東京高等裁判所 昭和57年(行ケ)25号 判決
一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、同二(本願考案の登録請求の範囲の記載)及び同三(審決の理由)の各事実については、当事者間に争いがない。
二 そこで、請求の原因四の審決を取消すべき事由の有無について判断する。
1 右争いのない本願考案の登録請求の範囲の記載は、「搬送用螺旋を有していて、合成樹脂の顆粒とパチンコ球とを混合攪拌しながら搬送すべき螺旋搬送部を有し、この螺旋搬送部の上記パチンコ球と合成樹脂の顆粒の排出口がわに傾斜して設けられ、パチンコ球と合成樹脂の顆粒とを選別すべき簀の子状の選別部を有してなるパチンコ球の浄化装置。」というものであるところ、まず審決指摘の<1>の点について検討するに、冒頭の「搬送用螺旋を有していて」という記載は、「螺旋搬送部を有し」及び「簀の子状の選別部を有し」という各記載と文理上並列的関係にあるとも解しうるので、「搬送用螺旋」が「螺旋搬送部」に設けられているのか、それとも、本願考案に係るパチンコ球の浄化装置の「螺旋搬送部」とは別の部分に設けられているのか、不明であるといわざるをえない。
2 仮に、右「搬送用螺旋を有していて」という記載が、原告主張の「搬送用螺旋を有する螺旋搬送部」というように「螺旋搬送部」に係るものであるとしても、以下のとおり、「搬送用螺旋を有していて、合成樹脂の顆粒とパチンコ球とを混合攪拌しながら搬送すべき螺旋搬送部」という記載によつては、螺旋搬送部の構成を特定することはできない。すなわち、
(一) 「搬送用螺旋を有していて」という記載は、「搬送用螺旋」がどこに、どのように設けられているのかを特定するものではないので、単に、「螺旋によつて搬送する構成部分」を意味する「螺旋搬送部」という語を分解して言い直したにすぎず、螺旋搬送部の構成を格別特定するものではないし、また、「合成樹脂の顆粒とパチンコ球とを混合攪拌しながら搬送すべき」という記載について、原告は、「搬送用螺旋を有する螺旋搬送部」がどのようなものであるかを説明し、構成を特定するものであつて、作用的、抽象的な記載ではないと主張するが、右記載は、単に、螺旋搬送部が合成樹脂の顆粒とパチンコ球とを混合攪拌しながら搬送するという作用をするものであることを明らかにするにすぎないのであつて、何ら、螺旋搬送部の構成を具体的に特定するものではない。
(二) 次に、登録請求の範囲の記載の裏付けとなり、その構成を理解するのに役立つべき本願考案の明細書の考案の詳細な説明を検討するに、成立に争いのない甲第二号証の一、二、第三号証、第四号証、第六号証によれば、本願考案の目的については、「パチンコ遊戯用の球は反覆使用するうちに手垢などで汚れるのでこれを浄化する必要があるが、従来の浄化手段は薬液に漬けて化学的に洗浄する方法と、皮きれと混合攪拌し乍ら球の表面の汚れを上記皮きれの方に移行させ、のち両者を篩などで選別する物理的乾式方法とがあつた。ところが、前者の場合は、洗浄を終えた球をバフローラーなどにかけて乾燥させなければならないこと、浄化装置に設ける薬液収容部は薬液が漏れないように密封する必要があり、装置自体大がかりなものとなること、薬液を定期的に取り換える必要があること、パチンコ球の刻印が薬液に洗い流されることなどの欠点があり、また、後者の場合は、パチンコ球と混合攪拌するうちに皮きれの微粉が生じ、これが球に付着して汚いこと、皮きれの不快な臭が球に付着すること、皮きれは再生不可能であり、高価で、かつ加工が困難であること、さらに皮きれは吸湿性があるために、保存、管理が面倒であるなどの欠点があつた。」(第一頁第一〇行ないし第二頁第八行)という点に鑑み、「このような従来の浄化手段の欠点を解消すること」にある(第二頁第九行、第一〇行)旨記載され、効果については、「本考案の浄化装置によれば、従来の薬液による化学的方法と比較して、洗浄後の球をバフローラーなどにかけて乾燥させる必要がないこと、浄化装置を密封構造とする必要がなく、装置自体が簡略化されること、パチンコ球の刻印が洗い流されるようなことがないなどの効果があり、また、皮きれと混合攪拌する物理的方法と比較して、微粉が生じることがなく、球がきれいに仕上がること、球に不快な臭が付着するようなことがないこと、顆粒は再生使用可能であり、安価で、かつ加工が容易であること、さらに顆粒は吸湿性がなく、保存、管理が容易であることなどの効果がある。