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東京高等裁判所 昭和57年(行ケ)92号 判決

(争いのない事実)

一 本件に関する特許庁における手続の経緯、本願発明の要旨及び本件審決理由の要点が原告主張のとおりであることは、本件当事者間に争いがない。

(本件審決を取り消すべき事由の有無について)

二 本件審決の認定判断は正当であり、原告の主張は、いずれも理由がないものというべきである。すなわち、

1 本願発明と引用例記載の発明との目的及び構成上の相違の有無について

(一) 原告は、まず、本願発明と引用例記載の発明とは、原理的にその構成を異にするものであるのに、本件審決は右相違点を看過した旨主張するので、この点について検討する。

成立に争いのない甲第二号証の一(昭和五五年六月二七日付手続補正書)及び同号証の二(同年一一月二七日付手続補正書)によれば、本願発明の明細書には、本願発明は、生物膜による汚水浄化装置に関するものであり、本願発明の目的は、従来の生物膜による汚水浄化装置の欠点を解決し、「空気ノズルの数が少なくても汚水の全面曝気を行うことができ、しかも汚水の流動が円滑で処理能力が高く、かつ装置コストやランニングコストが安くてすむ生物膜による汚水浄化装置を提供するにある。」(甲第二号証の一の第二頁末行ないし第三頁第四行、甲第二号証の二の第二頁(4)項)こと、次いで、本願発明は、右目的を達成するため、「汚水を収容する容器と、嫌気性および好気性の微生物を保持する、厚み方向に多数の貫通孔を有する複数枚の平たいシート状または板状の基材を実質的に互に平行かつ鉛直に配置してなるモジユールと、このモジユールの相対向するすべての基材間に上昇気泡を発生させる、多数の散気孔を有し、かつ圧力空気源に接続された散気管とを備え、かつ前記モジユールは前記容気内に収容され、前記散気管は前記基材のシート面または板面の方向に対して交差する如く前記モジユールの下方に設けられている生物膜による汚水浄化装置を特徴とするものである。」(甲第二号証の一の第三頁第五行ないし第一四行、甲第二号証の二の第二頁(5)項ないし第三頁(12)項)こと、更に、本願発明の実施例の説明として、「基材5は生物膜を形成するもので、基材5のいわゆる格子部に嫌気性微生物が付着し、さらにその外側に好気性微生物が付着」(甲第二号証の一の第四頁第一一行ないし第一四行)し、散気管の散気孔から流出する気泡による「曝気により、……基材5に対する嫌気性微生物および好気性微生物、特に好気性微生物の増殖が促進され、嫌気性消化と好気性消化が同時に進行して汚水の浄化が行われる。このとき、全窒素の除去も行われる。これは、好気性消化と嫌気性脱硝が同時に起つているものと推定される。」(同号証の第五頁第一二行ないし第一八行、甲第二号証の二の第三頁(13)項)旨記載されていることが認められ、右事実に前記当事者間に争いのない本願発明の要旨を総合すれば、本願発明が、原告主張のとおり、微生物の働きによつて汚水中の汚濁物質を生化学的に分解して汚水を分解することを特徴とするものであることは明らかである。

