東京高等裁判所 昭和57年(行ケ)41号 判決
審決に、本願意匠と引用意匠との対比について、類否判断を誤つた違法があるか否かについて検討する。
1 成立に争いのない甲第一号証の一、二及び第三号証の一、二によると、本願意匠及び引用意匠は、ともに縦長偏平柱体状のライターに関する意匠であつて、その基本的な構成態様は審決認定のとおり、高さを約二・三、横巾を一とする断面小判形状の縦長偏平柱体を本体とし、その上端左方部畧<省略>の位置に左上端肩部を弧状とし、右方部を半円弧状に突出させ、その左方をなだらかな山裾状に傾斜させてなる、本体の畧<省略>の高さを有する風防を本体の周側と同一面として突設し、全体として、縦長偏平柱体の右肩部をL字状段落しに切除した態様にあらわし、風防右肩部に小円筒様の着火輪転子を嵌入し、その真下部分から本体右側端に達する板状の押圧操作子を水平に取付けたものである点で同一であり、その各部についてみても、炎調節子用孔及び火口孔を設けた箇所及びその態様、押圧操作子の態様着火輪転子が嵌入された態様等も、いずれも審決認定のとおりであつて、両者共通のものであることを認めることができる。
原告は、これらの基本的態様及び各部共通点は、ライターの意匠として本願出願前すでに周知のものであつたから、これらの点にライターとしての意匠的特徴を認め、類否判断を左右する要素とすることはできない旨主張するが、本来物品の意匠はその全体の形状、模様、色彩またはこれらの結合からなる総合的外観により人の視覚に訴えて美観を生じさせるべきものであることから考えると、意匠の類否を判断するに際し、一般に知られた形態的要素は分離除外し、その余の形態的部分のみを対比して結論を導くことは、なしえざるところというべく、原告の右主張は採ることができない。
そして、前認定の本願意匠及び引用意匠の基本的構成態様及び各部共通点に徴すれば、縦長偏平柱体状のライターに関する意匠として、その全体的形態の特徴は正面前方からみた外郭形状にあり、本願意匠及び引用意匠に即していえば、それぞれ縦長偏平柱体の本体上端左方畧<省略>の位置に、右方部が半円弧状に突出し、その突出部左方がなだらかな傾斜の山裾状に形成されてなる風防を取付け、風防と本体の高さを一対六の比率に構成した態様が、看者の注意を強く惹く特徴的形態というべく、この点をもつて本願意匠と引用意匠の類否判断を左右すべき大きな要素とし、両者同一であるとして結論を導いた審決に、意匠的特徴を認定評価するについての過誤はないというべきである。
2 原告は、本願意匠の縦長偏平柱体をなす本体につき、これを本体ケースと本体キヤツプに区分して、本体ケースは暗調子半透明で正背両面に縦溝を並設し、本体キヤツプは明調子に、更に風防は中明調子にあらわされていて、本願意匠はこのように明度を中心としたトーンの表現に意匠的特徴があり、引用意匠とは明らかに異なる旨主張する。
しかし、前掲甲第一号証の一、二によると、本願意匠の登録出願は図面代用の白黒写真をもつてなされたものであつて、特に色彩の限定はなく、意匠の説明として、「下部は透明である」と記載されていることを認めることができる。してみると、原告が明暗の調子をもつて区分表現するところは、白黒の写真において材質の違いによる明暗の度合いが現われているにすぎないものであるばかりでなく、意匠に係る物品であるこの種ライターにおいて、風防部を金属、本体部を透明な合成樹脂で製作した構造のものが本願出願前周知のものであつたことは、当裁判所に顕著な事実であり、本体上部の白色に見える部分も、色彩限定のないものである以上、これを図示するときは一本の仕切線を水平に廻らしたにすぎない構成のものとなるのであるから、原告主張の明度を中心としたトーンの表現構成も、その実体は材質の違いによる明暗の差に過ぎないことに帰着し、かつその構成区分も、意匠上それほど特徴ある要素となすに足りないものといわざるをえない。
また、前掲甲第一号証の一、二及び第三号証の一、二によると、本願意匠における本体の暗調子部の正背両面には各一〇本の縦溝を並設し、波板状にあらわしてあることが明らかで、この点において引用意匠と相違することも明らかであるが、ライターの本体部に縦溝模様を設けることは、成立に争いのない乙第六ないし第一〇号証の各一、二及び乙第一一号証の二、三に徴し、従来極めて普通に用いられていた態様と認められるうえに、そのような模様はこの種ライターの意匠構成上さほど重要な要素とするに足りないものであるから、この差異は、両意匠の類否を判断するうえで微差に止まるものとすべきである。
3 したがつて、本願意匠及び引用意匠を全体として観察すると、前認定のように、その支配的要部とすべき基本的構成態様を同一とし、各部共通点も多いことからみると、明暗調子の表現や本体部の波板様縦溝の有無の点等に差異があつたところで、それらは意匠構成上の部分的微差にすぎないものというべく、全体としては類似意匠の範疇にあるものとせざるをえない。審決の認定判断は、結局正当に帰する。
以上のとおりであるから、審決を違法としてその取消を求める原告の請求は理由なしと認めて棄却することとする。
〔編註〕 本件に関する意匠は左のとおりである。
別紙第二(引用意匠)
<省略>