東京高等裁判所 昭和57年(行ス)20号 決定
本件各取消処分の後において相手方に生じた所得減は、原決定の理由説示(原決定三枚目裏六行目から四枚目裏七行目まで)のとおりであるから、これを引用する。右引用に係る原決定の理由説示にみるとおり、本件各取消処分後における相手方の歯科医業による収入(経費控除)が処分前のそれに比べて約三分の一に落ち込み、その所得減の推移が顕著であるということができるが、右の所得減がもっぱら相手方が本件各取消処分を受けたことによってその保険給付たる診療を担当することができなくなったことによるものであるとしても、右の所得減によって相手方に生ずる損害は、すべてこれ金銭的損失にとどまり、したがって金銭をもって容易に償なうことができるものというべきである。また、疎明資料によると、相手方は、本件各取消処分により保険医ないし保険医療機関等の診療を担当することができなくなったとはいえ、歯科医師本来のいわゆる自由診療業務を遂行していることにより、昭和五六年の一年間に一〇二九万円の所得をあげ、所得税法二三三条のいわゆる高額所得者としてその所得額が公示されたほどであることが認められる。
右のとおり認めることができ、これに併せて、社会保障及び国民保健の向上という公共の福祉に寄与することを目的として制定された健康保険法及び国民健康保険法上の保険事業の健全な運営を確保するために、都道府県知事の権限事項として、保険医療機関の指定及び保険医の登録等の付与並びにその指定及び登録等の取消を行なうことにより、保険医療制度の機能を保全することとした法的要請に照らし、本件各取消処分により相手方に前叙の如き所得減による損害が生ずることをもって、行政事件訴訟法二五条二項に定める回復の困難なる損害を避けるため緊急の必要があるものと解することは相当でないというべきである。
(中川 高橋 菅)