他方、成立に争いのない甲第三号証(引用例)によれば、引用例には、その特許請求の範囲の項に、「汚泥液の流動が自由で、アスベスト繊維が汚泥液中に混入して浮遊することのないように安定化処理したアスベスト層を、汚泥液と広い接触面を持つように曝気槽内へ設置し、散気により攪伴流動する汚泥液をアスベスト層へ接触させることで、ベトの沈降を促進すること、を特徴とするベトの曝気処理法。」(同号証の第二九九頁左下欄第六行ないし第一二行)なる発明が記載されているが、その発明の詳細な説明の項には、排水処理の一方法として、現在は曝気処理方法が通常の手段として実施されており、その曝気処理方法は、「曝気槽内で散気し、好気性の微生物(バクテリア)を繁殖させることによつて汚泥液の浄化を進め、処理した汚泥液は沈澱槽に導いて貯め、ベトは沈降させる。そして、上澄み液は滅菌してそのまま河川へ放流し、沈降したペースト状の沈澱物質(ベト)は汚水船で外洋へ投棄するもの」(同号証の第二九九頁右下欄第四行ないし第一〇行)であり、経済的で処理能力も大きいが、処理の効果に多分の不安が残るという欠点があることから、ベトの処理方法に関していろいろの実験を行うこととし、「実験用の三個の曝気槽に同じ排水中から採取した約八lの汚泥液を収容し、各個の槽にアスベスト、合成繊維(レーヨン)、綿布を浸漬して約一〇時間曝気処理し、それを沈澱させる実験を行なつた。約一〇時間経過した沈澱物観察の結果において、アスベストを浸漬した液槽では、その底に約三cm程度の沈澱物質が堆積し、上澄み液は完全に澄み切つてそのまま放流できる程度になつた。」(同号証の第二九九頁右下欄末行ないし第三〇〇頁左上欄第八行)という実験結果、すなわち、「アスベストが曝気処理したベトの沈降効果に顕著な働きを示すこと」(同号証の第二九九頁右下欄第一七行及び第一八行)を確認し、この実験結果に基づき、引用例記載の発明では、別紙図面(二)に示すとおり、「適宜容量の曝気槽1内に、云わゆる金網と同様に液体の通過、流動が極めて自由な格子構造のフレーム2の面に、アスベスト繊維をプレート状に固めたアスベスト層3を市松模様上の配置で、或いは上下方向段状の配置で貼つた接触材4……を一定の配置間隔をとつて平行にかつ垂直に懸垂して設置する。また、各接触材4……の中間に相当する曝気槽1の下部に散気筒5……を設置し、散気により攪伴流動する汚泥液を均等にかつ有効的にアスベスト層3(「2」とあるが誤記と認める。)と接触させ、上述した実験の効果を工業的に実現することにした。排水は導入管6から曝気槽1内へ入れ、処理した液は排液管7から沈澱池に導いてそこに貯め、ベトを沈降させる。」(同号証の第三〇〇頁左上欄第二〇行ないし右上欄第一四行)という構成を採り、その結果、「ベトの沈降が促進されて沈澱池の使用サイクルが向上し、処理能力が格段に向上する。上澄み液は良く清浄化されているから、そのまま河川へ放流しても二次公害のおそれがない。」(同号証の第三〇〇頁右上欄第一六行ないし末行)、「アスベストは安価であり、特別の機具、装置も必要とせず、既存の曝気設備にそのまま適用できるから経済的である。」(同号証の第三〇〇頁左下欄第四行ないし第六行)との作用効果が得られた旨記載されていることが認められる。そこで、右認定の事実に後記(三)(1)に認定の引用例のフレーム2に多数の貫通孔を有する構成及び右構成が奏する効果を総合すると、引用例記載の発明は、曝気槽内にアスベスト層を設置し、汚泥液をアスベスト層と接触させ、次の沈澱槽におけるベトの沈降を促進させることを特徴とするものではあるが、従来の曝気処理方法、すなわち、微生物の生化学的分解によつて汚泥液を浄化する方法を前提とし、これにアスベスト層によつてベトを沈降させる技術を付加したものであつて、本願発明と同様の技術的思想又は同じ原理に基づく技術を包含しているものと解することができる。原告は、微生物の生化学的分解によつて汚泥液を浄化する方法に関しては、引用例には本件審決が認定するような曝気処理法の記載はない旨主張するが、前認定の引用例の記載内容によれば、引用例には、本件審決の認定するとおり、水産加工廃水を、複数枚のシート状基材(フレーム2)を一定間隔で平行にかつ、垂直に懸垂配置した曝気槽(曝気槽1)内に導入し、各基材(フレーム2)の中間に相当する曝気槽(曝気槽1)の下部に多数の散気孔を有する散気管(散気筒5)を該基材(フレーム2)に平行に、設置し、該散気孔より小気泡を噴出させて廃水を好気的に曝気処理する曝気処理法が開示されていることが認められるところであつて、原告の右主張は、失当である。もつとも、前認定の引用例の記載内容によれば、引用例記載の発明においては、右のシート状基材(フレーム2)の面に市松模様状又は上下方向段状にアスベスト層3が配置されているのであるが、この点は、本願発明が引用例に記載されているかどうかを認定判断する場合は必ずしもその認定を必要とするものではないから、本件審決が、引用例の記載内容を認定するに当たり、この点に触れなかつたのは、むしろ当然のことと解される。