また、合成樹脂の顆粒とパチンコ球とを混合攪拌してパチンコ球の汚れを上記顆粒に付着させて除去する螺旋搬送部を設けると共に、混合攪拌後のパチンコ球と合成樹脂顆粒とを選別する簀の子状の選別部を設けたから、パチンコ球の浄化をパチンコ球の投入順に順序良く、かつ、間断なく連続的に行なうことができ、よつて、パチンコ球ごとの浄化むらが生じることなく、かつ、能率の良いパチンコ球の浄化装置を提供することができる。」(第八頁第二行ないし第一四行、後段の「また、合成樹脂の顆粒」以下は、昭和五六年九月七日付手続補正書による加入部分)と記載されていることが認められ、これによれば、本願考案の目的については、従来の薬液による化学的方法及び皮きれと混合攪拌する物理的方法の欠点を解消することにあると、漠然と記載されているだけであつて、十分ではなく、この目的に対応する本願考案の奏する効果についても、前記考案の詳細な説明中の記載の前段部分は、単に、右従来の化学的方法及び物理的方法と比較して、合成樹脂の顆粒とパチンコ球とを混合攪拌してパチンコ球の汚れを除去する方法を採用することによる効果に言及するだけのものであつて、考案の対象であるパチンコ球の浄化装置としての特有の効果には関係がなく、僅かに、後段の補正による加入部分に、「パチンコ球の浄化をパチンコ球の投入順に順序良く、かつ、間断なく連続的に行なうことができ、よつて、パチンコ球ごとの浄化むらが生じることなく、かつ、能率の良いパチンコ球の浄化装置を提供することができる。」という、パチンコ球の浄化装置としての特有の効果の如き記載があるが、搬送用螺旋を有する螺旋搬送部のいかなる構成に対応していかなる効果が生じるのかという、螺旋搬送部の構成との対応関係が明らかではなく、装置自体としての特有の効果の記載として十分ではない。
また、前掲各証拠によれば、考案の詳細な説明には、本願考案の唯一つの実施例として、原告主張のとおり、「前記回転胴1の内壁面には、第1図に示す左方端板3の周縁に接して第4図に示すような追波状の多数の傾斜鰭板12を上記回転胴の中心軸線に並行して取付けてあり、なお、上記胴1の内壁面には前記傾斜鰭板12の側近から反対がわの端板2にかけて螺旋鰭1aが一体的に設けられている。」(第四頁第二行ないし第七行)、「主回転胴1の左方端板3のすぐ内がわから前記内胴13の左方開口部内にかけて底が右下りに傾斜し、上方が開いた箱枠14が固定されており、同箱枠の上方開口部には同図において右下りに簀の子状篩15が定置され、」(同頁第一三行ないし第一八行)という構造のものが示されており、その作用が、「第1図に示す主回転胴1の右端円錐筒9bの截頭開口から柔軟な合成樹脂の顆粒を適量投入し、第1図左端の横軸4hを適宜動力によつて回わすと、主胴1も回転するので前記浄化媒体の顆粒は右端の端板2の輻状部2a間の間隙を越えて上記主胴内壁面に設けた螺旋鰭1aの間に散開する。続いて上記主胴1を回わし乍ら、汚球を同じく右端の開口から流し込むと、汚球と顆粒は上記鰭片1aに攪拌され乍ら混合し、第1図の左方に向つて輸送される。この間に球の汚れは前記顆粒に吸着されて清浄化される。上記主胴1内底上を左方に向つて運ばれた球と顆粒は追波状に配置された傾斜鰭板12(第4図参照)によつて掬上げられ、簀の子状の篩15上に放出される。同篩によつて選別された浄化後の球は同篩に沿つて流下し、」(第五頁第一九行ないし第六頁第一三行)、「一方、前記の篩15の目を透下して箱枠14内に落ちた浄化媒体の顆粒は同箱枠の傾斜底に沿つて第1図の右方に流下し、」(第七頁第六行ないし第八行)と記載されていることが認められるところ、右実施例に使われている用語は、登録請求の範囲の「搬送用螺旋を有していて、合成樹脂の顆粒とパチンコ球とを混合攪拌しながら搬送すべき螺旋搬送部」という記載に使われている用語と一致しないため、実施例と登録請求の範囲の記載との対応関係が明らかではない。