東京高等裁判所 昭和57年(行ケ)220号 判決
事実及び理由
(争いのない事実)
一 本件に関する特許庁における手続きの経緯、本願考案の要旨及び本件審決理由の要点が原告主張のとおりであることは、当事者間に争いがない。
(本件審決を取り消すべき事由の有無について)
二 原告は、本件審決が、本願考案をもつて、第一引用例及び第二引用例から極めて容易に考案することができるものであるとした点において、判断を誤つたものである旨主張するが、その理由がないことは、以下に説示するとおりである。すなわち、
前記本願考案の要旨に成立に争いのない甲第二号証の二中図面(出願当初の明細書添付の図面)及び同号証の五(昭和五三年二月一七日付けの手続補正書により全文補正された明細書。以下「本件明細書」という。)によると、本願考案は、カーテン、ブラインド、タペストリー又はスクリーン等(以下「スクリーン等」という。)を捲取り、懸垂させる捲取懸垂装置に装着されているシート状のスクリーン等を、その終端あるいは始端において固定、更には捲取懸垂方向に多数連続させるための固定及び連結装置の改良に関する考案であつて、従来は、スクリーン等とパイプ等の固定及び連結装置とを一体的に固定していたため、スクリーン等の端部を加工するのに多くの作業と高度の熟練とを必要としたばかりか、スクリーン等とパイプ等のいずれにも互換性がないため、室内の模様替え等のためスクリーン等を交換しようとする場合には、スクリーン等を切断したり、パイプ等を破壊したりしなければならず、著しく不便であつたところ、本願考案は、前示本願考案の要旨のとおり(本願考案の明細書中「実用新案登録請求の範囲」の項の記載と同じ。)の構成とし、これにより、ジヨイント部の本体の連結室内への挿通係合、すなわち、スクリーン等の取付けと交換とが簡易・迅速・容易となり、スクリーン等の末端固定処理はもとより、多数連続させて大面積のタイプのものも容易かつ短時間に組み立てることができるようになるとともに、ジヨイント部の芯となるリボンは、連結室内で斜めに係合されるから、隔壁と一体となつた本体、リボンが共に剛性であることとあいまつて、連結状態は堅固で安定したものとなり、スクリーン等が大きく、それ自身が相当な重量を有する場合でも、ジヨイント部が装入切欠から抜脱することなく、連結室内での係合状態は一層堅固なものとなり、その安定性を増大させる、という効果を奏しうるものであることを認めることができる。
これに対し、成立に争いのない甲第三号証の一(第一引用例)によれば、第一引用例は、名称を「すだれ連結杆」とする考案であるところ、複数個のすだれを連結して一個のすだれとすることを目的とし、この目的達成のための構造として、すだれの条の若干を、力心軸の左右に連成した可撓性の締り口を有する左右の室内に収嵌し、締り口でもつて条と条の間の編糸を締着し、かつ、条を被覆してこれを懸止し、左右のすだれを、連結杆で一個のすだれに連成する、という構成が開示されていることが認められ、かつ、右構成によれば、締り口から外出しているすだれに牽引荷重がかかると、力心軸の左右に連成した可撓性の締り口を有する左右の室内に収嵌される若干のすだれの条が、可撓性翼片の弾力によつて挟持されると共に、可撓性翼片の内面に懸かり、懸止される、という係合関係が生じることが容易に推認できる。また、成立に争いのない甲第三号証の二(第二引用例)によれば、第二引用例は、名称を「車輛用カーテン」とする考案であるところ、製作及び組立てが簡単で、未熟者でも短時間で作成することができる、堅牢で取扱いに便利な車輛用カーテンを提供することを目的とし、この目的達成のための構造として、上面にスリツトを有する剛性の部材からなる断面C字状の裾棒の空洞内に、帯状芯金を取りつけたカーテン生地の末端を挿入し、裾棒の両端に端金を取りつけることを特徴とする構成が開示されていることが認められ、かつ、右構成によれば、カーテンに牽引荷重がかかると、カーテン生地末端を帯状芯金に包装して数個所鋲着してなるジヨイント部が、裾棒のスリツトの両側の張り出し部分に懸かつて懸止される、という係合関係が生じることが容易に推認できる。
