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東京高等裁判所 昭和57年(行コ)8号 判決 1982年9月13日

茨城県日立市金沢町二丁目五番六号

控訴人

東亜建設工業株式会社

右代表者代表取締役

菊地三郎

右訴訟代理人弁護士

中田明

茨城県日立市若葉町二丁目一番八号

被控訴人

日立税務署長

田中秋月

東京都千代田区霞が関三丁目一番一号

被控訴人

国税不服審判所長

林信一

右被控訴人両名指定代理人

小田泰機

重野良二

右被控訴人日立税務署長指定代理人

荒谷英男

北澤福一

右被控訴人国税不服審判所長指定代理人

内津昌喜

長部順一郎

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた判決

一  控訴の趣旨

1  原判決を取消す。

2  被控訴人日立税務署長が控訴人に対して昭和五一年六月三〇日付でした次の処分をいずれも取消す。

(一) 控訴人の昭和四七年三月一日から昭和四八年二月二八日までの事業年度分の法人税の再更正及び重加算税賦課決定処分

(二) 控訴人の昭和四八年三月一日から昭和四九年二月二八日までの事業年度分の法人税の更正及び重加算税賦課決定処分

3  右2の各処分に対する控訴人の審査請求について、被控訴人国税不服審判所長が昭和五三年七月六日付でした各棄却裁決ををいずれも取り消す。

4  右取消請求に係る各処分及び各裁決がいずれも無効であることを確認する。

5  訴訟費用は第一、二審とも、被控訴人らの負担とする。

二  控訴の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張及び証拠

原判決事実摘示のとおりである。但し、左記を付加する。

1  控訴人の主張

昭和四八年二月期分再更正処分には、損金計上漏れがある。すなわち、右処分当時、「白羽町の土地」の売却について、控訴人は穂積千代子に対して、金四九、九四七、八四五円の手数料債務を負担しており、内約一、三〇〇万円を支払っている。

2  被控訴人の認否

否認する。

3  控訴人の証拠

当審書証目録記載のとおり。

理由

一  当裁判所は控訴人の被控訴人日立税務署長に対する取消請求の訴は却下すべく、控訴人のその余の請求は棄却すべきものと判断する。その理由は原判決の理由と同一であるからこれを引用する。但し、左記を付加する。

二  行政処分が無効であることを主張するには、処分に瑕疵が存し、その瑕疵が明白であること及び重大であることを具体的に述べなければならない。しかるに、本件において、控訴人は本件処分及び本件裁決に瑕疵が存し、その瑕疵が明白であることを具体的事実によって主張することをしていない。又、特別の事情のある場合には、瑕疵が明白でなくても、重大でありさえすれば無効となる、と解するとしても、その場合には特別の事情を具体的に述べなければならないのに、控訴人はこれをしていない。控訴人は、本件処分で認定した所得金額の半分近くが過大認定である旨の主張をしているが、このような外見上の瑕疵の重大さのみをもって特別の事情に当たるものと解することはできない。なんとなれば、特別の事情は、明白性及び重大性以外の事実でなければならないからである。なお、本件では、引用の原判決判示のように、本件処分には所得過大認定の違法はなく、重大な瑕疵も存しないのである。

三  控訴人の当審における主張を加えてみても、右に判示したところに変りはない。

すなわち、甲第五、第六号証(いづれも成立に争いない)によれば、白羽町の土地の売却に関して穂積千代子に対して債務を負担し、第一審判決の仮執行を受けて九九四万七八四五円を支払ったのは菊地三郎であって、控訴人ではないこと、及び控訴人は昭和五六年一〇月一二日に穂積と菊地との間で成立した控訴審での和解に利害関係人として参加し、そこで、菊地の穂積に対する四〇〇〇万円の債務を連帯保証したことを認めることができる。なお、甲第六号証によれば、右和解の一条項として、穂積、菊地及び控訴人の三者間において、右債務(仮執行による支払分を含む)は穂積と控訴人との契約によって生じた控訴人の債務であることを確認する趣旨の合意がなされたことを認めることができるが、そのような事後の合意によって遡って控訴人の債務が存在し、本件処分に瑕疵があることになるものではない。

四  なお、控訴人は、出訴期間の徒過により処分の取消しの訴えを提起することができなくなり、裁決の取消しの訴えのみを提起することができることになった場合は、行訴法一〇条二項の適用は排除されると解すべきであると主張する。しかし、同条項が排除されるのは、特別法によって処分に対しては出訴を許さず、裁決に対してのみ出訴を許す旨が規定されている場合である。本件においては、控訴人はもともと両方の訴えを提起することができたのであり、出訴期間を徒過したことにより処分の違法を攻撃する機会を自己の過失によって失ったに過ぎないのであるから、右主張は採用することができない。

五  以上の理由により、原判決は相当であるから、民訴法三八四条により本件控訴を棄却する。訴訟費用の負担につき、行訴法七条、民訴法九五条八九条適用。

(裁判長裁判官 田中永司 裁判官 武藤春光 裁判官 安部剛)

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