右のとおりであるから、本願発明と引用例記載の発明とは原理的にその構成を異にするにかかわらず、本件審決が右相違点を看過した旨の原告の主張は、採用することができない。

(二) 原告は、本願発明は、微生物をして汚水中の有機物等を分解して汚水を浄化することを目的とするのに対し、引用例記載の発明は、ベトをアスベスト層と接触中和させ、沈降し易い形とし、沈澱池の処理能力を向上させることを目的とするものであつて、両者は、その目的を異にするものであるのに、本件審決は、両者は同一発明であるとの誤つた認定をした旨主張する。しかし、前認定の本願発明の明細書及び引用例の記載内容によれば、本願発明及び引用例記載の発明は、それぞれ原告主張のとおりの目的を有するものと認められるが、他方、引用例記載の発明は、前説示のとおり、微生物の生化学的分解によつて汚泥液を浄化する方法をも包含するものであるから、右方法においては、本願発明と同一の目的を有するものというべきであり、したがつて、原告の右主張も、採用の限りでない。

(三) 原告は、本願発明と引用例記載の発明とは、処理方法、使用可能な時期及び処理の対象についても、その構成を異にする旨主張するが、右主張も、次に説示するとおり、採用することができない。

(1) 処理方法について

前記本願発明の要旨及び前認定の本願発明の明細書の記載によれば、本願発明は、厚み方向に多数の貫通孔を有する複数枚の基材を曝気することを特徴とする汚水浄化装置であることが認められるところ、前掲甲第二号証の一、二によれば、本願発明の明細書の発明の詳細な説明の項には、本願発明の実施例の説明として、「ポリエステル網からなる一四枚の基材を、二cm間隔で実質的に互に平行かつ鉛直に配置してなるモジユール」(甲第二号証の二の第五頁第七行ないし第九行)を「四時間曝気し」(同号証の第六頁第二行)、前示のとおり「基材5のいわゆる格子部に嫌気性微生物が付着し、さらにその外側に好気性微生物が付着する」(甲第二号証の一の第四頁第一二行ないし第一四行)との効果を挙げることができる旨記載されていることが認められ、他方、前掲甲第三号証によれば、引用例には、アスベスト層に生物膜が形成される旨の明示の記載はないが、前示のとおり「曝気槽1内に、金網と同様に液体の通過、流動が極めて自由な格子構造のフレーム2の面に、……アスベスト層3を市松模様……或いは上下方向段状の配置で貼つた接触材4……を設置」(甲第三号証の第三〇〇頁左上欄末行ないし右上欄第六行)し、「約一〇時間曝気処理」(同号証の第三〇〇頁左上欄第三行)すれば、前示実験結果が得られる旨記載されていること、殊に、引用例記載の図面によれば、アスベスト層3はフレーム2の全面に貼られておらず、接触材の厚み方向には多数の貫通孔が存することが認められ、右認定の事実によれば、本願発明においては、厚み方向に多数の貫通孔を有し、かつ、格子部を有する基材を四時間曝気すれば、格子部に嫌気性及び好気性の微生物が付着するというものであるから、引用例記載の発明においても、本願発明と同じ厚み方向に多数の貫通孔を有し、かつ、格子部を有する接触材を約一〇時間曝気すれば、本願発明と同様、格子部に嫌気性及び好気性の微生物が付着するものと認めることができる。原告は、仮に、引用例記載の発明においても若干の微生物が発生するとしても、本願発明のように大量の微生物は発生しない旨主張するが、前掲甲第二号証の一、二によれば、本願発明は、発生する微生物の量の多寡を構成要件とするものではないことが認められるから、この点は、本願発明と引用例記載の発明との同一性の有無を左右するに足りないものというべく、したがつて、原告の右主張は採用することができない。

