東京高等裁判所 昭和57年(行ケ)43号 判決
事実及び理由
一 請求の原因一ないし三の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、原告主張の審決取消事由(1)ないし(3)について判断する。
1 本件考案の要旨が請求の原因二の実用新案登録請求の範囲に記載されたとおりであることは原告の認めるところであり、右の記載によれば、本件考案が構成(A)と構成(B)よりなることは明らかである。
そして、成立に争いのない甲第二号証によれば、本件明細書の考案の詳細な説明の項には、「二枚の水分解性シートや不織布間に種子などの緑化源を肥料や保水性を有する繊維などと共に挟持し、熱接着などの方法により二枚のシートを接合してなる緑化具」は「既に多方面において実用に供されている。」(同号証一欄二三ないし三〇行)として、本件考案の構成(A)によりなる緑化具は、本件考案の出願前すでに公然実施されていたことを記載し、次いで、右緑化具の長所を述べた後、「しかし反面、これらのシート類は非常に極薄のものであるから、この緑化具を法面上に敷設作業中に破損したり、法面上に目串などで固定しても目串を貫通した部分のわずかの破損により風によつて緑化具が飛散するなどの欠点が残存する。また、シート自体、腰(いわゆる紙の腰)が非常に弱いものであるから緑化具の取扱いに不便であるなどの欠点もある。」(同二欄一一ないし一八行)としてその欠点を指摘し、「従つてこの考案の目的は、上記の二枚のシート間に植物種子を均一に挟持し、シートを重合接合するようにした 緑化具について、前述の欠点を除去し、簡単な方法で補強材を熱接着することにより、形成された緑化具の破損を抑制して法面敷設作業を容易なようにし、かつシートひいては緑化具の腰を強くして取扱い容易にした植生板を提供するにある。」(同二欄一九ないし二六行)として本件考案の目的を明らかにし、続いて、このために本件考案は構成(A)に構成(B)を加えたものとしたことを説明している(同二欄二七ないし三四行)。そして、本件考案の効果につき、「極薄のシート類で形成された緑化具にひもなどの補強材を熱接着方法で組合せたから、植生板の補強が極めて容易に得られるばかりでなく、法面緑化施工の際に植生板が破損したりまた風雨の影響により植生板が容易に破損するのを防止し得て、また植生板の腰を強化することにより持ち運び取扱いを容易にできるものである。さらに、二枚の不織布と補強用の糸条を同時接着一体化し得る簡単な構成のものであるから製造が容易でコストも嵩らず従つて実施が容易であり、しかも法面緑化の必要性に即応する実用性の高いものである。」(同四欄三三ないし四四行)と説明している。
右の説明によれば、本件考案においては、補強材により植生板を補強すること及び不織布と補強材を一体化することにより、破損防止、取扱い等容易、製造容易等の効果を生じさせるものであることが認められる。
2 一方、成立に争いのない甲第三号証によれば、第一引用例にはポリビニールアルコールのような水溶性高分子フイルム間に種子を附着又は封入せしめるとともにフイルム間に紐又は網を介存させるか、あるいは、紐又は網をフイルム層に埋設した緑化具が開示されていること、この紐又は網がある程度の強度を持つたものであることが認められる。第一引用例に示された右緑化具において、そのフイルムが紐又は網により補強されていることは、右の構成自体から明らかである。
被告は、右の紐、網等は補強材としてとらえられたものではなく、苗を連結するための媒体であつて種子を封入したフイルムを補強するものではないと主張する。そして、確かに前掲甲第三号証によれば、第一引用例の特許請求の範囲には被告が取消事由(1)についての反論において引用する記載があることが認められ、また、その発明の詳細な説明の記載によれば、右紐又は網等が種子が発芽発根した際の苗を連結することを目的として介存せしめられていることが認められる。しかし、第一引用例の緑化具の構成から、そのフイルム間又はフイルム層に介存又は埋設された紐又は網等がこのフイルムを補強する役割をも果していることは当業者であればきわめて容易に看取できることは明らかである。
3 次に、成立に争いのない甲第四号証によれば、第二引用例には雑草等の防除剤を浸透させた膜片と吸水性の膜片との間に種子と水分により容易に弱化されない紐を介挿接着した播種具が開示されていることが認められる。第二引用例に示された右播種具において、その膜が紐により補強されていることは、右の構成自体から明らかである。
被告は、右の紐は補強材ではなく、止め具の一部材として構成されたものであると主張する。そして、確かに、前掲甲第四号証によれば、第二引用例の特許請求の範囲に被告が取消事由(2)についての反論で引用する記載があることが認められる。しかし、第二引用例の膜の中間に介挿接着された紐がこの膜を強化する役割をも果していることは当業者であればきわめて容易に看取されるところであり、同号証により認められる第二引用例の「本発明においては、完成された築堤の斜面に前述のような播種具を張り付けるものであるから労力と時間とが従来の方法に比して極度に減少され、かつ播種が流出したり鳥類に啄まれることなく」(同号証一頁右欄二五ないし二九行)との効果も紐による補強の効果であることが明らかである。
4 以上の事実によれば、第一、第二引用例には、補強材を熱接着したことを除き、本件考案の構成と一致する植生板が開示されていると認めることができる。そこで、右熱接着の点につき検討するに、成立に争いのない甲第五号証によれば、昭和一〇年一一月二五日に公告された第三引用例には、「『セルロイド』ノ素面カ一様ニ粘着状態ニ至ル迄加熱シテ放冷シ以テ各接触セル『セルロイド』(4)ヲ粘着結合セシムルト共ニ『セルロイド』ニ接触セル植物培養材料(5)ヲモ同時ニ網状板(1)及糸状繊維(2)ニ粘着セシメ」との記載(同号証一三二頁五ないし七行)があり、この網状板及糸条繊維がセルロイド製又はセルロイドを溶着被覆したものであると説明されており、これによれば、同質の熱接着性の素材のみならず、熱接着性素材と異質の素材を熱接着することは、本件考案の出願前周知の技術であつたことが認められ、このことは二枚のシートに異質の紐等の補強材を熱接着するについても異ならないことは明らかである。これに反する被告の主張は採用できない。
そうすると、第一、第二引用例に示されている植生板に右周知の熱接着の技術を適用し本件考案の構成とする程度のことは当業者がきわめて容易に想到できることといわなければならない。そして、本件考案の効果は補強材により植生板を補強すること及び熱接着により不織布と補強材を一体化することから生ずる効果であることは前叙のとおりであるから、右の構成をとることから当然生ずる効果であり、これを格別の効果ということもできない。
5 以上によれば、第一ないし第四引用例によつては本件実用新案の登録を無効とすることはできないとした審決の結論は誤つているというほかないから、審決は違法として取り消されなくてはならない。
三 よつて、原告の本訴請求を正当として認容する。
〔編註〕本件における実用新案登録請求の範囲は左のとおりである。
二枚の水分解性シートないしは不織布による基布間に種子などの緑化源を必要ならば肥料、土壌改良剤などと共に所要の密度でかつほぼ均一に撒布挟持して前記二枚のシートなどを熱接着方法により重合する際に二枚の基布間ないしは重合した植生板の少なくとも一方の面にひも、糸条などの補強材を熱接着したことを特徴とする植生板。