原告は、右実施例の「螺旋鰭1a」は登録請求の範囲の「搬送用螺旋」に、同じく「内壁面に螺旋鰭1aを設けた主回転胴1」は「合成樹脂の顆粒とパチンコ球とを混合攪拌しながら搬送すべき螺旋搬送部」に、それぞれ対応するものであり、登録請求の範囲の記載の各用語は、それぞれ上位概念として把握できるものであると主張するが、その主張に従い、右実施例の各用語を登録請求の範囲の記載に当てはめると、「螺旋鰭1aを有していて、内壁面に螺旋鰭1aを設けた主回転胴1」ということになるところ、その二つの螺旋鰭1aは用語及び指示番号を共通にし、同一のものを指すと解されるので、右は実質的に「内壁面に螺旋鰭1aを設けた主回転胴1」というに等しく、しからば、登録請求の範囲の「搬送用螺旋」に対応する実施例の構成部分が存しないことになるか、そうでなければ、螺旋鰭1aを設けていない単なる「主回転胴1」が上位概念たる「螺旋搬送部」の具体的実施の態様であるということにならざるをえないが、螺旋鰭1aを設けていない単なる「主回転胴1」の上位概念を「螺旋搬送部」とするのは、技術常識上、適切ではない(もし、前記二つの螺旋鰭1aが別のものであれば、最初の螺旋鰭1aはどこにどのように設けられているのか、その螺旋鰭1aと、主回転胴1の内壁面に設けられた螺旋鰭1aとはどのように関係するのか、全く理解できない。)。
(三) 以上のように、登録請求の範囲の「搬送用螺旋を有していて、合成樹脂の顆粒とパチンコ球とを混合攪拌しながら搬送すべき螺旋搬送部」という記載は、装置の特定としては単に「螺旋によつて搬送する構成部分」というに等しく、本願考案の明細書の考案の詳細な説明中の目的、効果及び実施例についての記載を参酌しても、搬送用螺旋が螺旋搬送部のどこに、どのようにして設けられているのか明らかでないため、右登録請求の範囲の記載によつては、螺旋搬送部の構成を具体的に特定することはできないといわなければならない。原告は、甲第一〇号証ないし第一三号証を援用して、「搬送用螺旋を有する螺旋搬送部」として、軸の外周に搬送用螺旋を取付けるものと回転胴の内壁面に搬送用螺旋を取付けるものとが、本願考案の出願前に周知の技術手段となつていたから、搬送用螺旋が螺旋搬送部のどこに、どのようにして有せしめられているかを限定することは無意味であり、右登録請求の範囲の記載で十分螺旋搬送部の構成を特定できるものであると主張し、更にパチンコ球についての「搬送用螺旋を有する螺旋搬送部」の周知例として甲第一八号証ないし第二二号証を援用するが、仮に、「搬送用螺旋を有する螺旋搬送部」が周知の技術手段となつていたとしても、実用新案法による保護の対象は「物品の形状、構造又は組合せに係る」考案である(同法第三条第一項)ことに鑑み、考案に係る装置の構造は登録請求の範囲の記載において具体的に特定されていなければならないから、右主張は採用しえない。また、原告は、登録請求の範囲の前記記載で構成が特定されているとする理由として、甲第一四号証の登録請求の範囲では、「螺旋搬送体」又は「螺旋搬送部」と同義の「スクリユウコンベヤー」という語が格別の限定を伴うことなく用いられており、そのまま出願公告をされている旨主張するが、本件全証拠によるも、そこで用いられている「スクリユウコンベヤー」という語が「螺旋搬送体」又は「螺旋搬送部」と同義であるとする根拠は見出しえないから、右主張も、前提を欠き、採用しえない。
更に、原告は、本願考案の目的を達成し、効果を奏するためには、本願考案の登録請求の範囲の記載の構成を備えることが必要かつ十分な条件であるから、登録請求の範囲には、考案の詳細な説明に記載された考案の構成に欠くことができない事項のみが記載されているものであると主張するが、前示のとおり、本願考案の明細書の考案の詳細な説明中の目的についての記載は漠然としていて不十分であり、効果についての記載も装置自体としての特有の効果の記載として不十分であるから、かかる記載の不十分な目的を達成し、記載の不十分な効果を奏するのに必要かつ十分な条件なるものは明らかでなく、したがつて、右主張も採用しえない。
3 してみれば、本願考案の登録請求の範囲には、考案の構成に欠くことができない事項(のみ)が記載されているとはいえず、したがつて、本願考案の「登録請求の範囲の記載では、搬送用螺旋が螺旋搬送部又は浄化装置のどこに、どのようにして有せしめられているのか不明」であるとした審決の認定、判断に誤りはないから、審決指摘の<2>の点について検討するまでもなく、審決にはこれを取消すべき違法の点は存しないものといわなければならない。
三 よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとする。
〔編註〕本件における実用新案登録請求の範囲の記載(昭和五六年九月七日付手続補正書による補正後のもの)は左のとおりである。
搬送用螺旋を有していて、合成樹脂の顆粒とパチンコ球とを混合攪拌しながら搬送すべき螺旋搬送部を有し、この螺旋搬送部の上記パチンコ球と合成樹脂の顆粒の排出口がわに傾斜して設けられ、パチンコ球と合成樹脂の顆粒とを選別すべき簀の子状の選別部を有してなるパチンコ球の浄化装置。