東京高等裁判所 昭和57年(行ケ)50号 判決
一 原告が請求の原因として主張する一及び二の事実(特許庁における手続の経緯及び審決理由の要点)については、当事者間に争いがない。
二 そこで、審決取消事由の存否について検討する。
(一)取消事由の不明確性の主張について。
前記争いのない審決理由の要点によれば、審決は、本件商標及びその前記通常使用権者の使用した商標の各構成を認定し、これらを、本件商標及びこれと同一と認められる甲第四号証記載の商標と対比し、また、右通常使用権者が右商標を使用した商品と右甲第四号証の商標が使用されている商品とを対比し、これらを類似するものとしたうえ、商標法第五三条第一項の文言の一部をそのまま引用して、同項の規定に該当する旨判断したものと認められるところ、その説示するところは、後記のとおり、措辞必ずしも十分とはいえない点もないではないが、全体として、前記通常使用権者による本件商標の使用が「他人の業務に係る商品と混同を生ずるものをしたとき」に該当するものと判断したものであることは明らかであるから、取消事由が不明確であるとする原告の右主張は、これを採用することができない。
(二) 誤認及び混同についての不審理の主張について。
原告は、商標法第五三条第一項は商品品質の誤認又は他人の業務との混同が現実に存在する場合についての規定でありその虞れがあるにすぎない場合はこれにあたらない旨主張するので、まずこの点について考えるに、なるほど、同条同項は、「………誤認又は………混同を生ずるものをしたとき」と規定しており、「おそれ」のあるものをしたときとは規定しておらず、また、原告指摘のとおり、旧商標法及び商標法中には「虞レ」又は「おそれ」との規定はあるけれども、そうであるからといつて、ただちに、同条同項の前記規定を「………類似する商標を使用し、………誤認又は………混同を生じさせたときは」と規定されていると同様に解さなければならないものとはいえず、また、商標法が需要者の利益の保護をもその目的としていること(商標法第一条参照)を考えれば、同条同項の右規定は、客観的に誤認・混同を生じさせるとみられる場合、換言すれば誤認・混同のおそれのある場合をもその対象としていると解するのが相当であるから、原告の右主張は採用できない。
つぎに、原告は、審決は通常使用権者の使用商標が本件商標と類似しているか否かについて判断をしていないと主張するが、なるほど、前記審決理由の要点によれば、審決は、その点について明示的には説示していないけれども、前記のとおり、本件商標及び通常使用権者の使用商標の各構成を認定し、これを商標法第五三条第一項に該当するものとしている以上、当然、右通常使用権者の使用商標が本件商標と類似するものとしているものとみるのが相当であり、また、前記争いのない本件商標の構成と弁論の全趣旨により成立の認められる甲第五、六号証により審決認定のとおりと認められる右通常使用権者の使用商標の構成(別紙(〔編註〕省略)の(3)参照)とを対比すれば、両者が外観・称呼のうえで類似とすべきものであることは、明らかであるから、審決には、その説示において不十分な点があるとはいえ、原告主張のような判断をしていない違法があるとすることはできないから、原告の右主張も失当といわなければならない。
ところで、前顕甲第五、六号証、成立について争いのない甲第四号証及び証人菅野欽也の証言並びに弁論の全趣旨によれば、被告は、使用権に基づいて引用商標を「電気カミソリ」等に使用し、その引用商標の付された「電気カミソリ」を訴外ブラウン・エレクトリツク・ジヤパン株式会社等を通じて日本国内で販売しているものであること、引用商標及び右「電気カミソリ」に付されている商標の構成が審決認定のとおりのものであること並びに本件商標の前記通常使用権者が「ヘアートリマー」に審決認定のとおりの商標を使用したことが認められる。そして、右認定の事実によれば、被告が使用する引用商標と右通常使用権者の使用した商標とが少なくとも外観において類似するものであることは、審決の説示するとおりとみるのが相当である。また、引用商標が使用されている右「電気カミソリ」と右通常使用権者がその商標を使用した「ヘアートリマー」との関係が後記認定判断のとおりとみられることをあわせ考えれば、右通常使用権者による本件商標の類似商標を使用した商品が引用商標を使用する被告又は引用商標を付した商品を販売する前記訴外会社の商品との間において出所の混同を来すべきものであることは明らかである。
