東京高等裁判所 昭和57年(行ケ)263号 判決
請求の原因1ないし3の各事実は当事者間に争いがなく、右3の事実によれば、被告は、前記和解の成立により、本件審決前に無効審判を請求する利益を失つたものであり、審判請求人としての適格を有しなかつたものというべきである。してみれば、被告の本件無効審判請求は不適法として却下すべきものであつたにもかかわらず、本件審決は本案について審理し本件特許発明についての特許を無効としたものであるから、その余の点について判断するまでもなく、違法であり、取消を免れない。
よつて、原告の本訴請求は理由があるからこれを認容する。
〔編註〕 本件における請求原因は左のとおりである。
1 原告は、名称を「グリチルリチンの呈味性質改良法」とする第九三九四三九号特許発明(以下「本件特許発明」という。)の特許権者であるところ、被告は、昭和五四年五月一一日原告を被請求人として右特許の無効審判を請求し(特許庁昭和五四年審判第五二〇三号)、特許庁は、昭和五七年九月二七日右特許を無効とする旨の審決をし、同審決の謄本は同年一一月一七日原告に送達された。
2 本件審決の要旨は、本件特許発明は、その特許出願前の出願に係る名称を「人口甘味料の不快味を改良する顆粒の製造法」とする先願発明(特許出願公告昭和四三年第六九七七号)とその実施態様において同一であり、両発明は区別することができないから、特許法第三九条第一項の規定により特許を受けることができないものであり、したがつて、本件特許発明についての特許は無効とすべきものである、というにある。
3 しかしながら、原告、被告間では、本件審判事件につき審理終結通知(昭和五七年八月五日)を受ける前に、甘草業界の円満な発展のため、原告は本件特許発明につき被告を含む関係業者に無償で通常実施権を許諾し、被告は本件無効審判請求を取下げる旨の和解が成立したものである(ただ、契約文書作成の形式的事務手続に手間どるうちに右審理終結通知を受けたため、特許法第一五五条第一項の規定により本件無効審判請求の取下げは不可能となつた。)から、被告は、本件審決前に既に本件無効審判請求をする利益を失つており、審判請求人としての適格を有しなかつたものである。
したがつて、そのような被告の審判請求についてされた本件審決は違法であつて取消されるべきである。