面摩擦抵抗を有する被覆材及び剛性を具備する芯材は、何れも第二引用例に記載の積載用パレツトに開示されており、更に成立に争いのない甲第三号証によれば、第一引用例には、面板を基材に取付けてなる荷役用パレツトが記載されているから、本願考案は第一引用例及び第二引用例に記載のものから当業者がきわめて容易に考案することができたものであり、原告が主張する本願考案の奏する効果も、前掲甲第二号証の一ないし五、第三号証、第四号証によれば、何れも第一引用例、第二引用例に記載されたものから予測できる範囲を出るものではなく、結局、第一引用例、第二引用例を根拠として本願考案をきわめて容易に推考できるものとして、その進歩性を否定した審決の判断に誤りはない。
三 そうすると、審決の違法を理由にその取消を求める原告の請求は理由がないから、これを棄却することとする。
〔編註〕 本願考案の要旨は左のとおりである。
ゴム、合成樹脂、ゴムと合成樹脂の混合材、またはこれらに異物を混入したものであつて、弾性を有すると共に表面摩擦抵抗を有する被覆材にて、剛性を有する芯材を被覆して面板を形成し、この面板を基材に取付けてなる荷役用パレツト。