原告は、審決がカタログ一枚の存在を認定したのみで誤認・混同について実質的な判断をしていないと主張するが、審決が商標法第五三条第一項を適用して本件商標を取り消すべきものとしていることを基本として前記審決理由の要点を通観すれば、審決が前記当裁判所の認定判断のとおりに認定判断しているものとみるほかはないから、たとえ、その説示において必ずしも十分といえないところがあるにしても、これを、実質的な審理をしていないものとすることは相当でなく、原告の右主張も、結局、理由がないものといわざるをえない。
(三) 商品の類否判断及び出所の混同について。
「ヘアートリマー」が、多くの場合母親によつて子供の整髪に使用されるものであり、「電気カミソリ」が成人男子によつて髭剃りに利用されるものであつて、両者とも、ほとんど、職業的専門家により使用されるものではなく、家庭内で使用されるものであること、並びに、両者の一般小売店に至る流通経路が概して異なつていることについては、証人松井幸男同宮下栄の各証言をまつまでもなく、当裁判所に顕著な事実である。
しかし、両者とも髪又は髭の状態を整えるいわゆる理容に関する機械・器具に属するものであり、また、使用する者が母親であるからといつて、父親である成人男子がその購入にあたらないものでもないことを考え、さらに、証人菅野欽也の証言によりいずれもその成立の認められる乙第一号証の一ないし一八の記載及び同証人の証言によれば、多数の百貨店等において、「ヘアートリマー」と「電気カミソリ」とが、化粧品売場あるいは化粧品雑貨売場等の同一売場において販売されていると認められることをあわせ考え、かつ、現今、各企業が従前の独自の商品ばかりでなくその関連する商品等に広くその取扱い品目を拡張する傾向にあることが一般に知れ亘つていることをも考慮すれば、「電気カミソリ」に付されていたと記憶する商標と類似の商標を付された同じ理容器具である「ヘアートリマー」を見るとき、これが右「電気カミソリ」と同一の者の製造あるいは販売にかかるものであると考えることは、決して少なくないとみるのが相当である。
してみると、「ヘアートリマー」は、「電気カミソリ」に付された商標と同一又は類似の商標をこれに使用された場合、それが右「電気カミソリ」と同一の者の取り扱いにかかるものと混同されるような関係にある商品であるといわなければならない。
原告は、「ヘアートリマー」と「電気カミソリ」とが、用途において代替性がないことも主張しているが、代替性の有無は、前記認定判断になんらの影響をもたらすものでないことはいうまでもないから、右主張も理由がない。
以上のとおりで、原告主張の審決取消事由はいずれも理由がなく、審決には、これを取り消すべき違法の点はないというべきであるから、原告の本訴請求は失当といわざるをえない。
〔編註〕 本件における請求原因は左のとおりである。
一 特許庁における手続の経緯
原告は、昭和三六年一月一二日登録出願・昭和三七年六月一四日設定登録・昭和四七年一一月二五日存続期間更新登録にかかる登録第五八九三八五号商標(指定商品は第一三類「手動利器、手動工具、金具(他の類に属するものを除く)」。構成は別紙の(1)表示のとおり。以下「本件商標」という。)の商標権者である(原告は、前商標権者竹内金蔵から本件商標権の譲渡を受け、昭和五二年一月一七日移転の登録を受けた。)が、被告が、昭和四七年一月二七日、特許庁に対し、本件商標につき、商標法第五三条第一項の規定によりその登録を取り消すことについての審判を請求したところ、特許庁は、これを同庁同年審判第五〇二号事件として審理した上、昭和五六年一二月二五日、本件商標の登録を取り消す旨の審決(以下「審決」という。)をし、その謄本は、昭和五七年二月一七日、原告に送達された。