(2) 使用可能な時期について

前掲甲第二号証の一、二によれば、本願発明は、「嫌気性及び好気性の微生物を保持する基材を配置する」ことを構成要件とするものであるが、本願発明の明細書には、右構成要件が、嫌気性及び好気性の微生物を予め付着させた基材の配置を意味することを窺わせるような記載はなく、かえつて、実施例の説明として、「目開き……のポリエステル網からなる一四枚の基材を……配置し」(甲第二号証の二の第五頁第五行ないし第九行)、「四時間曝気し、……処理中の曝気の状況を観察したところ、……基材への微生物の保持も、ほぼ均一であつた。」(同号証の第六頁第二行ないし第八行)旨記載されていることが認められ、右事実によれば、本願発明は、微生物を予め付着させた基材の配置を構成要件とするものではなく、曝気によつて微生物が保持される基材の配置をもつて構成要件とするものというべきところ、他方、引用例記載の発明においても、前認定のとおり、曝気によつて格子部に微生物が付着するものであるから、両者の使用可能な時期が異なるということはできない。原告は、引用例記載の発明においては、アスベスト層を配置した接触材の表層に多少とも微生物が付着するようなことがあると、ベトのアスベスト層への接触が妨げられ、ベトの沈降促進が期待できないから、長期の使用によつて微生物が付着するまでの、アスベストがほとんど露出している期間に限つて装置の使用が可能であるのに対し、本願発明においては、基材の全面が好気性微生物で覆われたのち、更に、内部に嫌気性微生物が発生するのを待つてはじめて装置の使用が可能となるのであるから、両発明は、その使用可能な時期がずれている旨主張する。しかし、引用例記載の発明は、前説示のとおり、本願発明と同様の微生物を利用して曝気処理する技術を包含するものであつて、この点の対比において、両発明はその技術内容を異にするものとはいい難いから、両発明の装置の使用可能な時期にずれがあるものということはできない。したがつて、原告の右主張は、採用するに由ない。

(3) 処理の対象について

前掲甲第二号証の一、二によれば、本願発明は、汚水の浄化装置に関するものであるところ、本願発明の明細書には、実施例の説明として、「平均BOD値が約一〇〇(mg/l)である家庭汚水」(甲第二号証の二の第五頁第一九行及び第二〇行)を曝気処理した例が記載されているが、本願発明が右の家庭汚水又は特定種類の汚水若しくは一定の汚濁度を有する汚水に処理対象を限定した浄化装置であることを窺わせるような記載はなく、かえつて、「曝気により、第一図~第三図に示すように、相対向するすべての基材5の間の気泡7が上昇し、基材5に対する嫌気性微生物、特に好気性微生物の増殖が促進され、嫌気性消化と好気性消化が同時に進行して汚水の浄化が行われる。」(甲第二号証の一の第五頁第一二行ないし第一六行、甲第二号証の二の第三頁(13)項)、「基材相互の間隔や各基材における貫通孔の面積の総和、圧力空気の供給量(曝気量)は、汚れのBOD負荷に応じて適宜変更する。」甲第二号証の一の第六頁第一一行ないし第一四行)旨の記載によれば、本願発明が処理対象とする汚水は、BOD値いかんにかかわらず、微生物を利用した曝気によつて浄化が可能なものであれば足りるものと認められるところ、他方、前掲甲第三号証によれば、引用例記載の発明は、ベトを含む水産加工場の排水を処理の対象とするものと認められるが、前記認定説示のとおり、引用例記載の発明においても、微生物を利用した曝気によつて右排水の浄化をも行うものであるから、この点において、本願発明は、引用例記載の発明と処理の対象を同じくするものというべきである。原告は、引用例記載の発明の処理対象はベトを含む汚泥液であつて、本願発明の処理対象である家庭汚水とは汚濁の程度を異にする旨主張するが、右主張の理由のないことは、前説示に照らし、明らかであり、採用の限りでない。