以上認定の本願考案と第一引用例の各構成及びその構成に示された技術的思想を対比すると、第一引用例の考案の「すだれ」が本願考案の「シート状のスクリーン等」に、同じく「連結杆」が「パイプ状本体」に、同じく「力心軸」が「隔壁」に、同じく「締り口」が「装入切欠」にそれぞれ相当し、両者は、共に、シート状のスクリーン等を連結、固定することを目的としてシート状のスクリーン等とその固定及び連結装置を別体としたもので、パイプ状の本体の軸に沿つて、その内部を上下の連結室に区画する隔壁を設け、更に本体壁には、連結室それぞれと外部とを連通させる装入切欠を開窄し、連結室内にスクリーン等の端部を挿入して固定及び連結する装置である点において、その構成及び技術的思想を同じくするが、本件審決認定のとおりの二点(請求の原因三項(1)及び(2)の点)において相違することを認めることができる(本願考案と第一引用例とが叙上の点において相違することは原告の自認するところである。)。なお、原告は、本願考案は、剛性部材を用いているのに対し、第一引用例は、可撓性部材を用いている点において相違し、これによる作用効果も異なる旨主張するが、剛性部材を用いることは、第二引用例に示されており、また、その使用する部材として、可撓性のものを用いるか、あるいは剛性のものを用いるかは、当業者がその用途に従つて、適宜に選択しうる事項にすぎず、したがつて、それによる作用効果も予測の範囲を出ないものとみるを相当とするから、原告の右主張は、採用するに由ない。
ところで、右相違点のうち、スクリーン等の端部に芯金を固定してなるジヨイント部を設ける本願考案の構成が第二引用例に開示されていることは、前認定の第二引用例の構成に徴し、明らかである。
次に、右相違点のうち、本願考案における、ジヨイント部のリボンの形状を平板なものとし、その幅を、本体の連結室における隔壁幅より小さく、連結室の高さより大きいものとし、スクリーン等の牽引荷重により、連結室内に挿入したジヨイント部のリボンの一方側縁を隔壁内側面に、他方側縁を本体壁内周面に当接して連結室内で斜めに係合させる点について検討するに、本願考案の叙上の構成は、ジヨイント部を本体の連結室に容易に挿入できるようにするとともに、装入切欠から外出しているスクリーン等の牽引荷重によりジヨイント部が連結室の装入切欠から抜脱することがないよう固定するためにほかならないところ、ジヨイント部の大きさを連結室に挿入自在にし、かつ、本体から離脱しにくいようにした構成は、前認定の第二引用例のこの点の構成に照らし、第二引用例の構成と基本的に同一の技術的思想に基づくものと認められ、更に、本願考案におけるジヨイント部を連結室内で斜めに係合させる態様(本願考案においてジヨイント部の幅を限定しており、これが連結本体内でジヨイント部を斜めに係合させるためであり、右構成によりスクリーン等の牽引荷重と相まつて、スクリーン等を固定する作用をすることは、前認定のとおりである。)を、第二引用例が採つていないことは、前認定の第二引用例の構成から明らかであるが、右第二引用例の構成からみると、本願考案におけるジヨイント部と本体との右係合関係は、その使用態様により当業者が適宜選択しうる程度のものと認められるのであつて、格別の考案力を要しないものとみるを相当とし、また、本願考案の右構成による前認定の作用効果も予測しうる範囲を出ないものといわざるをえない。原告は、本願考案においては、スクリーン等の牽引荷重が負荷されたとき、ジヨイント部は連結室内で斜めに係合されるから、吊り方向でのがたつきがあつてもそれは僅かであるばかりか、連結室内で本体壁及び隔壁内側面に突つ張り状となるから、第二引用例の端金のような特別ながたつき防止手段は不要である旨主張するが、本願考案は前認定のとおり、スクリーン等の端部固定及び連結装置に関するものであるから、原告主張のように吊下げ方向での多少のがたつきがあつても、牽引荷重時に安定すれば十分目的を達するのであつて(第二引用例においては、車輛用カーテンとしての使用態様から、がたつきがあることが好ましくないことは、明らかである。)、本願考案のジヨイント部と本体との係合関係は、それゆえにこそ、使用態様に応じて、適宜選定しうる事項と認められ、これによる作用効果も前説示のとおり期待できるところであり、原告の上記主張は、採用することができない。
叙上認定説示したところによると、本願考案は、第一引用例及び第二引用例から極めて容易に考案することができる程度のものとみるを相当とし、この点について本件審決に誤りがある旨の原告の主張は、失当というべきである。
(むすび)
三 以上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法のあることを理由に本件審決の取消しを求める原告の本訴請求は、理由がないものというほかはない。よつて、これを棄却することとする。
〔編註〕本願考案の要旨は左のとおりである。
適当長の剛性パイプ状本体内部に、この本体軸に沿つて本体内部を上下の連結室に区画する隔壁を一体に設け、更に本体壁には、連結室夫々と外部とを連通させる装入切欠を開窄し、一方、連結室における隔壁幅より小さく、連結室高さより大きい幅を有する剛性リボンがシート状スクリーン等の端部に固着されて成るジヨイント部を、前記装入切欠にて連結室内に挿通させ、装入切欠から外出しているスクリーン等の牽引荷重により、リボンの一方側縁を隔壁内側面に、他方側縁を本体壁内側面に当接させて連結室内で斜めに係合せしめたことを特徴とするスクリーン等の端部固定及び連結装置。