二 審決理由の要点
本件商標の構成並びにその登録及び更新登録に至る経緯は、前項記載のとおりである。
これに対し、登録第五〇〇三七三号商標(以下「引用商標」という。)は、別紙の(2)に表示したとおりの構成より成り、(旧)第六九類「電気機械器具及びその各部並びに電気絶縁材料」を指定商品として、昭和三一年六月二九日登録出願・昭和三二年四月一七日設定登録・昭和五二年九月五日存続期間更新登録にかかるものである。
そこで、まず、本件商標と通常使用権者(昭和四六年二月一六日使用許諾、同年一二月二四日設定登録、範囲、日本国法域内)である東京都中央区日本橋小伝馬町一丁目五番地 三宝商事株式会社の使用にかかるものと認められる乙第四号証及び乙第五号証(本訴甲第五号証及び甲第六号証。以下本訴の書証番号で表示する。)記載の商標とを比較するに、本件商標の構成は、前記のとおり、「BRAUN」の文字と「ブラウン」の仮名文字を上下二段に横書きしてなるものであるが、通常使用権者の右使用態様は、いずれも顕著に「BRAUN」の欧文字を横書きするのみであつて仮名書の併記がない。さらに、本件商標の「BRAUN」の欧文字は、ごく普通に用いられるゴシツク体(ゴシツク・ボールド書体)で表わされているが、通常使用権者は、該文字中「A」の文字を「<省略>」と、また、「N」の文字を「<省略>」と、それぞれ特異な書体で表わしているものである。一方、引用商標及び甲第二号証(本訴甲第四号証。以下本訴の書証番号で表示する。ブラウン・エレクトリツク・ジヤパン社発行にかかる商品「電気カミソリ」の商品カタログであり、該カタログの表裏におのおの四個の「電気カミソリ」(縮尺写真印刷)を配してなるものであつて、右「電気カミソリ」の図中には、それぞれの見易い部分に引用商標と同一と思われる「BRAUN」の文字が付されていることが認められる。)記載の商標は、「BRAUN」の欧文字を書してなるものであるところ、該文字は、普通に用いられるゴシツク体(ゴシツク・ボールド書体)で表わされているものであるが、該文字中「A」の文字は他の文字よりやや大きく書かれており、かつ、「A」の文字は「<省略>」と、また、「N」の文字は「<省略>」と、それぞれ特異書体で表わされているものである。してみれば、前記通常使用権者の使用している甲第五号証及び甲第六号証記載の商標と引用商標とは、引用商標において中間にある「A」の文字がやや大きいほかは、すべて同一に近い態様からなるために、両者を時と所を別にする離隔的観察をした場合は、本件商標と引用商標は、外観において互に紛らわしい類似の商標といわざるをえない。
さらに、両商標の指定商品が類似する商品であるか否かについて判断するに、甲第四、五号証により前記通常使用権者が右各甲号証記載の商標を使用する商品であると認められる「カミソリ(ヘアートリマー)」は、本件商標の指定商品第一三類「手動利器、手動工具、金具(他の類に属するものを除く)」中の「手動利器」に属するということができ、また、前記甲第四号証により同号証記載の商品と認められる「電気カミソリ」は、引用商標の指定商品(旧)第六九類「電気機械器具及びその各部並びに電気絶縁材料」中の電気バリカン等を含む「強電機械」の範囲に属しているものと認められる。そこで、「カミソリ(ヘアートリマー)」と「電気カミソリ」とは、ともに需要者層が同一であり、その商品の用途も同一にするものであつて、いずれも消費者を共通にし、消費者に直接結びつく段階で使用されるものであるから、両商品は、類似の商品といわざるをえない。
結局、被請求人の甲第五号証及び甲第六号証の商標の使用は、商標法第五三条第一項にいう「通常使用権者が指定商品又はこれに類似する商品についての登録商標又はこれに類似する商標の使用であつて商品の品質の誤認又は他人の業務に係る商品と混同を生ずるものをしたとき」に該当するものというべく、前記の規定に基づく本件審判請求はその理由があるものと認められるから、本件商標の登録は取消を免れないものである。