(四) 原告は、本願発明と引用例記載の発明とは、散気管の配置方法においても、その構成を異にする旨主張するから、検討するに、前掲甲第二号証の一、二によれば、本願発明は、「散気管を基材のシート面に対して交差するように配置する」ことを構成要件とするものであるところ、本願発明の明細書には、本願発明の実施例として、「散気孔を一三個……穿設してなる……二本の散気管を、……基材の面の方向に対してほぼ直交する如く設置し、……容器内に平均BOD値が約一〇〇(mg/l)である家庭汚水を入れ、二本の……散気管に合計三(l/分)の空気(散気管一本当り一・五(l/分)の空気)を流しながら四時間曝気し」(甲第二号証の二の第五頁第一一行ないし第六頁第二行)、「得られた処理水の懸濁物質除去後の平均BOD値は、約三・七(mg/l)と低かつた。また、処理中の曝気の状況を観察したところ、汚水全面にわたつてほぼ均一な曝気が行われており、モジユールの基材への微生物の保持も、ほぼ均一であつた。」(同号証の第六頁第三行ないし第八行)との効果を挙げることができた旨記載されており、また、比較実施例一として、「上記実施例において、二本の散気管を、……基材のシート面の方向に対してほぼ平行であるように設置した。その他の部分の構成は……上記実施例と同一である。……上記装置により、上記実施例と同一の汚水を全く同一の条件で処理したところ、得られた処理水の懸濁物質除去後の平均BOD値は約一八・二(mg/l)であり、上記実施例の場合の実に五倍近い高い値であつた。」(同号証の第六頁第一〇行ないし第一八行)との結果が現れた旨記載されているが、他方、本願発明の装置による曝気とその効果に関して、「容器内の汚水を全面にわたつてほぼ均一に曝気することができ、曝気効率が高く、汚水の処理能力が高い。」(同号証の第四頁第九行ないし第一一行)旨、更に、比較実施例一において実施例と異なる結果が生じた原因について「曝気が極めて不均一であることから、上記他の部分の基材(上昇気泡が発生していない基材)に微生物が過剰に付着し、基材間が目詰りを起すことにあることが、処理中の観察によつて確認された。」(同号証の第七頁第二行ないし第六行)旨それぞれ記載されていることが認められ、右記載内容によれば、曝気処理においては、汚水を全面にわたつて均一に曝気すれば、曝気効率及び処理能力が高く、比較実施例一において処理能力が実施例よりも低かつたのは、実施例のように汚水を全面にわたつて曝気しなかつたことによるものであるということができる。ところで、汚水を全面にわたつて曝気することができるかどうかは、散気管に設けられる散気孔を、汚水を全面にわたつて曝気することができるような位置に定めるかどうかに係るものであるというべきところ、散気管を基材のシート面に対して交差あるいは平行に配置しても、散気管の本数を変えないで、散気孔の位置を同一にすることができる(別紙図面(三)参照)のであるから、たとえ散気管を基材のシート面に対して平行に配置する場合であつても、散気孔の位置の定め方によつて、散気管を基材のシート面に対して交差して配置する場合と同様の曝気処理をすることができるものといわなければならない。もつとも、容器が基材のシート面に対して交差する方向に長い場合には、散気管を基材のシート面に対して交差して配置する方が、平行に配置するのに比してその本数を少なくすることができるであろうが、逆に容器が基材のシート面に対して平行方向に長い場合には、平行に配置する方が少ない本数で済むし、また、散気管の本数が少なくて済む場合には、長さを長くせざるを得ず、散気管の本数を多く要する場合には、長さが短くて済むのであるから、一方の配置方法が他方の配置方法よりも優れているとはいえず、更に、前掲甲第二号証の一、二によれば、本願発明の明細書の記載上、本願発明において容器を特定の形状のものに限定しているとも認められないから、容器の形状との関係において交差して配置する方法が他に比べ特有の作用効果を奏するものと認めることもできない。なお、前掲甲第二号証の二によれば、本願発明の明細書には、比較実施例二として、散気管の数を増加し、「上記実施例において、一三本の散気管を、……シート面の方向に対してほぼ平行であるように設置した。散気管は、……散気孔を……二個穿設したものである。その他の部分の構成は上記実施例と同一である」(甲第二号証の二の第七頁第八行ないし第一三行)装置を用いて、「上記実施例と同一の汚水を同一の条件で処理した。ただし、散気管一本当りの空気量は、汚水の全面均一曝気が可能な3/13(l/分)である(合計量は上記実施例の場合と同じ三(l/分)である)。」(同号証の第七頁第一四行ないし第一八行)との条件で曝気処理したところ、「得られた処理水の懸濁物質除去後の平均BOD値は、約一三・三(mg/l)であつた。この値は、曝気を全面均一に行つているため上記比較実験例一の場合よりも低いが、実施例の場合にくらべるとなお三・五倍以上も高い値である。」(同号証の第七頁第一八行ないし第八頁第三行)との結果が得られたが、その原因は、「一三本もの散気管を密に並べて設置すると、これが抗体となつて容器内の汚水の円滑な流動が妨げられ」(同号証の第八頁第三行ないし第五行)たことによるものである旨記載されていることが認められ、右記載内容及び散気管の配置に関する前説示に照らせば、比較実施例二も、散気管を基材のシート面に対して交差して配置する方法に特有の効果があることを示すものとはいえない。更に、前掲甲第二号証の二によれば、本願発明の明細書には、比較実施例三として、「比較実施例二において、……一三本の散気管に対する空気の合計供給量を九(l/分)に上げた。」(甲第二号証の二の第八頁第一〇行ないし第一三行)ところ、「得られた処理水の懸濁物質除去後の平均BOD値は約五・二(mg/l)であり、上記実施例の場合に近い値であつた。しかしながら、……動力費等のランニングコストが大幅に増大し、実施例の場合の約三倍にも達した。」(同号証の第八頁第一三行ないし第九頁第一行)という結果になつた旨記載されていることが認められるが、右記載内容及び散気管の配置に関する前説示に照らせば、比較実施例三において右の結果になつたのは、散気管を基材のシート面に対して平行に配置したことによるものとはいえない。以上によれば、本願発明における「散気管を基材のシート面に対して交差するように配置する」構成は、平行に配置する構成と技術思想的には何ら異なるところはないものといわざるを得ない。そうすると、前掲甲第三号証(殊に、図面)によつて認められる「散気筒5が接触材4の面に対して平行に配置されている」引用例記載の浄化装置の構成も、散気管(引用例では、散気筒5)の配置の方法において、本願発明と異なるところはないものというべきである。また、この点に関する原告挙示の甲第八号証(広瀬道郎作成に係る実験報告書)も、実験の基礎となつた引用例の散気管の配置及び構造は、同号証の「考察」の項にも説明してあるとおり散気管相互間の空隙がわずか五mmしかなく、そのため散気管が抗体となつて処理容器内の汚水の流動を妨げる構成となつているほか、被告主張の観点からも適切なものといい難いから、原告に有利な証拠とするに足りない。したがつて、本願発明と引用例記載の発明とのこの点の相違は、単なる構成要素の配置の変更に相当するものであるとした本件審決の判断は、是認することができ、右の相違は両発明の同一性を否定するものである旨の原告の主張は、採用することができない。

