大判例

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東京高等裁判所 昭和57年(行ケ)268号 判決

1 請求の原因1ないし3の事実は、当事者間に争いがない。

2 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。

(一) 本願発明の構成は、特許請求の範囲に記載されたとおりであつて、メモリ装置およびプロセサ装置を備えるデータ処理装置において、プロセサ装置がプログラム・カウンタ、命令処理装置、第一のストレージレジスク、選択しうるストレージレジスタ、制御装置および転送装置を備えることを特徴とするものであること、本願発明における転送装置は、割込み動作、JSR動作の両動作を制御するものであつて、第一動作、第二動作、第三動作および第四動作のすべての動作を行いうるものであることは、当事者間に争いがない。

一方、成立に争いのない甲第三号証の一ないし四によれば、引用例は、原告会社発行に係る「papll」と称するシステムのハンドブツク中の「割込み要求」と「サブルーチン」に関する記載部分であることが認められ、右記載部分自体からは、このシステムに用いられるデータ処理装置の全体構成は不明であるが、原告は、本願発明と引用例記載のものとが審決認定のとおり、データ処理のハードウエア構成において一致することを認めており、また、引用例には、割込み動作については本願発明の第二動作と第四動作に相当する動作、JSR動作については本願発明の第一動作と第三動作に相当する動作が記載されていることは当事者間に争いがないこと(右事実によれば、審決が本願発明と引用例記載のものとの相違点として、引用例には第三動作、第四動作に相当する動作が明示されていないと認定したのは、誤りである。)からみると、引用例記載のものは、本願発明と同じ構成のデータ処理装置であり、引用例記載のものも、第一動作、第二動作、第三動作および第四動作の各々の動作をするように機能するものであるとすべきである。そして、このような動作は転送装置ないし制御装置によつて行われることは技術常識であるから、引用例記載のものの転送装置には、前記各動作を行う装置が含まれているというべきである。

原告は、引用例には、本願発明におけるように割込み動作とJSR動作とを関連づけるために第一動作、第二動作、第三動作および第四動作のすべてを行う転送装置の記載はない旨主張する。

しかしながら、前記のとおり引用例記載のものが本願発明の第一動作、第二動作、第三動作及び第四動作と同一の動作をするものである以上、割込み動作とJSR動作とを関連づけるためにこれらの動作のすべてを行う転送装置ないし制御装置を備えているとみるのが自然であり、原告の右主張は採用できない。

また、原告は引用例においては、割込み動作のみの場合には、第二動作と第四動作とが行われるだけであつて、第一動作と第三動作とは全く関与せず、JSR動作のみの場合には、第一動作と第三動作とが行われるだけであつて、第二動作と第四動作とは全く関与してこないから、本願発明におけるようにこれらの動作を組合わせ、種々な順序で行うことについての開示がない旨主張する。

しかしながら、引用例記載のものが割込み動作とJSR動作を行いうるデータ処理装置である以上、転送装置を、わざわざ割込み動作を行う転送装置とJSR動作を行う転送装置として、それぞれ専用に設けることは不自然であり、また、本願発明の特許出願当時データ処理装置においてサブルーチンと割込みルーチンとの多重ネステイングを行うことが周知であつたことは当事者間に争いがない事実であるところ、前記の各専用の転送装置を設けた場合多重ネステイングを行うためには更にこれを制御するための別の装置を設ける必要があり、当業者には引用例記載のものがそのような装置を設けたものでなく、割込み動作とJSR動作とを行いうる単一の転送装置で構成され、しかもプログラミングの仕方により前記各動作を組合わせ、種々な順序で行いうるものと理解されるというべきである。

そうであれば、本願発明と引用例記載のものの転送装置は同一であつて、その機能には相違がないというべきである。

(二) 原告は、本願発明の転送装置は、第一動作、第二動作、第三動作および第四動作のすべての動作を相互関連させて、すなわち、これらの動作を組合わせ、種々な順序で行いうるものであり、この転送装置の存在によつて、割込み動作とJSR動作とを密接不可分のものとして処理することができ、サブルーチンおよび割込みルーチンの多重ネステイングが容易にでき、かつ実行プログラム中のデータをサブルーチンへ転送できるという作用効果を奏することができるものであり、この作用効果は、本願発明の特許請求の範囲に記載された構成に直接結びつくものではないが、当業者が本願明細書の発明の詳細な説明の記載に基づいて正しくプログラミングして動作させればこれを達成しうるように使用できるものであるのに対し、引用例にはこのような作用効果を奏するデータ処理装置は開示されていない旨主張する。

本願発明の転送装置が第一動作、第二動作、第三動作および第四動作のすべての動作を相互関連させて、すなわち、これらの動作を組合わせ、種々な順序で行いうるものであることが原告の援用する本願発明の特許公報の発明の詳細な説明中の実施例に記載されていることは当事者間に争いがない。そして、原告主張の右転送装置の存在に基づく作用効果は、本願発明の特許請求の範囲の記載から得られるものでなく、右範囲に記載された構成を採用し、プログラミングすることにより奏しうることは、原告の自ら主張することであり、被告も認めて争わないところである。

