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東京高等裁判所 昭和57年(行ケ)74号 判決

一 請求の原因一ないし三の事実は当事者間に争いがない。

二1 引用例の記載内容が審決摘示のとおりであること、本願発明と引用例記載の複合線が鋼線周上に鋼線より低い温度でアルミニウムを押出被覆加工したアルミニウム被覆鋼線(AS線)である点で一致し、前者がアルミニウム被覆鋼線(AS線)を原線としたストランドを単独もしくは所要数用いて構成した吊橋用ケーブルであるのに対し、後者にはアルミニウム被覆鋼線(AS線)の用途についての記載がない点において相違していることは当事者間に争いがない。

2 原告らは、「アルミニウムが防錆・耐食性に優れているということ、したがつて、アルミニウムで被覆された鋼線もまた防錆・耐食性に優れていることは出願前周知であり、」という審決の認定は誤りであると主張するので、この点について検討する。

成立に争いのない甲第八号証(昭和四七年一〇月発行古河電工時報五二号所収の芳村徳巳外一名「裸電線の防食設計」には、「アルミニウムは本質的にはきわめて活性な卑金属であるのでほかの元素と化合しやすく、したがつて腐食しやすい金属と考えられる。しかし実際には非常に安定で強固な酸化被膜に覆われているため、鉄などにくらべてむしろ耐食性のある金属とみなしてよい。したがつて一般地域では銅と同様な耐食性を有する金属として使用して差支えない。」(九七頁左欄末行ないし右欄六行)との記載がある。

右の記載によれば、アルミニウムは、審決が認定するように、一般的にはそれ自体防錆・耐食性のすぐれた金属であることが本願出願前周知であつたと認められ、右認定に反する証拠はない。

しかし、右甲号証には右のほかに「アルミ電線の耐食性が問題となるのは、この表面酸化被膜が浸される場合、すなわち、特殊雰囲気中の化学的腐食や電解溶液を介して進行する電気化学的腐食が起る場合である。」(九七頁右欄七行ないし一〇行)、「形態・電気化学的腐食、説明・電解質溶液などの存在によりおこる腐食で異金属の接触により著しく促進する。」(同頁右欄表1「腐食の形態」の第二欄)、「アルミニウムにおける電気化学的腐食の代表的な例は、アルミニウム―銅の接続、ACSRにみられるような異種金属との接触腐食であるが…」(同頁右欄一八行ないし二〇行)、「この接触腐食の促進要因は種々あるが、主なものとして…(2)電解液となる溶液の導電率が高い場合(例えば塩分を含んだ海岸地区のACSR)などがある。」(同頁右欄二三行ないし末行)、「アルミニウムの腐食は一般地域では特に問題はないが、海岸工業地帯や特殊な腐食性ガスがある地域、電気化学的腐食が促進されるような異種金属の組合わせと雰囲気のもとで使用する場合には十分注意して、その腐食形態に応じた最も効果的でかつ経済的な防食処理を施す必要がある。防食方法は種々あるが実用的な方法として…(2)異種金属の接触をできるだけさける。」(九八頁右欄下から二行ないし九九頁左欄七行)との記載がある。

右記載によれば、アルミニウムはほかの金属と化合しやすいため、塩分を含んだ海岸、海上地区では異種金属との接触により腐食しやすいことが本願出願前周知であつたと認められるので、審決の前記認定はこの点において妥当性を欠くといわなければならないが、右記載によれば、異種金属との接触をさけるなどの防食処理をすることによりアルミニウムの防錆・耐食性を確保することができることもまた本願出願前周知であつたということができる。

3 ところで、前記甲第八号証及び後記乙第二号証の一ないし四によれば、公知の送電線に用いられるACSR線は鋼線を若干本撚合せその周囲にアルミニウム素線を撚合せて形成したアルミニウム撚線(別紙図面第2図はその断面図)であつて、アルミニウムの表面と鋼素線が接触していることが認められるのに対し、後に認定するように、AS線は鋼素線を心線としてその周囲をアルミニウムで被覆したものであるから、これを撚合せて使用してもその表面においてアルミニウムが異種金属と接触することがないことは明らかであり、成立に争いのない甲第二、第三号証によれば、本願発明に用いられ引用例に記載されたAS線は、鋼線とアルミニウムとの境界部が強固に金属間結合ないし原子拡散が行われていて腐食が進行する間隙が存在しないため、接触腐食が生じないことが認められる。

そして、成立に争いのない乙第二号証の一ないし四(昭和三七年五月発行「日立評論」四四巻五号所収の星野弘之「長径間送電線AS-170の諸特性」)には、AS線(別紙図面第1図(1)はその断面形状)を応用しこれを多数集合させたAS―二五〇(同図面(2)(ハ)はその断面形状)を海峡横断送電線用電線に用いるべく、これに対し耐食性試験として食塩ふん霧試験を実施したところ、アルミニウム層の剥離、鋼線の露出、錆の発生は全く認められず(九二頁左欄三六行ないし四二行)、AS線の耐食性は良好であるとの結果を得たこと(同右欄三三行)、右の研究の結果、右送電線用電線としてAS線を応用したAS―一七〇、AS―二一〇(別紙図面第1図(2)、(イ)(ロ)は各断面図)AS―二五〇がすぐれているとの結論に達し、中国四国連絡送電線にはAS―一七〇が用いられることが決定されたこと(八七頁左欄一九行ないし二二行)が記載されている。また、右の記載は本願出願後頒布されたものであるが、成立に争いのない乙第一号証の一ないし三(昭和五三年一一月発行「アルトピア」所収、大貫光明ほか「耐食性線材としてのAS線の特性と応用」)に引用されている。

そうであれば、本願発明に用いられ引用例に記載されたAS線が海水に対し防錆・耐食性を有することは本願出願前当業者間に周知であつたと認めることができる。したがつて、審決の前記認定は結論において誤りであるとはいえない。

4 以上のとおりであるから、原告らのその余の主張について判断するまでもなく、引用例記載のAS線を海水に対する防錆・耐食性が要求される吊橋用ケーブルに用いる本願発明は当業者が容易に推考できる程度のものと認めるのが相当である。

三 よつて、審決は結論において正当であるから、原告らの本訴請求を失当として棄却する。

〔編註〕 本件における特許請求の範囲は左のとおりである。

1 心線となるべき鋼製材料の炭素含有量あるいは添加元素を限定することなく任意に選定された鋼製線条体よりなる鋼線周上に、それら鋼線より低い温度で押出被覆加工ができ、且つそれら鋼線の耐食性を増大させるアルミニウム被覆を直接押出被覆するか若しくは必要に応じて他の金属例えば亜鉛、鉛、錫の中間層を介してアルミニウムの冷間押出被覆加工により被せることによつて、前記心線となるべき鋼線とアルミニウム被覆とを強固に金属間結合ないし原子の拡散を行なわせて得たアルミニウム防錆被鋼線を、直接原線とするか若しくはそのままの状態で冷間伸線加工を経て所望の線径および強度を付与して得た再加工後のアルミニウム防錆被鋼線の原線を所望本数平行状、ロープ状あるいは撚線状のストランドとなし、このストランドを単独若しくは所望のストランド数となして構成したことを特徴とする海峡横断長大橋に適する吊橋用ケーブル。

2 特許請求の範囲第1項の発明において、吊橋用ケーブルを構成するアルミニウム防錆被鋼線のアルミニウム被覆の表面がアルマイト処理等により適宜な色に着色されていることを特徴とする着色された海峡横断長大橋に適する吊橋用ケーブル。

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