2 本願発明と引用例記載の発明との作用効果の相違の有無について

引用例記載の発明が、本願発明と同一の構成を備え、本願発明と同様、嫌気性及び好気性の微生物の生化学的分解によつて汚水浄化の作用効果を奏するものであることは、前説示のとおりであるから、両発明は作用効果を同じくするものというべきである、したがつて、両発明の作用効果の相違をいう原告の主張も、採用することができない。

(結論)

三 叙上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法のあることを理由に本件審決の取消しを求める原告の本訴請求は、理由がないものというほかはない。よつて、これを棄却することとする。

〔編註その一〕 本願発明の要旨は左のとおりである。

汚水を収容する容器と、嫌気性及び好気性の微生物を保持する、厚み方向に多数の貫通孔を有する複数枚の平たいシート状又は板状の基材を実質的に互いに平行かつ鉛直に配置してなるモジユールと、このモジユールの相対向するすべての基材間に上昇気泡を発生させる、多数の散気孔を有し、かつ、圧力空気源に接続された散気管とを備え、かつ、前記モジユールは前記容器内に収容され、前記散気管は前記基材のシート面又は板面の方向に対して交差するごとく前記モジユールの下方に設けられていることを特徴とする汚水浄化装置。(別紙図面(一)参照)

〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。

別紙図面(一)

<省略>

<省略>

別紙図面(二)

<省略>

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