しかしながら、本願発明と引用例記載のものの転送装置は同一であり、両者の機能に相違がないことは前記(一)において述べたとおりであるから、原告の主張は、結局プログラミング(プログラムの組み方)の難易において両者に相違があるという点に帰着するものと解されるところ、前記本願発明の要旨によれば、本願発明は、データ処理装置そのものを要旨とするものであつて、プログラムを含むものではなく、また、本願発明における転送装置が第一動作、第二動作、第三動作および第四動作の相互関連、すなわち、これらの動作を組合わせ、種々な順序で行う点までもが要旨とされているものでなく、このことは、本願発明の要旨としない、このデータ処理装置をどのように利用するかのプログラミングにより決められる事柄である。原告の前記主張は本願発明の要旨に基づくものでないとせざるをえない。付言するに、弁論の全趣旨によれば、プログラミング、すなわち、電子計算機を利用して所望のデータ処理を行うためにプログラム(電子計算機が行う動作の手順)を精密につくることは、電子計算機の構成によつて一義的になされるものでなく、与えられた課題に見合うようにプログラマが任意につくるものであつて、本願発明におけるように割込み動作とJSR動作を適宜組合わせ相互に関連させて(原告の主張する「密接不可分」が「相互関連」すなわち、第一動作、第二動作、第三動作および第四動作を組合わせ種々な順序にて行うことと同趣旨であることは、原告の主張自体から明らかである。)動作させることは、当業者が転送装置が機能する右各動作の範囲で、所望に応じて各動作を適宜に組合わせればできることは明らかであり、格別の困難があるとすることはできない。そして、このことはあくまでもプログラミングの問題であつて、データ処理装置それ自体には直接関係のあることではなく、引用例には、引用例に記載されたデータ処理装置により原告主張のような作用効果を得るための簡単なプログラミングの仕方が記載されていないからといつて、そのようなプログラミングがプログラマにとつて困難であるということはできない。

したがつて、引用例の記載に基づき、割込み動作とJSR動作を複雑に組合わせて原告主張の作用効果を奏するようにすることは、当業者といえども容易に推考しうるものではない旨の原告の主張は、引用例記載のものの転送装置が本願発明のような機能を有しないことおよび本願発明の要旨に基づかないプログラミングの簡易性の主張を前提とするものであつて、その前提において誤つていることは前述のとおりであるから、採用することができない。

(三) 以上のとおり、本願発明は引用例記載のものとデータ処理装置の構成において同一であり、転送装置についても、第一動作、第二動作、第三動作および第四動作のすべての動作を行う機能を有する同一の装置を備えたものであり、他方において、これらの動作を組合わせてどのような順序で動作させるかは、本願発明の要旨としないプログラミングの問題にすぎず、しかもその難易に装置それ自体およびその機能に基づく差異があるとすることができないものであるから、本願発明は引用例記載のものと同一であり、特許法第二九条第一項第三号の規定により特許を受けることができないとすべきである。

審決は、本願発明と引用例記載のものとは、前者が第三動作および第四動作の動作シーケンスをとるが、後者にはその点が明示されていないと誤つて認定したため、この点をもつて相違点とし、右相違点について、後者においても、本願発明のような動作シーケンスをとることは、いわゆるプログラミング方法であるから、当業者が明細書に記載されたとおりの目的を達成し効果を得るために必要に応じて任意になしうるものであり、したがつて、本願発明は当業者が引用例の記載に基づいて容易に発明をすることができたものであると判断したものであるところ、前記判示のとおり、引用例にも第三動作、第四動作を含む本願発明と同一の動作を行う転送装置が開示されているから、両者は審決認定の点においても相違するものではないが、本願発明は引用例の記載に基づいて特許を受けられないとした点において審決の判断には誤りがないから、審決の前示引用例の技術内容及び相違点の各認定の誤りはその結論に影響を及ぼすべきものではないというべきである。

3 よつて、審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求は失当として棄却する。

〔編註〕 本願発明の要旨は左のとおりである。

実行プログラム、サブルーチンおよび割込みルーチンとして関連する実行ルーチン命令を記憶する複数の記憶場所を有したメモリ装置および前記命令を処理するプロセサ装置を備えるデータ処理装置において、前記プロセサ装置は、プログラムカウンタと、該プログラムカウンタによつて識別された前記メモリ装置における記憶場所から順次送られてくる命令を処理する装置と、前記メモリ装置における記憶場所を指定するための第一のストレージレジスタを含む複数の選択しうるストレージレジスタと、制御装置と、転送装置とを備えており、前記制御装置は、サブルーチンおよび割込みルーチンのための記憶場所をそれぞれ識別する第一および第二の転送信号に応答して前記プログラムカウンタを変更してサブルーチン命令および割込みルーチン命令の一方のアドレスを識別する装置と、サブルーチンおよび割込みルーチンにおけるサブルーチン復帰命令および割込み復帰命令にそれぞれ応答して別の命令のアドレスを識別するように前記プログラムカウンタを変更するよう応答する装置とを含んでおり、前記第一の転送信号は前記ストレージレジスタの一つを識別するサブルーチン転送命令に応答して発生されるものであり、前記サブルーチン復帰命令は前記選択しうるストレージレジスタの一つを識別するものであり、前記転送装置は、第一の転送信号に応答して、前記選択されたストレージレジスタの内容を前記第一のストレージレジスタの内容に応じて選択される前記メモリ装置の記憶場所へ転送し且つ前記プログラムカウンタの内容を前記選択されたストレージレジスタへ転送し、第二の転送信号に応答して、前記プログラムカウンタの内容を前記第一のストレージレジスタの内容に応じて選択される前記メモリ装置の記憶場所へ転送し、サブルーチン復帰命令に応答して、前記選択されたストレージレジスタの内容を前記プログラムカウンタへ転送し且つ前記第一のストレージレジスタの内容に応じて選択される前記メモリ装置の記憶場所の内容を前記選択されたストレージレジスタへ転送し、および割込み復帰命令に応答して、前記第一のストレージレジスタの内容に応じて選択される前記メモリ装置の記憶場所の内容を前記プログラムカウンタへ転送することを特徴とするデータ処理装置。

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