大判例

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東京高等裁判所 昭和57年(行ケ)246号 判決

事実及び理由

一  請求の原因一ないし三の事実は当事者間に争いがない。

二  そこで原告主張の審決取消事由について検討する。

1  取消事由1について

(一)  引用例には、審決が認定したとおりのベアリング付軌道台が記載されていることは当事者間に争いがない。また成立に争いのない甲第二、第三号証の各一、二、第四、第八号証によると、原告は、かねてボールスプラインを開発製造していたところ、右ボールスプラインを応用して引用例に記載されたベアリング付軌道台を製作するに至つたこと、右引用例に記載のベアリング付軌道台は、原告の開発したボールスプラインのシヤフト(その横断面の輪郭は別紙(三)第1図赤線で表示のとおり)を主体として利用したものであることから、これを下部取付台に取付けて一体的に結合しなければならないものであり、そのためには原告が審決の取消事由1の(一)において主張するような各製造工程を経なければならないものであること、従つてその各製造工程において製作上の誤差を生ずるものであることが認められる。

(二)  これに対し、本願考案の軌道台の主体は、当事者間に争いのない実用新案登録請求の範囲によると結合部のない一体構造のものであり、従つて引用例のもののように各構成部材の製造工程での誤差を生じないので、引用例のものに比較して高精度のものがえられることが認められる。

(三)  そこで右認定事実を前提として審決のした相違点(一)の判断の当否について検討するに、<1> 一般に精度を必要とする製品の製作に当つてその加工工程を必要最少限度におさえること及びそのために製品に適した材料を選択することが製品の製造技術上における常套手段であることは当事者間に争いがないこと、<2> 引用例のものが、前述のような多数の製造工程を経なければならないのは、前記認定のとおり専ら軌道台の主体に前記のような形状を有する既存のボールスプラインシヤフトを利用するという特別の事情に起因するものであること、<3> 前掲甲第二号証の一、二によると、本願考案の明細書には、軌道台の主体を一体構造に形成したことについて、従来の二体構造のものに比較して加工誤差の累積がなく高精度に構成しうる旨記載されていることが認められるが、これは一体構造のものとしたことによつてもたらされる当然の効果にすぎず、他に右明細書を検討しても、本願考案のようなベアリング付軌道台を製作するに当つて、従来その主体を二体構造のものとせざるを得ない技術的必然性があつたことないし従来の二体構造のものを一体構造のものとしたことについて技術上特段の困難があつたことを窺うに足りる記載がないのである。

以上<1>ないし<3>の諸点を併せ考えると、本来高精度を要求されるベアリング付軌道台(このことは当事者間に争いがない。)において、複雑困難な製造工程を必要としその各工程で生ずる誤差が累積し高精度のものがえられない引用例のものに代えて、本願考案のように一体構造のものにすることは当業者においては極めて容易になしえたものと認めるのが相当である。

従つて、相違点(一)についてした審決の判断は結論において相当であり、原告の取消事由1の主張は採用できない。

2  取消事由2について

本願考案の主体の上面部が平坦面であるのに対し引用例のものが円弧面であること及び台座の下部平坦面(底部取付面)や側面(取付基準面)を研削する場合に、その上面が円弧面であるよりも平坦面である方が研削が容易であることは当事者間に争いがない。そして引用例のものにおいて、その主体上面が円弧面であるのは、前認定のとおり既存のボールスプラインシヤフトを利用したという特別の事情によるものであり、本願考案にあつてはこれが平坦面であることに徴すると、ベアリング付軌道台において主体上面を殊更に研削が困難な円弧面に形成しなければならない技術上の必然性がないことは明らかである。

そうすると、主体を一体構造のものとして形成するに当り、上面を平坦面としたことによる原告主張の効果は格別のものでないことが認められる。

従つて、相違点(二)についてした審決の判断には誤りがなく、原告の取消事由2の主張も採用できない。

3  取消事由3について

精密部品を製作するのには、まず部品の基準面を精密に加工し、この基準面をベースとして他の加工を行うことによつて高精度を得ることが精密加工技術における常套手段であること及び長尺直杆状部品を取付けるに当つては長手方向軸線を基準面として位置決めすることが慣用手段であることは当事者間に争いがない。

そうすると、前記2において述べたとおり、本願考案において、主体の上面、台座の下面及び側面(取付基準面)をそれぞれ精密に加工した上、負荷ボール溝を高精度に加工するに当り、台座の長手方向である側面を取付基準面とした上これをベースとして負荷ボール溝を加工することは、精密加工技術における常套ないし慣用手段をそのまま適用したものというべきである。そうすると、本願考案において台座側面に取付基準面を形成した点に特別の考案力を認めることはできない。

従つて、相違点(三)についてした審決の判断には誤りがなく、原告の取消事由3の主張も採用できない。

4  取消事由4について

一般にボルトによる部品の取付手段としては、その部品に直接取付孔を設けるか、又はその部品に取付孔を有する取付縁を設けるかのいずれかがあり、そのいずれを採用するかは、その部品の機能に影響を及ぼさないことを考慮して適宜選定することが機械設計における基礎技術であることは当事者間に争いがない。また、本願考案においては主体が一体構造のものであるから、これに直接取付孔を貫通させて形成することができるが、引用例のものは前記1に認定のとおり主体と下部取付台とから成るので両者を結合するために複数個の締結用ボルト孔と雌ねじの形成を必要とする。しかし、これは引用例のものが二体構成のものであることに起因する当然の要請にすぎず、引用例のものも右両者を結合して後に本願考案のように取付孔を形成することは不可能ではない。

そうすると本願考案において取付孔を主体に貫通させて設けた点は、右に述べた機械設計における基礎技術の選択適用の範囲を出ないものであり、その効果も引用例のものと対比して格別のものでないことが認められる。

従つて相違点(四)についてした審決の判断には誤りがなく、原告の取消事由4の主張も採用できない。

三  以上のとおりであるから、原告の本訴請求は失当として棄却することとする。

〔編註〕本願考案の要旨は左のとおりである。

平坦面を上面部に形成した長尺直杆状の主体(1)の両肩部上下に、それぞれ該主体(1)に被冠されてその長手方向に摺動自在なベアリング(2)のボール(3)・・・の負荷ボール溝(4)・・・を互に対をなすように形成し、該主体(1)の両側面部にはそれぞれ上記被冠したベアリング(2)の両袖部(5)(5)に対応せしめて凹欠部(6)(6)を設けると共に、これら凹欠部(6)(6)の下方部をそれぞれ側方に膨出せしめた台座(7)を一体構造に形成し、かつ該台座側面に取付基準面を形成し、更に、該主体(1)の長手方向にそつて該主体(1)を上下平坦面に貫通する取付孔(8)・・・を形成してなるベアリング付軌道台。

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